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第一話 残像
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「え?あいつら引っ越したの?」
寺の賽銭箱の前にある、木製の階段に腰掛けながら、俺は森くんに対して素っ頓狂な声をあげてしまった。
「知らなかったの?今村の方に家建てたんだってさ。引っ越したのは一ヶ月前くらいじゃなかったかな。そっか。連絡なかったんだ」
「全っ然。水臭くね?普通に引越し祝いとかあげたのによ。お前は?」
「あげたよ」
「あっそ」
俺は立ち上がって、寺の右脇に建っている自動販売機から炭酸ジュースを買い、さきほどの階段に腰を下ろした。
「で?二人は今年の獅子舞には来ねえって言ってるわけ?」
缶ジュースのプルタブを開けると、プシュッという炭酸がはじけるいい音がした。
「うん。まだまだバタバタしてるらしいし、それにまずは音羽の体調が優先だからね。通くんもサポートしてあげなきゃだしって、あれ?ごめん。もしかして、音羽のおめでたの話も知らな」
「知らねえよ!!!は???」
俺は大声で森くんに怒鳴りつけた。
「あ、でもこれは一週間前くらいの話だから健人もまだ聞いてなくて当たり前かも」
森くんはあたふたしながら、胸の前に両手を出し、興奮する俺を抑制するかのような姿勢をとった。
「もういーわ!!!どうせ俺は音羽にとってその程度の関係だったってことだろ!ずっと前からお前の方が仲良いもんな!」
俺は缶ジュースを握りつぶりそうな勢いで手に取り、あまったるい中身を口に運んだ。
「いやあ、ここだけの話だけど、音羽が健人が連絡するのは、通くんがあんまりいい顔しないらしいよ」
「んだよ!もう結婚してガキまで作ってんだから、今更俺が取って食ったりしねえだろ?まだ気にしてんのかよあのメガネ」
「そういうもんなんじゃない?実際未練タラタラなのは事実だし」
「はあ?どこがだよ」
俺は森くんの方を向き直し、笑った。
表情筋に変な力を加えたせいで、飲み込んだばかりの炭酸ジュースが鼻の穴から飛び出して、鼻水となって出てきた。
俺は軽くせき込みながら鼻をすすった。
「あーあ。だめだこりゃ。もう見てられないよ。早く星さん来ないかな」
森くんはそう呟いて、空を仰いだ。八月の炎天下の空の下、俺は九月に執り行われる近所のお祭りの打ち合わせのために、近くに住む友人の森くんと、寺の鍵を持っている星さんがここへやって来るのを待っていた。
本来であればこの祭りの団長(リーダー)であるカズちゃんが、練習場として使用しているこの寺の鍵を持っているのだが、今回の打ち合わせには来れないということで、たまたま今日に予定が空いていた星さんに鍵を預けたそうだ。
寺の近くにある神社の方面から、蝉の群れの鳴き声が響いた。
あと何週間かすれば、この鳴き声は鈴虫に変わり、またあの祭りの練習が始まるのだ。
俺が缶ジュースを飲み干したところで、ジーンズのポケットに手を入れて、地面から足裏をあまり離さずに引きずるようにして歩く、星さんの姿が目に入った。
「ちーす」
「星さん遅いですよ~」
森くんがぐったりしながら言った。
「すまんすまん。舞美がアイス食いすぎて腹壊したからちょいと看病しとったんや。あれ?じじいどもは何時に来るんだったっけか?」
「十七時」
俺がそう答えたところで、星さんが鍵を開け、寺の玄関の扉が開いた。
寺の賽銭箱の前にある、木製の階段に腰掛けながら、俺は森くんに対して素っ頓狂な声をあげてしまった。
「知らなかったの?今村の方に家建てたんだってさ。引っ越したのは一ヶ月前くらいじゃなかったかな。そっか。連絡なかったんだ」
「全っ然。水臭くね?普通に引越し祝いとかあげたのによ。お前は?」
「あげたよ」
「あっそ」
俺は立ち上がって、寺の右脇に建っている自動販売機から炭酸ジュースを買い、さきほどの階段に腰を下ろした。
「で?二人は今年の獅子舞には来ねえって言ってるわけ?」
缶ジュースのプルタブを開けると、プシュッという炭酸がはじけるいい音がした。
「うん。まだまだバタバタしてるらしいし、それにまずは音羽の体調が優先だからね。通くんもサポートしてあげなきゃだしって、あれ?ごめん。もしかして、音羽のおめでたの話も知らな」
「知らねえよ!!!は???」
俺は大声で森くんに怒鳴りつけた。
「あ、でもこれは一週間前くらいの話だから健人もまだ聞いてなくて当たり前かも」
森くんはあたふたしながら、胸の前に両手を出し、興奮する俺を抑制するかのような姿勢をとった。
「もういーわ!!!どうせ俺は音羽にとってその程度の関係だったってことだろ!ずっと前からお前の方が仲良いもんな!」
俺は缶ジュースを握りつぶりそうな勢いで手に取り、あまったるい中身を口に運んだ。
「いやあ、ここだけの話だけど、音羽が健人が連絡するのは、通くんがあんまりいい顔しないらしいよ」
「んだよ!もう結婚してガキまで作ってんだから、今更俺が取って食ったりしねえだろ?まだ気にしてんのかよあのメガネ」
「そういうもんなんじゃない?実際未練タラタラなのは事実だし」
「はあ?どこがだよ」
俺は森くんの方を向き直し、笑った。
表情筋に変な力を加えたせいで、飲み込んだばかりの炭酸ジュースが鼻の穴から飛び出して、鼻水となって出てきた。
俺は軽くせき込みながら鼻をすすった。
「あーあ。だめだこりゃ。もう見てられないよ。早く星さん来ないかな」
森くんはそう呟いて、空を仰いだ。八月の炎天下の空の下、俺は九月に執り行われる近所のお祭りの打ち合わせのために、近くに住む友人の森くんと、寺の鍵を持っている星さんがここへやって来るのを待っていた。
本来であればこの祭りの団長(リーダー)であるカズちゃんが、練習場として使用しているこの寺の鍵を持っているのだが、今回の打ち合わせには来れないということで、たまたま今日に予定が空いていた星さんに鍵を預けたそうだ。
寺の近くにある神社の方面から、蝉の群れの鳴き声が響いた。
あと何週間かすれば、この鳴き声は鈴虫に変わり、またあの祭りの練習が始まるのだ。
俺が缶ジュースを飲み干したところで、ジーンズのポケットに手を入れて、地面から足裏をあまり離さずに引きずるようにして歩く、星さんの姿が目に入った。
「ちーす」
「星さん遅いですよ~」
森くんがぐったりしながら言った。
「すまんすまん。舞美がアイス食いすぎて腹壊したからちょいと看病しとったんや。あれ?じじいどもは何時に来るんだったっけか?」
「十七時」
俺がそう答えたところで、星さんが鍵を開け、寺の玄関の扉が開いた。
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