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10、ありえない魔法
カルミアは足元から崩れていくような感覚に襲われた。絶望した、と表現出来るのかもしれない。血の気が引く思いをしながらカルミアは叫んだ。
「ジニア殿下…!!どういうことですの!?何故、その女を庇うのです…!!殿下は…殿下はわたくし達がそのようなことをするはずないと、そうおっしゃってくださったではありませんか…!!」
カルミアは訴えたが、ジニアから返ってきたのは冷たい視線。それがカルミアの目の前を暗くさせる。ショックだった。そんな目の前に光景に愕然とする彼女の横で、ロベリアはジニアの腕の中から一心にゼフィランサスへと視線を送るネリネに気がついた。その視線に気づいたのと同時に、ネリネの口元が笑ったように見えた。
(嵌められた……!!!)
瞬発的にそう思った。ロベリアがそう思ったのと同時に、ネリネが再び涙を流す。
(ダメ…!!!)
それは直感だった。ネリネが仕掛けてきたと思った。咄嗟にカルミアの腕を掴もうと手を伸ばす。それと同時にブルーベルが闇の魔法でネリネ達とロベリア達の前に障壁のような結界を張った。ロベリアの目にはそれが視界の端に見えていた。だから彼が魔法を使ったことは認識出来たのだ。
それらが瞬時に起こった直後、力と力がぶつかった衝撃波がその場にいた全員を襲う。凄まじい突風と煙幕に誰もが思わず腕を盾にして顔を守った。
衝撃波が巻き起こした煙幕が徐々に収まり、視界がクリアになってくるとロベリアはカルミアの腕を掴んでその場を離れるように校舎の中へと駆け出した。
「なんですの…!?一体何が起きてるんです…!?」
「いいから走って!!ブルーベル、貴方も!早く…!!!」
ロベリアに促されブルーベルも後に続いてその場を駆け出した。
☆
ロベリアに引っ張られるまま闇雲に校内を走らされたカルミアが掴まれた腕を振りほどいてその場に立ち止まった。
「カルミア…!?」
急に振りほどかれて驚いたロベリアが彼女の方を振り返って足を止める。
「なんなんですの!!?一体、何がどうなっているんですの!!!殿下は…どうして…」
憤るカルミアは悔しそうに拳を握りしめる。その姿を見て、ロベリアは落ち着いた声で状況を整理する為、口を開いた。
「…おかしいと思いませんか?」
「…は?なんの事ですの?」
ロベリアがそう尋ねると、カルミアは訳がわからないといった何とも言えない微妙な顔で返事をする。ブルーベルはそんなふたりを見守っているようだ。
「…王族が、貴族が、あんな涙ひとつで態度を変えるだなんて、おかしいと思いませんか?」
「……」
何も答えずカルミアは黙ったままだ。
「…先程の衝撃波。…あれは魔法と魔法がぶつかって起こったものだと思います。そうよね?ブルーベル」
ロベリアがそう尋ねると、ブルーベルはコクリと頷く。その答えを確認したロベリアは改めてカルミアの方を向いて話した。
「カルミア、私はあれは魔法のせいだと思っています」
「魔法ですって?」
「ええ、むしろ魔法だからこそ、かもしれません」
カルミアは頭の上にハテナを浮かべる。
「…わたくしにもわかるように説明してくださいません?」
声色を聞く限り少し落ち着きを取り戻したようだった。ロベリアの説明を待つ姿勢が見えた。それを確認したロベリアは続きを話す。
「もちろんです。では説明します。さっき、衝撃波が起きた時、ブルーベルが私達を守るために魔法で結界を張ってくれました」
「結界?魔法?一体なんの話しをしているんですの??」
「カルミアも見たでしょう?殿下が手のひら返ししたのを。それに他の生徒会の方々も。彼らは先日の聴取で私達が犯人でないことを知っているはず。それなのに、あんな……。とても正気だったとは思えません」
「それは…確かに…。落ち着いて考えれば…おかしい…ですわね」
ロベリアの主張にカルミアも同意する。話を聞いていたブルーベルも何度も頷いていた。
「まさか、だから魔法だと?」
「ええ、そのまさかです。複数の男性を意のままに操ることが出来る魔法…………。おそらく、ネリネさんは魅了の魔法、もしくはそれに類する魔法が使えるんじゃないでしょうか」
“魅了の魔法”その言葉にカルミアは青ざめた表情のまま叫んだ。
「魅了の魔法…!!??ありえない、ありえませんわ!!!そんなの!だってあれは、禁術ですわよ!!!?」
