神子のおまけの脇役平凡、異世界でもアップルパイを焼く

トキ

文字の大きさ
34 / 88
第3章

海の神子

しおりを挟む
 ポフンッ!

 突然何かが光り出したかと思うと、可愛らしい破裂音がした。強い光はなくなり、代わりに白い煙が二人を覆う。その煙も次第に風に流され、二人は光った所を凝視した。

「キャウ!」
「え? わ!」

 光の正体を確認しようと目を凝らしていたシンジュに黒い何かが突進した。高い声で「キュウキュウ」と鳴き、シンジュの周囲を嬉々として飛び回っている。

「どうなってるんだ?」
「えっと、ぼ、僕も何が起こったのか、分からなくて……」
「あり得ない」

 シャチが、空中を泳ぐなんて……

 黒と白の独特な模様。小さいながらもピンと上に伸びる背鰭に、パタパタと忙しなく動く尾鰭。頭部の左右にある白い楕円形。

「海のギャング」と言う異名を持ち、海洋生物最強と謳われている動物。しかし、シャチは海の生きものであり、本来なら海に生息する生きもの。けれど、目の前に居るシャチは海水の無い空中を泳いでいる。まるで、海の中を泳いでいるかのような仕草で……

「海の、神子様」
「え?」
「海の神子様だ! 神子様が、お戻りになられた!」
「空中を泳ぐ海の生物。これぞ正に神子の証」
「あ、あの……」

 二人だけしか居なかった廊下に、強い光が何だったのか確認しに来た人々が集まり騒ぎ始めた。突然現れた空中を泳ぐシャチを見た人々は目を輝かせて「神子様」と「神子の証」だと言って、シンジュに深々と頭を下げている。

「えっと、あの、神子さまって……」

 まだ他人と接する事に慣れていないシンジュは、大勢の人々から頭を下げられ、酷く戸惑った。戸惑うシンジュを気にする様子も無く、シャチは嬉しそうに空中を泳いでいる。何時の間にか燕も混ざり、楽しそうに戯れ合っていた。

「よくぞお戻りになられました。海の神子様」
「…………」
「…………」

 神子と呼ばれても、どう返せば良いのか分からないシンジュは何も言えず、鈴が着ている服の袖口をキュッと握った。





 多くの人が集まり、騒ぎがどんどん大きくなり、鈴もシンジュも戸惑った。「神子様」と口々に言う人々に、シンジュは訳が分からなくなり、涙が浮かぶ。

「何があったのですか?」

 人と人の間を縫うようにしてやって来たクラウスに、二人は安堵した。今までの事をクラウスに説明すると彼は暫く黙った後、周囲の人々を落ち着かせ、自分の仕事に戻るよう指示をした。

「シンジュ! 無事か!?」
「リベル、さま……」
「大丈夫か、鈴!」
「夕……」

 暫くして、リベルテ、夕、ユリウスも来た。リベルテはシンジュを抱き締め、何度も「もう大丈夫だ」と優しく言う。夕は鈴に近付き「怪我は?」と聞くと、鈴は顔を逸らして「してない」と答えた。ユリウスはクラウスから話を聞き、今の状況を把握しようと頭を働かせた。

「キュ?」

 空中を泳ぐシャチ。体は小さいものの、どう見てもシャチだ。居る筈のない動物を目の当たりにし、夕とリベルテは言葉を失い、ユリウスとクラウスは真剣な顔をしてシャチを凝視する。

 注目の的になっているシャチは彼等の反応を気にする様子もなく、シンジュの周囲を嬉しそうに泳いでいる。

「シンジュ様が、本当の海の神子だったのですね」
「え?」
「そうか。だから、あの時……」

 クラウスとユリウスは驚く様子もなく何かに気付いたのか、二人で顔を見合わせる。そんな二人に夕達が声を掛けると「お話ししてもよろしいですね」とクラウスが呟き、ユリウスはコクリと頷く。

 二人だけは理解しているような空気に、夕達は何を知っているのか聞こうとした時、クラウスが口を開いた。

「詳しくご説明します。私に付いて来て下さい」

 クラウスからそう言われ夕達はコクリと頷き、歩き出したクラウスに付いて行った。気が付くと燕は何時の間にか鈴の手にちょこんと乗り、シャチは動き過ぎて疲れたのか、シンジュの頭の上に大人しく乗っていた。

 夕とリベルテが興味津々に燕とシャチにちょっかいを出そうとすると、キッと睨み付け威嚇する。鈴とシンジュは同時に「苛めるな」と言って二人を制した。苛める気は一切ないのだが、また威嚇されて注意されるのも嫌なので二人は大人しく足を進めた。

「それでは、お話し致します」

 辿り着いたのは神殿だった。神殿に入ると、クラウスはゆっくりと振り返り、夕達を見た。

「あの、お話って……」
「神子の存在についてです」

 クラウスの言葉を聞き、鈴は驚いた。いくら自分で調べても分からなかった事。神子の存在を、クラウスは全て知っている。クラウスだけでは無く、恐らくユリウスも知っている。

「これからお話しするのは、五人の神子の存在と、神子の証についてです」

 誰も何も話さず、静かにクラウスの話に耳を傾けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

処理中です...