31 / 32
30 最後はお母様と私で
しおりを挟む何度も死に、何度も時を戻りました。
お母様と共に幸せに過ごし、お母様が先に行ってしまわれたら・・・逝くではありません。過去に行っているだけですからね。
お母様がいない間、私は父を貶めるために動きます。ほとんどが、私が問題を起こすことで、父の立場を悪くするものでしたが、時にはその命を奪うこともありました。
しかし、命を奪うというものは、復讐という枠組みでは最も稚拙な行為でしょう。復讐とは、相手を自分が受けた苦しみの分苦しませること。死は、救いでしかありません。
私は、父を憎んでいます。ですが、お母様は父を愛していました。
いつか、その愛が届くのではないか?叶うのではないかと思い、私はお母様が殺されるまでに父に猶予を何度も与えました。ですが、それは無駄でしかありませんでした。
最後の最後、お母様は最後まで暗殺されました。
その時も、いつものように復讐のため、王子にその身を焼かれました。
禁書を使ったという罪を犯した私、その父はその後、平民に落とされたのでしょうか?それとも、一生暗い牢屋に?処刑・・・の可能性もありますね。でも、別にいいのです。
次の時に、もっと苦しめればいいのですから。
いつものように、私は過去へと戻りました。
王子と婚約する3年前です。一気に縮んだ背に違和感がありますが、すぐ慣れるでしょう。それよりも、お母様に早く会いたいです。
私は自分の部屋のソファの上で、居眠りをしていました。
立ち上がって部屋を出ると、まっすぐに、お母様がいるであろう部屋へと向かいます。すると、廊下の向こうからお母様がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。
「お母様!」
私は、お母様に駆け寄って、その細い腰に飛びつきます。
「会いたかったです!また、たくさんお話ししましょう!」
「・・・」
「お母様?」
全く動く気配のないお母様を不思議に思って、顔をあげました。すると、お母様はうつろな瞳で遠くを見つめていました。
「・・・え?」
思わず、お母様から離れます。すると、お母様は私をよけて歩き始めました。
「・・・お母様。」
「・・・」
お母様は振り返らずに廊下を進み、やがて角を曲がって見えなくなってしまいました。
「本当に、お母様・・・なの?」
私は、お母様を追うこともできずに、ただ立ち尽くすしかありませんでした。答えは出ています。お母様は、逝ってしまったのだと。ですが、それを確認することが怖くてできませんでした。
夜。
ベッドの上で悩んだ私は、ばっと起き上がって、部屋を抜け出しました。向かった先は、言うまでもなく、お母様の部屋です。
お母様の部屋に着くと、そのまま静かに扉を開けて中に入りました。もちろん、お母様はベッドの上で眠っています。小さな寝息だけが聞こえます。
「・・・お母様。」
「・・・」
ベッドの隅に座って、私はお母様を見下ろしました。
ただ、眠っているようにしか思えないお母様。実際は、誰が見ても眠っていると判断するでしょう。眠っているのですから。
「禁術・・・支配。把握。」
禁術を発動します。この禁術は、簡単に言えば魂を扱う術で、魂の状態を見ることができ、それを取り出すこと、形状を変化させることもできます。
今は、魂を見ることにしました。
「・・・お母様では、ない?いいえ・・・これは、お母様の一部?」
魂の状態はひどいものでした。大きさは10分の一程度になり、ろくな思考もできないように見えます。ただ、命令が与えられているようで、それを実行するだけの存在となっていました。
「・・・これって。」
命令の詳細を探っていると、普段の生活を送っていると見せかける命令ばかりでしたが、1つ異色の物があります。
「お母様、お聞かせください。最後の言葉を。」
これは、合い言葉です。この言葉を聞くと、お母様はお母様の魂が残した言葉を話すよう命令されています。
「・・・ごめんなさい、レナ。・・・どうか、幸せになって。」
「・・・」
「・・・」
お母様は、それだけ話すと、再び眠ってしまわれました。
「それだけ・・・ですか?」
「・・・」
