12 / 49
12、小説の登場人物
しおりを挟む寮に戻ったロベリアとカルミアはそれぞれがお互いのベッドの上に座った。手には件のロマンス小説が広げられている。
ここナスタチウム学院には男女それぞれ二種類の寮が存在し、シャワーや浴槽が付いた個室は貴族向けに作られている。平民は平民の、貴族は貴族専用の寮が割り当てられており、平民の寮には大浴場が取り付けられている。
貴族と平民は確執が多いことから寮が分けられたのだが、どちらにしても基本的には二人部屋となっている。
ナスタチウム学院は「学院内で身分は同格である」とした理念を掲げているが実際のところ、その確執は根深い。貴族同士でもそれは派閥が存在する為、同室となる相手を上流貴族が選ぶことが多い。そんな背景により、カルミアとロベリアは同室となっていた。
「!!……ありました!!!」
黙々と小説を読んでいたロベリアがそう大きな声を上げると、向かい側のベッドで同じく小説を読んでいたカルミアが慌てて駆け寄る。そして勢いのままロベリアの隣に座った。
「どこ!?どこにあったんですの!?」
ロベリアの手にする小説を覗き込んだ。ロベリアは開いていたページを一節を指して言った。
「ここです。第一巻、第一章、この章に今日と同じ場面が描かれてます。場所は…少々違いますが、悪役令嬢が主人公を糾弾する場面。しかも…」
“ そうやって私をいじめた事実を有耶無耶にするおつもりなんでしょう…!!?酷い…酷すぎます!いくらご自分が生徒会に入れなかったからって…。嫌がらせするなんて…!!王太子殿下の婚約者様がこんなことするなんて… ”
「……あの時、ネリネさんが言っていたセリフがそのまま書かれています。……この時に第一王子が現れるところまで同じです」
ロベリアは悔しいような悲しいような複雑な表情になる。
小説の通りになってしまった。それがどうにも悔しい。まるで手のひらの上で踊らされてるような現状が納得いかない。
力のままに小説を握りつぶしそうになるロベリアの手からカルミアが小説を抜き取り、該当するページをまじまじと読む。
「……ねぇ、ロベリア。あれは本当に小説の強制力……だったと思いまして?」
「何?どういうこと?」
カルミアはパラパラとページをめくりながら話す。
「貴女も話していたでしょう?魅了の魔法、それに類する魔法を使っていたんじゃないかって。もし、そういうことだとしたら、これはきっと小説の強制力……なんてものではなくて彼女が筋書き通りになるよう演じている……ということではなくて?」
カルミアの仮説を聞いたロベリアは眉をひそませた。
「じゃあ、カルミアは彼女がこの小説を持ってるって言いたいの?」
動揺したのか口調が粗くなる。
「確かに小説の強制力は存在するわ。でなければ私の家族の不可解な行動を説明出来ないもの。カルミア、貴女だって殿下とのやり取りで幾度となくそれを感じたのでしょう?」
「……ええ、それは確かよ。殿下との噛み合わない会話、間違いなく小説の強制力はありますわ。でもそれは全てでは無いはずよ。現にロベリア、貴女には婚約者がいて従者もいる。これは小説の強制力がそこまで強くはない証明じゃないかしら?」
「それは……確かに…」
カルミアは小説から視線を外し、窓の外を見る。
「こうは考えられないかしら?ネリネさんは小説の展開にするために魔法を使わなければならない」
「なるほど……。そう考えればわかることもありますね。彼女はどうしても私達を悪者にしたかったようですし……。でも、だとするとやっぱり彼女も小説を持っている…?」
その呟くような疑問に部屋の扉の前で待機していたブルーベルがすすっと部屋の中に入ってきてロベリアの肩をつつく。普通の従者ならこんな失礼なことをしたら首が飛びかねないが、ブルーベルは精霊で従者は世を忍ぶ仮の姿。小さい頃からの遊び相手でもあった彼ならばこそ許される行為だ。
「ブルーベル?どうかしましたか?」
ロベリアがそう尋ねると、ブルーベルは拙い言葉で尋ねてきた。
『小説、この世界と一緒?』
一瞬、何を聞かれたのかがわからなくてロベリアは固まったが、間を置いて何となくわかった。
「あ、あー…はい。えっと、そうですね。大体一緒…ですね」
『どこが?』
「え?どこ、って、わ、私達と思しき登場人物がいて、書かれている場面と実際にあった出来事が…ですかね?」
『どうして?』
「え、どうしてって…どうして…でしょう?」
わかっているはずなのにどこか答えにくい質問をされている気がしてしどろもどろになってしまう。
「わたくし達にだってわかりませんわ。ただ、本当に登場人物はそっくりですわ。気味が悪いくらいに」
そう言ってカルミアは件のロマンス小説「花言葉を君に」の登場人物について説明をする。
まず、主人公はネリネの花飾りを持つ辺境の男爵令嬢で学院に首席で入学。後に生徒会執行部に入ることになる。花が咲きほこる様な暖かな笑顔が特徴で、純朴なところも周りを魅了していく。ただ、辺境の男爵令嬢な為上流貴族からは目の敵にされ特に第一王子の婚約者である悪役令嬢と、彼女の友人である死神令嬢から嫌われ執拗に嫌がらせを受けることになる。157cm。
