雨音に包まれて〜愛されなかった子は龍の化身に寵愛される〜《完結》

トキ

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本編2

悪い子

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 実の両親と話すのはやはり緊張したのか、応接室から退室した瞬間、アスマは全身の力が抜けてしまった。倒れかけたアスマの身体をヒサメがそっと抱きとめ「大丈夫か?」と心配そうに彼の顔を覗き込む。

「ありがとう、ございます。ヒサメ様」
「疲れただろう? 屋敷に戻って、ゆっくり休もう」
「……はい」

 アスマを優しく抱き上げ、ヒサメは「今日は休む」と部下に告げて自分の屋敷へ帰ることにした。両親の態度やアスマの生い立ちを知っている部下達はヒサメを引き止めることはしなかった。この世界の人達が優先するのは愛する伴侶だ。アスマがヒサメを受け入れてくれたお陰で、全ての悪鬼が消滅した。何時伴侶を殺されるか分からない。自分も悪鬼に襲われるかもしれない。そんな不安や恐怖に怯えなくていい平穏な日々を、二人はこの世界の人々に与えてくれた。ヒサメだけでなく、アスマも彼らにとっては救世主なのだ。

「アスマ。本当に傷付いていないのか?」
「大丈夫です。ヒサメ様。二人に会うのは怖かったし緊張したけど、悲しいとは思いませんでした」
「本当に?」
「ふふ。ヒサメ様は心配性ですね」
「当たり前だ。君は俺の愛する伴侶なのだから」

 アスマを抱き上げて屋敷に帰ったヒサメは自室に直行した。上着を脱ぎ捨て、ソファに座る。自分の膝の上にアスマを乗せ、ヒサメは何度も「大丈夫?」と確認した。誰が見てもあの二人は心の腐った最低な人間だった。あんな最低な人間でも、アスマにとっては「愛してほしい」と願った家族だ。そう思ってヒサメは極力殺気を出さないよう心掛けていたが、アスマの両親でなければ直ぐに二人の首を刎ねていた。

「前の僕だったら、二人が迎えに来てくれたって喜んでいたかもしれません」
「…………」
「本当は愛してくれていたんだって舞い上がって、二人が迎えに来たのは僕を何処かへ売る為だったと知って落ち込んで、辛くて悲しくて、また泣いていたと思います」
「君がそう思うのも当然だ。あの二人は、認めたくないが君の両親なのだから」
「今は思っていませんけどね。二人から僕が居なくなった後の話を聞いても、何も思わなかったんです。それを僕に言ってどうするの? って、僕に言われても困るって、気持ちがどんどん冷めていって。元の世界に帰ったら、僕は幸せになれるの? 二人だけが幸せになるだけで、僕はまたひとりぼっちになるんじゃないの? って、聞きたくなりました。あの二人は僕を売る為に迎えに来たと知っていたので、聞く必要もなかったんですけど」

 静かに語るアスマの表情は和やかで、やはり傷付いている様子はない。ただ、自分が思っていることを話しているだけで、ヒサメは少しだけ安堵する。すり、と自分の胸に頬を寄せてくるアスマが愛おしくて、彼の頭をそっと撫でて「続けて」とヒサメは優しく促した。

「アスマがどう思っていたのか、もっと聞かせてほしい」
「僕、悪い子かもしれません」
「は?」
「だって、血の繋がった親を見捨てたんですよ? それなのに、全く罪悪感がないんです。不思議ですね」
「先に捨てたのはあの二人だ。アスマは悪い子じゃないよ」
「ヒサメ様がそうやって僕を甘やかすから、我儘になっちゃうんです。ヒサメ様の傍に居られるだけで満足だったのに、もっともっと、愛されたいって、貪欲に求めてしまう」
「求めていいんだよ。アスマが『愛して』と望むなら、俺は沢山の愛情を君に注ぐよ?」
「ん」

 アスマの頬に手を添え、ヒサメはそっと彼の唇に口付ける。小さな体を抱きしめ、耳元に唇を寄せて「この世界を選んでくれてありがとう」と低くて甘い声で囁く。アスマは顔を真っ赤にしてヒサメを見上げ「ヒサメ様、僕を甘やかすの禁止です!」と叫んで両手で彼の口を塞ぐ。こうして少しずつ感情を取り戻していくアスマが愛おしくて愛おしくて、ヒサメは嬉しそうにクスクス笑った。

「アスマのお願いでも、それは聞けない。こんなにも愛らしい君を前にしたら、ドロドロに甘やかしたくなる」
「ヒ、サメさま?」
「アスマの全てを堪能したい」
「な!」

 この世界に残るとアスマは言ったが、ヒサメの不安はまだ消えていなかった。
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