死神令嬢と悪役令嬢は破滅フラグを叩き折りたい

紗吽猫

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12、小説の登場人物

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  寮に戻ったロベリアとカルミアはそれぞれがお互いのベッドの上に座った。手には件のロマンス小説が広げられている。

  ここナスタチウム学院には男女それぞれ二種類の寮が存在し、シャワーや浴槽が付いた個室は貴族向けに作られている。平民は平民の、貴族は貴族専用の寮が割り当てられており、平民の寮には大浴場が取り付けられている。
  貴族と平民は確執が多いことから寮が分けられたのだが、どちらにしても基本的には二人部屋となっている。
  ナスタチウム学院は「学院内で身分は同格である」とした理念を掲げているが実際のところ、その確執は根深い。貴族同士でもそれは派閥が存在する為、同室となる相手を上流貴族が選ぶことが多い。そんな背景により、カルミアとロベリアは同室となっていた。


「!!……ありました!!!」

  黙々と小説を読んでいたロベリアがそう大きな声を上げると、向かい側のベッドで同じく小説を読んでいたカルミアが慌てて駆け寄る。そして勢いのままロベリアの隣に座った。

「どこ!?どこにあったんですの!?」

  ロベリアの手にする小説を覗き込んだ。ロベリアは開いていたページを一節を指して言った。

「ここです。第一巻、第一章、この章に今日と同じ場面が描かれてます。場所は…少々違いますが、悪役令嬢が主人公を糾弾する場面。しかも…」

“ そうやって私をいじめた事実を有耶無耶にするおつもりなんでしょう…!!?酷い…酷すぎます!いくらご自分が生徒会に入れなかったからって…。嫌がらせするなんて…!!王太子殿下の婚約者様がこんなことするなんて… ”

「……あの時、ネリネさんが言っていたセリフがそのまま書かれています。……この時に第一王子が現れるところまで同じです」

  ロベリアは悔しいような悲しいような複雑な表情になる。
  小説の通りになってしまった。それがどうにも悔しい。まるで手のひらの上で踊らされてるような現状が納得いかない。
  力のままに小説を握りつぶしそうになるロベリアの手からカルミアが小説を抜き取り、該当するページをまじまじと読む。

「……ねぇ、ロベリア。あれは本当に小説の強制力……だったと思いまして?」
「何?どういうこと?」
  
  カルミアはパラパラとページをめくりながら話す。

「貴女も話していたでしょう?魅了の魔法、それに類する魔法を使っていたんじゃないかって。もし、そういうことだとしたら、これはきっと小説の強制力……なんてものではなくて彼女が筋書き通りになるよう演じている……ということではなくて?」 

  カルミアの仮説を聞いたロベリアは眉をひそませた。

「じゃあ、カルミアは彼女がこの小説を持ってるって言いたいの?」

  動揺したのか口調が粗くなる。

「確かに小説の強制力は存在するわ。でなければ私の家族の不可解な行動を説明出来ないもの。カルミア、貴女だって殿下とのやり取りで幾度となくそれを感じたのでしょう?」
「……ええ、それは確かよ。殿下との噛み合わない会話、間違いなく小説の強制力はありますわ。でもそれは全てでは無いはずよ。現にロベリア、貴女には婚約者がいて従者もいる。これは小説の強制力がそこまで強くはない証明じゃないかしら?」
「それは……確かに…」

  カルミアは小説から視線を外し、窓の外を見る。

「こうは考えられないかしら?ネリネさんは小説の展開にするために魔法を使わなければならない」
「なるほど……。そう考えればわかることもありますね。彼女はどうしても私達を悪者にしたかったようですし……。でも、だとするとやっぱり彼女も小説を持っている…?」

  その呟くような疑問に部屋の扉の前で待機していたブルーベルがすすっと部屋の中に入ってきてロベリアの肩をつつく。普通の従者ならこんな失礼なことをしたら首が飛びかねないが、ブルーベルは精霊で従者は世を忍ぶ仮の姿。小さい頃からの遊び相手でもあった彼ならばこそ許される行為だ。

「ブルーベル?どうかしましたか?」

  ロベリアがそう尋ねると、ブルーベルは拙い言葉で尋ねてきた。

小説それ、この世界と一緒?』

  一瞬、何を聞かれたのかがわからなくてロベリアは固まったが、間を置いて何となくわかった。

「あ、あー…はい。えっと、そうですね。大体一緒…ですね」
『どこが?』
「え?どこ、って、わ、私達と思しき登場人物がいて、書かれている場面と実際にあった出来事が…ですかね?」
『どうして?』
「え、どうしてって…どうして…でしょう?」

