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鏡花水月 花言葉の導③ー4
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だがしかし、ここで問題が発生する。そう、そもそも、現在オルメカは迷子である。闇雲に走ってきたせいで来た道が判らず、辿り着いたのがこの小さな花壇の広場だ。
「…?どうしたんだい?何か問題があるのかな?」
心配そうにこちらを見てくる桜華の君。
…ここまで来たら、頼むしかないか…。皆の推しに頼むのは図々しい気がするけど…。
「やー、問題というか…その、私…実を言うと迷子でして…広場に戻る途中だったんですけど…」
やや恥ずかしそうにそう言った。この歳にもなって、情けないとも思う。
だが、そんな申し訳なさそうなオルメカを見て、桜華の君は柔らかく笑い、快い返事した。
「ああ、なんだ。そんな事かい。いいよ、私で良ければ広場まで案内しよう」
そう言って桜華の君はオルメカの手を引き、広場まで案内してくれたのだった。
☆
「お姉さん…何処に言ってしまったんでしょう…?」
ハート型のパズルをぎゅっと抱き締める。不安な時や困った時に見せるアリスの癖。ソロモンはそれに気付いて、安心させるように頭を撫でてやる。
「大方、目当ての美男子でも追っかけていったんだろう。わざわざ特定の祭に来たがったくらいだ。美男子関連なんだろうさ」
半ば呆れたようにそう言った。これは彼女の趣味の旅。美男子を捜して歩く旅だ。彼女の奇怪な行動原理には常に美男子の影がちらつくもの。今更、驚くことでもない。ただ、連絡もないのだから、心配くらいはする。
「俺も携帯とやらを持った方がいいのかもしれないな」
溜息混じりにそう言った。彼女が自由に走り回るのは仕方ないとしても、連絡がつかないのは問題である。
「携帯があればお姉さんと連絡つくんですか?」
「ああ、そのはずだ。リアルタイムで話が出来るらしい。…今の…、いや、この世界は魔法だけではない技術も発達しているらしいな」
「そうですね。魔法は確かに存在しますけど、一切魔法が使えない人もいますから、魔法が使えても使えなくても、共有することのできる技術があるのは素敵ですよね」
そんな会話をしている二人は、広場の会場から少し離れた塀のところにいた。塀の両端には階段があり、その下は昼間まで屋台で盛り上がっていた街の入口付近の広場へと繋がっている。
そこから見る広場は無法地帯なのがよくわかる。舞手の人々が何人か顔を出しているが、我こそが一番だとファンが殺到しており、舞手のボディーガードらしき人々も苦労しているのが見て取れる。
「…魔法でどうにかならないんでしょうか、あれって」
遠巻きにその光景を見ていたアリスが言った。
「魔法で、か。シルフで風の結界を張ったり…か?出来るとすれば。しかし、出来るのなら既にやっているんじゃないか?」
「ですよねぇ」
二人がそんな会話をしていると、聞き慣れた声が広場の方から聞こえてきた。
「あー!!二人とも居たー!!」
声の方を向くと金魚柄の浴衣を来た女性が立っている。ひらひらと手を振っている。
「…お姉さん…!!」
「オル…!!」
お互いに駆け寄る。
「お前、何も言わずに…!!一体、何処に行ってたんだ!」
「そうですよ!心配したんですよ!」
二人とも怒ったような心配したような、そんな顔だ。随分と心配させたらしい。オルメカは素直に謝った。
「ごめんなさい…心配かけて。道に迷っちゃってさ…」
パンッ!と両手を顔の前で合わせた。それから頭を下げる。
そんな彼女を見て、ソロモンは彼女の頭の上に手を乗せた。ポンポンと軽く頭を叩く。
「全く…心配掛けてくれるなよ」
「はぁい…」
そんな会話をしていると、広場の方が静かになってきた。どうやら、舞手も控え室に戻り、宴もお開きとなったようだ。
携帯の時刻を見ると、夜の九時を回っていた。随分と早いお開きだなと思ったが、オルメカはさっき、聞いたとある事件の事が頭を過った。
この事を話すかどうか…。オルメカが考えあぐねていると、
「そろそろ宿に戻りませんか?」
と、アリスが提案した。それを受けて、宿に戻ることにした。
広場を離れ、宿屋に向かう道のりで大風車の横を通る。夜に見る大風車はなんとなく不気味だ。ライトアップされてはいるのだが、寝静まったように街灯と少しの部屋の明かりしかない夜のフロル・ローダンセには似合わない。
ほどなくして宿屋に着いた。浴衣を着替えてから温泉にでも入ろうかと話していた時、窓の向こうから鈴の音ような音が聞こえて手を止めた。
「あれ?ポピーちゃん…?」
障子を開けると、その窓の向こうに花の妖精、ポピーが窓を叩くようにして、必死な様子で立っていた。
あまりにも必死な様子なので、ガラガラ…と窓を開ける。窓が開くと、バッ…!とポピーがオルメカに飛び付くように部屋の中に入って来た。
飛び付いてきたポピーをオルメカは受け止める。
「ど、どうしたの!?ポピーちゃん!?何かあったの!?」
ソロモンとアリスもなんだなんだと集まってくる。ポピーの目元には涙が溜まっていた。
<お願いします!た、助けてください…!!>
オルメカの手の中で、ポピーはそう泣き叫んだ。
このただ事ではない様子に、三人は詳しく話を聞くことにした。
「…?どうしたんだい?何か問題があるのかな?」
心配そうにこちらを見てくる桜華の君。
…ここまで来たら、頼むしかないか…。皆の推しに頼むのは図々しい気がするけど…。
「やー、問題というか…その、私…実を言うと迷子でして…広場に戻る途中だったんですけど…」
やや恥ずかしそうにそう言った。この歳にもなって、情けないとも思う。
だが、そんな申し訳なさそうなオルメカを見て、桜華の君は柔らかく笑い、快い返事した。
「ああ、なんだ。そんな事かい。いいよ、私で良ければ広場まで案内しよう」
そう言って桜華の君はオルメカの手を引き、広場まで案内してくれたのだった。
☆
「お姉さん…何処に言ってしまったんでしょう…?」
ハート型のパズルをぎゅっと抱き締める。不安な時や困った時に見せるアリスの癖。ソロモンはそれに気付いて、安心させるように頭を撫でてやる。
「大方、目当ての美男子でも追っかけていったんだろう。わざわざ特定の祭に来たがったくらいだ。美男子関連なんだろうさ」
半ば呆れたようにそう言った。これは彼女の趣味の旅。美男子を捜して歩く旅だ。彼女の奇怪な行動原理には常に美男子の影がちらつくもの。今更、驚くことでもない。ただ、連絡もないのだから、心配くらいはする。
「俺も携帯とやらを持った方がいいのかもしれないな」
溜息混じりにそう言った。彼女が自由に走り回るのは仕方ないとしても、連絡がつかないのは問題である。
「携帯があればお姉さんと連絡つくんですか?」
「ああ、そのはずだ。リアルタイムで話が出来るらしい。…今の…、いや、この世界は魔法だけではない技術も発達しているらしいな」
「そうですね。魔法は確かに存在しますけど、一切魔法が使えない人もいますから、魔法が使えても使えなくても、共有することのできる技術があるのは素敵ですよね」
そんな会話をしている二人は、広場の会場から少し離れた塀のところにいた。塀の両端には階段があり、その下は昼間まで屋台で盛り上がっていた街の入口付近の広場へと繋がっている。
そこから見る広場は無法地帯なのがよくわかる。舞手の人々が何人か顔を出しているが、我こそが一番だとファンが殺到しており、舞手のボディーガードらしき人々も苦労しているのが見て取れる。
「…魔法でどうにかならないんでしょうか、あれって」
遠巻きにその光景を見ていたアリスが言った。
「魔法で、か。シルフで風の結界を張ったり…か?出来るとすれば。しかし、出来るのなら既にやっているんじゃないか?」
「ですよねぇ」
二人がそんな会話をしていると、聞き慣れた声が広場の方から聞こえてきた。
「あー!!二人とも居たー!!」
声の方を向くと金魚柄の浴衣を来た女性が立っている。ひらひらと手を振っている。
「…お姉さん…!!」
「オル…!!」
お互いに駆け寄る。
「お前、何も言わずに…!!一体、何処に行ってたんだ!」
「そうですよ!心配したんですよ!」
二人とも怒ったような心配したような、そんな顔だ。随分と心配させたらしい。オルメカは素直に謝った。
「ごめんなさい…心配かけて。道に迷っちゃってさ…」
パンッ!と両手を顔の前で合わせた。それから頭を下げる。
そんな彼女を見て、ソロモンは彼女の頭の上に手を乗せた。ポンポンと軽く頭を叩く。
「全く…心配掛けてくれるなよ」
「はぁい…」
そんな会話をしていると、広場の方が静かになってきた。どうやら、舞手も控え室に戻り、宴もお開きとなったようだ。
携帯の時刻を見ると、夜の九時を回っていた。随分と早いお開きだなと思ったが、オルメカはさっき、聞いたとある事件の事が頭を過った。
この事を話すかどうか…。オルメカが考えあぐねていると、
「そろそろ宿に戻りませんか?」
と、アリスが提案した。それを受けて、宿に戻ることにした。
広場を離れ、宿屋に向かう道のりで大風車の横を通る。夜に見る大風車はなんとなく不気味だ。ライトアップされてはいるのだが、寝静まったように街灯と少しの部屋の明かりしかない夜のフロル・ローダンセには似合わない。
ほどなくして宿屋に着いた。浴衣を着替えてから温泉にでも入ろうかと話していた時、窓の向こうから鈴の音ような音が聞こえて手を止めた。
「あれ?ポピーちゃん…?」
障子を開けると、その窓の向こうに花の妖精、ポピーが窓を叩くようにして、必死な様子で立っていた。
あまりにも必死な様子なので、ガラガラ…と窓を開ける。窓が開くと、バッ…!とポピーがオルメカに飛び付くように部屋の中に入って来た。
飛び付いてきたポピーをオルメカは受け止める。
「ど、どうしたの!?ポピーちゃん!?何かあったの!?」
ソロモンとアリスもなんだなんだと集まってくる。ポピーの目元には涙が溜まっていた。
<お願いします!た、助けてください…!!>
オルメカの手の中で、ポピーはそう泣き叫んだ。
このただ事ではない様子に、三人は詳しく話を聞くことにした。
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