焦ったような様子にロベリアは驚いた。禁術だったとは知らなかったのだ。
「禁術なんですか?」
「ええ、そうですわ。貴女が知らないのも無理はありませんが、わたくしは王太妃教育で教わりましたの。どうやらその昔、古くは異世界から聖女を召喚する儀式が行われていて、その聖女がその後、魅了の魔法と呼ばれる魔法を使ったそうですの」
カルミアは一旦、深呼吸をして続きを話す。
「…その結果、王子も宰相も騎士団長も…あらゆる方々が聖女の虜になった。でもそれは、当然、国に混乱を招いたそうです。誰もが聖女の言いなりになった、とか」
「だから禁呪とされたのね」
「ええ、そういうことですわ。それに今は魅了の魔法に関する記述は王家が所有する情報以外には存在しないはずですし、後にも先にも異世界から呼んだ聖女にしか使えなかったと聞いてますわ。だから、ありえないんですのよ」
「でもカルミア。あれが魅了の魔法でなければなんだと?」
「それは…」
カルミアは言葉が出ず、黙ってしまった。ありえないはずだが、それしか理由が思い当たらない。
コツ…。
ふたりが頭を悩ませていると、ふいに足音がした。まさか追ってきたのか、と音の方を振り向く。音がしたのはロベリア達が走ってきた廊下の方。警戒するふたりの視界に飛び込んできたのは触りたくなるほどさらさらで綺麗な金髪だった。
「あの…、魔法とか魅了とか…一体、何の話しをしているのですか?」
おずおずと尋ねてきたのは、さらさらの金髪が揺れる美男子。困った様な、困惑した様な様子の青年。
「え!!ゼフィランサス様!?」
眉を八の字に下げて困惑した様子でこちらを見てくるのはロベリアの婚約者であるゼフィランサスだった。
「ゼフィランサス、貴方平気でしたの!?」
「? 平気…とは?」
カルミアの問いにきょとんとした顔で答えるゼフィランサスの様子を見たロベリアはもしかしてとブルーベルに尋ねた。
「ブルーベル、もしかして彼も守ってくれたのですか?」
その問いかけにブルーベルはコクンと頷く。
『ロディの、婚約者だから』
少し拙い言葉でブルーベルが答えた。
(私の婚約者だから、守ってくれたのね)
自分の判断で彼を守ってくれたことが嬉しかった。ロベリアはブルーベルの手を握りお礼を述べる。
「ありがとう、ブルーベル」
口元の形から笑顔を見せているだろうロベリアを見てブルーベルも嬉しそうだ。
そんなふたりのやり取りの横でゼフィランサスは未だ状況が読めないといった風だった。
「あの、一体何が起こっているのでしょうか?殿下やライラック達の様子もおかしかったようですし…」
一人、会話に置いてかれているゼフィランサスは説明を求めた。
「えっと、これはまだ可能性、いえ、憶測でしかないのですが、おそらく、殿下達はネリネさんに操られているんだと思います。…魅了の魔法で」
ロベリアが掻い摘んで説明をする。まだどれも証拠がない話だ。
「魅了の魔法?…そのせいで殿下達は彼女の味方をした、ということですか?」
「ええ、少なくとも私はそう考えています」
ロベリアの話にゼフィランサスは「ふむ…」と小さく声を出し口元に手を添えて考え込んだ。ロベリアはそんな彼の姿に思わず見とれていた。
(考え込む姿も美しいわね…)
少し伏せられた瞳を隠すように長いまつ毛が覆う。物憂げな表情にも見えて妖艶な色香を漂わせる。彼の場合、魅了の魔法なんて使わなくても物憂げな表情をするだけでも世の男女問わず卒倒しそうだ。
「仮に、魅了の魔法を使ったんだとしたら、何故わたくし達は平気でしたの?ゼフィランサスもですわね」
「ああ、それはわかります。ブルーベルが結界を張って守ってくれたからです」
そう説明するとブルーベルがどことなくドヤ顔しているように見えた。もちろん、実際にそんな表情をした訳では無い。が、あまり表情の変わらないブルーベルにしては自慢げに見えたのだ。
「あの、話の腰を折るようで申し訳ないのですが…」
ゼフィランサスがおずおずと小さく挙手をして会話に加わる。
「ロベリア嬢の従者であるブルーベルって何者なんでしょうか?」
その疑問に、そういえば簡単にしか紹介していなかった事にロベリアは気がついた。ブルーベルが精霊であることを言っていなかった。
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