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第5話
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数日後の日曜日。選挙の投票に行った帰り道。
奏絵は、普段より少しだけ重い足取りで、恵梨果と一緒に歩いていた。
恵梨果と一緒なら、いつもはスキップしそうなほど足取りは軽い。
重い理由は、投票箱に初めて自分の一票を投じた後に心の中で浮かんできたモヤモヤ。
「初めての投票、どうだった?」
だから、優しくかけられた言葉に、
「ちょっとモヤモヤする」
奏絵は正直に答える。
「色々考えちゃう。自分の一票にどれだけの価値があるのか、投票した候補者が当選しなかったら自分の一票が無駄になるのか、当選したら本当に公約通りに動いてくれるのか。不安なんだ、と思う」
「色々考えることは大切だよ。綺麗な答えがなかなか出てくれないと大変だけど、とても大切」
恵梨果が笑みを浮かべる。
普段なら、奏絵も一緒に笑みを浮かべるのだが、心のモヤモヤが邪魔をしてくる。
「奏絵ちゃんが考えている通り、奏絵ちゃんが投票した一票自体はその他のたくさんの票に埋もれてしまうかもしれない。でも、投票に行く行動にも価値があって、行くことで大きなうねりが起きれば政治は変えられる。逆を言えば、行かなければ政治は変えられない。ちっちゃな行動だけれど、それが集まることが大切なんだよ」
モヤモヤしながら、奏絵は首を縦に動かした。
「私が今のお店を開く前、まだ修行していた時のことなんだけど。お店がある商店街で再開発の計画が立ち上がったら、色々問題も一緒に出ちゃって、反対運動が始まったんだ」
恵梨果が空を見上げた。
今日の空は細かく小さな雲で覆われている。天気が下り坂になるサインといわれるイワシ雲だ。
「ちょうど、佐奈子さんのカフェも立ち退かなければならなかったから、私も参加して、色々やったよ。市役所に行って話をしたり、議員さんにも話を聞いてもらったり。けれど、一番力になったのは一人一人の声が1つになった時。商店街のお店の人たちと商店街に来るお客さんたちが、いっぱい一緒になって声を上げたの」
――私の占いが日本の政治を左右してきた。
――私一人だけの声が……。
「そうしたら、計画が中止になったんだ。スゴイでしょ!」
鹿乃子の言葉が脳裏に蘇る。
『虐待された子供を守るこの法案は絶対に成立させたいの。私の政治家生命をかけているわ。どうしたらいい?』
『来年の予算案を成立させるには、どうしたらいい?』
その度に占ってきた。時には、占いの結果として、中身にも口出しをした。占った結果通りに鹿乃子は行動した。
――私がしてきたことは歪んだこと、ということだよね。
――総理がしてきたことで、救われた人もいたかもしれない。
――けれど、そうじゃない人もいたかもしれない。
――……私の占いは何だったんだろう。
足がひどく重くなる。
でも、そんな奏絵の前に恵梨果が両手を広げて立ちふさがった。
「ようこそ大人の世界へ!」
太陽のような笑顔を浮かんでいる。
その姿が昔の彼女と重なる。
10年前、奏絵の前から母が姿を消した時。初めて見た大人の親戚たちは奏絵を同情とともに厄介者として見つめた。大人たちに合わせて、子供の親戚たちも奏絵を遠巻きに見るばかり。
奏絵は、一人、空を見ていた。今にも雨が降りそうな暗い雲の空を。
『ねえ、一緒に遊ぼう!』
前に立ちふさがるように両手を広げて現れたのが恵梨果だった。
その時も、彼女は太陽のような明るい笑顔を浮かべていた。
近い年頃の子供に笑顔を向けて話しかけられたことも、その後一緒に遊んだことも、初めての経験だった。
奏絵にとって、宝物の思い出。
祖母に引き取られてから何度も夢で見た光景。夢を見る度に涙を流したが、その時は涙の意味が分からなかった。
今なら分かる。
「これで奏絵ちゃんも投票権を持った大人の仲間入りだよ」
明るさに心のモヤモヤが吹き消される。
――昔に戻るつもりはない。
「ねえ、お姉ちゃん。手を繋いでもいい?」
「もちろんだよ!」
右手から伝わる温もりが奏絵の顔に笑みを浮かべさせる。
一緒に遊ぼうと誘われた時も、
『ねえ、手を繋いでもいい?』
『もちろん!』
同じように手を繋いだ。
この記憶があったから、鹿乃子に恵梨果の連絡先を教えられた際、
――……行ってみようかな。
と思った。
「奏絵ちゃん、夕飯には何が食べたい?」
「マカロニグラタンが食べたい!」
「よーし。お姉ちゃん、腕によりをかけて作っちゃうぞ」
「うん! 私も手伝う!」
――これも占いに頼らない白紙の人生の1シーンなんだよね。
――大丈夫。
――一票の価値を今は分からなくてもいい。
――私の価値が分からなくてもいい。
