聖女の首輪

製作する黒猫

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8 最後の討伐

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 この世界に来て、欲しいものがあるときはドラゴンを倒せばいいこと知った。普通の人間では到底倒すことができないドラゴンを、勇者である俺は倒せる。

 ドラゴンを倒し、褒美としてほしいものをもらえばいいのだと知って、俺はドラゴンを倒した。



 最初に倒したドラゴンは、生きるために倒して後にこの世界での立場と離宮を手に入れた。2匹目のドラゴンは、生活に必要なお金を稼ぐために倒し、3匹目はたしか貴族にあおられて倒した。そして、今日が4匹目。



「俺は、エリーゼとの仲を祝ってもらう!」

 青いうろこを持つドラゴンの前に立って、俺は剣を抜いた。久しぶりの魔物退治のせいか、剣が重く感じる。

 最近は、王女の護衛の任務に就いていたから、勘が鈍っていないといいが。



「キタカ オロカナ オス ワレハ 4キョウダイノ スエ アニノ カタキ ウタセテ モラウ」

「さっさと死ね!化け物がっ!」

 走り出してドラゴンとの距離を詰めるが、なんだか体が重く感じた。何か、このドラゴンがしたのか?



 ドラゴンのしっぽが俺に向かって振り下ろされ、俺はそれを回避したが衝撃で吹き飛ばされて地面を転がる。なんだ?



「ヨワイ」

「調子に、乗るなっ!」

 素早く起き上がって、再び距離を詰める。ドラゴンの爪が俺を襲うが、今度は大げさに回避して多少の風圧によろめいたが足を止めなかった。

 今まで戦ってきたドラゴンと違う!何か特殊な力が働いているのか?



 とにかく、大げさに攻撃をよけなければならない。衝撃や風圧がものすごくて、最小限でよけると余波を受ける。

 なかなか距離が詰まらないが、ドラゴンに魔法は効きにくいので、距離を詰めて剣で切り刻んだ方が効果的だ。だから、俺はただ走ってよけて距離を詰めた。



 俺の攻撃範囲にドラゴンが入る。いまだ!



 ガキンっ!ビキっ。



「なっ!」

「フン」

 ドラゴンの足を切りつけた剣にヒビが入った。手がしびれ危うく剣を落としそうになる。そんな様子を見たドラゴンは鼻で笑って、俺を掴んで投げ飛ばした。



「ぐはっ!」

 地面にたたきつけられ、地面にはクレータができる。剣は意地でも手放さなかったが、身体は動けそうにない。

 まずい、回復を・・・



 チカ



「が・・・あ・・・」

 そうだ、チカはいない。そもそも、ドラゴン相手にこのような傷を負うことはなかった。なんで、チカがいないときに限って、こんな。



「コウカイハ スンダカ」

「ぐっ・・・おまえ、なんでそこまで、強い。」

「オカシナ ハナシダ ワレハ キョウダイ サイジャク アニタチハ モット ツヨカッタ ナノニ アニヲ タオシタ オマエハ ワタシニ タオサレル」

「弱い?・・・ばか、な・・・」

 今まで戦ったどのドラゴンよりも、こいつは強い。力も早さも・・・いや、本当にそうか?今までのドラゴンとの戦いを思い出し、かつて倒したドラゴンの方が強かったと思いなおす。なら、なぜ俺は危機に陥っている?



 鋭いドラゴンの爪が、俺の肩をえぐった。



「ぐああああああ!痛い、ひぃっ!」

「ドウ コロソウ キリキザミ アブリ チヲヌキ シズメル ツブス バラバラニ」

「うぅぐぅ、痛い、痛い、ゆるして・・・」

 ごめんなさいと口が勝手に動く。痛いのは嫌だ、苦しいのは嫌だ、怖い。怖くて怖くて仕方がない。誰か助けてくれと、俺を救って欲しいと心の中で叫ぶが、誰も答えない。



 神様、エリーゼ!誰でもいいから、俺を助けてくれ!チカっ!



 右足がドラゴンの足によって踏みつぶされる。



「・・・・・!!!!!」

 声にならない声が出て、勝手に口が開いて閉じてを繰り返す。顔は涙か鼻水か汗か、色々な液体で濡れていて、まさか血?などと頭によぎって血の気が引く。



 俺、死ぬの?



 なんで?



「ヨワイ セイジョノカゴガ ナケレバ オマエナド リュウノ アイテデハナイ」

「は・・・?」

 今、こいつなんて言った?聖女の加護?なんだよそれ、聖女ってチカだろ?その加護ってなんだよ、そんなものな・・・



 なかったと考える間に、炎に包まれて思考が吹き飛ぶ。死ぬ!死ぬ!

 熱い、痛い、死ぬ!苦しい!



 嫌だ、死にたくない。なんで俺がこんな目に。俺は、このドラゴンを倒して、誰からも祝福されてエリーゼと結ばれたことを披露して、幸せになるはずだったのに。



 なんで俺がこんな目に。チカ、こんな目に合えばいいのはあいつの方だ!なんで俺なんだ、何でチカじゃないんだ!あのニートが幸せになって、なんで俺がここで死ななければならないんだ!



「ズット コノヒヲ マッテイタ セイジョニ サトサレテ ズット ココデ マッテイタ ユウシャ オマエヲ」

 ごうごうと燃える火がふっと消える。まだ生きてる。



「カゴヲウシナッタ オマエガ クルヒヲ ズット マッテイタ キョウダイノ カタキ トラセテモラオウ」

「ち、か」

 お前なら、この傷を癒せるだろ。なんでここにいないんだよ。痛くて苦しい・・・お前は今こそ俺に守られていた日々の恩返しをするべきだ。なんで、ここにいないんだ!



 ズゥンと地面が揺れた。

 竜が何かを口にくわえた。俺に見せつけるようにそれを咀嚼している。飯か、呑気だな。こっちはもう、動けないからって放置か。



「マズイ ヨクニマミレタ ドロノヨウナ アジダ」

「・・・」

「シンダノカ」

 ドラゴンの大きな口が開かれて、俺に迫る。体が動かない。何も感じない。頭がぼぉっとする。俺は、何で?



 死ぬの?



 ぐしゃっと嫌な音が聞こえた。骨が折れるような音も聞こえた。そして、投げ飛ばされる。ゆっくりと流れる景色、空が青い。



 叩きつけられて、ごぼごぼと耳に水音が響いて、視界が悪くなる。



「がほぅ、ごぼっ」

 苦しい気がする。もう死ぬんだと感じる。でも、もう何もできない。



 これまでの日々がよみがえる。可愛い王女。面倒なチカ。可愛いチカ。チカの言葉・・・泣きそうなチカ。可愛いチカ。

 チカ チカ チカ チカ チカ!



 そうだ、俺が強かったのは、チカを守ると誓ったからだ。俺だけの力じゃなかった。なんで俺、忘れてた?

 いや、忘れさせられていた?



 今思えば、おかしかった。いくら環境が変わったからと言って、努力家だったチカが怠けものになって、俺のことを嫌っていたのに好きになって・・・最後にチカと会った時、チカは何て言った?



―――これで、嫌いな人に言い寄られる者の迷惑が、少しはわかりましたか?



 あの言葉は、チカが俺を好きなふりをして、俺に言い寄っているふりをして、俺に迷惑をかけていたこと。つまり、チカは俺のことが好きではなく、嫌いなんだ。

 だから俺を好きなふりをして言い寄って、俺に嫌われる努力をした?



 あぁ、チカは変わってなかったんだ。



 俺って、嫌われてたんだな。そんな努力をされるほど、嫌われていたんだな。なんで?確かに俺のせいでチカはいじめられることになったけど。



 大切にした。この世界に来てから、チカを守って、生活を整えて・・・俺はチカに尽くしたのに。これだけ尽くされてなんで俺が嫌いなんだ。



 ひどい女だ。



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