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31 たった一つの願い
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貴族の通う名門校で、ひときわ注目を浴びる存在がいます。・・・私です。
皆さんごきげんよう。私は平民でありながら王子を婚約者に持つという、ヒロインか!のような設定を持つ、元悪役令嬢ですわ。まぁ、悪役令嬢というのは私の勘違いだったのですが。
色々とあって、私が婚約破棄をされる、処刑台に送られる・・・なんて、些細なことはなく、禁書が使われて国が滅びそうになる大ごとがありました。それで、私が犯人扱いされたり、平民に落とされたり・・・私の被害は大きいですが、特に気にはしていません。
だって、私の目的はたった一つですから。
「レナ!」
「ハインリヒ様!」
今日は、王子にお昼を共にしようと誘われていたので、中庭の一角でお待ちしておりました。5分ほど待って、やっと来た王子を立ち上がってお迎えした私の、笑顔が引きつります。
「レナ、紹介する。俺の友人、男爵家のマリアだ。」
「・・・」
「マリア、こちらは俺の婚約者、ヘレーナ。」
「お噂はかねがね!初めまして、ヘレーナ様!よろしくお願いします!」
「・・・えぇ、こちらこそ。」
驚きました。
今から婚約破棄をされるのかと・・・いえ、王子は公衆の面前でそんなことはなさらないでしょう。いつも、人払いした部屋で告げられていましたし。
「レナ、顔色が悪いけど、大丈夫かい?」
「ディー・・・平気よ、ありがとう。」
王子とマリアに続いて、私の友人ディーまで現れました。確かに、2人でとは言われていませんが、いませんが!
「・・・あぁ、ハインリヒ駄目じゃないか。私たちがいることを、レナに言ってなかっただろう?」
「?それに何か問題が?」
「あるに決まっていますよ!ヘレーナ様、申し訳ありません・・・実は、私がハインリヒ様にヘレーナ様を紹介して頂きたいと頼んでしまいました。それが、こんなことになるとは。また後日、改めてお話しさせていただけませんか?」
「・・・別に、今でも構いませんわ。」
「で、でも・・・」
「マリアが気にすることはないよ。どう考えても、ハインリヒが悪い。」
「だから、何が悪いんだ?」
「そういうところだよ。レナ、実はマリアの話なんだけど、マリアが疎まれているのは知っているよね?」
「・・・えぇ?そ、そんなことは。」
「あ、ヘレーナ様。お気遣いは結構です。私が、王子やその側近に媚びているという噂は知っていますから。」
さらりと言うマリアに、こちらの顔が引きつります。精神が強いのですね、本当に。
「実際は違うのですが、違うと言っても信じてもらえないのは理解していますし、殿方の婚約者様が不安に思う気持ちも理解できます。」
マリアが、私の真正面に立って、真摯なまなざしを私に向けます。私はそこで、違和感を覚えました。ずっと見てきたマリアですが、何かがいつもと違うような?
最初は驚かされて気づきませんでしたが、よく見てみるとマリアの服装が変でした。しっかりと学校指定の制服を着ているのですが、それが・・・
「ですが、それでも私は彼らの友人でいたいのです。なので、私も覚悟を決めました!」
バサッと、マリアがネクタイを外してシャツのボタンをすべて外し、肌をあらわにしました。そこにあったのは・・・胸板。
マリアが着ていたのは、男子の制服でした。
「おい、マリア!」
「こらこらっ!」
王子とディーが、私とマリアの間に入り、マリアの胸板が見えなくなりました。
胸板が・・・胸ではなく、胸板が・・・?え、マリアって、女性でしたよね?マリアって、女性の名前ですよね?その前に、マリアには豊かな胸がありました!あったはずです!あれは作り物の胸ではありませんでした!
柔らかかったですから・・・
「皆さん、マリアマリアと、昔の名前で呼ばないでください!今はイサオです!イサオとお呼びください!」
「だから、なんだよその異国の名前は!どこの国から引っ張ってきたんだ!」
「隣国にできた友人から頂きました!」
「隣国にもそんな名前はない!」
イサオ・・・隣国の、友達?
ハナの顔がちらつきましたが、それどころではありません。なぜ、マリアが隣国になど行ったのでしょうか?
