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第二部 天魔界編
捌、獲物を探して―其の壱―
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破壊された城は、まだまだ復旧の見込みは立っていない。不幸中の幸いだったのは、以前の総大将だった鬼一法眼が、餌として霊力の強い人間たちを城に閉じ込めていた事だ。
そこは、攻撃の標的にはならず残っていたので、彼らを使って仲間を回復させるのに役立っていた。また、霊力者として素質の高いものそのまま殺し、強制的に天狗として転生させ修行させた。
最近ではさらにキョウの都は混沌として、霊力の高い人間たちを男女問わず以前よりもやすやすと誘拐できるようになっていた。安倍晴明は結界を張って姿を消したのか、天界に見つかり行方をくらませたのか定かではないがそのお陰で退魔師に邪魔をされる事がない。
人間が騒ぎ立ててもその声はお上にまでは届かないようだった。
その中でも比較的清らかな霊力を持つものは、鬼蝶の食料として独房に入れられ、他の者たちは部下の天狗に与えては霊力を高めさせ、着々と仲間を増やしていく。
あの襲撃の失敗を生かして増兵を目論む、新たな総大将はベッドの上で息を切らした。
自分を熱く見上げる女を、冷めたような目で一瞥すると、汗ばんだ裸体から体を離して着物を羽織った。
「き、鬼蝶さま……? な、なにかご無礼を働きましたでしょうか」
「っていうかさぁ。なーんかもう、飽きちゃったんだよねぇ、お前の霊力の味」
鬼蝶は気だるそうにそう言うと、肩越しに少女を振り返った。神社の巫女を拐ってきたがそれなりに蜜の味は悪くはないが、単調な霊力に飽きてきた。
部下に与えるならば夜伽相手としても、食料としても申し分ない極上の人間だっただろう。
「そ、そんなっ……何でもしますから、鬼蝶様! 私を殺さないで下さいませっ。極上の餌として……貴方様のお役に立ちたいのです……貴方様の蝶が捕まるまで、そのお役目を私に」
「はぁ?」
鬼蝶はピクリと眉を動かして答えると、次の瞬間に大爆笑して、すっと表情を消すと青褪める巫女に顔を近付け、狂気に満ちた目で娘を睨みつけた。
この巫女は怯えながら、初めての相手である鬼蝶に、特別な感情を抱いてしまっているのか絶望の中で快楽に依存したのか、定かではないが恐怖を感じながらもすがるように言った。
「お前は、蝶の檻に入りたいわけ~~? 若菜の代わりが務まるとでも思ったんだぁ……あははっ、あはっ、殺されたいのかな~~? お前は僕の餌だった……んだけど、これからは部下の慰めものだよ、良かったねぇ。
それにしても残念だなぁ! この場でお前の内蔵を引きずりだしてやりたいけど、もう少し搾り取ってからだね。おい、連れてけ」
絶望的な答えに、巫女は悲鳴をあげて懇願したが、抵抗する間もなく部屋から引きずり出された。
また、この場所に新たな餌が連れて来られる事になるだろう。天狗の総大将である鬼蝶が飽きるまでの短い間、ここは特別な場所になる。
鬼蝶は独房から出ると、鼻歌交じりに廊下を歩き『蝶の檻』と命名した場所まで来た。
扉を開けるとレースの天蓋付きベッドが置かれ、毎日美しい花が飾られて蝶が飛び交っている。法眼が用意させた家具は取り払い、若菜のために新たな家具を用意した鬼蝶は、ベッドの上に座る人形まで歩み寄った。
金色の緩やかな癖のある髪。
蜂蜜のような色をした瞳に、華やかな着物が着せられ、可愛らしい顔をした西洋人形が座らされている。
「囚われの蝶が捕まるまで、そのお役目を……だって! あはは、あっははは! 笑わせるよねぇ! 若菜の代わりなんてできる訳ないじゃん……君みたいに最高級の霊力も、その肌も、腟内も唯一無二だからさ。それに……はぁ……あはは、僕の顔と眼を傷付けたのは君が初めてなんだ」
鬼蝶はうっとりとして自分の眼帯に触れた。
このベッドを見ると、泣いて抵抗しながら快楽に犯される若菜を思い出す。怯えるあの表情を見ると脳が震えるほど興奮した。
とろけるように美味しい蜜を中毒のように欲して、どうでも良い餌で自分自身を満たしていた。
「はぁ……はぁっ……若菜。早く僕と同じお揃いの眼帯をつけようね」
鬼蝶は短刀を取り出すと、西洋人形の右目を傷付け始める。あの愛らしい顔に、自分と同じ傷をつけて二人で一つの番になる。
それを想像するだけで、興奮した鬼蝶は自分の下半身から陰茎を取り出すと扱き始めた。
「はぁ……っ、あはは、僕が帝の代わりにキョウの都を支配したら……っ、はぁっ、祝言をあげようねぇ! あはっ、あはは、晴明の記憶も、朔の記憶も、クソみたいな式神達もぜんぶ、ぜんふ殺して潰して、僕だけの名前を呼ぶ囚われの蝶にするんだ……愛してる、愛してるよ、殺したいくらい愛してる! あは、あはははは」
美しい魔少年の口は耳元まで裂けるように釣り上がり、高笑いした瞬間に射精した。
『神の繭』の消息は引き続き調査させている。
✤✤✤
途方にくれた由衛と吉良は、若菜の無事を信じながら旅館へ戻ると、白露が不安そうな表情で正座をしていた。
式神の二人ほど、白露は常に行動をともにしている訳ではない。
いつの間にかフッと消え、いつの間にかフッと現れる。
まるで、密偵のように影で護衛や情報収集をしている彼も、主の気配が消えてしまえば、見かけの年相応らしく不安そうにする。
『由衛さん……吉良さん。若菜様の気配が消えました。まさか……まさか命を落とされたりなどしていないですよね』
『白露、縁起でもあらへんこと言いな。俺たちがここに戻ってきてる言うことは、お姫さんは死んでへん……せやけど、今回はえらい面倒な事になったかも知れへんわ』
青ざめる白露を呆れたように見た由衛が自分の頭を掻くと尻尾を振った。
天界人を瞬殺できるとすれば、それは上級天魔や天魔界を統治する第六天魔王くらいなものだろうと、二人は推測したのだ。互いに視線を交わして吉良がため息を付く。
『面倒な事というのはいったい……? 若菜様が心配です。眷属の僕は、主の若菜様と距離が離れすぎると、まるで身が引き裂かれような気持ちになるのです』
『そりゃ、俺たち式神も同じってぇもんよ。嬢ちゃんの蜜の虜ってぇのもあるが、それよりなにより、家族みてぇなもんだ……相手朔ならまだいいけどよ、その確証もねぇし』
『ええことあらへんわ! あの青二才は乗っ取られとるんやで。ともかくや、お前も一緒に晴明様のお造りになった寝殿造りに行くで。……半神の晴明様やったら何か案があるかも知れへんさかいにな』
荷物を纏めると、旅籠に宿泊代金を支払いキョウの都の外れへと向かう。あんな被害にあっても晴明がキョウの都を離れないのは、ヘイアンの時代から続く陰陽師としての使命感なのかもしれない。
愛しい主人以外の人間の事に興味がない由衛は、うんざりしながら新たな拠点へと向かった。都を徘徊する天狗の姿はないが、人間に紛れこんだ下等妖魔が突如人牙を向いて、襲っている様子はたびたび見かける。
妖魔たちは、以前のように何かに怯えている様子も無く好き放題暴れては、退魔師に浄化されているようだ。天敵の晴明の姿が見えない事もあるだろうが、縄張りを見張る天狗の姿が見えないのも要因の一つのようだ。
『しかし、法眼のヤツはついに地獄に落ちたのかも知れんな。まァ、俺が言うのも何だが彼奴等は妖魔の中でも質が悪くて最悪な集団だが、それなりに抑制力にはなっていた。もうさっぱり牙が抜かれちまって大人しい。人間も拐われねぇから、妖魔達が思うぞんぶん暴れてらぁ……たく』
『吉良さん。天狗かどうかはわからないのですが、どうやら人攫いと思われるような案件がキョウの都周辺で多発していると噂に聞きました。若菜様に害をなす存在かどうか調べている途中で……若菜様の気配が消えたのです』
『ふん、なんや。お前優秀やな』
転ばぬ先の杖か、と由衛が悪態をついているとようやくキョウの都の外れへと着いた。あらかじめこの居住区に住むことを知ってからこそ、周辺を白露は下調べをしていたのだろう。
一見すると、穏やかな日差しが差し込む廃屋で人の寄り付かない場所だ。
由衛が合言葉のように印を切ると、スッパリ左右に透明の線が入り結界が割れた。
美しいヘイアン時代を思い出すような華やかな寝殿造りに、季節外れの桜の花が舞い散る庭がある穏やかで心地よい空間が現れた。
