捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

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本編

峯滝氷雨1

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 授業参観や運動会、文化祭などの学校行事が近付くと、小学校一年生クラスの保護者達、特にお母さん達は以前よりも服装や化粧に力を入れるようになった。それは藤崎と宮下の母親も例外ではなく、何時も我が子に服や化粧の出来栄えを確認して学校へ向かうのだ。

「氷雨さん、人気者だね」
「お母さん達、何時も氷雨さんばかり見てるよね」

 お母さん達が力を入れる理由はただ一つ。逢珠真を引き取った若くて美麗な氷雨に綺麗な自分を見てもらいたいからだ。氷雨が保護者達と顔を合わせたのは授業参観日の時で、初めて彼を見た保護者達は驚きすぎて固まっていた。噂で聞いてはいたが、こんな美しい人が逢珠真を引き取ったとは誰も思っていなかったのだ。授業参観が無事に終わった後、お母さん達は皆我が子に「どうして峯滝さんのことを教えてくれなかったの!?」と怒ってしまった。あんな綺麗な人が来ると知っていたら、もっと力を入れていたのに! と、子ども達からしてみれば理不尽とも言える理由で責め立てられた。

 氷雨は誰に対しても礼儀正しく、常に笑顔を絶やさず、クラスメイトの子ども達にも優しい。運動会や文化祭では逢珠真の為に美味しいお弁当を作り、お昼を一緒に食べた宮下の両親と藤崎の両親はとても驚いていた。母親達は「まだ若いのに、お料理もできるなんて凄いですね」と氷雨を褒め、父親達はずっと不機嫌な顔をしたままだった。

「でも、うちのお父さん、運動会で氷雨さんに負けてずっと敵視してるんだよね」
「うちの父ちゃんも氷雨さんが『気に入らない』って言ってたな」
「ひさめさん、かっこよかった」

 運動会の種目に保護者対抗リレーがあり、毎年とても盛り上がる大人気の種目の一つだ。その対抗リレーに氷雨も参加することになり、宮下と藤崎の父親が対抗心を燃やして彼らも参加した。氷雨は黒い上着を脱いで逢珠真に預けると、準備運動を始めた。白い半袖シャツにジャージ姿の氷雨も格好よくて、逢珠真達はずっと彼に見惚れていた。時々チラ見えする細い腰や腹筋にみんな釘付けで、父親達は更に氷雨への対抗心を燃やした。宮下の父親が一位で、その次が藤崎の父親。氷雨のチームは最下位で、此処から挽回するのは絶望的な状況。にも関わらず、バトンを受け取った氷雨は次々と選手を追い抜いて、あっという間に一着でゴールしてしまった。女子生徒とお母さん達の歓声が物凄い事になったのは言うまでもない。走り切って息切れをするお父さん達と、一切息切れをせず逢珠真に笑顔で手を振る氷雨。

「氷雨さん、本当に何者なんだ? 和菓子職人ってあんなに腹筋割れるのか?」
「なんでもいいじゃない。氷雨様は氷雨様よ」
「…………」

 運動会の後、本気を出しすぎた氷雨に対して時雨が「やりすぎです」と注意していたことを、彼らは知らない。





 逢珠真と仲がいい宮下と藤崎は、休日になるとお家に遊びに行くようになった。宮下と藤崎は家が隣で、二人の両親も母親が学生時代からの友達で仲がいいという。二人から「うちに遊びに来ないか?」とお誘いを受けた逢珠真は、氷雨にそのことを報告して一緒に宮下家と藤崎家を訪れた。氷雨が玄関で挨拶をする姿を真似て逢珠真も丁寧に挨拶をすると、みんなに感心され褒められた。二人と一緒に遊ぶ時間は楽しくて、逢珠真は二人をお家に招待したいと思うようになった。保護者同士で談笑する氷雨の袖をクイッと引っ張って、逢珠真は控えめに声をかけた。

