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第二部 天魔界編
漆、天と地の暴君―其の参―
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服を着ると、表で待っていた霧雨が相変わらず無表情のまま若菜と紅雀を案内する。天魔界というと、おどろおどろしい世界を想像していたが魔王の居城は美しい装飾が施されていた。
空が禍々しく見える以外は、歩いていても気分が悪くなるような体の変化は無い。
側近の部屋は、朔の部屋からはそう遠くなく、道中天魔の女中達に出会わなかったのは不幸中の幸いだろう。
霧雨の部屋は、彼の性格を表しているかのように、無駄なものは一切置いていないような質素な部屋だった。
『何さ、この殺風景な部屋は。ちょいと花の一本でも飾ったらどうなのよ』
「――――その部屋を使うと良い。我はこの衝立の向こう側には足を踏み入れぬ。夜間は別室で就寝するので、何かあればその鈴で女中か我を呼べ。くれぐれも一人で出歩くな」
一般的に妖魔は格上の天魔を恐れるものだが、紅雀は持ち前の気質で上級天魔に対しても変わらない態度だ。それに動じず、淡々とした口調で霧雨は説明する。
反対に若菜は、恐縮したように両手を前で組みながら彼を見上げた。無愛想で恐ろしい天魔なのだが、これまで出逢ってきた『敵側』と思われる中では一番信頼できるように思われた。
それに、鞍馬山では危ない所を助けて貰った事もある命の恩人だ。
「あ、あの……。それなら私達が別室の方へと向かいます。この広いお部屋の方を、私達が取る形になってしまうのは申し訳無くて」
「…………魔王が我の部屋で匿えと言ったのは、お前が『神の繭』で魔王が不在の時に、天魔達に狙われる可能性があるからだ。我の側にいれば、安全だと踏んだのだろう」
若菜は蜜色の瞳を見開き、不安な心を見透かされたような気がして頬を染めた。魔王となった朔に、側にいることを拒否され言い知れぬ不安を感じたのを、誰にも勘付かれないようにしようと心の奥底に隠していたのに、と若菜は視線を床に向けた。
『ふぅん。第六天魔王って恐ろしく凶暴で気味の悪い男かと思ってたけどさ、なんだか人間味があるじゃないの。若菜を知らない男に押し付けるなんてとんでもない、私が、あいつに説教してやろうかと思ったけどねェ』
「――――我は、朔様の元へと戻らねばならん。着替えや風呂は女中に頼め。ここに入れるのは女中か魔王だけだ」
霧雨は抑揚のない声でそう言うと、踵を返して部屋を出ようとした。それに気付いた若菜は、慌てて背後から声をかける。
「あの、霧雨さん! あの時は助けてくれてありそうございました」
その言葉に肩越しに振り返ると、頭を深々と下げる霧雨はほんの少しだけ笑みを浮かべる。
たとえ下等な妖魔と人間であっても、礼儀正しい者には敬意を表すのが霧雨の信条だった。彼が出ていくと、若菜と紅雀はキョロキョロと部屋を見渡しちょこんと寝具の上に座った。
『そう言えばあの色男、風呂も入って良いって言ってわねェ。若菜、ちょいと入らないかい? 傷は痛むかも知れないけど、あんたもさっぱりしたいでしょ。私が洗ってあげるからさ』
「うん、そうだね。その……汗をかいたまま寝てしまったから」
若菜が頬を染めながら言うと、紅雀は瞳を細め意味深に微笑んだ。あの状況を見れば二人の間に何があったかは想像ができる。若菜の柔らかな髪を姉のように素振りで撫でてやると、紅雀は女中を呼ぶ鈴を鳴らした。
あらかじめ霧雨に申し付けられているのか、女中の一人が無表情に入ってくると、二人に向かって頭を垂れた。紅雀が短く、風呂に入りたい事を告げると女中は自分についてくるようにと促した。
『天魔の女中に世話を焼いて貰える妖魔なんて、あやかしの世界中探しても私くらいじゃないの。あの人に自慢してやりたいわァ。それはそうと、若菜。ちょいとあんたに頼みたい事があるんだよぅ』
「なぁに? 紅雀」
長い間、朔によって人の世界とあやかしの世界の狭間に飛ばされた紅雀の霊力は、随分と下火となっていた。