しばらく歩いて寝殿造りへと上がり込むと、晴明の命令通りに動く、無機質な式神達が手を止め深々と頭を下げた。
「由衛、吉良、白露」
式神達に一礼をしたわけでは無く、背後を優雅に歩いてきた晴明に向けたとのだとわかると、三人は同時に彼を振り返った。
彼の背後に、額に角が生えた妖魔ではない存在に気付き三人とも目を見開き声を失った。
さらに若菜の事になるといつもの冷静沈着さを失う晴明が、彼女がいない事も最初から知っているかのように無反応だ。
冷たい蒼い瞳がただ静かに彼等を見ているが、わずかに怒りの感情のようなものを感じる。
『――――晴明様その者たちはいったい何者なんです? 妖魔の気でも天魔の気でも無い』
「下等な妖魔が知るはずもない存在だろう。俺達はお前等のように、知能の低い生き物とは違う崇高で、神聖な阿修羅様に仕える天鬼だ」
「だめだよ、羅漢兄さん。僕達の説明したってきっと理解出来ないんだから……殺そうなんて考えちゃだめだよ、きっとこの妖魔たちは、晴明とゆかりのある妖魔なんだからね」
双子の鬼達はそう言うとクスクスと笑い始めた。どうやら彼らは天界に住む善鬼なのだという。
寺の住職の説法に出てくるような守護鬼神や、護法童子のような存在だろうか。由衛も白露も、元は八百万の神に使役されていたがいまや人の子の式神。
ましてや、善鬼などゆかりもなかった。
薄笑いをする二人の気迫に思わず、三人は息を呑んだ。
「この三人は私の式神だ。脅すような真似は控えて貰えぬか。この者達は天界に住む阿修羅王の部下で、羅漢と羅刹という。第六天魔王の不穏な気配を察して、天帝と阿修羅王に命じられ、私とともに天界に降りてきた」
若菜の存在を隠すように言葉を続けた晴明に、三人は何かを察しながらも眉をひそめた。監視された状態で、この地に再び舞い戻ってきたのだろう。
晴明の言葉に肩をすくめる彼らは、今のところ、こちらを攻撃する意志は無いようだが、油断のならない相手に三人は睨みつけた。
『へぇ。全然存じてへんけど……ほな、よろしゅう頼みますわ。天鬼さん』
『ま、本物の護法童子だったらありがてぇご利益はありそうだしな、主に害をなさねぇならどうでもいい』
天鬼の気迫に負けないよう、遠回しに悪態をつく二人を白露は、青ざめた表情で見ていた。
そこは、攻撃の標的にはならず残っていたので、彼らを使って仲間を回復させるのに役立っていた。また、霊力者として素質の高いものそのまま殺し、強制的に天狗として転生させ修行させた。
最近ではさらにキョウの都は混沌として、霊力の高い人間たちを男女問わず以前よりもやすやすと誘拐できるようになっていた。安倍晴明は結界を張って姿を消したのか、天界に見つかり行方をくらませたのか定かではないがそのお陰で退魔師に邪魔をされる事がない。
人間が騒ぎ立ててもその声はお上にまでは届かないようだった。
その中でも比較的清らかな霊力を持つものは、鬼蝶の食料として独房に入れられ、他の者たちは部下の天狗に与えては霊力を高めさせ、着々と仲間を増やしていく。
あの襲撃の失敗を生かして増兵を目論む、新たな総大将はベッドの上で息を切らした。
自分を熱く見上げる女を、冷めたような目で一瞥すると、汗ばんだ裸体から体を離して着物を羽織った。
「き、鬼蝶さま……? な、なにかご無礼を働きましたでしょうか」
「っていうかさぁ。なーんかもう、飽きちゃったんだよねぇ、お前の霊力の味」
鬼蝶は気だるそうにそう言うと、肩越しに少女を振り返った。神社の巫女を拐ってきたがそれなりに蜜の味は悪くはないが、単調な霊力に飽きてきた。
部下に与えるならば夜伽相手としても、食料としても申し分ない極上の人間だっただろう。
「そ、そんなっ……何でもしますから、鬼蝶様! 私を殺さないで下さいませっ。極上の餌として……貴方様のお役に立ちたいのです……貴方様の蝶が捕まるまで、そのお役目を私に」
「はぁ?」
鬼蝶はピクリと眉を動かして答えると、次の瞬間に大爆笑して、すっと表情を消すと青褪める巫女に顔を近付け、狂気に満ちた目で娘を睨みつけた。