「あの、マリア様。」
「イサオです!どうか、呼び捨てでお願いします!」
「あ、はい。イサオさ・・・イサオ。」
「何でしょうか!」
「なぜ、隣国へ?ま・・・イサオさ・・・イサオが行くような理由があるとは、思えないのですが。」
「あー、それはこの体を手に入れるためです!男の体なら、彼らと何の障害もなく友人でいられますから!」
「・・・そう、ですわね・・・ははっ。」
「全く、マリアは・・・」
「私だって、女だぞ?周りの目なんて、気にしなくてもいいというのに。」
皆さん、忘れているようですが、マリアとは身分の壁もありますからね?それと、少しは周りの目も気にしましょう。
「それで、ヘレーナ様、今日はお礼が言いたくて。」
「え、お礼・・ですか?」
御礼参り・・・という名の復讐ではありませんよね?
いえ、マリアに恨まれることなどないはずです。今世は!
「この体、ヘレーナ様の伯父様にしていただきました!ヘレーナ様がこの国に伯父様を連れてきてくださったおかげです!ありがとうございました!」
「え?伯父様が・・・?」
意味が分かりませんでしたが、禁術の記憶をたどれば、確かそんなようなこともできそうな魔法だったかと納得しました。伯父様も禁血ですからね、禁術が使えるのです。
「伯爵はね、レナが死の雪を止めたのを見届けると、この国に大量のビラをばらまいて、隣国に帰っていったんだよ。そこには、レナが国を救ったことと、すべての黒幕が公爵で、実の親を止めるため、平民になって罪を着せられても国を救ったレナの、美談が書かれていた。」
「び、美談・・・」
「あれは助かったな。あれのおかげで、民衆を味方につけてレナとの再婚約がスムーズにできた。」
「それは、伯父様に感謝しなくてはなりませんね。それで、それがマリ・・・イサオのことと関係がありますの?」
「あぁ。下の方に広告があってね。神の御業で、性別を変えたいものがいれば変えると宣伝していたんだ。マリアのことを直球で狙っていたのかな・・・伯爵には、マリアの話をしていたし・・・なーんてね。」
「ディー!イサオです!」
「あー、うん。よろしくね、イサオ。」
「もう。とにかく、私、ヘレーナ様に感謝をしています。私が男になったことで、周囲の目も多少はマシになると思います。ですが・・・もしも、ヘレーナ様がお気になさるなら、私はハインリヒ様に近づかないことを約束します。」
「マリア!」
「イサオです。ハインリヒ様は黙っていてください。だいたい、これはハインリヒ様にも非があることです。ヘレーナ様が心配なさるような・・・婚約者が心配なさるようなことにならないようするべきだったのですよ?」
「・・・くっ。」
ハインリヒ様は悔しそうな顔をした後、マリアをどかして私の前に立ちます。
「ちょっと、ハインリヒ様!」
「・・・ハインリヒ様?」
「レナ・・・俺が、信じられなかったか?」
「!」
「ちょ、そんな言い方はないだろう!この馬鹿!」
ディーが、ハインリヒ様に向かって手をあげますが、ハインリヒ様はそれを腕をつかんで阻止します。
「ディー、ありがとうございます。大丈夫です。」
「レナ・・・わかったよ。」
ディーは身を引いて、ハインリヒ様もディーの腕を解放いたします。
「ハインリヒ様、この際はっきりと申し上げます。私は、ハインリヒ様を信じてはいませんでした。婚約を破棄されることも、頭に入れていました。」
「・・・そうか。」
「レナ・・・」
「ヘレーナ様・・・なんと、ふがいないことですか、ハインリヒ様。」
憤るマリアですが、あなたのせいでもあるんですよ?
「俺も、君の愛を疑っていた。以前は疑うことなんてなかったのに・・・この学園に来てから、君は俺に近づかなくなった。それが、とても不安だった。」
「左様ですか。」
「・・・」
確かに、私の行動にも非があったとは思います。ですが、理由がありました。それも、お話しできない理由が。そして、それは今もお話ができません。
それに、最初に離れたのはあなたではないですか・・・あぁ、駄目ですね。それは、前世の王子。今目の前にいる方とは違うのです。
「・・・申し訳ありませんでした。」
「レナっ!違う、謝ってほしいわけではない!」
頭を下げようとすれば、王子に止められました。では、どうしろというのでしょうか?
