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第二話 噂の霊感美少女①
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辰子島の人口は、二千五百人。
住民全員が顔見知りというわけじゃないが、ご近所様はだいたい顔なじみである。
この島には、小中学校それぞれ一校ずつ学校が存在していて、島の子供達は、全員同じ学校に通う事になるのだ。
この島の子供達は、例え別のクラスでも、学年が違ったとしても、顔と名前がおぼろげに一致するくらいの距離感だった。
だから、二年生の赤城久美が、終業式の日に行方不明になり、冬休み中に学校で自殺した事件は、学年を越えて生徒達の、噂の的になっていた。
彼女と同じ吹奏楽部だった、飯田典子は、目の前で友達が突如として居なくなり、自ら命を絶った事に、強いショックを感じて、今現在も家に引き籠もっているらしい。
「海野くん、これは我々オカルト研究部の出番だと思わんかね」
「はぁ」
「全く気の抜けた返事だなぁ。君はいずれ涼風寺の跡を継ぐかもしれないんだぞ。この怪異の謎を暴かないと、赤城さんも浮かばれんだろう」
お言葉ですが、僕は長男じゃあない。
ゆくゆくは兄貴が実家の寺を継ぐ予定だ。ついでに言えば、僕には霊感なんて物は全く備わっていない。そんな僕が寺の住職になれるわけがないんだけど。
山岳部に所属するか、将棋部に入るかと迷っていた時に、この斎藤先輩に出会い、かなり強引な感じでオカルト研究部に入部させられてしまった。
けれど、昨今のオカルトブームっていうのもあり、僕なりに結構オカルト研究部を楽しんでいる。しかし、なぜ赤城さんの自殺に心霊現象が関わっているのか、僕には見当もつかなかった。
「斎藤くんは、今回の痛ましい自殺が辰子島高等学校の怪異に、関係しているんじゃないかって言ってるんだよ。七不思議だよ、七不思議」
「でも、生徒を死なせるほどのの強力な怪異なんて、七不思議の中じゃあ赤紙青紙くらいじゃないですか? 青い紙を選べば血を抜かれて死ぬ。赤い紙を選べば血まみれで死ぬっていう」
斎藤先輩の隣に座っていた、ひょろりとした出で立ちの今井先輩が、指先で眼鏡を上げると僕を追撃する。僕はそんな子供じみた噂なんて、全然信じていないけどな。
それこそ僕の親が子供の頃からあるような、真偽不明の怪談だ。死人が出るような過激な心霊の噂と言えばそれくらいだろうか。
三番目の花子さんも、三回ノックして名前を呼ぶと返事が帰ってきて、トイレの中へ引きずり込まられるなんて事も囁かれているけれど、赤城さんは闇に引きずり込まれたわけでもなく、この学校で亡くなっているわけだしな。
「ふーむ。今井くん、彼はどうもピンときていないようだな。無理もない、七不思議を全部知ってしまうと、禍々しい厄災がその身に降りかかるのだ。しかし俺は恐れを知らぬ男。俺には最強のご先祖様のご加護があるので、最後の一つを探り当てても、不幸に見舞われる事はなかったな」
「はぁ」
「思えば俺は、辰子島最強のご先祖様の守護によって、様々な怪異から守られてきた。この間の金縛りの時なんて……」
つまり、最後の一つを知った所でなにも起こらないって事か。そして、他にもその噂を知る人間が普通にこの学校に居る。
斎藤先輩の守護霊自慢話が始まると、本当に吃驚するほど長いので、面倒臭くなった僕は、彼の話を遮るようにして言った。
「凄い!流石は斎藤先輩のご先祖様ですね。先輩は、やはり辰子島高校オカルト研究部の部長にふさわしいです。僕も寺の息子ですし、心得はありますので最後の怪異を聞いても大丈夫かと思います。ぜひ先輩の考えを教えて下さい」
斎藤先輩は、すっかり気を良くしたようだった。
「辰子島高等学校の七不思議、最後の怪異は三階の踊り場、もしくは鏡の中に現れる女の幽霊だよ。今井くん、ノートを見せたまえ」
大学ノートを今井先輩が取り出すと、僕に見せてくれた。どうやらそこには、日付けと目撃証言がズラッと書かれているようだ。
「昭和四十五年から四十八年まで、ポツポツとあるんですね。OBからの目撃証言を取ってるんですか……凄いな」
「在籍名簿を見て、今現在辰子島に残ってる人達にあたってみたんだ。なんらかの理由で夕方や、夜に居残っている人が踊り場の女の霊を目撃している。鏡の中にぼうっと首の折れた女が立っていたとか。鏡の中に吸い込まれるように消えたとか。踊り場の格子から首吊りしている女を見た人もいる」
七番目の怪異だけは、他の怪談とは違って妙に生々しいんだな。だけど、このノートには誰かが亡くなったような後日談は書いていないようだ。僕は、不思議に思って首を傾げる。
「だけど、今井先輩。その女の幽霊に遭遇して不幸に見舞われたり、自殺した人は居ないんですか? ここには書いていないようですが」
「俺が調べた限り、目に見える形で不幸になった人間はいない。だけど今回は違うぞ。赤城久美がどこで首を吊っていたか、彼女が発見された場所を、君は知っているかね?」
斎藤先輩は、自分の顎を撫でながら笑った。そんな事は目撃者か遺族、警察にしか分からないだろう。
だけど、このいかにも思わせぶりな先輩の物言いからして、なんとなく察した。
「もしかして……三階の踊り場で首を吊って亡くなっていたんですか?」
住民全員が顔見知りというわけじゃないが、ご近所様はだいたい顔なじみである。
この島には、小中学校それぞれ一校ずつ学校が存在していて、島の子供達は、全員同じ学校に通う事になるのだ。
この島の子供達は、例え別のクラスでも、学年が違ったとしても、顔と名前がおぼろげに一致するくらいの距離感だった。
だから、二年生の赤城久美が、終業式の日に行方不明になり、冬休み中に学校で自殺した事件は、学年を越えて生徒達の、噂の的になっていた。
彼女と同じ吹奏楽部だった、飯田典子は、目の前で友達が突如として居なくなり、自ら命を絶った事に、強いショックを感じて、今現在も家に引き籠もっているらしい。
「海野くん、これは我々オカルト研究部の出番だと思わんかね」
「はぁ」
「全く気の抜けた返事だなぁ。君はいずれ涼風寺の跡を継ぐかもしれないんだぞ。この怪異の謎を暴かないと、赤城さんも浮かばれんだろう」
お言葉ですが、僕は長男じゃあない。
ゆくゆくは兄貴が実家の寺を継ぐ予定だ。ついでに言えば、僕には霊感なんて物は全く備わっていない。そんな僕が寺の住職になれるわけがないんだけど。
山岳部に所属するか、将棋部に入るかと迷っていた時に、この斎藤先輩に出会い、かなり強引な感じでオカルト研究部に入部させられてしまった。
けれど、昨今のオカルトブームっていうのもあり、僕なりに結構オカルト研究部を楽しんでいる。しかし、なぜ赤城さんの自殺に心霊現象が関わっているのか、僕には見当もつかなかった。
「斎藤くんは、今回の痛ましい自殺が辰子島高等学校の怪異に、関係しているんじゃないかって言ってるんだよ。七不思議だよ、七不思議」
「でも、生徒を死なせるほどのの強力な怪異なんて、七不思議の中じゃあ赤紙青紙くらいじゃないですか? 青い紙を選べば血を抜かれて死ぬ。赤い紙を選べば血まみれで死ぬっていう」
斎藤先輩の隣に座っていた、ひょろりとした出で立ちの今井先輩が、指先で眼鏡を上げると僕を追撃する。僕はそんな子供じみた噂なんて、全然信じていないけどな。
それこそ僕の親が子供の頃からあるような、真偽不明の怪談だ。死人が出るような過激な心霊の噂と言えばそれくらいだろうか。
三番目の花子さんも、三回ノックして名前を呼ぶと返事が帰ってきて、トイレの中へ引きずり込まられるなんて事も囁かれているけれど、赤城さんは闇に引きずり込まれたわけでもなく、この学校で亡くなっているわけだしな。
「ふーむ。今井くん、彼はどうもピンときていないようだな。無理もない、七不思議を全部知ってしまうと、禍々しい厄災がその身に降りかかるのだ。しかし俺は恐れを知らぬ男。俺には最強のご先祖様のご加護があるので、最後の一つを探り当てても、不幸に見舞われる事はなかったな」
「はぁ」
「思えば俺は、辰子島最強のご先祖様の守護によって、様々な怪異から守られてきた。この間の金縛りの時なんて……」
つまり、最後の一つを知った所でなにも起こらないって事か。そして、他にもその噂を知る人間が普通にこの学校に居る。
斎藤先輩の守護霊自慢話が始まると、本当に吃驚するほど長いので、面倒臭くなった僕は、彼の話を遮るようにして言った。
「凄い!流石は斎藤先輩のご先祖様ですね。先輩は、やはり辰子島高校オカルト研究部の部長にふさわしいです。僕も寺の息子ですし、心得はありますので最後の怪異を聞いても大丈夫かと思います。ぜひ先輩の考えを教えて下さい」
斎藤先輩は、すっかり気を良くしたようだった。
「辰子島高等学校の七不思議、最後の怪異は三階の踊り場、もしくは鏡の中に現れる女の幽霊だよ。今井くん、ノートを見せたまえ」
大学ノートを今井先輩が取り出すと、僕に見せてくれた。どうやらそこには、日付けと目撃証言がズラッと書かれているようだ。
「昭和四十五年から四十八年まで、ポツポツとあるんですね。OBからの目撃証言を取ってるんですか……凄いな」
「在籍名簿を見て、今現在辰子島に残ってる人達にあたってみたんだ。なんらかの理由で夕方や、夜に居残っている人が踊り場の女の霊を目撃している。鏡の中にぼうっと首の折れた女が立っていたとか。鏡の中に吸い込まれるように消えたとか。踊り場の格子から首吊りしている女を見た人もいる」
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「だけど、今井先輩。その女の幽霊に遭遇して不幸に見舞われたり、自殺した人は居ないんですか? ここには書いていないようですが」
「俺が調べた限り、目に見える形で不幸になった人間はいない。だけど今回は違うぞ。赤城久美がどこで首を吊っていたか、彼女が発見された場所を、君は知っているかね?」
斎藤先輩は、自分の顎を撫でながら笑った。そんな事は目撃者か遺族、警察にしか分からないだろう。
だけど、このいかにも思わせぶりな先輩の物言いからして、なんとなく察した。
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