魔王の器になった朔から気軽に霊力を貰えそうにない上に、強力な天魔の気を受け取れば自分の存在など消し飛んでしまいそうだ。それに、上級天魔達の気に当てられて体に変調をきたす前に、若菜の清浄な気を体に送り込んでおきたい。
『本当は主の霊力が良いんだけどねェ。あんたは特別だからさ。ちょいと霊力を分けて欲しいのよ。それで暫く持つからさ、女同士なら怖くないでしょう?』
「えっ、う、うん……わ、分かったよ」
木花之佐久夜毘売の夢の中の寵愛など、全く記憶にない若菜には、同性との行為は全く想像できないようなものだった。だが、紅雀の言うとおり体の負担も少なく、彼女の身を心配した若菜は頷く事にした。
✤✤✤
玉座に座った第六天魔王を見上げるようにして、六魔老や天魔の貴族達は困惑していた。
魔王が復活してからというものの、鍛錬は欠かさず、天魔界の政に関して以前より監視を強めていた。
腐敗を排除して内政に意識を向けているが、娑婆界に攻め入り、天帝の軍と戦うような兆候はいつまで経っても見られず、中には魔王はこのまま復讐せずに、天魔の世界で指を咥えているのではないかとさえ噂されていた。
それどころか、脈絡も無く突然人間の娘をこの城に連れてきたのだから、気でも狂ってしまったのかと思われてしまってと仕方がない。
「第六天魔王様、あの人間は一体……?」
「あれか。あれは極上の『神の繭』だ」
玉座に座った朔が足を組みながらそう言うと、六魔老達は目を見開いた。貴重な『神の繭』と交わったからこそ、この場にいる魔王の気が満ちているのだ。
以前、戦を起こす前にも朔は『神の繭』を二人ほど捕らえて力を蓄えていた。この貴重な存在は、娑婆の世界でも見つける事も捕獲する事も難しく、そのうちの一人はやがて天魔の武将達の食料として慰め者になってしまった。
「ああ……左様でございましたか!」
「サク様の霊力が満ちているのはその為ですね、なんと禍々しい……!」
「我々が知らぬ間に『神の繭』を探しておられたとは」
「しかも極上とは……。やはり人間と天を支配されるのは第六天魔王のみでごさいましょう」
「特別な地下牢を用意させましょう」
「武将達にも極上の『神の繭』のご利益を与えませんとな。今回ばかりは阿修羅も朔様に敵いますまい」
朔はその言葉にピクリと眉を動かした。天魔の武将が、あの女に触れると思うだけでも何故か心の奥底から冷たい溶岩のような怒りが湧いてくる。だが、それを彼らに見せないように朔は冷たく見下ろすと言った。
「――――その必要は無い。あの『神の繭』の力は全て俺が吸収する。武将など必要ないほどにな。俺が阿修羅の頭を捻り潰すのを見たいんだろう? 俺はな……あのクソ野郎が跪いて泣き叫ぶのが見たい」
煮えたぎる溶岩のような瞳が鈍い光を放つと、六魔老と貴族達が息を呑んで体を硬直させた。心配していた第六天魔王の真意が知れると、彼らはすごすごと引き返していく。
阿修羅とは天魔界が生まれる前からの因縁だが、あの男の数々の同胞に対する蛮行は魔王のプライドを酷く傷付け、かならず八つ裂きにして復讐する事を固く誓わせるほどだ。
だが、阿修羅と天界を相手をするのに、あの女を、天魔の男たちの慰め者にする必要はない。彼らとすれ違うように、藍雅が霧雨と共に歩み寄ってくると深く頭を垂れた。
「サク様! 今の話は本当ですの? あの人間は『神の繭』でしたのね。それなら安心ですわ。私を放り出して捕獲しにいったのも頷けますもの」
「あの娘と妖魔は我の部屋へ迎い入れましたぞ、朔様」
「…………ああ、まぁな。六魔老の目には触れねぇようにしろよ。今まで俺無しで政をやってた分、甘い汁もさんざん吸ってやがる。汚職で腐りきった意地汚え本音を隠してるからな」
煩い声が響き渡ると、朔は溜息をつきながらうんざりと顔をしかめた。そして我慢ができ無くなったように、朔の王座までいくと膝をついて頬を染めながら瞳を潤ませた。
『神の繭』を手に入れ、朔の気が満ちたと言うことは、長らく女を抱かなかった魔王が昔のように性欲を取り戻したと言う事になる。霧雨がいるにも関わらず、藍雅は彼の膝に両手をつくといった。
「サク様、そろそろ……私にご褒美を下さいまし。愛妾を呼んでも構いません……けれど私は早くサク様の番になりたいのです」