「俺にも悪いことはあったと思う。それに、レナに非があったとしても、謝ってほしくない。謝罪よりも・・・その。」
「・・・何でしょうか?」
「・・・その、もっと一緒にいる時間を・・・作って・・・いや、その。君の時間を、俺にあててくれないか?」
「うわ、ハインリヒの横暴!」
「あれで王子なんて情けないですね。女性の扱いもまともにできないなんて。」
外野がにぎやかですね。
「つまり、ハインリヒ様。」
「は、はい。」
私は、一歩踏み出して、ハインリヒ様の顔を覗き込んで笑います。
「私と、一緒にいたい・・・ということで、間違いありませんか?」
「ま、間違いない!俺と一緒にいてくれ!レナ!」
王子は、間合いにいた私をあっさりと抱きしめて、恥ずかしい言葉を大声で放ちます。これは恥ずかしいですが・・・なかなかいいものですね。
「あの、ディー・・・さっきのヘレーナ様のお顔が・・・」
「あぁ、ぞくぞくするだろう?あのレナの笑みが、私は一番好きだ!」
「・・・そうですか~」
なぜか、マリアの声が遠くなった。目立つ私たちから離れたのでしょう。
それにしても、ぞくぞくする笑みとは?ただたんに、ディーが風邪気味なのでしょう。ディーはあとで保健室に連れていくことにして、そろそろ幕を引くとしましょう。
「ハインリヒ様、おはなし下さい。」
「れ、レナ・・・わかった。」
情けない声の王子が私をはなすと、王子の顔がよく見えるようになります。やはり、情けない顔をしていらっしゃる。
「ふふっ。私、もっとハインリヒ様のお顔を見たいですわ。」
「それは・・・一緒にいてくれるということか?」
「当たり前じゃないですか。」
今世、どれほど私があなたを望んだことか、あなたにはわかりませんね。
「ハインリヒ様、愛してください。そして・・・誰よりも、愛させてください。この先ずっと・・・この命尽きるまで。」
「・・・もう、だめだ・・・我慢できない。」
王子は突然、地面に膝をつきました。膝から崩れ落ちたのかと心配しましたが、よく見ればそれは、女性に愛を乞う男性の姿です。
きれいな所作で、王子は私の手を取りました。
「どうか、結婚してほしい。今、すぐ・・・教会に担いでいっていいか?」
「・・・まずは、落ち着きましょうか、ハインリヒ様。結婚は望むところですきゃっ!?」
突然景色が揺れて、変わります。
気づけば、私はお姫様抱っこをされていました。ハインリヒ様のお顔がすぐそばに・・・どころの話ではなく!
「お、お待ちください!どこへ、どこへ向かっているのですか!」
「教会・・・もう、神の許しさえあればいいだろう!」
「お、お待ちを!あ~れ~」
「レナー!ハインリヒー!」
「うわ、ないですわ。ハインリヒ様、ないですわ。」
本当に、ないですわ!
「この、クソ男が!」
「何とでも言え!結婚さえしてしまえば、こちらのものだ!そのあとで、いかなる罵倒も聞き入れよう!もう、離さない!もう、俺の傍から・・・」
ぽたっ。
「え?」
「あ、雨が降ってきた・・・」
驚きました。涙かと思いました・・・そんなわけありませんよね。
快晴ですが、狐の嫁入りというものでしょう。
それから、私たちは王子の無茶・・・職権乱用により、すぐさま結婚し・・・って、そこまでの権力、王子にありませんよね!?
ないはずなのですが、あったようです。前々から手を回し、国王陛下から許可でも得ていたのでしょうね・・・許可を出さないでください!?
とにかく、長年の夢がその日のうちに叶ってしまいました。
嬉しいので、これはこれでいいのかなと・・・ウエディングドレスを着る夢はあきらめました。
教会を出て、結婚したことで落ち着いたハインリヒ様と並んで歩きます。
お母様、私はもう大丈夫です。今なら、この方を本当に愛せるような気がします。
あれ、お母様の幻影が・・・て、あれは伯父様!?
遠くにある一本杉に半身を隠して、伯父様が笑っています。ものすごく不審者ですが、本人は祝福するように笑って、いなくなってしまいました。
伯父様・・・それに、ハナにもしっかりと報告しなければなりませんね。
でも、その前に。
「ありがとうございます。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これにて完結です。
2年後の物語である「男だけど、聖女召喚された」でヘレーナの活躍を再びご覧いただければ幸いです。
皆さんごきげんよう。私は平民でありながら王子を婚約者に持つという、ヒロインか!のような設定を持つ、元悪役令嬢ですわ。まぁ、悪役令嬢というのは私の勘違いだったのですが。
色々とあって、私が婚約破棄をされる、処刑台に送られる・・・なんて、些細なことはなく、禁書が使われて国が滅びそうになる大ごとがありました。それで、私が犯人扱いされたり、平民に落とされたり・・・私の被害は大きいですが、特に気にはしていません。
だって、私の目的はたった一つですから。
「レナ!」
「ハインリヒ様!」
今日は、王子にお昼を共にしようと誘われていたので、中庭の一角でお待ちしておりました。5分ほど待って、やっと来た王子を立ち上がってお迎えした私の、笑顔が引きつります。
「レナ、紹介する。俺の友人、男爵家のマリアだ。」
「・・・」
「マリア、こちらは俺の婚約者、ヘレーナ。」
「お噂はかねがね!初めまして、ヘレーナ様!よろしくお願いします!」
「・・・えぇ、こちらこそ。」
驚きました。
今から婚約破棄をされるのかと・・・いえ、王子は公衆の面前でそんなことはなさらないでしょう。いつも、人払いした部屋で告げられていましたし。
「レナ、顔色が悪いけど、大丈夫かい?」
「ディー・・・平気よ、ありがとう。」
王子とマリアに続いて、私の友人ディーまで現れました。確かに、2人でとは言われていませんが、いませんが!
「・・・あぁ、ハインリヒ駄目じゃないか。私たちがいることを、レナに言ってなかっただろう?」
「?それに何か問題が?」
「あるに決まっていますよ!ヘレーナ様、申し訳ありません・・・実は、私がハインリヒ様にヘレーナ様を紹介して頂きたいと頼んでしまいました。それが、こんなことになるとは。また後日、改めてお話しさせていただけませんか?」
「・・・別に、今でも構いませんわ。」
「で、でも・・・」
「マリアが気にすることはないよ。どう考えても、ハインリヒが悪い。」
「だから、何が悪いんだ?」
「そういうところだよ。レナ、実はマリアの話なんだけど、マリアが疎まれているのは知っているよね?」
「・・・えぇ?そ、そんなことは。」
「あ、ヘレーナ様。お気遣いは結構です。私が、王子やその側近に媚びているという噂は知っていますから。」
さらりと言うマリアに、こちらの顔が引きつります。精神が強いのですね、本当に。
「実際は違うのですが、違うと言っても信じてもらえないのは理解していますし、殿方の婚約者様が不安に思う気持ちも理解できます。」
マリアが、私の真正面に立って、真摯なまなざしを私に向けます。私はそこで、違和感を覚えました。ずっと見てきたマリアですが、何かがいつもと違うような?
最初は驚かされて気づきませんでしたが、よく見てみるとマリアの服装が変でした。しっかりと学校指定の制服を着ているのですが、それが・・・
「ですが、それでも私は彼らの友人でいたいのです。なので、私も覚悟を決めました!」
バサッと、マリアがネクタイを外してシャツのボタンをすべて外し、肌をあらわにしました。そこにあったのは・・・胸板。
マリアが着ていたのは、男子の制服でした。
「おい、マリア!」
「こらこらっ!」
王子とディーが、私とマリアの間に入り、マリアの胸板が見えなくなりました。
胸板が・・・胸ではなく、胸板が・・・?え、マリアって、女性でしたよね?マリアって、女性の名前ですよね?その前に、マリアには豊かな胸がありました!あったはずです!あれは作り物の胸ではありませんでした!
柔らかかったですから・・・
「皆さん、マリアマリアと、昔の名前で呼ばないでください!今はイサオです!イサオとお呼びください!」
「だから、なんだよその異国の名前は!どこの国から引っ張ってきたんだ!」
「隣国にできた友人から頂きました!」
「隣国にもそんな名前はない!」
イサオ・・・隣国の、友達?
ハナの顔がちらつきましたが、それどころではありません。なぜ、マリアが隣国になど行ったのでしょうか?
