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第二部 天魔界編
玖、四面楚歌―其の壱―
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土御門光明と陰陽師達の功績は輝かしいものだったが、一瞬にして失われた陰陽寮は半年も経たないうちに荒れ果ていた。
床を突き破るように雑草が生え、若菜たちが逃げ出した後に出火でもしたのか、ところどころに焼け跡のような黒いすすも残っている。
骸こそ転がっていないものの、惨劇を思い出させる血の跡はこびりついて不気味だ。
退魔師たちが、この場所を一度は浄化したと言う事だったが、芦屋道満が、見つけた天魔界への入口がこの場所にあるせいか、はたまた魔王が蘇った事で、低級な妖魔達が引き寄せられてきているのかどんよりとしている。
『えらい気味が悪いわ……ほんまに退魔師どもは、骸を片付けて浄化したんやろうなぁ。えらい死臭がしてかなわん』
由衛は袖口で鼻を抑え眉間に皺を寄せると、キョロキョロとあたりを見渡した。式神になって若菜の清浄の霊力を源にしているせいか、穢れのある場所に敏感に反応する体質になっている。
それは、吉良や白露も同様で、警戒するように武器に手をかけままあたりの気配を伺っていた。
『ああ。退魔師どもが、この広い土地を利用しねェのは、朔が扉を開いた時に飛び出した大量の天魔の討伐にかまけて、こっちをおざなりにしたせいじゃねェのか』
『――――確かにそうですね。お上も扉の危険性を認識し深刻に受け止めていたなら、人手が足りなくても警備の退魔師をつけそうなものですが……もしかして、そこまで辿りつけていないのでしょうか』
キョウの都いま、圧倒的に能力者の数が足りない。壊滅した廃墟など後回しにして、都の浄化に力を入れているのか。
もしかすると、彼らは地下の遺体の回収や浄化を諦め、姿の見えない陰陽師や光明を死亡と言うことで片付けたのかも知れない。
この騒ぎの発端である帝に謀反を起こした罪人をお上が処罰という事にしておかなければ、都の人々の不満はおさまらないだろう。
『――――はぁ。俺たちの感が当たってしもうたな。ぞろぞろ這い出てきたわ』
懐かしい広間にたどり着いた時、その奥の『誓いの間』の扉を破って、陰陽師の服を着た骸骨達が現れた。
くぼんだ眼球の奥は赤い炎を宿しているようだった。
人に憑く性質の下級妖魔と下級天魔の違いは非常に見分け方が困難だが人間の欲望や精力を重視する天魔が、屍に憑くことは無い。
そうなると必然的に敵は下級妖魔と言うことになり、おそらく陽が出ている間は地下に籠もって眠り、活発に活動ができる夜が来るのを待っていたのだろう。
おそらく退魔師と同じくキョウの都を浄化していた晴明は、天界の監視もあってここに立ち入っていないと言う事も察した。
『おうおう、噂をすれば下級妖魔のお出ましじゃねェか。屍に憑く奴はあやかしの世界でも嫌われ者だぜ。白露……お前さん、大丈夫なのかい』
『――――僕も戦えますよ。妹には及びませんがあの程度の敵ならば問題ないです』
白露は頷くと、小刀と取り出し呪符を指先に挟んだ。下級の妖魔だが、その数はざっと五十体ほど。格下だとしても油断できるような人数ではない。
由衛と吉良が腰に携えた刀を鞘から取り出すとそれを合図に、骸骨の陰陽師集団が襲いかかってきた。
下級妖魔に憑かれた骸骨の動きは早く、三人は各々の特性を生かし舞踊のように、刀で斬り捨てた。
『こいつら、陰陽術を施した刀で斬るだけやったら退魔まで出来へん、俺の狐火で燃やし尽くすさかい、頼んだで!』
呪術が刻まれた刀で首や足を切り落としても執念深く三人に向かって這い寄ってくる。
それだけ、第六天魔王の力の影響を受けているのだろうか。
