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第24話
しおりを挟む「リュー?寝ちゃったのかな?でもそろそろ帰らないと学校閉まりそうだよ。」
閉まるって今何時なんだ?
部屋の壁掛けの時計に目をやるともうすぐ七時になる所だった。重い体を起こして身支度を整えて生徒会室を後にしようとするが、身体中が悲鳴を上げて歩けない。
麗矢に肩を借りて学校からタクシーに乗せてもらい家まで送られることになった。
「ごめんね。大丈夫?」
麗矢が身体の心配をして声をかけてくれるけれど、俺は曖昧に頷くだけ。
薄暗い車内に道沿いに並ぶ、店の明かりが柔らかに差し込むと心配そうな麗矢の表情を浮かび上がらせる。
男の俺にすらこんなに優しいんだ。きっと今までの女達はもっと優しくしているんだろう。そんなくだらない嫉妬をしている自分が惨めだった。
三番目の願い事をもっとよく考えて使えば良かった。
こんな最悪の形で使ったことを後悔せずにはいられなかった。
付き合ったばかりの彼女を大切にしている麗矢にとって今回の命令は体の良い欲望のはけ口が見つかったに過ぎない。
彼女に遠慮して相当溜まっていたみたいだからな…麗矢にとって俺はただのセフレなんだ。
卒業するまでの体関係か…辛いな…好きだから尚更…こんな事になるなんて…
「リュー、本当に大丈夫?」
「…ああ、大丈夫だ……」
頬を伝う涙を隠すため窓に顔を向けて答えるのが精いっぱいだった。
翌日、具合が悪いと言って、俺は学校へ行くのをやめた。
また今日も六時に起きてしまった。
習慣とは恐ろしいもので、どんなに頭では学校へは行かないと決めているのに、支度をする時間に目覚めてしまう。
今日で一週間……きっと学校では平穏な日々が戻っていることだろう。
麗矢もあの命令から解放されて襟章の彼女と仲良くデートでもしているはずだ。
そんなの見たくもないし、学校にも戻りたくない。
泡になって消えてしまった人魚姫のように、俺もここから消えてなくなりたい。
身体中の傷は癒えているが、心には大きく切り裂けた傷がいつまでも痛みを訴えている。
泣くつもりはなくとも瞳からは自然と涙がこぼれ落ちる。
暗い部屋のドアがノックされ、急いでベッドの中に潜った。
ゆっくりと扉が開き人より先に光が入って締め切ってあるカーテンを照らす。
母親が学校に行く時間だと声をかけに来たんだ。
いつも通りベッドの中で身体を丸くして拒絶している。
「………」
………?
おかしいな、いつもなら戸口で声を掛けて返事を待ってから出ていくはずなのに。
今朝は声をかけるどころか部屋の中に入ってきた。
ベッドの傍まで来るとしゃがみ込むような布の擦れる音がする。
「おはよう、リュー。あの………まだ具合が悪いの?それとも……」
「!」
声の主に俺は身体が強張った。
麗矢っ?なんでここにいるんだ?
「…セックスいっぱいし過ぎて身体が……」
「うわあああああああっ!」
麗矢の言葉を遮って慌てて飛び起きた。
「ばかものっ!親がいるんだぞ!そんなこと言うなっ!」
俺と目が合うと心配そうな顔からふわっと顔を綻ばせる。
「良かったぁ。リュー元気じゃん。」
久しぶりに会う麗矢に嬉しさと切なさが入り混じった複雑な気持ちになる。
「学校行こうよ。」
「行かない。」
麗矢を見ないように布団を頭から被った。
お前と彼女のイチャつくところなんか見たくない。
「どうして?…あっ!…アソコが痛いから?」
「痛くないっ!だから言うなと言ってるだろうが!」
俺は顔を赤くして枕を麗矢に投げつけ布団に潜り込んだ。
「もー、怒りん坊だなぁ。大丈夫なら学校に行こう?」
「俺が行かない方が…お前が平穏に過ごせるだろう。か、彼女とかさ…」
彼女って言うのがキツイ…こんな事言わせるな。
「彼女?なんで? 俺、リューと会えない方が寂しいよ?」
「…………ごめん」
麗矢はこういう優しい奴なんだ…だからこそ麗矢の優しい残酷な言葉に心の傷の痛みが止まらない。
「行こう?一人で行けないなら俺が毎日送り迎えしてあげるから、ね?」
「……行かない。」
「うーーーん。そっかぁ、じゃあリューが行かないなら俺も一緒に休んじゃおっと!これから毎日ずっと一緒だよン♪」
「何言ってんだ。お前は休むな。」
「嫌だ。リューのいない学校なんか行きたくない。それに今日は絶対リューと一緒にいるって決めてるんだから。」
麗矢は枕を抱きしめて俯いている。彼がここへ家出した時もこんな感じで絶対動こうとはしない。こうなると麗矢は頑固だ。
無言の時がしばらく続きリビングのテレビから六時半の知らせが聞こえてきた。
家を七時に出ないと麗矢が遅刻してしまう。
「……分かった。学校に行く。着替えるから外で待ってろ。」
「うん、絶対だよ。」
俺が頷くのを確認してから麗矢は部屋を出て行った。
学校の仕度を整えてリビングに着くとトーストとサラダとハムエッグが用意されていた。
母親は俺を説得してくれた麗矢にとても感謝しながらコーヒーを注いでいる。不登校の原因が麗矢とも知らずに……
「リュー、良かった。もう少しでまた起こしに行くところだったよ。」
「行くと言っただろう。それにお前を遅刻させるわけにはいかないしな。」
「ふふ、リューらしい。」
俺は手短に朝食済ませて、二人で学校へ向かった。
家から学校までの道を二人きりで肩を並べて歩くなんて中学生以来だ。
懐かしいな。
でもそれも今日まで、俺は麗矢と離れなくちゃいけないんだ。
「麗矢」
「ん?なに?」
「あんな事があったのに、普通に接してくれて有難う。」
「えっ?なに?嫌だな急に…」
「あの…な、王様の命令の件なんだが…」
「………王様の命令?」
少し間をおいて麗矢の静かな硬い声が返ってくる。
俺達の間に流れる空気が急に重くなり、言いにくい雰囲気になる。
だけどこれはどうしても言わないと…
麗矢を俺の命令から開放してやらないと…
駄目だ。
頭では解っているのに言葉にするのが辛い。
「あれは、その………」
「…うん、あれは?」
「……駄目だよな。普通…だから三番目は無かった事に…」
と言い終わろうとした所に俺は頭を叩かれた。
「いでっ!誰だっ!人の頭を殴るのはっ!」
振り向くとニコニコ笑顔の高橋と山崎だった。
「やっと来たな王様!なにズル休みしてんだよー。」
「…ズル休みなんかじゃ…」
「じゃなんで休んだの?」
「…う…」
山崎にしては鋭いツッコミ、実際ズル休みなんだから答えられない。
「まあ休みたくなる気持ちわかるよ。これから下級生引き連れて毎日大名行列しなくちゃいけないもんなあ。学校でのプライベートは一切なくなるし、下手すると家まで押しかけてくる奴もいるらしいぜ。」
「毎日大名行列………」
そうだった………。 今度は俺があれをやる番なのか。
「大変だね~。頑張れ~王様。」
山崎は声援を贈ると手に持っていたパンを口に入れた。
「でもズル休みは駄目だぞ!俺達でサポートはしてやるから、もう休むなよ。」
「あ、有難う高橋、助かるよ。」
俺はいい友人を持ったな。
麗矢も同じことを思っていたようで優しく微笑んでいた。
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