「あの、マリア様。」
「イサオです!どうか、呼び捨てでお願いします!」
「あ、はい。イサオさ・・・イサオ。」
「何でしょうか!」
「なぜ、隣国へ?ま・・・イサオさ・・・イサオが行くような理由があるとは、思えないのですが。」
「あー、それはこの体を手に入れるためです!男の体なら、彼らと何の障害もなく友人でいられますから!」
「・・・そう、ですわね・・・ははっ。」
「全く、マリアは・・・」
「私だって、女だぞ?周りの目なんて、気にしなくてもいいというのに。」
皆さん、忘れているようですが、マリアとは身分の壁もありますからね?それと、少しは周りの目も気にしましょう。
「それで、ヘレーナ様、今日はお礼が言いたくて。」
「え、お礼・・ですか?」
御礼参り・・・という名の復讐ではありませんよね?
いえ、マリアに恨まれることなどないはずです。今世は!
「この体、ヘレーナ様の伯父様にしていただきました!ヘレーナ様がこの国に伯父様を連れてきてくださったおかげです!ありがとうございました!」
「え?伯父様が・・・?」
意味が分かりませんでしたが、禁術の記憶をたどれば、確かそんなようなこともできそうな魔法だったかと納得しました。伯父様も禁血ですからね、禁術が使えるのです。
「伯爵はね、レナが死の雪を止めたのを見届けると、この国に大量のビラをばらまいて、隣国に帰っていったんだよ。そこには、レナが国を救ったことと、すべての黒幕が公爵で、実の親を止めるため、平民になって罪を着せられても国を救ったレナの、美談が書かれていた。」
「び、美談・・・」
「あれは助かったな。あれのおかげで、民衆を味方につけてレナとの再婚約がスムーズにできた。」
「それは、伯父様に感謝しなくてはなりませんね。それで、それがマリ・・・イサオのことと関係がありますの?」
「あぁ。下の方に広告があってね。神の御業で、性別を変えたいものがいれば変えると宣伝していたんだ。マリアのことを直球で狙っていたのかな・・・伯爵には、マリアの話をしていたし・・・なーんてね。」
「ディー!イサオです!」
「あー、うん。よろしくね、イサオ。」
「もう。とにかく、私、ヘレーナ様に感謝をしています。私が男になったことで、周囲の目も多少はマシになると思います。ですが・・・もしも、ヘレーナ様がお気になさるなら、私はハインリヒ様に近づかないことを約束します。」
「マリア!」
「イサオです。ハインリヒ様は黙っていてください。だいたい、これはハインリヒ様にも非があることです。ヘレーナ様が心配なさるような・・・婚約者が心配なさるようなことにならないようするべきだったのですよ?」
「・・・くっ。」
ハインリヒ様は悔しそうな顔をした後、マリアをどかして私の前に立ちます。
「ちょっと、ハインリヒ様!」
「・・・ハインリヒ様?」
「レナ・・・俺が、信じられなかったか?」
「!」
「ちょ、そんな言い方はないだろう!この馬鹿!」
ディーが、ハインリヒ様に向かって手をあげますが、ハインリヒ様はそれを腕をつかんで阻止します。
「ディー、ありがとうございます。大丈夫です。」
「レナ・・・わかったよ。」
ディーは身を引いて、ハインリヒ様もディーの腕を解放いたします。
「ハインリヒ様、この際はっきりと申し上げます。私は、ハインリヒ様を信じてはいませんでした。婚約を破棄されることも、頭に入れていました。」
「・・・そうか。」
「レナ・・・」
「ヘレーナ様・・・なんと、ふがいないことですか、ハインリヒ様。」
憤るマリアですが、あなたのせいでもあるんですよ?
「俺も、君の愛を疑っていた。以前は疑うことなんてなかったのに・・・この学園に来てから、君は俺に近づかなくなった。それが、とても不安だった。」
「左様ですか。」
「・・・」
確かに、私の行動にも非があったとは思います。ですが、理由がありました。それも、お話しできない理由が。そして、それは今もお話ができません。
それに、最初に離れたのはあなたではないですか・・・あぁ、駄目ですね。それは、前世の王子。今目の前にいる方とは違うのです。
「・・・申し訳ありませんでした。」
「レナっ!違う、謝ってほしいわけではない!」
頭を下げようとすれば、王子に止められました。では、どうしろというのでしょうか?