藍雅は霧雨の目から見ても焦っているように思えた。長い間虚無の世界に繋がれていた第六天魔王の封印が解かれて、待ち望んでいた彼の帰還後、藍雅は一度も女として触れられていない。
以前の朔には感じなかった妙な違和感を、藍雅も感じているようだった。朔の子供でも孕めば、正式に第六天魔王の妻になる事が出来る。
「愛妾か……。『神の繭』のお陰で、俺の魔羅も調子がいい。そんなに俺の番になって子種が欲しいなら、俺をその気にさせてみろよ。霧雨、天魔の女を呼んでこい」
「…………仰せつかった」
霧雨は何か言おうとしたが、口を慎み頭を深々と下げる。
『神の繭』に欲情し交わる事が出来たのだから、愛妾や藍雅を相手にしても以前のように愛欲にまみれた遊びを楽しめるはずだ、とまるで自分に言い訳をするかのように朔は考えた。
あの女の肌や香り、繋がった時の感じたことの無い幸福感を勘違いだと打ち消すかのように言い放つ。
その間に玉座に座った朔の股間を弄り、藍雅は魔羅を取り出すが、指で触れられてもピクリとも動かなかった。『神の繭』が秘めていると言う特殊能力なのか。魔羅を口に含もうとした瞬間、それを止めると朔は服を直して藍雅を見下ろした。
「もう良いぞ、藍雅。あの女は、俺が知らないようなおかしな呪いをかけたかも知れんな。どういったカラクリかは知らねぇが『神の繭』を問い正してやる。六魔老への弁解も終えたし俺は風呂に入る。じゃあな」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと待ってサク様! 酷いですわっ……! まだお口で奉仕もしていませんのにっ」
藍雅へ背中を向けながらヒラヒラと手を降ると、朔は風呂へと向かった。不能だった魔羅が猛々しく彼女を求めたのには何か訳がある筈だと、朔は考え問い正す事にした。
朔にとっては最愛の恋人であったとしても、自分にそのような感情が湧くとは思えない。だが、あの女の蜜色の瞳を見ると、おかしな感情な湧き上がって居心地が悪くなってしまう。
急いでかき集めた容姿端麗な女中達を連れた霧雨が戻ってくると、朔は肩をすくめた。
「あー、悪ぃけど今日は解散。解散です~~。霧雨、茶の相手でもしてやれ」
「――――どこまで我を振り回すのだ、魔王よ」
渋い顔をした霧雨は重い溜息をついた。
空が禍々しく見える以外は、歩いていても気分が悪くなるような体の変化は無い。
側近の部屋は、朔の部屋からはそう遠くなく、道中天魔の女中達に出会わなかったのは不幸中の幸いだろう。
霧雨の部屋は、彼の性格を表しているかのように、無駄なものは一切置いていないような質素な部屋だった。
『何さ、この殺風景な部屋は。ちょいと花の一本でも飾ったらどうなのよ』
「――――その部屋を使うと良い。我はこの衝立の向こう側には足を踏み入れぬ。夜間は別室で就寝するので、何かあればその鈴で女中か我を呼べ。くれぐれも一人で出歩くな」
一般的に妖魔は格上の天魔を恐れるものだが、紅雀は持ち前の気質で上級天魔に対しても変わらない態度だ。それに動じず、淡々とした口調で霧雨は説明する。
反対に若菜は、恐縮したように両手を前で組みながら彼を見上げた。無愛想で恐ろしい天魔なのだが、これまで出逢ってきた『敵側』と思われる中では一番信頼できるように思われた。
それに、鞍馬山では危ない所を助けて貰った事もある命の恩人だ。
「あ、あの……。それなら私達が別室の方へと向かいます。この広いお部屋の方を、私達が取る形になってしまうのは申し訳無くて」
「…………魔王が我の部屋で匿えと言ったのは、お前が『神の繭』で魔王が不在の時に、天魔達に狙われる可能性があるからだ。我の側にいれば、安全だと踏んだのだろう」
若菜は蜜色の瞳を見開き、不安な心を見透かされたような気がして頬を染めた。魔王となった朔に、側にいることを拒否され言い知れぬ不安を感じたのを、誰にも勘付かれないようにしようと心の奥底に隠していたのに、と若菜は視線を床に向けた。
『ふぅん。第六天魔王って恐ろしく凶暴で気味の悪い男かと思ってたけどさ、なんだか人間味があるじゃないの。若菜を知らない男に押し付けるなんてとんでもない、私が、あいつに説教してやろうかと思ったけどねェ』
