死神令嬢と悪役令嬢は破滅フラグを叩き折りたい

紗吽猫

文字の大きさ
10 / 49

10、ありえない魔法

  

  カルミアは足元から崩れていくような感覚に襲われた。絶望した、と表現出来るのかもしれない。血の気が引く思いをしながらカルミアは叫んだ。

「ジニア殿下…!!どういうことですの!?何故、その女を庇うのです…!!殿下は…殿下はわたくし達がそのようなことをするはずないと、そうおっしゃってくださったではありませんか…!!」

  カルミアは訴えたが、ジニアから返ってきたのは冷たい視線。それがカルミアの目の前を暗くさせる。ショックだった。そんな目の前に光景に愕然とする彼女の横で、ロベリアはジニアの腕の中から一心にゼフィランサスへと視線を送るネリネに気がついた。その視線に気づいたのと同時に、ネリネの口元が笑ったように見えた。

(嵌められた……!!!)

  瞬発的にそう思った。ロベリアがそう思ったのと同時に、ネリネが再び涙を流す。
  
(ダメ…!!!)

  それは直感だった。ネリネが仕掛けてきたと思った。咄嗟にカルミアの腕を掴もうと手を伸ばす。それと同時にブルーベルが闇の魔法でネリネ達とロベリア達の前に障壁のような結界を張った。ロベリアの目にはそれが視界の端に見えていた。だから彼が魔法を使ったことは認識出来たのだ。
  それらが瞬時に起こった直後、力と力がぶつかった衝撃波がその場にいた全員を襲う。凄まじい突風と煙幕に誰もが思わず腕を盾にして顔を守った。
  衝撃波が巻き起こした煙幕が徐々に収まり、視界がクリアになってくるとロベリアはカルミアの腕を掴んでその場を離れるように校舎の中へと駆け出した。

「なんですの…!?一体何が起きてるんです…!?」
「いいから走って!!ブルーベル、貴方も!早く…!!!」

  ロベリアに促されブルーベルも後に続いてその場を駆け出した。





  ロベリアに引っ張られるまま闇雲に校内を走らされたカルミアが掴まれた腕を振りほどいてその場に立ち止まった。

「カルミア…!?」

  急に振りほどかれて驚いたロベリアが彼女の方を振り返って足を止める。

「なんなんですの!!?一体、何がどうなっているんですの!!!殿下は…どうして…」

  憤るカルミアは悔しそうに拳を握りしめる。その姿を見て、ロベリアは落ち着いた声で状況を整理する為、口を開いた。

「…おかしいと思いませんか?」
「…は?なんの事ですの?」

  ロベリアがそう尋ねると、カルミアは訳がわからないといった何とも言えない微妙な顔で返事をする。ブルーベルはそんなふたりを見守っているようだ。

「…王族が、貴族が、あんな涙ひとつで態度を変えるだなんて、おかしいと思いませんか?」
「……」

  何も答えずカルミアは黙ったままだ。

「…先程の衝撃波。…あれは魔法と魔法がぶつかって起こったものだと思います。そうよね?ブルーベル」

  ロベリアがそう尋ねると、ブルーベルはコクリと頷く。その答えを確認したロベリアは改めてカルミアの方を向いて話した。
  
「カルミア、私はあれは魔法のせいだと思っています」
「魔法ですって?」
「ええ、むしろ魔法だからこそ、かもしれません」

  カルミアは頭の上にハテナを浮かべる。

「…わたくしにもわかるように説明してくださいません?」

  声色を聞く限り少し落ち着きを取り戻したようだった。ロベリアの説明を待つ姿勢が見えた。それを確認したロベリアは続きを話す。

「もちろんです。では説明します。さっき、衝撃波が起きた時、ブルーベルが私達を守るために魔法で結界を張ってくれました」
「結界?魔法?一体なんの話しをしているんですの??」
「カルミアも見たでしょう?殿下が手のひら返ししたのを。それに他の生徒会の方々も。彼らは先日の聴取で私達が犯人でないことを知っているはず。それなのに、あんな……。とても正気だったとは思えません」
「それは…確かに…。落ち着いて考えれば…おかしい…ですわね」

  ロベリアの主張にカルミアも同意する。話を聞いていたブルーベルも何度も頷いていた。

「まさか、だから魔法だと?」
「ええ、そのまさかです。複数の男性を意のままに操ることが出来る魔法…………。おそらく、ネリネさんは魅了の魔法、もしくはそれに類する魔法が使えるんじゃないでしょうか」

  “魅了の魔法”その言葉にカルミアは青ざめた表情のまま叫んだ。

「魅了の魔法…!!??ありえない、ありえませんわ!!!そんなの!だってあれは、禁術ですわよ!!!?」

  焦ったような様子にロベリアは驚いた。禁術だったとは知らなかったのだ。

「禁術なんですか?」
「ええ、そうですわ。貴女が知らないのも無理はありませんが、わたくしは王太妃教育で教わりましたの。どうやらその昔、古くは異世界から聖女を召喚する儀式が行われていて、その聖女がその後、魅了の魔法と呼ばれる魔法を使ったそうですの」

