28 / 32
27 公爵令嬢ヘレーナ
しおりを挟む婚約者を愛しているかですって?もちろん・・・愛していませんわ。
だって、私は公爵家の令嬢・・・婚約は政略でしかありませんもの。
サラサラの金の御髪に、火の使い手の象徴であるような赤い瞳の王子。私の婚約者ですわ。見目もよろしく、文武両道であり紳士な婚約者は、優良ですね。
珍しい銀の髪に青い瞳。一応水の使い手として通っていますが、ほぼすべての魔法を扱うことができ、聡明。淑女の鑑として育てられた私は、優良ですね。問題があるとすれば、ただ一つ。禁血であること。
ですが、些細な問題ですわ。
お似合いの2人。これが私たちの評価でした。
私たちは、学園に通うことになりましたが、過度の接触はせずに、婚約者として節度のある距離を取り、かつ親密さを周囲に知らしめる程度の交流を行っていました。
お互いに溺れるほどではないですが、失えば心を痛める程度の親密さを知らしめることが、私と王子の仕事でした。
そう、仕事でした。
淑女の鑑である私は、とある出会いによって、消え去ることになります。それによって、仕事ではなくなってしまったのです。
王子の目の前に、マリアという女性が現れました。男爵家のご令嬢が何を血迷ったのでしょうかって?いいえ、近づいたのは王子です。
マリアは、水と光の使い手でした。2つの魔法の使い手は貴重で、おそらくその力に目を付けて、王子は近づいたのでしょう。理解いたしました。
笑いかけるのも、優しく名を呼ぶのも、軽く触れるのも、すべてが必要なことです。
たとえ、婚約者の私がいたとしても、マリアの力を考えれば、必要なことです。王子は、私の力を知りませんから、仕方がないのです。
「ハインリヒ様は、私の婚約者です。色目を使わないでいただけるかしら?」
王子とマリアを目の前にして、私の口は勝手に動き出しました。
私は、自分のものを奪われたと感じて、それが許せなかったのです。私は、王子にすべてを捧げる身、ですから王子の全ても私のものです。
それを、この女は奪おうとするのです。
王子はただ、この女の力しか見ていないのに。
王子は、私がマリアにきつい言葉を浴びせると、最初は驚いていましたが笑って私をなだめました。そして、マリアに謝ります。
私の言葉で、マリアが懲りてくれればよかったのですが・・・王子とマリアは共にいることが多くなりました。
そのたびに私はきつい言葉をマリアに浴びせ、王子が笑って私をなだめ、マリアに謝るという流れができました。
ですが、それも終わりです。
ある日、王子も・・・私が淑女の鑑でなくなったと同じように、別人のようになりました。
「いい加減にしないか!ヘレーナ嬢!」
「は、ハインリヒ様?」
怒鳴りつけられることなんて、今まで一度もありませんでした。なので、私は驚き固まります。それを見た王子も一瞬ばつの悪そうな顔をしましたが、続けます。
「マリア嬢とは、友人だ。いくら俺の婚約者といえども、友人関係にまで口は出されたくない。今後はこのようなことをするな。」
「・・・わかりました。」
「そうか。・・・怒鳴って悪かったな。わかってくれたなら、俺は何とも思ってない。」
「・・・」
「行こう、マリア嬢。」
「で、ですが・・・」
王子は、マリアの腰に手をやり、私の前から去りました。
わかりました。これが、私が求めていたものなのです。
王子は、強い感情を私に向けました。それは、怒りという負の感情ではありましたが、今まで私に向ける感情の中で最も強いものです。私は、それが欲しかったのです。
もっと・・・
王子に強い感情を向けて欲しいという、ゆがんだ願いを知った私は、行動に移します。
マリアが悲しめば、王子が怒りを向けて来るでしょう。マリアを悲しませなければ。言葉だけでは駄目です。
もっともっと、辛い目に。
精神的にも、肉体的にも。
「これ、運んでくれるかしら?」
「え、ノートですか?」
「えぇ。クラス全員分のノートよ。私は少し用事がありましてお手伝いできませんが、よろしく頼みましてよ?」
「そ、そんな!こんなにたくさん無理です!」
「頼みましたわ。行きましょう、みなさん。」
「それでは、ごきげんよう、マリア様。」
「男爵家のご令嬢は、使用人の真似事もなさるのでしょう?でしたら、これくらい余裕ですわよね?私では到底無理ですわ。」
「私も。応援していますわ、マリア様。では、ごきげんよう。」
新たに作った取り巻きと共に、優雅にその場を去ります。もちろん、ここに王子は来ません。助けに来ることができないタイミングに、お願いをいたしましたので。
金銭的にも。
「え・・・私のカバン・・・」
「どうかいたしましたか、マリア様。」
「へ、ヘレーナ様!」
「確か、私のカバンと呟いていましたね、ヘレーナ様。きっとあれのことですわよ。」
「あぁ、あれですか。あれはひどいものでした。乞食が迷いこんで捨てて行ったのかと思いましたわ。」
「酷い匂いでしたものね。」
「皆さん、そう言っては可哀そうですわ。もしかしたら、マリア様の持ち物かもしれないのですから。マリア様、マリア様の物かはわかりませんが、校舎裏の茂みにカバンらしきものが落ちていましたわ。」
そう、私たちが持ち出して、中身をぶちまけ、踏みつけ、残飯を上からかけた・・・マリアのカバンです。
もちろん、残飯は平民に持ってこさせて、マリアのカバンにかけさせました。金さえ渡せば、何でもやりますからね、便利な道具ですわ。
マリアは、私たちの言葉を聞いて、走り去っていきました。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした
タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる