死神令嬢と悪役令嬢は破滅フラグを叩き折りたい

紗吽猫

文字の大きさ
11 / 49

11、精霊の加護

   

  カーディナリス伯爵家の人間は生まれた時から特殊なものが見える目を持つ。生者を悪事へ誘う亡者とこの世界のエネルギーの循環を司る精霊のふたつ。亡者は言わずもがな存在が悪とされ、取り憑かれるとどんどん悪事に手を染め、最後には取り返しがつかなくなる。具体的な例を上げるならば、連続殺人、テロ、強盗、強奪、最悪な場合は国王暗殺や国家転覆を目論むところまで。
  カーディナリス家は王族や国を守る為、それらの行動を起こしかねないほど危険な数の亡者に取り憑かれた人間を見つけ出す任を持つ人々だ。
  それらとは反対に精霊に愛された一族でもある。通常の人間が見ることの出来ないはずの「未制約」の精霊達の姿を捉え、意思疎通を取ることが出来るからだ。
  闇の精霊たるブルーベル・シェードがロベリアの従者として傍にいるのも、彼女と契約したからであり、小さい頃からの遊び相手だったことに起因する。カルミアに彼の事を隠さず話したのは、幼い頃、ロベリアとカルミアが遊んだときにはブルーベルも一緒だったのだ。とはいえ、カルミアには彼は見えていないし存在さえ知らなかった。だが、ブルーベルは彼女をよく知っていたので紹介するにあたり隠す必要はない判断した。

(だけど……ゼフィランサス様は……)

  幼い頃に何度か会っていてもそれほど親しいわけではなかったし、今も常に行動を共にしている訳じゃない。ネリネに狙われていると考えると彼にブルーベルの事を話すのは危険に思えた。ネリネは自分に都合の良いように周りを固めようとしている。ブルーベルの存在が知られれば彼も又、狙われるかもしれない。

(それは避けなければならないわ)

  そんな風に考えている間もゼフィランサスは回答を待っている。急かすわけじゃない。ただ、ダメならダメなんだろうな、と教えてもらえない可能性も視野に入れているのか半ばしょうがないか、とでも言いたげなしょんぼりした顔をしている。
  ロベリアがその視線に気づいて、何か口にしようと声を出しかけたのとほぼ同時、被せるようにカルミアが答えた。

「彼は精霊よ、ゼフィランサス」

  その言葉にロベリアは心の奥底から驚いた。それだけじゃない。憤りのようなものを感じた。確かに彼女は精霊について明るくないかもしれない。だからって契約者でもない彼女が勝手に口に出していいことじゃない。カルミアがハッキリ物の言うタイプなのはよく知っていたが、これはあんまりだ。

「カルミア……!!!勝手に言わないでください!!!」
「ロベリア、わたくしを見くびらないでくださいな」

  ロベリアが声を荒らげるとほぼ同時にカルミアは窘め、声が重なる。ふたりの令嬢が令嬢らしからぬ大きな声を出したので 、ゼフィランサスもブルーベルも慌てた。特にゼフィランサスは、自分が口にした疑問のせいでふたりが喧嘩することになったと感じ、心を傷ませる。

「あ、あの、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったようですね、すみません。何も聞かなかったことにしますので、どうか落ち着いてください」

  ゼフィランサスは慌ててふたりの間に割って入り仲裁しようとした。が、

「いいえ、貴方も知っているべきですわ。それこそ、ロベリアの婚約者なら、尚更ですわ」

  と、カルミアに一蹴されてしまった。

「え、ですが、仮の婚約…です。それでも聞いていてよろしいのでしょうか?ロベリア嬢はそう思っていらっしゃらないようですが…」

  チラリとロベリアの方を見ると、彼女は複雑そうな顔をしていた。歓迎されていないことは間違いない。

「構いませんわよ。他でもない、ブルーベル自身が貴方を守ったんですもの。それは彼が認めた相手だ、と考えていいのではなくて?」

  カルミアはパチンッと音を鳴らして扇子を広げ、そのまま扇子でブルーベルを指す。ブルーベルはキョトンとした後、コクリと頷いた。その反応を確認したロベリアは渋々承諾した。

「わかりました。確かにブルーベルも納得しているようです。…お話します」
「ええ、それがいいですわね。少なくとも、ゼフィランサスにも知る権利があるはずですもの」

  あまり気乗りしないがロベリアはゼフィランサスに説明をした。

「ゼフィランサス様、カルミアの言う通りブルーベルは闇の精霊で私と契約している精霊なんです。……それで、さっき渡り廊下で起きた衝撃波はブルーベルの魔法と、おそらくはネリネさんの何らかの魔法が衝突した為ぬに発生したものと考えています」
「では、そのネリネ嬢の魔法というのが魅了の魔法ではないか、ということなのですね」
「ええ、わたくし達はそう考えていますわ。ですが、魅了の魔法は禁術。辺境の田舎令嬢が扱えるわけもないですし……どちらかというと洗脳系の魔法なのかもしれませんわ」

  ぽつぽつと三人が話し出すとブルーベルがロベリアの服の裾を軽く引っ張った。

「ブルーベル?」

  ロベリアがどうしたのかとブルーベルの方を向くと、手の中に何か小さな物を握らされた。手を開いて中身を確認すると……。

  コロン……。

「……これは……ピアス……ですか?」

  ブルーベルはコクンと頷いた。微かに魔力を感じる。ロベリアはブルーベルが何を言わんとしているのかすぐに察することが出来た。

「……ゼフィランサス様。これを」

  カルミアと話していたゼフィランサスは会話を中断してロベリアに対して返事をする。

「これは……ピアス……ですか?どうして急に?」

  コロンと手渡されたそれをゼフィランサスは不思議そうに眺めた。

「カルミア、貴女にも」
「わたくしにもですの?」

  カルミアは手渡されたピアスを見る。紫の丸い宝石が埋め込まれた星型のピアスだ。

「ブルーベルはこれを身につけてほしいと言っています。一種の魔除の御守りだそうです。」
「魔除……。でもロベリア、貴女の分は?」
「私は大丈夫です。なんたって闇属性ですし」

  カルミアの疑問にロベリアは笑顔で答えた。それを聞いたカルミアは、ああそうか、と納得した様子だった。

「カーディナルス家は皆、王国唯一の闇属性の一族でしたわね」

  ロベリアはコクンと頷く。その会話を聞いていたゼフィランサスが補足するように話す。

「確か、闇属性の特性は再生と破壊、カルミア、貴女の火属性は猛炎と殲滅……でしたね」
「ええ。その通りですわ。加えて言うならゼフィランサスの森属性は浄化と生成、ジニア殿下の光属性は……反射と守護、ですわね」
「おふたりの言う通りです。ただ、闇属性はもうひとつの特性があって、それが無効化、です」

  「だから私に御守りは要りません」とブルーベルに視線を送りながらロベリアが答えた。

「……わかりました。身につけておきますね」

  ゼフィランサスはそう言って自身の耳にピアスをつける。それはカルミアも同じだ。

「ゼフィランサス様、一応そのピアスにはブルーベルの加護がかかっていますが、出来るだけネリネさんと接触しないようにしてくださいね。あと、殿下達とも。まだ魔法が解けていないかもしれませんし、今日はもう寮にお戻りください」

  ロベリアがそう心配そうに駆け寄ってきて、彼女よりも背の高いゼフィランサスを見上げながら話す様は何とも可愛らしかった。ヴェール越しに彼女の表情が透けて見えてくる気さえする。
  ゼフィランサスは可愛らしい婚約者に笑顔を返し「わかりました」と彼女を安心させられるだろう言葉を選んだ。

  その後、ゼフィランサスは言われた通りに直接、寮へと帰って行き、ロベリア達も女子寮へと帰って行った。
  途中、殿下達がどうなったのかを確認したかったが、渡り廊下に差し掛かった時には彼らの姿はそこになかった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』

なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。 公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。 けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。 処刑まで残された時間は、三年。 もう誰も愛さない。 誰にも期待しない。 誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。 そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。 婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。 けれど、少しだけ優しくした。 少しだけ、相手の話を聞いた。 少しだけ、誤解を解く努力をした。 たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。 「……あなたは、こんな人だったのですか」 「もう少し、私を頼ってください」 「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」 「ずっと、怖かっただけなんでしょう」 悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。 これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?