次に悪役令嬢。漆黒の強情な縦ロールが特徴で赤を好む。気品溢れる公爵家の令嬢で第一王子の婚約者だが何かと王子に付きまとう主人公を嫌う。さらに、王子の婚約者である自分が入れなかった生徒会に主人公が入れたことにより嫌がらせはエスカレートしていく。最後には王子によって断罪され破滅する。169cm。
その次は死神令嬢。悪役令嬢が唯一の友人な孤独な伯爵令嬢。死者を見ることが出来る力が忌み嫌われ、年頃になっても婚約者がいない。学院でも友人もおらず、しかしそれが生徒会のメンバーから愛される主人公への憎悪へと変わり、悪役令嬢が断罪されて以降それはエスカレートしていき、最終的には主人公を殺そうとする。162cm。
その次はキーマン、第一王子。王位継承権第一の王太子殿下でもある。公爵家の婚約者がいたが、わがまま放題の婚約者に呆れていたところに主人公との出会いが訪れた。彼のルートでは自身の婚約者による嫌がらせを受ける主人公に同情するうちに、彼女の人柄に惹かれていく。そして学年の修了式の日に悪役令嬢を断罪し、死神令嬢も処分した後に主人公と結ばれた。166cm。
「…と、まぁ、こんなものですわね。…まるでわたくし達を説明しているかのようで、気持ち悪いですわ。なんたってこの……」
カルミアは心底気味が悪いといった顔で小説に視線を向ける。
「身長ですわ。いくらなんでも小説と同じだなんて吐きそうですわ」
小説の登場人物の身長とこの現実の身長が完全一致していた。まるで予言のようで気味が悪くて仕方ない。
「どれくらい成長するかなんて誰にもわからないはずなのに……」
カルミアは声に嫌悪の色を滲ませた。
『ロディの婚約者は?』
「ゼフィランサス様ですか?えっと…ゼフィランサス様は…」
生徒会執行部の女神と呼ばれる三年生、生徒会会計。公爵家の嫡男で第一王子の幼なじみ。輝く金髪と宝石のような翡翠の瞳は見るもの全てを虜にさせる美貌を持つ青年。数多くの令嬢からの求婚に辟易としていて、女性が嫌いな面があるが、素朴で頑張り屋、飾らない主人公に徐々に惹かれていく。178cm。
「……と、ありますね。身長といい、金髪に翡翠の瞳って……もうそのままですね」
ロベリアはそう言ってから、はぁ、とため息をつく。
そんなロベリアをカルミアは慰めようとしてあることに気がついた。
「あら?でも待って、ロベリア。確かに外見的特徴は一致していますが、ゼフィランサスは女嫌いではありませんわ。多くの令嬢に辟易していたことは同じですけれど」
「ああ、そういえばそうですね。私との婚約だって承諾してくださいました。…契約ですけど」
「ええ、でもそこはやはり小説と大きく違うところでしてよ」
確かにそうなのだ。気味が悪いくらい同じところがあるのに決定的に違うところがある。ロベリアとカルミアの表情が少し明るくなる。それを見ていたブルーベルがふと、呟いた。
『真実はいつも目に見えないところにある』
不思議な言葉だった。カルミアもロベリアも「え?」とキョトンとした顔をした。精霊ならではの言葉だったのかもしれない。何かアドバイスのようなものなんだとはわかっても、この時はどういう意味かわからなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】王命の代行をお引き受けいたします
ユユ
恋愛
白過ぎる結婚。
逃れられない。
隣接する仲の悪い貴族同士の婚姻は王命だった。
相手は一人息子。
姉が嫁ぐはずだったのに式の前夜に事故死。
仕方なく私が花嫁に。
* 作り話です。
* 完結しています。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
断罪された伯爵令嬢は隣国の将軍に愛されすぎて困っています
nacat
恋愛
婚約者に“策略の罪”を着せられ、断罪された伯爵令嬢セレナ。
すべてを失い国外追放された彼女を拾ったのは、隣国最強と名高い将軍・アレクシスだった。
冷徹と噂された将軍は、なぜか彼女にだけ溺れるように優しい。
異国の地で、彼女は初めて“愛される”ことを知る。
しかし、祖国では罪と偽りの真実が暴かれようとしていて──。
“ざまぁ”と“溺愛”をたっぷり詰め込んだ異国ロマンス!
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
残念令嬢、家を追われて逃亡中〜謎の法術師様がなぜか守ってくれます
兎騎かなで
恋愛
辺境伯の末娘であるミリアージュは、ある日突然父と兄が女王に捕らえられ王都に連行されることになり驚愕した。
いったいなぜ? 理由はわからないもののミリアも狙われ家をでることに。
そこに現れた謎の法術師アルトリオ。彼はなぜかミリアに同行し、女王の追手から守ってくれるという。
でも守られているばかりじゃいられない、強くなってお父様とお兄様を助けるんだ! と決意したミリア。
頼りになるアルトに心惹かれながらも着々と力を身につけ、仲間を増やしていく。
※最初ヒロインはヒーローと旅の仲間として交流し、少しづつ仲良くなっていきます。ヒーローが恋心を自覚するのは物語の中盤以降です。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる