聖女の首輪

製作する黒猫

文字の大きさ
6 / 13

6 違和感

しおりを挟む


 久しぶりに、まともにチカを見た。

 王女と話をして、チカから求婚のネックレスを返してもらうために場を設けた。正直チカがどうなろうが知ったことではないが、自分が渡したものを返せというのはあまり見られたくない。俺はチカを自室に呼び出し、チカをひさしぶりにまともに見た。



 何かがおかしいという違和感を感じたが、いつもそばにいてもまともに顔を見ていなかったせいだと納得して、ネックレスを返すように言ったが、結局チカからネックレスを返してもらうことはなかった。



 俺が何もしなくても、王女が結婚式の準備を進め、ドラゴン退治の出立式と合わせて行うことになった。

 披露宴というものだろうか、大々的なものはドラゴンを倒して帰ってきたときにという話だが、出立式と合わせて行う結婚式で、俺たちは夫婦になる。



 こんなにとんとん拍子に進むとは思わなかった。前は、3年たっても進展がなかったのに。そう、俺がチカのことを好きだった時は、好きだと返してくれることもなかった。



 異世界で、たった2人しかいない同郷の者。俺は強大な力を持つ魔物を次々と倒し、この世界での地位を固めていった。傷ついた俺を、チカは治してくれた。

 俺といるのは嫌だと言いながら離れないチカを見て、俺は求婚のネックレスを送った。きっといい返事がもらえると思って。

 しかし、帰ってきた答えは「嫌」という一言。



 異世界の人は信用できないと言って、俺がもらった離宮に住み、引きこもったチカを見て、もう一度求婚しようと思ったが、前回のことが頭によぎって言えなかった。

 言えないまま、チカと一緒に過ごす日々が続き、俺は仕事、チカは引きこもり・・・それも、何かにおびえている様子で、怖いから窓に鉄格子をはめて欲しいだとか、警備を固めて欲しいだとか、何かと要求してきたのを俺はすべて受け入れて暮らし続けた。



 俺の世界は城と離宮だったが、チカの世界は離宮の中だけとなって、俺と使用達の人間関係だけがチカの世界になった。そのせいか、チカが俺に好意を抱くようになった。

 仕事から帰ってくる俺を出迎えて、座るときは俺の隣に座るようになり、時折俺の体に触れる。好きな子にそんなことをされて、俺の毎日は満ち足りる・・・ことはなかった。これで求婚し、晴れて結ばれればよかったのかもしれないが、なかなか求婚ができず、そんな自分自身と、嫌と言ったチカに対して苛立ちがつのる日々。



 絶対に大丈夫だと、いい返事がもらえると自信が持てるのに、前のことがよぎって求婚することにしり込みしてしまう、そんな弱い自分が嫌だ。



 俺の求婚を断っておいて、俺に甘えて、俺に依存して、それでも好きと言ってくれないチカが・・・嫌だと気づいた。



 好きだった子を、いつの間にか嫌いになっていたと気づいた俺は、気づいた瞬間から次々とチカの嫌いを見つけるようになって気が滅入った。

 でも、俺に好意を持っているのを隠しもしないチカに悪いと思い、表面上は好きなふりをつづけた。



 そんな時、チカが誘拐された。俺は、そのまま俺の前から消えてしまえばいいのにと思った自分の心にぞっとした。

 流石にそれはないと。



 誘拐されたら、何をされるかわからないのだ。下手をすれば命の危険だってある。それを喜ぶなんて。そう、俺は喜んでいた。だが、そんなことは駄目だと、俺は本心を押し殺して、チカを助けに向かった。

 無事にチカを助けてしまった俺は、また息苦しい日々を過ごす。



転機が訪れたのはそれからだ。チカの、聖女誘拐事件を即座に解決したことを認められ、王女の護衛任務が与えられた。正直これに関しては疑問があるが、今まで魔物しか倒せないと思われていて、人間を倒すこともできると分かったから、今更王女の護衛という仕事を割り振られたのだろうと思っている。

 この仕事が、俺に新しい恋をもたらした。いや、これこそ真実の恋だったのだと、今ならはっきり言える。







 色とりどりの光が降り注ぐ教会で、俺は本当の恋人、王女エリーゼと共に神の前で誓いを立てた。

 お互いが、お互いに一生を捧げると。



 俺たちを祝福するように、降り注ぐ光が多くなったように感じた。



 くるりと体の向きを変えて、退場しようとすると、視線がスッと一人の人物に自然と向いた。



「・・・は?」

 そこにいたのは、チカだった。それが信じられなくて、俺は何度も見返してチカがいることを確かめる。3度確かめたが、チカはそこにいた。



 確かに、チカも招待はされている。しかし、まさか出席するとは思わなかった。それも、俺が贈った求婚のネックレスを身に着けて現れるなんて。

 何か、よからぬことを企んでいるのではないか。







 結婚式、出立式が終わり、パーティーが開かれた。出立式に引き続いて行われているパーティーなので、本日の主役は俺のはずだが、俺を含め会場中の視線を集めているのは、俺の妻となったエリーゼとチカの2人だった。

 仲がいいなんて聞いていないし、何で仲良くなれるのかわからない。



 一体何を考えている、チカ。何が起こっているんだ・・・



 いまだに違和感を感じるチカを観察し、何かあれば即座に対応しようとした俺だったが、なんと動いたのはエリーゼだった。

 俺にも教えていないサプライズとやらを、チカに贈るという。意味が分からない。



 そして、サプライズの内容が披露されても、全く何が起きたのかわからなかった。



 エリーゼは、バーシャス王国の王子をパーティーに招待していた。バーシャス王国の王子と仲がいいという話は聞いたことがないし、名前すら初めて知る王子だ。

 エリーゼは、王族なのでまだわかる。だが、この王子とチカとの関係が全くわからない。黙って見守る俺に、王子は軽く挨拶と討伐の応援を俺に送って、チカに向き直った。



 唐突に跪いた王子に、周囲がざわめく。



「これで2度目になりますが、どうか受け取ってください。」

 王子が差し出したのは、緑色の宝石。緑と言えばエメラルドだろうか?それしか知らない俺は、他に思い当たる宝石はない。

 しかし、その宝石の意味は知っていた。そして気づいたのだ。違和感の正体に。



 チカが身に着けているネックレスは、俺が贈った求婚のネックレスではないことに。



「そうですね。時が来たということでしょう・・・ワーゼルマン様、どうかその色を私に身に付けさせてください。あなたの色を、私のものにさせてください。」



 王子は求婚し、チカはそれに応えた。



 俺が昔望んでいた光景が目の間に繰り広げられるが、一つ違うのはチカの相手が俺ではないことだ。



 俺の前で、王子とチカが結ばれた。それに対して苦いものが込み上げるが、俺はそれを飲み込み声をあげた。



「おめでとう、チカ。」

 痛いほどの拍手をすれば、周囲から割れんばかりの拍手が起こった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...