「――――我は、朔様の元へと戻らねばならん。着替えや風呂は女中に頼め。ここに入れるのは女中か魔王だけだ」
霧雨は抑揚のない声でそう言うと、踵を返して部屋を出ようとした。それに気付いた若菜は、慌てて背後から声をかける。
「あの、霧雨さん! あの時は助けてくれてありそうございました」
その言葉に肩越しに振り返ると、頭を深々と下げる霧雨はほんの少しだけ笑みを浮かべる。
たとえ下等な妖魔と人間であっても、礼儀正しい者には敬意を表すのが霧雨の信条だった。彼が出ていくと、若菜と紅雀はキョロキョロと部屋を見渡しちょこんと寝具の上に座った。
『そう言えばあの色男、風呂も入って良いって言ってわねェ。若菜、ちょいと入らないかい? 傷は痛むかも知れないけど、あんたもさっぱりしたいでしょ。私が洗ってあげるからさ』
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若菜が頬を染めながら言うと、紅雀は瞳を細め意味深に微笑んだ。あの状況を見れば二人の間に何があったかは想像ができる。若菜の柔らかな髪を姉のように素振りで撫でてやると、紅雀は女中を呼ぶ鈴を鳴らした。
あらかじめ霧雨に申し付けられているのか、女中の一人が無表情に入ってくると、二人に向かって頭を垂れた。紅雀が短く、風呂に入りたい事を告げると女中は自分についてくるようにと促した。
『天魔の女中に世話を焼いて貰える妖魔なんて、あやかしの世界中探しても私くらいじゃないの。あの人に自慢してやりたいわァ。それはそうと、若菜。ちょいとあんたに頼みたい事があるんだよぅ』
「なぁに? 紅雀」
長い間、朔によって人の世界とあやかしの世界の狭間に飛ばされた紅雀の霊力は、随分と下火となっていた。
魔王の器になった朔から気軽に霊力を貰えそうにない上に、強力な天魔の気を受け取れば自分の存在など消し飛んでしまいそうだ。それに、上級天魔達の気に当てられて体に変調をきたす前に、若菜の清浄な気を体に送り込んでおきたい。
『本当は主の霊力が良いんだけどねェ。あんたは特別だからさ。ちょいと霊力を分けて欲しいのよ。それで暫く持つからさ、女同士なら怖くないでしょう?』
「えっ、う、うん……わ、分かったよ」
木花之佐久夜毘売の夢の中の寵愛など、全く記憶にない若菜には、同性との行為は全く想像できないようなものだった。だが、紅雀の言うとおり体の負担も少なく、彼女の身を心配した若菜は頷く事にした。
✤✤✤
玉座に座った第六天魔王を見上げるようにして、六魔老や天魔の貴族達は困惑していた。
魔王が復活してからというものの、鍛錬は欠かさず、天魔界の政に関して以前より監視を強めていた。
腐敗を排除して内政に意識を向けているが、娑婆界に攻め入り、天帝の軍と戦うような兆候はいつまで経っても見られず、中には魔王はこのまま復讐せずに、天魔の世界で指を咥えているのではないかとさえ噂されていた。
それどころか、脈絡も無く突然人間の娘をこの城に連れてきたのだから、気でも狂ってしまったのかと思われてしまってと仕方がない。
「第六天魔王様、あの人間は一体……?」
「あれか。あれは極上の『神の繭』だ」
玉座に座った朔が足を組みながらそう言うと、六魔老達は目を見開いた。貴重な『神の繭』と交わったからこそ、この場にいる魔王の気が満ちているのだ。
以前、戦を起こす前にも朔は『神の繭』を二人ほど捕らえて力を蓄えていた。この貴重な存在は、娑婆の世界でも見つける事も捕獲する事も難しく、そのうちの一人はやがて天魔の武将達の食料として慰め者になってしまった。
「ああ……左様でございましたか!」
「サク様の霊力が満ちているのはその為ですね、なんと禍々しい……!」
「我々が知らぬ間に『神の繭』を探しておられたとは」
「しかも極上とは……。やはり人間と天を支配されるのは第六天魔王のみでごさいましょう」
「特別な地下牢を用意させましょう」
「武将達にも極上の『神の繭』のご利益を与えませんとな。今回ばかりは阿修羅も朔様に敵いますまい」
朔はその言葉にピクリと眉を動かした。天魔の武将が、あの女に触れると思うだけでも何故か心の奥底から冷たい溶岩のような怒りが湧いてくる。だが、それを彼らに見せないように朔は冷たく見下ろすと言った。
「――――その必要は無い。あの『神の繭』の力は全て俺が吸収する。武将など必要ないほどにな。俺が阿修羅の頭を捻り潰すのを見たいんだろう? 俺はな……あのクソ野郎が跪いて泣き叫ぶのが見たい」
煮えたぎる溶岩のような瞳が鈍い光を放つと、六魔老と貴族達が息を呑んで体を硬直させた。心配していた第六天魔王の真意が知れると、彼らはすごすごと引き返していく。
阿修羅とは天魔界が生まれる前からの因縁だが、あの男の数々の同胞に対する蛮行は魔王のプライドを酷く傷付け、かならず八つ裂きにして復讐する事を固く誓わせるほどだ。
だが、阿修羅と天界を相手をするのに、あの女を、天魔の男たちの慰め者にする必要はない。彼らとすれ違うように、藍雅が霧雨と共に歩み寄ってくると深く頭を垂れた。
「サク様! 今の話は本当ですの? あの人間は『神の繭』でしたのね。それなら安心ですわ。私を放り出して捕獲しにいったのも頷けますもの」
「あの娘と妖魔は我の部屋へ迎い入れましたぞ、朔様」
「…………ああ、まぁな。六魔老の目には触れねぇようにしろよ。今まで俺無しで政をやってた分、甘い汁もさんざん吸ってやがる。汚職で腐りきった意地汚え本音を隠してるからな」
煩い声が響き渡ると、朔は溜息をつきながらうんざりと顔をしかめた。そして我慢ができ無くなったように、朔の王座までいくと膝をついて頬を染めながら瞳を潤ませた。
『神の繭』を手に入れ、朔の気が満ちたと言うことは、長らく女を抱かなかった魔王が昔のように性欲を取り戻したと言う事になる。霧雨がいるにも関わらず、藍雅は彼の膝に両手をつくといった。
「サク様、そろそろ……私にご褒美を下さいまし。愛妾を呼んでも構いません……けれど私は早くサク様の番になりたいのです」
藍雅は霧雨の目から見ても焦っているように思えた。長い間虚無の世界に繋がれていた第六天魔王の封印が解かれて、待ち望んでいた彼の帰還後、藍雅は一度も女として触れられていない。
以前の朔には感じなかった妙な違和感を、藍雅も感じているようだった。朔の子供でも孕めば、正式に第六天魔王の妻になる事が出来る。
「愛妾か……。『神の繭』のお陰で、俺の魔羅も調子がいい。そんなに俺の番になって子種が欲しいなら、俺をその気にさせてみろよ。霧雨、天魔の女を呼んでこい」
「…………仰せつかった」
霧雨は何か言おうとしたが、口を慎み頭を深々と下げる。
『神の繭』に欲情し交わる事が出来たのだから、愛妾や藍雅を相手にしても以前のように愛欲にまみれた遊びを楽しめるはずだ、とまるで自分に言い訳をするかのように朔は考えた。
あの女の肌や香り、繋がった時の感じたことの無い幸福感を勘違いだと打ち消すかのように言い放つ。
その間に玉座に座った朔の股間を弄り、藍雅は魔羅を取り出すが、指で触れられてもピクリとも動かなかった。『神の繭』が秘めていると言う特殊能力なのか。魔羅を口に含もうとした瞬間、それを止めると朔は服を直して藍雅を見下ろした。
「もう良いぞ、藍雅。あの女は、俺が知らないようなおかしな呪いをかけたかも知れんな。どういったカラクリかは知らねぇが『神の繭』を問い正してやる。六魔老への弁解も終えたし俺は風呂に入る。じゃあな」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと待ってサク様! 酷いですわっ……! まだお口で奉仕もしていませんのにっ」
藍雅へ背中を向けながらヒラヒラと手を降ると、朔は風呂へと向かった。不能だった魔羅が猛々しく彼女を求めたのには何か訳がある筈だと、朔は考え問い正す事にした。
朔にとっては最愛の恋人であったとしても、自分にそのような感情が湧くとは思えない。だが、あの女の蜜色の瞳を見ると、おかしな感情な湧き上がって居心地が悪くなってしまう。
急いでかき集めた容姿端麗な女中達を連れた霧雨が戻ってくると、朔は肩をすくめた。
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