「・・・幸せって、何を言っているのですか、お母様!」
私は、お母様に馬乗りになって、襟首をつかみました。それでも、お母様は目をつぶったまま眠っています。この時間は寝るという、命令のせいでしょう。
「私は、幸せでした。お母様と一緒に生きていられるひと時が・・・幸せでした。楽しみなんです。なんで、奪ったのですか!なんで、私の幸せを奪ったのですか!」
わかっています。わかっているのです。私にとって幸せなだけだったのだと。お母様にとって、私と過ごす日々は・・・
「義務でしたのね。」
私は、それから10分ほどお母様を見下ろしていました。
これから何をするべきか、決めかねていたのです。私の人生は、お母様がいるときに幸せに暮らし、殺された後には復讐するというものでした。でも、お母様がいない今は、幸せになれないのです。
「なら・・・復讐するしかありませんね。」
幸せに暮らせないのなら、復讐をするしかありません。そして、私はこれを最後にしようと決めました。
「お母様のいない人生に、何の意味があるのでしょう?」
意味のない人生を終わらせましょう。しかし、その前に最高の復讐を果たすのです。
「私ではできなかった復讐を・・・禁術、支配。分裂。」
自分自身に禁術を掛けます。それは、魂を2つに分ける禁術。
「力は、お母様に・・・」
2つに分けた魂の大部分をお母様の体へ移します。もちろん、禁術もこちらの方へ移動させました。もとから、お母様の体は禁血なので、禁術を宿すのに問題はありません。
「残りは、私へ戻して・・・くっ!?」
魂を分けた影響でしょうか?禁術が暴走を始めました。勝手に発動した禁術は、もっとも私がよく使っていた禁術です。
「嘘!待って!」
私の体に入れるはずだった魂が、目の前から消えました。これは、移動したのでしょう。
私の扱う禁術は、魂に関してなら、どのようなことでも可能にするという、神術。文字通り、魂を「支配」するこの禁術は、魂をどうとでもできるのです。
過去や未来に魂を送ることなど、造作もありません。
消えた魂は、何処かへ移動したのでしょう。何の力もない魂、もう戻ってくることは不可能・・・
「仕方がありません。この体だけで復讐を・・・!」
私をあざ笑うように、再び禁術が発動します。そして、それは記憶を操作するというもの。
「さすがにそれは!くっ!」
そこで、私の意識は途切れました。
次に目を覚ました私は、自分のことをお母様だと認識し、命令に従うだけの人形になっていました。
それから、娘の婚約を機に、一部記憶を取り戻し、それを未来視と勘違いしたのです。
娘の幸せのために、私は悪役を演じることにしました。娘より悪に、娘との縁を絶ち、最後は娘を正義にするために、私は悪となり死を望み、叶えられたのです。
何はともあれ、復讐は果たしました。これで、私は安らかに眠れるというものです。簡単には眠らせてもらえないようですが。
「やっと見つけた。」
そう、もうこの人生から退場するというのに、誰かが私を引き留めるのです。
私の魂を捕まえたのは、銀の髪に青い瞳という、私やお母様と同じ色彩をした男でした。
「お兄様。」
「ふっ、伯父様だよ、レナ。やっぱり、片割れはティナの中にいたか。」
「・・・片割れ?」
「あれ、レナの体に入っている魂を見ていないのかい?とっても複雑な形をしていてね、2人の人間が合わさって、一人の人間になった・・・補い合って、半人前が一人前になったという感じの魂だよ。」
そうでしたか。消えたほうの魂は、無事に戻ってくることができたのですね。
それにしても、我ながら趣味が悪いですね。あんなクソ男・・・王子を選ぶだなんて。本当に、趣味が悪いわ、私・・・お母様ではない、私に戻った今、苦笑するしかありません。
思い浮かんだのは、王子が睨みつける顔ばかり。もちろん、それは私に向けられるもの。私だけに向けられる強い感情・・・
「馬鹿ね。」
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした
タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる