死神令嬢と悪役令嬢は破滅フラグを叩き折りたい

紗吽猫

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23、あの日のこと


「……え?」
「だから、この間、渡り廊下であったことを聞きたいんだ。あの時、何があったのかな?」
「渡り廊下……ですか?」

  ロベリアはキョトンとした顔で聞き返す。随分深刻そうだ。

(渡り廊下って……あの時のことよね?もしかして……ネリネの魔法でおかしくなったこと?)

「えっと、どういったことがお聞きになりたいのでしょう?」
「うーん……。なんて言えばいいかなぁ……。あの時ってさ、君達一体、何の話をしていたんだい?実は、覚えてないんだよ、あの時、何の話をしていたのか」

(覚えてない……?やっぱりネリネの魔法って……精神に干渉するもの?)

「あの時は……、私達は私達を主犯とするいじめの噂についてネリネさんに聞いていました。ジニア様からも彼女がそう言っていたと聞いていましたから、どうしてそんな嘘をついたのかと。そんな話をしていた時に、生徒会の方々が来られたんです」

  ロベリアの話を聞いたジニアが再び紅茶を飲んで一息入れる。

「……それで?その後は?」
「……えっと、ネリネさんが生徒会の皆様に訴えておられました。……私達が生徒会に入れないことの腹いせにいじめてるって。酷いって」

  ジニアもその時のことを思い出そうとしているのか、頭を悩ませている。しかめっ面になっているようだ。

「その後ですね」
「その後?」
「はい。ネリネさんが涙を浮かべながら生徒会の方々に訴えた後、急に皆さんの態度が変わってしまって」
「態度が変わった!?ど、どういうふうに?」

  明らかな動揺を隠せないジニアにロベリアは少し、この先のことを話すことに抵抗を覚えた。だが、殿下からの要求であれば話さない訳にもいかない。

「その……、ジニア殿下は以前、私達がいじめの犯人ではないと仰ってくれました。けれど、この時の殿下はネリネさんの味方をしました」

  ロベリアの言葉に、ジニアは絶句した。

「僕が……、ネリネ嬢の味方をした……?まさか……彼女の言っていることは信憑性がないものが多い。それに主犯が君達ではないことは知っている。それなのに?僕が?」

  信じられないといった顔が浮かぶ。視線が定まっていない様子だ。相当、ショックが大きかったようで、俯いていく様は彼らしくない動揺っぷりだ。

「殿下……?大丈夫ですか?」

  心配そうにロベリアがジニアの様子を窺うと、ジニアは首を振って気を落ち着かせる。

「大丈夫、大丈夫だよ。うん……そうか……」

  ジニアはため息をついた。

「そ、それで、ですが、その時ですね。カルミアがすごくショックを受けてまして……」

  ロベリアがその話をした瞬間、ジニアは驚いたように目を見開いてバッと顔を上げる。その表情は悲壮なものだった。青ざめているし、眉も八の字に下がっている。が、眉をしかめてもいてそれが相当なショックを受けているんだと一目瞭然にさせていた。

「カルミアが……」

  わなわなと震えるジニアのその様子に、ロベリアは気の毒に思えてきた。だが、あの日以降確かにカルミアはジニアを避けていた。ネリネの魔法のせいだろうと予想はしていても、それが一時的なものなのか永続的なものなのかがわからなかったからだ。
  カルミアは再び会った時に、また冷たい目を向けられることを恐れていた。王太子妃になりたくない、と婚約破棄を望んではいてもカルミアはジニア自身のことまでが嫌いなわけじゃない。むしろ、嫌われることそのもののことは恐れている気がする。

(直接、聞いたわけじゃないから私が勝手にそう思ってるだけだけど)

「あの、殿下?大丈夫ですか?」
「ああ……それで……カルミアは何か言っていたかい?」

  元気のない声。微かに声が震えている。ロベリアはそんな顔をするジニアに聞いてみたいことが出来た。

「カルミアは……今は元気ですし、特に何も言っていません。……あの、殿下、ひとつ、お願いがあるのですが、よろしいですか?」
「え、あ、うん。いいけど……なんだい?」

  ロベリアはジニアが怒ることなく話を聞いてくれそうで少し安心する。思えば彼は懐が深い。ヴェールを被ったままという失礼な姿でも理由があるのだろうと許容してくれるし、貴族が嫌うカーディナリスの人間に対しても格段特別視するわけでもなければ卑下するわけでもない。この学院内では特に学友といった風に接してくることがあれど王族がどうのという振る舞いをする訳でもない。
  そういった部分は第二王子のシオンとは真逆だ。だが、だからこそ、ジニアに対する信望は厚い。
  
「えと、その……カルミアの事なんですが」
「カルミア?」

  ロベリアからのお願いにジニアは顔を真っ赤にしてしまった。それは怒ったのではなく、恥かしさからだった。





  それは、温室からの帰りだった。
  ブルーベルとロベリアが寮の部屋に戻ろうと校内を歩いていると、校内にまだ残っていた生徒達がちらちらとこちらをチラ見してくる。元々噂のせいで注目を浴びていたが、そのほとんどが貴族だった。だがしかし、今日は違った。平民階級の生徒達ですらチラ見してくるのだ。しかも、不快なことにヒソヒソとこちらの方を見ながら何かを話している。

(嫌な感じだわ……)

  それでも、ロベリアは気にしない素振りで帰路に着いていると、玄関口付近まで歩いてきたところで声をかけられた。

「ロベリア……!!」

  聞こえてきた声にロベリアが驚いて顔を向けると、漆黒の縦ロールと赤いリボンが可憐に揺れているのが見えた。

「カルミア!?どうしてここに……?」

  カルミアは校門の方からやってきた訳ではなく、何故か校内の方から走ってきたようだった。息も上がっている。

「はぁ……はぁ……やっと見つけましたわ……」
「だ、大丈夫ですか?何かあったの?」

  力尽きて膝に手をつくカルミアにロベリアが手を差し出す。差し出された手を取ったカルミアはそのままギュッと握る。そして取り乱したように声を上げた。

「た、大変ですの……!!このままでは犯人にされてしまいますわ!!」

  突然のその発言にロベリアは頭が真っ白になった。
  
「……は?」

  全く理解が追いつけないまま呆然と立ち尽くすロベリア。そんな彼女にカルミアが耳打ちする。

「小説にもあった展開ですわ!ネリネが階段から落ちましたのよ!それも突き落とされたって話ですわ」
「あ、ああ、そんな話があった気がしますけど……」

  確かにそんな話があった気がする。小説ではある日ネリネは放課後、生徒会室に向かう途中の階段で何者かに突き落とされ怪我をするという話。その犯人は、悪役令嬢だった。

「ではカルミアが犯人扱いされてるっていうことですか?」

  確かに今日はカルミアとロベリアは別行動を取ったので、カルミアの所謂アリバイを立証することが出来ない。てっきりそう思ったのだが、カルミアの口から告げられたのは全く違うことだった。

「違いますわ!わたくしではなく、貴女なんですのよ!!ロベリアッ……!!」
「ええ!?」

  それはまさに寝耳に水だった。そもそも、ロベリアはさっきまでジニア殿下と一緒だったのだ。そんなロベリアにどうやってネリネを突き落とすことが出来たというのだろうか。

(こんなの最初から破綻してるじゃない)

  無茶苦茶な話なのに、まさかそれをみんなが信じているというのだろうか。

(さっきの視線って……まさかそのせいで?)

「ロベリア、さっきまでジニア殿下と一緒だったはずですわね?」
「え、ええ……そうよ」

  食い気味の勢いに押されてたじたじになりながらもロベリアは返事をする。

「じゃあ、早く殿下のところに行きましょう!貴女が犯人でないことを証言していただかないと!」

  カルミアに手を引かれ、ひとまず先程までいた温室に向かう。その道中で事件の経緯を確認をすることにした。


  
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