この巫女は怯えながら、初めての相手である鬼蝶に、特別な感情を抱いてしまっているのか絶望の中で快楽に依存したのか、定かではないが恐怖を感じながらもすがるように言った。
「お前は、蝶の檻に入りたいわけ~~? 若菜の代わりが務まるとでも思ったんだぁ……あははっ、あはっ、殺されたいのかな~~? お前は僕の餌だった……んだけど、これからは部下の慰めものだよ、良かったねぇ。
それにしても残念だなぁ! この場でお前の内蔵を引きずりだしてやりたいけど、もう少し搾り取ってからだね。おい、連れてけ」
絶望的な答えに、巫女は悲鳴をあげて懇願したが、抵抗する間もなく部屋から引きずり出された。
また、この場所に新たな餌が連れて来られる事になるだろう。天狗の総大将である鬼蝶が飽きるまでの短い間、ここは特別な場所になる。
鬼蝶は独房から出ると、鼻歌交じりに廊下を歩き『蝶の檻』と命名した場所まで来た。
扉を開けるとレースの天蓋付きベッドが置かれ、毎日美しい花が飾られて蝶が飛び交っている。法眼が用意させた家具は取り払い、若菜のために新たな家具を用意した鬼蝶は、ベッドの上に座る人形まで歩み寄った。
金色の緩やかな癖のある髪。
蜂蜜のような色をした瞳に、華やかな着物が着せられ、可愛らしい顔をした西洋人形が座らされている。
「囚われの蝶が捕まるまで、そのお役目を……だって! あはは、あっははは! 笑わせるよねぇ! 若菜の代わりなんてできる訳ないじゃん……君みたいに最高級の霊力も、その肌も、腟内も唯一無二だからさ。それに……はぁ……あはは、僕の顔と眼を傷付けたのは君が初めてなんだ」
鬼蝶はうっとりとして自分の眼帯に触れた。
このベッドを見ると、泣いて抵抗しながら快楽に犯される若菜を思い出す。怯えるあの表情を見ると脳が震えるほど興奮した。
とろけるように美味しい蜜を中毒のように欲して、どうでも良い餌で自分自身を満たしていた。
「はぁ……はぁっ……若菜。早く僕と同じお揃いの眼帯をつけようね」
鬼蝶は短刀を取り出すと、西洋人形の右目を傷付け始める。あの愛らしい顔に、自分と同じ傷をつけて二人で一つの番になる。
それを想像するだけで、興奮した鬼蝶は自分の下半身から陰茎を取り出すと扱き始めた。
「はぁ……っ、あはは、僕が帝の代わりにキョウの都を支配したら……っ、はぁっ、祝言をあげようねぇ! あはっ、あはは、晴明の記憶も、朔の記憶も、クソみたいな式神達もぜんぶ、ぜんふ殺して潰して、僕だけの名前を呼ぶ囚われの蝶にするんだ……愛してる、愛してるよ、殺したいくらい愛してる! あは、あはははは」
美しい魔少年の口は耳元まで裂けるように釣り上がり、高笑いした瞬間に射精した。
『神の繭』の消息は引き続き調査させている。
✤✤✤
途方にくれた由衛と吉良は、若菜の無事を信じながら旅館へ戻ると、白露が不安そうな表情で正座をしていた。
式神の二人ほど、白露は常に行動をともにしている訳ではない。
いつの間にかフッと消え、いつの間にかフッと現れる。
まるで、密偵のように影で護衛や情報収集をしている彼も、主の気配が消えてしまえば、見かけの年相応らしく不安そうにする。
『由衛さん……吉良さん。若菜様の気配が消えました。まさか……まさか命を落とされたりなどしていないですよね』
『白露、縁起でもあらへんこと言いな。俺たちがここに戻ってきてる言うことは、お姫さんは死んでへん……せやけど、今回はえらい面倒な事になったかも知れへんわ』
青ざめる白露を呆れたように見た由衛が自分の頭を掻くと尻尾を振った。
天界人を瞬殺できるとすれば、それは上級天魔や天魔界を統治する第六天魔王くらいなものだろうと、二人は推測したのだ。互いに視線を交わして吉良がため息を付く。
『面倒な事というのはいったい……? 若菜様が心配です。眷属の僕は、主の若菜様と距離が離れすぎると、まるで身が引き裂かれような気持ちになるのです』
『そりゃ、俺たち式神も同じってぇもんよ。嬢ちゃんの蜜の虜ってぇのもあるが、それよりなにより、家族みてぇなもんだ……相手朔ならまだいいけどよ、その確証もねぇし』
『ええことあらへんわ! あの青二才は乗っ取られとるんやで。ともかくや、お前も一緒に晴明様のお造りになった寝殿造りに行くで。……半神の晴明様やったら何か案があるかも知れへんさかいにな』