「あ、あの。ひさめさん。つ、つぎは、ひさめさんのおうちで、みんなとあそびたいです。いいですか?」
「勿論。遊びに来る日が決まったら教えてね」
「あ、ありがとうございます! えっと、みやしたさんとふじさきさんのおとうさんとおかあさんも、ごしょうたいしますので、ぜひ、あそびにきてください!」

 ぺこっとお辞儀をする逢珠真を見て、母親達はとても感心する。逢珠真は二人に「あそびにきてもいいって!」と嬉しそうに報告した。二人は氷雨の前まで走って来ると「ありがとうございます!」と宮下がお礼の言葉を述べ「俺、あの最高級プリンが食べたい!」と藤崎が氷雨に要求した。とんでもない要求を口にした藤崎は母親に注意され、何度も何度も謝罪した。

 そんな微笑ましい光景を、少し離れた場所で藤崎の父、藤崎賢吾けんごと、宮下の父、宮下竣介しゅんすけは仏頂面で眺めていた。賢吾の妻、紗季江さきえと竣介の妻、詩織しおりはずっと氷雨に夢中で、二人に見向きもしない。二十代前半の若さで超人気和菓子店「雨之神」で和菓子を作り、美麗な容姿でお母様方と女子生徒達の心を鷲掴みにし、それに加えて文武両道、料理上手、礼儀正しくて非の打ちどころがない。運動会の時にチラッと見えた氷雨の鍛え上げられた腹筋。あれのせいで何度、愛する妻と可愛い我が子から割れていないお腹を白い目で見れらたことか。

 絶対にこの男の本性を暴いてやる! と、二人は心の中で誓いを立てた。彼らは何度も何度も話し合い、氷雨を一人にさせる作戦を考えた。そうして氷雨の家を訪れる日となり、愛しい家族と共に彼らは峯滝家戦場へと足を踏み入れた。

「藤崎さん、宮下さん、いらっしゃいませ。どうぞ、中へ入ってください」
「しょうごくん! かおりちゃん! いらっしゃい!」
「逢珠真くん! こんにちは!」
「遊びに来たぜ! 逢珠真!」

 子ども達はお互いに名前で呼び合うほど仲良くなり、そんな三人を見て氷雨はクスクス笑った。子ども達の後を追って、氷雨は四人をリビングへと案内する。シンプルな家具で揃えられたリビングはとても居心地がよく、紗季江と詩織は目を輝かせて「こんなお家に住んでみたい!」と口にした。賢吾と竣介は無言で柔らかなソファに腰かける。リビングからは立派な日本庭園が一望でき、子ども達はそれに夢中だった。

「お茶を用意しました。どうぞ、召し上がってください」
「ありがとうございます」
「いただきます」
「わー! あの最高級プリンだ! すっげー!」
「こら! 省吾!」
「いいんですよ。カスタード、抹茶、モンブランの三種類あるから、好きなのを選んでください」
「俺、モンブランがいい!」
「私もモンブラン!」
「逢珠真はどれがいい?」
「これがいいです。はじめてたべたぷりんだから」
「カスタードだね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます! ひさめさん!」

 柔らかなクッションを椅子代わりにして座り、三人はプリンを堪能した。氷雨から「皆さんも、好きなものを選んでください」と告げて、紗季江と詩織は抹茶を、賢吾と竣介はカスタードを手に取った。

「美味しい! 流石は最高級プリンね!」
「ずっと食べてみたかったのよ! このプリン!」
「……美味いな」
「あぁ」

 流石は超人気の最高級プリン。予約しても数年待たないと食べられないと言われているプリンを、直ぐに入手できるのは氷雨が「雨之神」の従業員だからだろう。彼は和菓子職人だと言っていた為、従業員割引や少しだけ優遇されるのかもしれないと彼らは考えた。淹れてくれたお茶も美味しくて、悔しいが流石は「雨之神」の人気商品だと感心した。
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