「俺にも悪いことはあったと思う。それに、レナに非があったとしても、謝ってほしくない。謝罪よりも・・・その。」
「・・・何でしょうか?」
「・・・その、もっと一緒にいる時間を・・・作って・・・いや、その。君の時間を、俺にあててくれないか?」
「うわ、ハインリヒの横暴!」
「あれで王子なんて情けないですね。女性の扱いもまともにできないなんて。」
外野がにぎやかですね。
「つまり、ハインリヒ様。」
「は、はい。」
私は、一歩踏み出して、ハインリヒ様の顔を覗き込んで笑います。
「私と、一緒にいたい・・・ということで、間違いありませんか?」
「ま、間違いない!俺と一緒にいてくれ!レナ!」
王子は、間合いにいた私をあっさりと抱きしめて、恥ずかしい言葉を大声で放ちます。これは恥ずかしいですが・・・なかなかいいものですね。
「あの、ディー・・・さっきのヘレーナ様のお顔が・・・」
「あぁ、ぞくぞくするだろう?あのレナの笑みが、私は一番好きだ!」
「・・・そうですか~」
なぜか、マリアの声が遠くなった。目立つ私たちから離れたのでしょう。
それにしても、ぞくぞくする笑みとは?ただたんに、ディーが風邪気味なのでしょう。ディーはあとで保健室に連れていくことにして、そろそろ幕を引くとしましょう。
「ハインリヒ様、おはなし下さい。」
「れ、レナ・・・わかった。」
情けない声の王子が私をはなすと、王子の顔がよく見えるようになります。やはり、情けない顔をしていらっしゃる。
「ふふっ。私、もっとハインリヒ様のお顔を見たいですわ。」
「それは・・・一緒にいてくれるということか?」
「当たり前じゃないですか。」
今世、どれほど私があなたを望んだことか、あなたにはわかりませんね。
「ハインリヒ様、愛してください。そして・・・誰よりも、愛させてください。この先ずっと・・・この命尽きるまで。」
「・・・もう、だめだ・・・我慢できない。」
王子は突然、地面に膝をつきました。膝から崩れ落ちたのかと心配しましたが、よく見ればそれは、女性に愛を乞う男性の姿です。
きれいな所作で、王子は私の手を取りました。
「どうか、結婚してほしい。今、すぐ・・・教会に担いでいっていいか?」
「・・・まずは、落ち着きましょうか、ハインリヒ様。結婚は望むところですきゃっ!?」
突然景色が揺れて、変わります。
気づけば、私はお姫様抱っこをされていました。ハインリヒ様のお顔がすぐそばに・・・どころの話ではなく!
「お、お待ちください!どこへ、どこへ向かっているのですか!」
「教会・・・もう、神の許しさえあればいいだろう!」
「お、お待ちを!あ~れ~」
「レナー!ハインリヒー!」
「うわ、ないですわ。ハインリヒ様、ないですわ。」
本当に、ないですわ!
「この、クソ男が!」
「何とでも言え!結婚さえしてしまえば、こちらのものだ!そのあとで、いかなる罵倒も聞き入れよう!もう、離さない!もう、俺の傍から・・・」
ぽたっ。
「え?」
「あ、雨が降ってきた・・・」
驚きました。涙かと思いました・・・そんなわけありませんよね。
快晴ですが、狐の嫁入りというものでしょう。
それから、私たちは王子の無茶・・・職権乱用により、すぐさま結婚し・・・って、そこまでの権力、王子にありませんよね!?
ないはずなのですが、あったようです。前々から手を回し、国王陛下から許可でも得ていたのでしょうね・・・許可を出さないでください!?
とにかく、長年の夢がその日のうちに叶ってしまいました。
嬉しいので、これはこれでいいのかなと・・・ウエディングドレスを着る夢はあきらめました。
教会を出て、結婚したことで落ち着いたハインリヒ様と並んで歩きます。
お母様、私はもう大丈夫です。今なら、この方を本当に愛せるような気がします。
あれ、お母様の幻影が・・・て、あれは伯父様!?
遠くにある一本杉に半身を隠して、伯父様が笑っています。ものすごく不審者ですが、本人は祝福するように笑って、いなくなってしまいました。
伯父様・・・それに、ハナにもしっかりと報告しなければなりませんね。
でも、その前に。
「ありがとうございます。」
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これにて完結です。
2年後の物語である「男だけど、聖女召喚された」でヘレーナの活躍を再びご覧いただければ幸いです。
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同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
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