死神令嬢と悪役令嬢は破滅フラグを叩き折りたい

紗吽猫

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20、興味


  その日の休み時間。
  魔法学の授業教室に移動しようとしたカルミアとロベリア、ブルーベルの前にキラキラ輝く金髪を持つ人物が行く手を阻むように立ち塞がった。

「やぁ」

  通り過ぎる生徒達が野次馬のように集まってくる。

「……急に、どういった御用でしょうか?……シオン殿下」

  カルミアはロベリアを背に隠すようにして相手を警戒する。ブルーベルも警戒しているようでロベリアを守るように彼女の一歩前に立つ。
  そんな彼らの様子を面白い玩具でも見つけたかのような目でシオンは眺め、軽く鼻歌を歌う。

「いや?昨日は婚約者殿と話したし、噂の引きこもり令嬢とも話してみたいなーってさ」

  ニヤッと笑いながらカルミアとブルーベルの後ろにいるロベリアに視線を注ぐ。カルミアもブルーベルもより一層、警戒心を強くする。
  そんなふたりの後ろでシオンの顔を見つめながらこの状況にロベリアは頭を悩ませた。

(な、なんでこんな事になってるの!?)

  小説ではこの第二王子であるシオンに該当する登場人物が興味を持つのは主人公だった。この場合はネリネに当たるが、それがどうして自分になったんだろうと不思議で仕方がない。

「ところでさ、こうして王子が会いに来てるのにどうしてそのヴェールを被ったままなのかな?無礼だよね?」

  シオンはロベリアを睨むような目つきで見る。当然、ロベリアはビクッとして体を強ばらせた。その姿を見たブルーベルはロベリアの守るかように自分に引き寄せ、彼がロベリアを守るならとカルミアはもう一歩前に出てシオンの視界を奪うようにして悪役令嬢がごとく振る舞う。

「あら、お言葉ですがシオン殿下。貴方のお兄様は快く受け入れてくださいましたわよ?弟君は、お兄様よりも随分と心が狭いようですわね。何か事情があるのかともお聞きにならないで」

  にっこりと笑みを浮かべ広げた扇子で口元を隠す。こんな態度を取るのは大変危険な事だが、第一王子の婚約者ならではということかもしれない。とはいえ、内心は焦っている。後でどんな目に合わされるか、と。

「ふーん。兄さんがねェ……。そっか。じゃあ、仕方ないや。兄さんよりも心が狭いと言われるのは嫌だしね。その件には不問としよう」
  
  シオンはつまらなさそうに言って笑うと、強引にカルミアとブルーベルの間に割って入ってロベリアの腕を掴みそのまま連れ出す。

「なっ……!!」
「ちょっと!!何をなさるんですの!?」

  慌ててカルミアがロベリアを取り返そうとしたが、ひらりと避けられてしまいカルミアの手は空を掴む。
  シオンはロベリアを捕まえたままその場を駆け足で去り、カルミアは咄嗟にブルーベルに命じた。

「ブルーベル、貴方はロベリアを追ってください!」

  ロベリアの精霊であるブルーベルはいくら彼女の親友といえど命令を聞くわけが無い。だが、今回は素直に従った。何せ連れ去られたのはブルーベルの契約した主でもあるからだ。当然、主の後を追った。
  カルミアは踵を返してその場から反対方向に走り出した。
  




  「あの……!!離してください!!」

  強引に連れ出されたロベリアはシオンによって別校舎にある生徒会室前辺りで手を振り解いた。勢いよく手を振り解いた時にヴェールが少しめくり上がる。その時にオッドアイの左右色の違う瞳と銀色の髪が風になびいて交差した。

  その瞬間の彼女の姿に、シオンは思わず見とれる。

「いきなり、何なんですか?いくら殿下でも、令嬢の手をいきなり掴むなんて無礼ではありませんか?」

  ロベリアはキッ…!!とシオンを睨む。シオンはそんな彼女の事をまじまじと見つめると再び手をガシッと掴んだ。

「嫌……っ!!離してくださいっ」

 (触らないで……ッ)

  心から嫌悪した。ゼフィランサスに触られるのは嫌じゃない。だけど、この男に体を触られることには心の底から嫌だとしか思えない。

「威勢がいいね。引きこもりだったとは思えないくらいだ」

  ニヤニヤ笑いながらシオンは品定めするかのように抵抗するロベリアを見つめる。

(なんなのよ……ほんっとに……一体なんなのよ!!!)

  心なしかロベリアは涙目になる。強引に連れ出される恐怖が体を強ばらせた。どうしてこんなことになっているのか、全然理解が追いつかない。
  そんな彼女をシオンが自分の体に密着させるように強引に引き寄せる。

「な、何するんですか!?」
「んー?だってさぁ、君、案外可愛い顔してるみたいだからさ」
「だったらなんだって言うんですか!?シオン様には婚約者がいらっしゃるはずです!!」
「うん。いるよ?でもそれは君もだろ?」
「ええ、そうです。ですから、これ以上は……」

  ロベリアが力の限りシオンから逃れようと暴れた時、耳元で囁かれた。

「でも、契約婚約なんだろ?」

  その一言に背筋が凍った。ロベリアは一瞬で顔がこわばる。

(な、なんでそれを知ってるの!?)