  わかっているはずなのにどこか答えにくい質問をされている気がしてしどろもどろになってしまう。
  
「わたくし達にだってわかりませんわ。ただ、本当に登場人物はそっくりですわ。気味が悪いくらいに」

  そう言ってカルミアは件のロマンス小説「花言葉を君に」の登場人物について説明をする。

  まず、主人公はネリネの花飾りを持つ辺境の男爵令嬢で学院に首席で入学。後に生徒会執行部に入ることになる。花が咲きほこる様な暖かな笑顔が特徴で、純朴なところも周りを魅了していく。ただ、辺境の男爵令嬢な為上流貴族からは目の敵にされ特に第一王子の婚約者である悪役令嬢と、彼女の友人である死神令嬢から嫌われ執拗に嫌がらせを受けることになる。157cm。

  次に悪役令嬢。漆黒の強情な縦ロールが特徴で赤を好む。気品溢れる公爵家の令嬢で第一王子の婚約者だが何かと王子に付きまとう主人公を嫌う。さらに、王子の婚約者である自分が入れなかった生徒会に主人公が入れたことにより嫌がらせはエスカレートしていく。最後には王子によって断罪され破滅する。169cm。

  その次は死神令嬢。悪役令嬢が唯一の友人な孤独な伯爵令嬢。死者を見ることが出来る力が忌み嫌われ、年頃になっても婚約者がいない。学院でも友人もおらず、しかしそれが生徒会のメンバーから愛される主人公への憎悪へと変わり、悪役令嬢が断罪されて以降それはエスカレートしていき、最終的には主人公を殺そうとする。162cm。

  その次はキーマン、第一王子。王位継承権第一の王太子殿下でもある。公爵家の婚約者がいたが、わがまま放題の婚約者に呆れていたところに主人公との出会いが訪れた。彼のルートでは自身の婚約者による嫌がらせを受ける主人公に同情するうちに、彼女の人柄に惹かれていく。そして学年の修了式の日に悪役令嬢を断罪し、死神令嬢も処分した後に主人公と結ばれた。166cm。

「…と、まぁ、こんなものですわね。…まるでわたくし達を説明しているかのようで、気持ち悪いですわ。なんたってこの……」

  カルミアは心底気味が悪いといった顔で小説に視線を向ける。

「身長ですわ。いくらなんでも小説と同じだなんて吐きそうですわ」

  小説の登場人物の身長とこの現実の身長が完全一致していた。まるで予言のようで気味が悪くて仕方ない。

「どれくらい成長するかなんて誰にもわからないはずなのに……」

  カルミアは声に嫌悪の色を滲ませた。

『ロディの婚約者は?』
「ゼフィランサス様ですか?えっと…ゼフィランサス様は…」

  生徒会執行部の女神と呼ばれる三年生、生徒会会計。公爵家の嫡男で第一王子の幼なじみ。輝く金髪と宝石のような翡翠の瞳は見るもの全てを虜にさせる美貌を持つ青年。数多くの令嬢からの求婚に辟易としていて、女性が嫌いな面があるが、素朴で頑張り屋、飾らない主人公に徐々に惹かれていく。178cm。

「……と、ありますね。身長といい、金髪に翡翠の瞳って……もうそのままですね」

  ロベリアはそう言ってから、はぁ、とため息をつく。
  そんなロベリアをカルミアは慰めようとしてあることに気がついた。

「あら?でも待って、ロベリア。確かに外見的特徴は一致していますが、ゼフィランサスは女嫌いではありませんわ。多くの令嬢に辟易していたことは同じですけれど」
「ああ、そういえばそうですね。私との婚約だって承諾してくださいました。…契約ですけど」
「ええ、でもそこはやはり小説と大きく違うところでしてよ」

  確かにそうなのだ。気味が悪いくらい同じところがあるのに決定的に違うところがある。ロベリアとカルミアの表情が少し明るくなる。それを見ていたブルーベルがふと、呟いた。

『真実はいつも目に見えないところにある』

  不思議な言葉だった。カルミアもロベリアも「え?」とキョトンとした顔をした。精霊ならではの言葉だったのかもしれない。何かアドバイスのようなものなんだとはわかっても、この時はどういう意味かわからなかった。


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