吉良は楽しそうに笑うと、狗神の触手を背中から出し骸骨陰陽師をバラバラにし、あるいは刃で切り落とした。
白露はその身軽さで、彼らの隙間をくぐり、まるで若菜と同じような戦法で不意をついた。
そして、つかさず由衛が狐火で焼き付く。
いつもは反発し合う三人だったが今回ばかりは連携を取り、最後の一体まで油断せずに息の根を止めた。
『ふぅ……雑魚とはいえ、これだけわんさか湧いて出られた面倒だな。退魔師達がここを放棄した理由が嫌というほど分かったてェもんよ』
『まぁ、言うても雑魚や……俺の敵やあらへんかったな。はようお姫さんの情報を掴まんと』
余裕の表情で冗談を言い合う二人とは裏腹に、白露が神妙な顔をしていた。妖魔の気配は消え去り陰陽寮の残骸となった廃墟は、さきほどよりも魔の気配が軽くなったというのにその表情は険しい。
『どないしたんや、白露。もう大方地下から湧いてくる妖魔は討伐したさかい安心しぃ。眷属さんは俺たちの後ろに隠れとったらええんとちゃうか?』
『いいえ……何でもないです』
由衛の嫌味も、白露はいつものように呆れた様子で反論はしなかった。退魔師たちが亡骸を放置したまま表向きここを封鎖したのなら、陰陽頭の器はどうなったのだろう、と言う疑問が頭をよぎったからだ。
あの骸骨の陰陽師たちの中に、見慣れた土御門光明の服を着た妖魔を見つける事が出来なかった。
光明の骸だけ引き上げたのか、それとも長年道満の器となった事で他の者よりも脆くなっていた骸は、妖魔に憑かれることも無く塵になってしまったのか。
白露は引っかかるものを感じていたが、今は不確かな事を口にする事を控えた。
『――――とりあえず、儀式の間に降りて調べようぜ』
『そうですね、あの場所に向かうのは久しぶりなので緊張します』
その言葉に、白露の心情を誤解した二人は笑って背中を叩いた。
若菜の極上の霊力を体に宿し式神となった二人の中に恐れはなく、ただ主の身の上を心配し彼女の元へと向かう事だけを願っている。
蜘蛛の糸を刀で切りながら階段を降りて行くと、かつては裏切り者を投獄していた牢屋を横切り、拷問部屋を過ぎて第六天魔王の像がある祭壇まで降りると、息を止めるように三人は停止した。
暗闇に、何かうごめく影が間隔を開けて座り込んでいるのが見えた。
刀を握り直して構えると、由衛は吉良と白露に合図をして天上に向けて眩しいくらいの狐火を上げた。
『ギィイィィ!!』
由衛の見立て通り、光に弱い魔物たちは絶叫して目を抑えると隅へと逃げ、闇雲に四方八方に動いた。
それを交わしながら三人は刀を振り下ろし息の根を止めていった。この匂いは妖魔ではなく光を嫌い、音に素早く反応する厄介な下級の天魔で、咄嗟の機転が利かなければ足音を頼りに、こちらに集団で襲いかかってきたことだろう
『こいつら下級の天魔じゃねぇか。魔王様が恋しくて扉の前で忠犬よろしくで固まってたってェわけかい』
『……本能的に、ここから魔王の気配を追って天魔界に戻れると考えたのでしょうか。それにしても由衛さん、良くわかりましたね』
『前に一度戦った事があるんや、お姫さんが光に弱いかも知れへんとな……』
若菜の知恵で危機を脱した思い出を自慢げに語ると、吉良は肩を竦める。さきほどより光源を落とした狐火を光らせてあたりを見渡した。
祭壇は倒され、魔王の像こそ無事だったが封じられた扉は、あの日と変わった様子はなく、三人は手のひらで辿るように撫でていた。
『あいつらがここに集まっていたって事は、こここが一番天魔界に近いんだろうな。裂け目がありゃ、忍び込めるかも知れねェけどよ』
『吉良さん、何度も言いますが忍び込めても僕達だけじゃ危険ですよ……晴明様に報告して指示を仰いだ方が安全です』
『せやけど、晴明様の周りにはあの天鬼どもがおるやろ。天界から降りてきた奴らやけど、なんや胡散臭い。あの二人が味方かどうかもわからへんしな』
双子の天鬼を信用していないのは、白露も同じだった。吉良と由衛は天魔界という妖魔が立ち入れぬ場所、かつては先祖たちが追われた故郷に足を踏み入れることに抵抗はない。
白露も、彼らの気持ちはわかるが暴走しがちな二人にため息をつき壁に触れようとすると、ゆっくりと階段を降りてくる、数名の足音が聞こえて振り返った。
吉良と由衛も耳をピクピクと動かし、振り返ると険しい顔をした。
「あはは! 久しぶりだねぇ……白露。それから……あぁ、汚らしい狐と負け犬じゃないかぁ」
『お前……生きていやがったか』
『あなたは……』
『クソ天狗がなんの用や』
おどけた口調で階段を降りてきたのは、法源の片腕となっていた魔性の美少年、鬼蝶だった。片目を失ったのか、蝶の刺繍がされた南蛮風の眼帯を付けて楽しそうに残虐な笑みを浮かべていた。
背後には新しい赤い烏天狗の面をつけた部下たちが控えている。
妖魔の中でも、最も強い霊力を誇る天狗の相手を数人相手をするには、晴明ほどの実力が必要で、一気に緊張が走った。
さらに運の悪い事にここは出口が一つしかない。
「僕はお前たちには用は無いんだよ。僕はねぇ、大切な蝶を取り戻す為にお前たちを探していたんだ。――――若菜をどこに隠したのか言いなよ。今なら拷問だけで死ななくてすむかもね?」
狂気に見開かれた瞳は、楽しげに三人を見ていた。後をつけられていたとは思わず、唇を噛んだ吉良が、ため息を付きながら頭を掻いた。
『お前さん、俺たちをつけてきやがったのは法源の指示か……この件は晴明に関わるなと言われたんじゃねェのか。昔のよしみで忠告してやるが、若菜に固執するくれェなら、次の神の繭を探したほうが安全だって伝えろよ。この件は天魔も関わってるぜ』
「あっはっはは! 法源様はもうとっくの昔に死んでるよ。邪魔になったから殺しちゃった……僕の愛らしい蝶々……僕だけの若菜。早く居場所を言えよ、僕の機嫌が良いうちにねぇ!」
歯軋りをするように鬼蝶は三人を怒鳴りつけると、天狗たちがいっせいに襲いかかってきた。
床を突き破るように雑草が生え、若菜たちが逃げ出した後に出火でもしたのか、ところどころに焼け跡のような黒いすすも残っている。
骸こそ転がっていないものの、惨劇を思い出させる血の跡はこびりついて不気味だ。
退魔師たちが、この場所を一度は浄化したと言う事だったが、芦屋道満が、見つけた天魔界への入口がこの場所にあるせいか、はたまた魔王が蘇った事で、低級な妖魔達が引き寄せられてきているのかどんよりとしている。
『えらい気味が悪いわ……ほんまに退魔師どもは、骸を片付けて浄化したんやろうなぁ。えらい死臭がしてかなわん』
由衛は袖口で鼻を抑え眉間に皺を寄せると、キョロキョロとあたりを見渡した。式神になって若菜の清浄の霊力を源にしているせいか、穢れのある場所に敏感に反応する体質になっている。
それは、吉良や白露も同様で、警戒するように武器に手をかけままあたりの気配を伺っていた。
『ああ。退魔師どもが、この広い土地を利用しねェのは、朔が扉を開いた時に飛び出した大量の天魔の討伐にかまけて、こっちをおざなりにしたせいじゃねェのか』
『――――確かにそうですね。お上も扉の危険性を認識し深刻に受け止めていたなら、人手が足りなくても警備の退魔師をつけそうなものですが……もしかして、そこまで辿りつけていないのでしょうか』
キョウの都いま、圧倒的に能力者の数が足りない。壊滅した廃墟など後回しにして、都の浄化に力を入れているのか。
もしかすると、彼らは地下の遺体の回収や浄化を諦め、姿の見えない陰陽師や光明を死亡と言うことで片付けたのかも知れない。
この騒ぎの発端である帝に謀反を起こした罪人をお上が処罰という事にしておかなければ、都の人々の不満はおさまらないだろう。
『――――はぁ。俺たちの感が当たってしもうたな。ぞろぞろ這い出てきたわ』
懐かしい広間にたどり着いた時、その奥の『誓いの間』の扉を破って、陰陽師の服を着た骸骨達が現れた。
くぼんだ眼球の奥は赤い炎を宿しているようだった。
人に憑く性質の下級妖魔と下級天魔の違いは非常に見分け方が困難だが人間の欲望や精力を重視する天魔が、屍に憑くことは無い。
そうなると必然的に敵は下級妖魔と言うことになり、おそらく陽が出ている間は地下に籠もって眠り、活発に活動ができる夜が来るのを待っていたのだろう。
おそらく退魔師と同じくキョウの都を浄化していた晴明は、天界の監視もあってここに立ち入っていないと言う事も察した。
『おうおう、噂をすれば下級妖魔のお出ましじゃねェか。屍に憑く奴はあやかしの世界でも嫌われ者だぜ。白露……お前さん、大丈夫なのかい』
『――――僕も戦えますよ。妹には及びませんがあの程度の敵ならば問題ないです』
白露は頷くと、小刀と取り出し呪符を指先に挟んだ。下級の妖魔だが、その数はざっと五十体ほど。格下だとしても油断できるような人数ではない。
由衛と吉良が腰に携えた刀を鞘から取り出すとそれを合図に、骸骨の陰陽師集団が襲いかかってきた。
下級妖魔に憑かれた骸骨の動きは早く、三人は各々の特性を生かし舞踊のように、刀で斬り捨てた。
『こいつら、陰陽術を施した刀で斬るだけやったら退魔まで出来へん、俺の狐火で燃やし尽くすさかい、頼んだで!』
呪術が刻まれた刀で首や足を切り落としても執念深く三人に向かって這い寄ってくる。
それだけ、第六天魔王の力の影響を受けているのだろうか。
吉良は楽しそうに笑うと、狗神の触手を背中から出し骸骨陰陽師をバラバラにし、あるいは刃で切り落とした。
白露はその身軽さで、彼らの隙間をくぐり、まるで若菜と同じような戦法で不意をついた。
そして、つかさず由衛が狐火で焼き付く。
いつもは反発し合う三人だったが今回ばかりは連携を取り、最後の一体まで油断せずに息の根を止めた。
『ふぅ……雑魚とはいえ、これだけわんさか湧いて出られた面倒だな。退魔師達がここを放棄した理由が嫌というほど分かったてェもんよ』
『まぁ、言うても雑魚や……俺の敵やあらへんかったな。はようお姫さんの情報を掴まんと』
余裕の表情で冗談を言い合う二人とは裏腹に、白露が神妙な顔をしていた。妖魔の気配は消え去り陰陽寮の残骸となった廃墟は、さきほどよりも魔の気配が軽くなったというのにその表情は険しい。
『どないしたんや、白露。もう大方地下から湧いてくる妖魔は討伐したさかい安心しぃ。眷属さんは俺たちの後ろに隠れとったらええんとちゃうか?』
『いいえ……何でもないです』
由衛の嫌味も、白露はいつものように呆れた様子で反論はしなかった。退魔師たちが亡骸を放置したまま表向きここを封鎖したのなら、陰陽頭の器はどうなったのだろう、と言う疑問が頭をよぎったからだ。
あの骸骨の陰陽師たちの中に、見慣れた土御門光明の服を着た妖魔を見つける事が出来なかった。
光明の骸だけ引き上げたのか、それとも長年道満の器となった事で他の者よりも脆くなっていた骸は、妖魔に憑かれることも無く塵になってしまったのか。
白露は引っかかるものを感じていたが、今は不確かな事を口にする事を控えた。
『――――とりあえず、儀式の間に降りて調べようぜ』
『そうですね、あの場所に向かうのは久しぶりなので緊張します』
その言葉に、白露の心情を誤解した二人は笑って背中を叩いた。
若菜の極上の霊力を体に宿し式神となった二人の中に恐れはなく、ただ主の身の上を心配し彼女の元へと向かう事だけを願っている。
蜘蛛の糸を刀で切りながら階段を降りて行くと、かつては裏切り者を投獄していた牢屋を横切り、拷問部屋を過ぎて第六天魔王の像がある祭壇まで降りると、息を止めるように三人は停止した。
暗闇に、何かうごめく影が間隔を開けて座り込んでいるのが見えた。
刀を握り直して構えると、由衛は吉良と白露に合図をして天上に向けて眩しいくらいの狐火を上げた。
『ギィイィィ!!』
由衛の見立て通り、光に弱い魔物たちは絶叫して目を抑えると隅へと逃げ、闇雲に四方八方に動いた。
それを交わしながら三人は刀を振り下ろし息の根を止めていった。この匂いは妖魔ではなく光を嫌い、音に素早く反応する厄介な下級の天魔で、咄嗟の機転が利かなければ足音を頼りに、こちらに集団で襲いかかってきたことだろう
『こいつら下級の天魔じゃねぇか。魔王様が恋しくて扉の前で忠犬よろしくで固まってたってェわけかい』
『……本能的に、ここから魔王の気配を追って天魔界に戻れると考えたのでしょうか。それにしても由衛さん、良くわかりましたね』
『前に一度戦った事があるんや、お姫さんが光に弱いかも知れへんとな……』
若菜の知恵で危機を脱した思い出を自慢げに語ると、吉良は肩を竦める。さきほどより光源を落とした狐火を光らせてあたりを見渡した。
祭壇は倒され、魔王の像こそ無事だったが封じられた扉は、あの日と変わった様子はなく、三人は手のひらで辿るように撫でていた。
『あいつらがここに集まっていたって事は、こここが一番天魔界に近いんだろうな。裂け目がありゃ、忍び込めるかも知れねェけどよ』
『吉良さん、何度も言いますが忍び込めても僕達だけじゃ危険ですよ……晴明様に報告して指示を仰いだ方が安全です』
『せやけど、晴明様の周りにはあの天鬼どもがおるやろ。天界から降りてきた奴らやけど、なんや胡散臭い。あの二人が味方かどうかもわからへんしな』
双子の天鬼を信用していないのは、白露も同じだった。吉良と由衛は天魔界という妖魔が立ち入れぬ場所、かつては先祖たちが追われた故郷に足を踏み入れることに抵抗はない。
白露も、彼らの気持ちはわかるが暴走しがちな二人にため息をつき壁に触れようとすると、ゆっくりと階段を降りてくる、数名の足音が聞こえて振り返った。
吉良と由衛も耳をピクピクと動かし、振り返ると険しい顔をした。
「あはは! 久しぶりだねぇ……白露。それから……あぁ、汚らしい狐と負け犬じゃないかぁ」
『お前……生きていやがったか』
『あなたは……』
『クソ天狗がなんの用や』
おどけた口調で階段を降りてきたのは、法源の片腕となっていた魔性の美少年、鬼蝶だった。片目を失ったのか、蝶の刺繍がされた南蛮風の眼帯を付けて楽しそうに残虐な笑みを浮かべていた。
背後には新しい赤い烏天狗の面をつけた部下たちが控えている。
妖魔の中でも、最も強い霊力を誇る天狗の相手を数人相手をするには、晴明ほどの実力が必要で、一気に緊張が走った。
さらに運の悪い事にここは出口が一つしかない。
「僕はお前たちには用は無いんだよ。僕はねぇ、大切な蝶を取り戻す為にお前たちを探していたんだ。――――若菜をどこに隠したのか言いなよ。今なら拷問だけで死ななくてすむかもね?」
狂気に見開かれた瞳は、楽しげに三人を見ていた。後をつけられていたとは思わず、唇を噛んだ吉良が、ため息を付きながら頭を掻いた。
『お前さん、俺たちをつけてきやがったのは法源の指示か……この件は晴明に関わるなと言われたんじゃねェのか。昔のよしみで忠告してやるが、若菜に固執するくれェなら、次の神の繭を探したほうが安全だって伝えろよ。この件は天魔も関わってるぜ』
「あっはっはは! 法源様はもうとっくの昔に死んでるよ。邪魔になったから殺しちゃった……僕の愛らしい蝶々……僕だけの若菜。早く居場所を言えよ、僕の機嫌が良いうちにねぇ!」
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