荷物を纏めると、旅籠に宿泊代金を支払いキョウの都の外れへと向かう。あんな被害にあっても晴明がキョウの都を離れないのは、ヘイアンの時代から続く陰陽師としての使命感なのかもしれない。
愛しい主人以外の人間の事に興味がない由衛は、うんざりしながら新たな拠点へと向かった。都を徘徊する天狗の姿はないが、人間に紛れこんだ下等妖魔が突如人牙を向いて、襲っている様子はたびたび見かける。
妖魔たちは、以前のように何かに怯えている様子も無く好き放題暴れては、退魔師に浄化されているようだ。天敵の晴明の姿が見えない事もあるだろうが、縄張りを見張る天狗の姿が見えないのも要因の一つのようだ。
『しかし、法眼のヤツはついに地獄に落ちたのかも知れんな。まァ、俺が言うのも何だが彼奴等は妖魔の中でも質が悪くて最悪な集団だが、それなりに抑制力にはなっていた。もうさっぱり牙が抜かれちまって大人しい。人間も拐われねぇから、妖魔達が思うぞんぶん暴れてらぁ……たく』
『吉良さん。天狗かどうかはわからないのですが、どうやら人攫いと思われるような案件がキョウの都周辺で多発していると噂に聞きました。若菜様に害をなす存在かどうか調べている途中で……若菜様の気配が消えたのです』
『ふん、なんや。お前優秀やな』
転ばぬ先の杖か、と由衛が悪態をついているとようやくキョウの都の外れへと着いた。あらかじめこの居住区に住むことを知ってからこそ、周辺を白露は下調べをしていたのだろう。
一見すると、穏やかな日差しが差し込む廃屋で人の寄り付かない場所だ。
由衛が合言葉のように印を切ると、スッパリ左右に透明の線が入り結界が割れた。
美しいヘイアン時代を思い出すような華やかな寝殿造りに、季節外れの桜の花が舞い散る庭がある穏やかで心地よい空間が現れた。
しばらく歩いて寝殿造りへと上がり込むと、晴明の命令通りに動く、無機質な式神達が手を止め深々と頭を下げた。
「由衛、吉良、白露」
式神達に一礼をしたわけでは無く、背後を優雅に歩いてきた晴明に向けたとのだとわかると、三人は同時に彼を振り返った。
彼の背後に、額に角が生えた妖魔ではない存在に気付き三人とも目を見開き声を失った。
さらに若菜の事になるといつもの冷静沈着さを失う晴明が、彼女がいない事も最初から知っているかのように無反応だ。
冷たい蒼い瞳がただ静かに彼等を見ているが、わずかに怒りの感情のようなものを感じる。
『――――晴明様その者たちはいったい何者なんです? 妖魔の気でも天魔の気でも無い』
「下等な妖魔が知るはずもない存在だろう。俺達はお前等のように、知能の低い生き物とは違う崇高で、神聖な阿修羅様に仕える天鬼だ」
「だめだよ、羅漢兄さん。僕達の説明したってきっと理解出来ないんだから……殺そうなんて考えちゃだめだよ、きっとこの妖魔たちは、晴明とゆかりのある妖魔なんだからね」
双子の鬼達はそう言うとクスクスと笑い始めた。どうやら彼らは天界に住む善鬼なのだという。
寺の住職の説法に出てくるような守護鬼神や、護法童子のような存在だろうか。由衛も白露も、元は八百万の神に使役されていたがいまや人の子の式神。
ましてや、善鬼などゆかりもなかった。
薄笑いをする二人の気迫に思わず、三人は息を呑んだ。
「この三人は私の式神だ。脅すような真似は控えて貰えぬか。この者達は天界に住む阿修羅王の部下で、羅漢と羅刹という。第六天魔王の不穏な気配を察して、天帝と阿修羅王に命じられ、私とともに天界に降りてきた」
若菜の存在を隠すように言葉を続けた晴明に、三人は何かを察しながらも眉をひそめた。監視された状態で、この地に再び舞い戻ってきたのだろう。
晴明の言葉に肩をすくめる彼らは、今のところ、こちらを攻撃する意志は無いようだが、油断のならない相手に三人は睨みつけた。
『へぇ。全然存じてへんけど……ほな、よろしゅう頼みますわ。天鬼さん』
『ま、本物の護法童子だったらありがてぇご利益はありそうだしな、主に害をなさねぇならどうでもいい』
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