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40、小説と違う展開を
しおりを挟むナスタチウム学院がある、ここアゲット王国から海を渡った先に宝石の原料となる鉱石の採掘と加工で有名なクロムスフェーン帝国がある。王国と帝国というシステムの違う国同士でありながら古くから国交があり、お互いに留学などを推奨したりもしていた間柄だ。だが、表立って交流するのは次代の王となる者同士が多く、ジニアもクロムスフェーン帝国の第一皇子とは面識があるが、第三皇子であるアジュガとは面識が無かった。その為、すぐに気づけなかった。そしてそれはアジュガも同じで、アゲット王国の王子達について知ることは無かったのだ。
そんな、今までに互いに知る機会がなかった彼らは、奇妙な出会いを迎えていた。
「まさか……クロムスフェーン帝国の第三皇子だったとは…これは失礼しました」
ジニアが軽い謝罪をするが、すぐに毅然とした態度を取る。
「しかし、アジュガ皇太子殿下。門からでもなく、窓ガラスを割って入るのが貴方の国の礼儀なのかい?だとしたら随分、無作法な国なようだね」
少々トゲのある言葉でジニアが言えばアジュガも好戦的な態度を取る。
「はっ。そりゃ悪かったな。さすがに我が国にもそんな作法はないんだけどな」
ちらっと目線をロベリアに向けるとすぐさまジニア達の方に戻し「それよりも」と、話を切り替える。
「どこのどいつだ?ロディをこんな目に合わせた奴は。お前らか?」
アジュガはゼフィランサス達に妬むような視線を送る。その視線の意味に気づいたロベリアが慌てて訂正しに入った。
「待ってください!アジュガ、この怪我はこの方達のせいではありません」
「ん?そうなのか?じゃ誰がお前をそんな目に合わせたんだ?」
「それは……」
ロベリアが少し言い淀むとゼフィランサスが代わりに答えた。
「彼女は巻き込まれただけです。それに犯人については既に捕まえてあります」
「当然、罪を償わせるさ。それに今後はこのようなことがないようにする……」
ゼフィランサスに続いてジニアが付け加えるように話した後、急に部屋の中をキョロキョロし始め、ボソッと言葉を零した。
「……ねぇ、カルミアは……?それに、廊下にいたはずのローダンセもいないじゃないか!ロベリア嬢、ブルーベル、君達ならどこに行ったか知っているんじゃないのかい?」
少し震えた声音のジニアは一心にロベリアへと視線を注ぐ。そしてそのまま注目が集まっていくと、ロベリアは困ったような顔になる。ジニアにはその表情がつい先程の黙秘した時に見せた表情と重なって見えて、強く心を揺さぶられた。
また、肝心な事を話してくれないのではないかと。そしてそれはゼフィランサスやシオン達にとっても同じで、ロベリアを見る目に影が落ちる。
そんな場面を見てアジュガは不満の色を表した。
(これはまずい展開よね)
ロベリアがこの状況に置いて真っ先に考えたのはそれだった。
原作、もとい件の小説には出てこなかった展開だ。
それに肝心のカルミアは既にここを脱出して今後起こりうる小説の展開を阻止しようと寮の方へ行ってしまったあとだ。何故ここにいないのかと聞かれてもそのまま答えるわけにはいかない。とはいえ、ただでさえ不信感が募ってるこの状況で黙秘は出来ない。
(……なんて答えればいいかしら?)
ロベリアは頭を悩ませながらも話せる部分だけを話すことにする。
「え、と……その、カルミアは……」
ロベリアはジニア達の顔色を確認しながら「ネリネさんの様子を見に行きました」とだけ答えた。もちろん、そんな回答だけでは誰も納得するわけがなく、ジニアには「本当にそれだけか?」と問われ、シオンには「どうしてあの女の所に行く必要が有るのか?」と言われてしまう。
そこまで言われるとロベリアも余計に頭を悩ませる。しかし、隣にはゼフィランサスが立っていて、アジュガやミモザも、ブルーベルもいる。小説の死神令嬢とが違い、今の自分の周りにはこうして話を聞こうとしてくれる人達がいて、ゼフィランサスにいたっては不信感を覚えながらも信じようとしてくれているのがわかる。自然と、彼の方から手を握ってくれたのだ。
(小説では火事の時に王太子殿下と公爵家嫡男が駆けつけてた。そして犯人は悪役令嬢だと考えていた訳よね。もしそれを再現するなら火事を阻止出来なかった場合はカルミアを犯人とする何かを用意しているかも)
そんな可能性があるとしたら、ジニア達にはカルミアを疑わせるように仕向けて来るかもしれない。
それならば、
「……わかりました。お話します」
ロベリアがそう言うと、ジニア達は息を呑んで続く言葉を待った。
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