  政略結婚なんて貴族にはありがちな話だが、なんでかわからないがシオンには知られてはいけなかった気がする。ましてやそれが主人公であるネリネの耳に入ってしまったら、彼女がどんなことをしでかすかわからない。
  ごくりと唾を飲む。ロベリアは改めて契約婚約だと言われ、微かに動揺していた。

(別に、忘れてた訳じゃない。わかってたわ。ちゃんと。でも……)

  ゼフィランサスの笑顔が頭を過ぎる。思わず耳飾りを触ったロベリアを見て、シオンはその耳飾りに目をつけた。

「何それ?大事なもの?」

  シオンがそう言って耳飾りに手を出そうとした時、耳飾りがシオンの手に触れる直前にバチンッ!!と弾かれる。

「え?」
「んなっ!?結界!?いやまさか……」

  驚いたふたりの間にヌッ!と人影が割って入る。
 
「……!!ブルーベル!?来てくれたのね??」

  パアアアっとロベリアの表情が一気に明るくなる。
  そう、シオンとロベリアの間に割って入ったのは精霊ブルーベルだ。紫の髪がキラリと揺れる。

「……驚いた……。まさか割り込んでくるとはね……」

  シオンは降参だ、とでも言うような仕草で両手をひらひらさせる。

「従者かい?彼は」
「ええ、そうです。彼は私の従者です」
「君の周りはガードが固いようだね」

  ロベリアはブルーベルの背にサッと隠れた。

「一体、何が言いたいんですか?」

  ブルーベルの背に隠れるロベリアは怯えているようにも見える。シオンはそれが小動物のように見えて面白くなってきた。

「契約婚約、って事は条件つきなんだろ?どんな条件にしたわけ?どんな条件にしたらあのインカローズの嫡男と婚約出来るわけ?」

  シオンは不躾に質問を立て続けにし、しまいには、

「婚約破棄の条件って何?」

  と、笑顔で聞いてきた。  
  その瞬間、ロベリアの心臓がドクンと跳ねた。
  それと同時に、ゼフィランサスの顔が浮かぶ。確かに彼との婚約は契約だ。それこそ最初に話した通り卒業したら婚約破棄するのかもしれない。それはわかっていたはずだ。けれど、

(怖い)

  自分の耳元で揺れる耳飾りの重さが実感させる。彼がどう思っていたかはわからない。それでもロベリアにとっては彼との時間は癒しをくれていた貴重な時間で心強い存在だ。可能ならば結婚するなら彼のような人がいいと思う。油狸なんて真っ平ごめんだ。それにカーディナリス家の人間だと知っていても優しく接してくれるのも、心配してくれるのも彼以外に想像出来ない。

(まだ、そんなに時間経ってないはずなのに)

  怖いと思い始めている。ゼフィランサスに冷たく突き放されるかもしれない。小説のようにネリネを愛するかもしれない。婚約破棄してしまえば、彼はもう話もしてくれなくなるのだろうか。笑ってくれなくなるのだろうか。
  考えれば考えるほど怖くなる。
  シオンの質問に答えられなくて、黙り込んだロベリアにブルーベルが心配そうにその顔を覗き込む。そんなロベリアの様子にシオンはさらにニヤッと笑う。

「ふーん。その様子じゃ、君は案外本気なんだ。じゃあ、早く婚約破棄しないとね?」

  シオンが笑顔でそう言った。

「はぁ?」

  ロベリアは言われたことの意味がわからなくて思わずそれが声に出る。いちいちしつこいこいつは何なんだと怒りさえ込み上げた。

「だってさ、傷は浅い方がいいじゃないか。ね?」

(何が「ね?」よ!!!こいつ、何が目的なの!?いちいち突っかかってくるなんて……何がしたいのよ?)

  シオンの言動にロベリアもいい加減我慢が出来なくなってきた。
  
(彼とのことはこれから考えることであってこいつにとやかく言われることじゃない!)

  キッ…!とロベリアが睨み返すとシオンが愉快そうに笑う。実にからかいがいのある娘だ、と次の手に出る。
  シオンがロベリアに手を出そうと距離を詰め一歩踏み出すと、ブルーベルが魔法を発動させた。ロベリアの前に魔法壁を張る。それは一瞬のことだった。シオンの手を弾き、仰け反らせた。

「……ッ」

  弾かれた手を庇うシオンの前に、畳み掛けるように今度は突風が吹き荒れて視界を遮った。それは目も開けていられないくらいの突風だった。

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