  カルミアは一旦、深呼吸をして続きを話す。

「…その結果、王子も宰相も騎士団長も…あらゆる方々が聖女の虜になった。でもそれは、当然、国に混乱を招いたそうです。誰もが聖女の言いなりになった、とか」
「だから禁呪とされたのね」
「ええ、そういうことですわ。それに今は魅了の魔法に関する記述は王家が所有する情報以外には存在しないはずですし、後にも先にも異世界から呼んだ聖女にしか使えなかったと聞いてますわ。だから、ありえないんですのよ」
「でもカルミア。あれが魅了の魔法でなければなんだと?」
「それは…」

  カルミアは言葉が出ず、黙ってしまった。ありえないはずだが、それしか理由が思い当たらない。
  

  コツ…。

  ふたりが頭を悩ませていると、ふいに足音がした。まさか追ってきたのか、と音の方を振り向く。音がしたのはロベリア達が走ってきた廊下の方。警戒するふたりの視界に飛び込んできたのは触りたくなるほどさらさらで綺麗な金髪だった。

「あの…、魔法とか魅了とか…一体、何の話しをしているのですか?」

  おずおずと尋ねてきたのは、さらさらの金髪が揺れる美男子。困った様な、困惑した様な様子の青年。

「え!!ゼフィランサス様!?」

  眉を八の字に下げて困惑した様子でこちらを見てくるのはロベリアの婚約者であるゼフィランサスだった。

「ゼフィランサス、貴方平気でしたの!?」
「? 平気…とは?」

  カルミアの問いにきょとんとした顔で答えるゼフィランサスの様子を見たロベリアはもしかしてとブルーベルに尋ねた。

「ブルーベル、もしかして彼も守ってくれたのですか?」

  その問いかけにブルーベルはコクンと頷く。

『ロディの、婚約者だから』

  少し拙い言葉でブルーベルが答えた。

(私の婚約者だから、守ってくれたのね)

  自分の判断で彼を守ってくれたことが嬉しかった。ロベリアはブルーベルの手を握りお礼を述べる。

「ありがとう、ブルーベル」

  口元の形から笑顔を見せているだろうロベリアを見てブルーベルも嬉しそうだ。
  そんなふたりのやり取りの横でゼフィランサスは未だ状況が読めないといった風だった。

  「あの、一体何が起こっているのでしょうか?殿下やライラック達の様子もおかしかったようですし…」

  一人、会話に置いてかれているゼフィランサスは説明を求めた。

「えっと、これはまだ可能性、いえ、憶測でしかないのですが、おそらく、殿下達はネリネさんに操られているんだと思います。…魅了の魔法で」

  ロベリアが掻い摘んで説明をする。まだどれも証拠がない話だ。

「魅了の魔法?…そのせいで殿下達は彼女の味方をした、ということですか?」
「ええ、少なくとも私はそう考えています」

  ロベリアの話にゼフィランサスは「ふむ…」と小さく声を出し口元に手を添えて考え込んだ。ロベリアはそんな彼の姿に思わず見とれていた。

(考え込む姿も美しいわね…)

  少し伏せられた瞳を隠すように長いまつ毛が覆う。物憂げな表情にも見えて妖艶な色香を漂わせる。彼の場合、魅了の魔法なんて使わなくても物憂げな表情をするだけでも世の男女問わず卒倒しそうだ。

「仮に、魅了の魔法を使ったんだとしたら、何故わたくし達は平気でしたの?ゼフィランサスもですわね」
「ああ、それはわかります。ブルーベルが結界を張って守ってくれたからです」

  そう説明するとブルーベルがどことなくドヤ顔しているように見えた。もちろん、実際にそんな表情をした訳では無い。が、あまり表情の変わらないブルーベルにしては自慢げに見えたのだ。

「あの、話の腰を折るようで申し訳ないのですが…」

  ゼフィランサスがおずおずと小さく挙手をして会話に加わる。

「ロベリア嬢の従者であるブルーベルって何者なんでしょうか?」

   その疑問に、そういえば簡単にしか紹介していなかった事にロベリアは気がついた。ブルーベルが精霊であることを言っていなかった。
  ただ、精霊が力を貸すのはほんのひと握りの人間であり、中には精霊の力を悪用しようとする人間も現れることから大っぴらに話すことは暗黙の了解で禁じられている。それは精霊を守ることにも繋がるからだ。

(でも…言っていいのかしら…。彼には隠さなくてもいいかと思うけど…)

   踏ん切りがつかなかった。彼ももし、ネリネの魔の手にかかったら…。
  そう考えると言い出せなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』

なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。 公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。 けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。 処刑まで残された時間は、三年。 もう誰も愛さない。 誰にも期待しない。 誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。 そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。 婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。 けれど、少しだけ優しくした。 少しだけ、相手の話を聞いた。 少しだけ、誤解を解く努力をした。 たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。 「……あなたは、こんな人だったのですか」 「もう少し、私を頼ってください」 「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」 「ずっと、怖かっただけなんでしょう」 悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。 これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?