――ゆっくりと答えを探していこう。
奏絵は、普段より少しだけ重い足取りで、恵梨果と一緒に歩いていた。
恵梨果と一緒なら、いつもはスキップしそうなほど足取りは軽い。
重い理由は、投票箱に初めて自分の一票を投じた後に心の中で浮かんできたモヤモヤ。
「初めての投票、どうだった?」
だから、優しくかけられた言葉に、
「ちょっとモヤモヤする」
奏絵は正直に答える。
「色々考えちゃう。自分の一票にどれだけの価値があるのか、投票した候補者が当選しなかったら自分の一票が無駄になるのか、当選したら本当に公約通りに動いてくれるのか。不安なんだ、と思う」
「色々考えることは大切だよ。綺麗な答えがなかなか出てくれないと大変だけど、とても大切」
恵梨果が笑みを浮かべる。
普段なら、奏絵も一緒に笑みを浮かべるのだが、心のモヤモヤが邪魔をしてくる。
「奏絵ちゃんが考えている通り、奏絵ちゃんが投票した一票自体はその他のたくさんの票に埋もれてしまうかもしれない。でも、投票に行く行動にも価値があって、行くことで大きなうねりが起きれば政治は変えられる。逆を言えば、行かなければ政治は変えられない。ちっちゃな行動だけれど、それが集まることが大切なんだよ」
モヤモヤしながら、奏絵は首を縦に動かした。
「私が今のお店を開く前、まだ修行していた時のことなんだけど。お店がある商店街で再開発の計画が立ち上がったら、色々問題も一緒に出ちゃって、反対運動が始まったんだ」
恵梨果が空を見上げた。
今日の空は細かく小さな雲で覆われている。天気が下り坂になるサインといわれるイワシ雲だ。
「ちょうど、佐奈子さんのカフェも立ち退かなければならなかったから、私も参加して、色々やったよ。市役所に行って話をしたり、議員さんにも話を聞いてもらったり。けれど、一番力になったのは一人一人の声が1つになった時。商店街のお店の人たちと商店街に来るお客さんたちが、いっぱい一緒になって声を上げたの」
――私の占いが日本の政治を左右してきた。
――私一人だけの声が……。
「そうしたら、計画が中止になったんだ。スゴイでしょ!」
鹿乃子の言葉が脳裏に蘇る。
『虐待された子供を守るこの法案は絶対に成立させたいの。私の政治家生命をかけているわ。どうしたらいい?』
『来年の予算案を成立させるには、どうしたらいい?』
その度に占ってきた。時には、占いの結果として、中身にも口出しをした。占った結果通りに鹿乃子は行動した。
――私がしてきたことは歪んだこと、ということだよね。
――総理がしてきたことで、救われた人もいたかもしれない。
――けれど、そうじゃない人もいたかもしれない。
――……私の占いは何だったんだろう。
足がひどく重くなる。
でも、そんな奏絵の前に恵梨果が両手を広げて立ちふさがった。
「ようこそ大人の世界へ!」
太陽のような笑顔を浮かんでいる。
その姿が昔の彼女と重なる。
10年前、奏絵の前から母が姿を消した時。初めて見た大人の親戚たちは奏絵を同情とともに厄介者として見つめた。大人たちに合わせて、子供の親戚たちも奏絵を遠巻きに見るばかり。
奏絵は、一人、空を見ていた。今にも雨が降りそうな暗い雲の空を。
『ねえ、一緒に遊ぼう!』
前に立ちふさがるように両手を広げて現れたのが恵梨果だった。
その時も、彼女は太陽のような明るい笑顔を浮かべていた。
近い年頃の子供に笑顔を向けて話しかけられたことも、その後一緒に遊んだことも、初めての経験だった。
奏絵にとって、宝物の思い出。
祖母に引き取られてから何度も夢で見た光景。夢を見る度に涙を流したが、その時は涙の意味が分からなかった。
今なら分かる。
「これで奏絵ちゃんも投票権を持った大人の仲間入りだよ」
明るさに心のモヤモヤが吹き消される。
――昔に戻るつもりはない。
「ねえ、お姉ちゃん。手を繋いでもいい?」
「もちろんだよ!」
右手から伝わる温もりが奏絵の顔に笑みを浮かべさせる。
一緒に遊ぼうと誘われた時も、
『ねえ、手を繋いでもいい?』
『もちろん!』
同じように手を繋いだ。
この記憶があったから、鹿乃子に恵梨果の連絡先を教えられた際、
――……行ってみようかな。
と思った。
「奏絵ちゃん、夕飯には何が食べたい?」
「マカロニグラタンが食べたい!」
「よーし。お姉ちゃん、腕によりをかけて作っちゃうぞ」
「うん! 私も手伝う!」
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――大丈夫。
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――ゆっくりと答えを探していこう。
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