30 / 32
29 復讐者 ヘレーナ
しおりを挟む婚約者を愛しているかですって?
さて、どうでしょうか。
登校して、自分の席に私は座ります。
いつもすぐに挨拶をして近づいてくる取り巻き達ですが、このところは遠くから困ったように私の顔をうかがうだけです。親を失った同級生への接し方が分からないようでした。
私も一人になりたかったので、この状況を放っておきましたが、昼食の時間だけは共にしていました。流石に公爵令嬢に一人で食事をさせるわけにはいかないと思ったのでしょう。
ぎこちない会話が私の隣で行われますが、私はただ聞き流し会話には加わりません。
考えなくてはいけないことがありました。
これからどうするのかを。禁術を使用して、再びお母様に会うか、このまま生きるか。2つに一つです。
自宅に戻れば、ここでも居心地の悪い空気に包まれました。使用人たちも、私への接し方を悩んでいるようです。今は、必要最低限の会話しか致しません。前は、少しくらい世間話も致しましたのに。
今日も同じかと、部屋で考え事をしている私を、一人のメイドが話しかけてきました。
少しは気分転換になるかもしれないと思っていましたが、メイドの表情を見て私は顔を険しくしました。メイドの顔は真っ青だったのです。
「体調が悪そうね、もう休んだら?話なら明日聞くわ。」
「い、いいえ。これは、心の問題ですので。どうか、話をさせては頂けませんでしょうか?」
「・・・わかったわ。ただ、せめてソファに腰を掛けてくれるかしら?これで倒れられたわ、貴重な働き手が使い物にならなくなってしまうかもしれないわ。」
「あ、ありがとうございます。では、失礼いたします。」
そう言って、メイドは深く礼をした後にソファに浅く腰を掛けました。背筋は緊張して不自然に伸びています。先ほどとは違って、倒れそうな印象はもうなく、顔は青いままですが覚悟を決めた顔をしていました。
これから、一体何が話されるのでしょうか?
「お嬢様は・・・奥様の死因をご存じでしょうか?」
「・・・それは、どういうことかしら?いいえ、まずは質問に応えましょう。死因は、病死と聞いているわ。」
そう口にして、何か違和感を感じました。ですが、まずはメイドの話を聞くことにしましょう。
「そう、ですよね。でも・・・私、見たんです。アンの服に血がついていて・・・ほんの少しだったのですが、エプロンのお腹あたりについていたんです。その時は、なんとも思いませんでした。けがをしたのだと思ったのです。ですが、そのあと旦那様に呼ばれたんです。」
アンとは、このメイドの同僚にあたります。私とは、特に交流はなく、雑談をすることもない、見かけたことがある程度の関係です。
「部屋を掃除してほしいと。ワインをこぼしたなんて、おっしゃるんです。奥様の部屋で。」
「・・・それは、どういう意味かしら?」
「わかりません。でも、私は変だと感じました。もともと、旦那様は奥様と交流がほとんどありません・・・それに、掃除を頼むなら奥様が手配すると思うのですよ。」
「そうね。それで、お母様の部屋で、あなたは何を目にしたの?」
「・・・部屋は、ワインの匂いが充満していました。実際、ボトル2つ分のワインがこぼれていて、カーペットを交換することに致しました。旦那様にあらかじめ指示をされたのです。奥様は、部屋にはおられませんでした。」
「・・・わかったわ。確か、お母様は中庭で発見されたと言っていたわね。」
「はい。」
「他に、何か変わったことは?」
「・・・葬儀の後、私はワインのこぼれたカーペットを、探したのですが・・・もう、処分された後でした。」
お母様の葬儀で慌ただしいというのに、カーペットの処分など後回しにしてもいいことを、速やかに行っていたというのは怪しいですね。
ワインのこぼれたカーペット。それも、2本もこぼすことなんて、そうそうありません。何かがあったと言っているようなものです。
ワインは、匂い消し・・・血の匂いを消すために使ったのでしょうか?お母様が部屋で殺されたのならの話ですが。
「あ、あと・・・すいません、これは関係がありませんでした。」
「何かあったの?関係のないことでも怒らないから、とりあえず話してくれるかしら?」
「わかりました。でも、本当に関係ないと思います。実は、葬儀が終わった後、お嬢様のベッドの上に、奥様の部屋に置いてあった人形が転がっていたのです。・・・すみません、気味の悪いお話ですよね。」
「人形・・・あぁ、そういうことね。わかったわ。話をしてくれてありがとう。今日はもうさがっていいわ、私も考えたいことがたくさんあるから。」
「はい。失礼いたします。」
メイドは、入ってきた時よりも軽い足取りで部屋を出て行きました。
さて、もう・・・これは確定ですね。お父様には、愛人がいるので怪しいとは思っていました。だから、お母様が邪魔で・・・なんてことも考えていました。病気なんて、信じられないって気持ちがあって、お父様が怪しいと思っていたのです。
血がついていた、アンというメイドが実行犯でしょうか?ですが、それは関係のないことですね。問題は誰が殺したのではなく、誰が殺したいと思ったか、です。
人形については、お母様が私に手紙を書くために使ったのでしょう。なぜ、死んだお母様が手紙を書けたのか。それは、お母様が禁術を使って、人形の体で手紙を書いたからです。
「さて、お父様・・・覚悟はできているのでしょうか。」
お母様を殺したのです。娘に復讐される覚悟は、もちろんできていますよね?
「問題は、どうやって復讐を成し遂げるか、ですわね。愛人を殺してしまえば、復讐になるかしら?確か、踊り子だったわね。」
お父様が守りに入っていなければ、簡単に殺せそうですわ。
「でも、お父様は、また愛するかもしれませんね。お母様を裏切って踊り子を愛したのですから、踊り子が消えれば別の女性を愛すかもしません。それでは、復讐になりません。」
どうすればいいのか、いい案が浮かばないまま私は眠りにつきました。
次の日、いつものように取り巻きを引き連れて昼食をとろうと、カフェテリアに向かっている時でした。
中庭と校庭の間にある渡り廊下を歩いている時、取り巻きが声をあげました。
「あの女、こんな時に。」
「ちょ、今はだめだって。」
声をあげた取り巻きの口を、別の取り巻きがふさぎます。私は、取り巻き立ちの会話を聞き流していましたが、異様な空気を感じ取って声をあげた取り巻きの視線をたどります。
そこには、日のあたるベンチに並んで座る、仲睦まじい姿の男女がいました。
皆様の期待を裏切らず、王子とマリアですわ。
その時、何かが割れたような気がしました。私の中の何かが、粉々になってしまったような感覚に陥って、それから何かがはまりました。
はまったものは、復讐に必要なピース。
「へ、ヘレーナ様!?」
取り巻きたちは、昨日のメイドのように青ざめていました。失礼ですわね、私は今、笑っていますのよ?とっても気分がいいですわ。
悩んでいたのが馬鹿らしい。
禁術?使おうではありませんか。どうせ、この後の未来など望むものではないのですから。
復讐?もちろん完遂させますわ。だって、そういうものでしょう?
王子?ただの道具ですわ。復讐に使えそうな道具。せいぜい、私の役に立ってくださいな、私の婚約者様。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる