死神令嬢と悪役令嬢は破滅フラグを叩き折りたい

紗吽猫

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48、残る問題


  貴族の女子寮が燃えてから一週間。

  まだ解決していない問題も残っているが、ナスタチウム学院には普段通りの生活が戻ってきていた。

  貴族の女子寮も修復され、生徒達は普段通りそこで生活し、学院に通う日々。

  カルミア達もまた、普段通り学院で日々を過ごす。
  そう、普段通りなのだが、以前と少し変わったところがある。それが、通学の際に校門の前での習慣についてだ。

「おはようございます。ゼフィランサス様、アジュガ」

  朝の陽射しに照らされてキラキラと輝く銀色の髪を風になびかせながらヴェールの下に素顔を隠したロベリアがそう挨拶すると、既に校門前に待機していたゼフィランサスとアジュガが軽く手を振ってくれる。ロベリアとカルミア、それに従者のブルーベルが登校すると彼らが校門前で待っていてくれるようになったのだ。

「おはようございます。ロベリア嬢、カルミア、それにブルーベルも」

  ゼフィランサスがそう返すとロベリアと一緒に登校していたカルミアも挨拶を返す。ブルーベルもコクコクと頷いて返事をする。

「おはようございます。今日も注目の的ですわね、お二人とも」

  漆黒の縦ロールを揺らしながら歩いてきたカルミアが扇で口元を隠しながらクスッと笑う。横目で校門前の周囲を見渡せば、絶世の美女とも女神とも称されるゼフィランサスと
瑠璃色の長い髪に褐色の肌という人目を引く見た目の美男子アジュガに熱い視線を送る生徒達が集まってきているのがわかった。

(いつも思うけど、まぁ、これだけの美貌を持っていれば注目の的よね)

  カルミアが目を細めて呆れたように心の中で思う。
  貴族の平民も目を奪われる存在は共通らしい。あわよくば自分が彼らの特別になりたいと言わんばかりの熱い視線にカルミアはロベリアに耳打ちした。
  するとロベリアはゼフィランサスの方へ近づいていき、彼の手を握る。急に手を握られ少し驚いた様子のゼフィランサスだったが、すぐにふわっと柔らかな笑みを浮かべて握り返してくれる。

「どうかしましたか?もしや、甘えたくなりましたか?」

  少し意地悪そうにゼフィランサスが聞くと、ロベリアはあえて素直に頷いてみせる。

「……はい。甘えたくなりました」

  ヴェールの下に彼女の表情は隠れているが、ゼフィランサスはなんとなく彼女が微笑んでるのだと思った。可愛い婚約者に甘えられたゼフィランサスは愛おしいものを見る目でロベリアを見つめる。

  そんな、誰も割って入れなさそうな空気を作り出すふたりの姿を見ていた生徒達は悲鳴をあげたり、涙したりと騒がしくなっていく。
  カルミアは幸せそうなロベリアを見て口元が緩み、にこにことしている。ブルーベルも嬉しそうにロベリアを見ていて、そんな光景を黙って眺めていたアジュガは少し不服そうにしており、カルミアはそんな彼に気が付くと気分転換にでもと話題を振る。

「そういえば、アジュガ様。学院での生活は
慣れまして?」

  カルミアが校舎に向かって歩き出せば、アジュガ達も合わせて歩き出す。そうして歩きながら話をした。

「ああ、まぁな。しかし、まさか平民まで一緒だとは思わなかったな。よく一緒に学院生活は送れるな、あんたら。貴族と平民が同じ空間で過ごせるものだとは思わなかったってーか」
「まぁ、円満という訳ではございませんわ。どうしたって家格や身分の差はありますもの。それに、貴族と平民間だけではないですわ。上流貴族と下流貴族とでは相容れないものがあるようですし……」
「何処も同じってことかぁ」

  カルミアとアジュガがそんなことを話している少し後ろで、ふたりについて行くように歩いていたロベリアはゼフィランサスとこんな会話をしていた。

「もう体の方は問題ございませんか?いくら治癒魔法をかけていたとはいえ、傷が残っていたりしませんか?」
「ご心配お掛けしてすみません。けれど、もう大丈夫ですよ。手足も痛くはありませんし、傷も残っていませんよ」
「そうですか……それは良かったです。ですが、もう、絶対に無茶はしないでくださいね?」

  ゼフィランサスが真面目な顔で心配するのでロベリアはそれを心から嬉しく思う。

  小説の死神令嬢とは違う。孤独だった彼女と違って、自分にはこんなに傍で身を案じてくれる人がいる。
  それは破滅に向かう未来を阻止出来ているという希望に繋がっていた。

  ただ、問題はまだ残っている。

  後でカルミアから聞いたネリネ・シトリンの部屋に火を放った原因である火雀の花の出処とプラタナスという生徒との因果もわかっていない。そして、あの男達をけしかけた本当の犯人についても、まるでわかっていない。

  それから、ネリネ・シトリンについても。

(今まで彼女自身との接触を避けていたけど、結局、犯人にされる流れが幾度となくやってくる。それはつまり、どっちでも同じという事よね)

  関わらないのではなく、関わった上で破滅への未来を回避する方法を考えなければいけないのかもしれない。

(ネリネ・シトリン。彼女についてもちゃんと調べた方がいいかも知れない)

  小説の悪役令嬢と死神令嬢が実際の私達とは違うように、彼女もまた、小説とは違うのだろう。

  学院の校舎へと入ると学年の違うゼフィランサスとアジュガとは別れた。
  自身の教室に向かう途中でロベリアはカルミアに自分の考えを話す。
  話を聞いたカルミアは少し考えた後「ではまず、生徒会での時間を利用しましょう」と言った。

  それは、見知った顔馴染みばかりが集う唯一、ネリネ・シトリンと対等に話せる場になるだろう。
  ロベリアとカルミアはその日の放課後、足早に生徒会室へと向かった。
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