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31話 “逃げた”王子

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「2人とも、おなかいっぱいになった?」


シャーリが満腹で椅子にもたれ掛かる私とリアムに聞いた。そりゃあおなかいっぱいだ。あんな量まさか全部食べるとは思っていなかった。おなかいっぱいになった、美味しかったと一言伝える前にリアムが口火を切った。


「ええ、とても」


相変わらず無愛想だ。あくまで泊めてもらってる身なんだからもう少しばかり言い方ってもんがあるはずだ。思わせぶりなのも本人は絶対自覚してない。そのせいで何度この純粋な乙女の恋心を弄ばれたか。でも、嫌いになれずに怒ったりもしない私も相当可笑しいんだろう。


「じゃあ、デザートはまた後でで…」


そうシャーリが言って皿を片付けようとすれば、扉に掛かっている海風で錆びれた鈴が音を鳴らした。


チリン。


扉が開くとほぼ同じタイミングで私はリアムに無理矢理机の下に入れられた。嫌な予感しかしない。せっかく楽しい時間を送れていたのに。


「ねー、ここまだやってる?」


ああ、聞き覚えのある声だ。あの診療所に、小さな悪魔を飼っていたあの、トレイターがそこにはいるのだ。目を凝らせば小さな悪魔も同行していた。見られないように急いで視線を外らす。


シャーリはすぐにその男に駆け寄って丁重に店は閉まってしまったと断った。


「えー、残念。ま、別行くわ、どーも」


トレイターは渋々店から出ていった。シャーリが振り向いた瞬間、私たちは不運にも、机の下にいたままだった。ゆっくり頭をぶつけないように這い上がる私たち2人をシャーリはただ、黙って見ていた。表情を言うなら無だ。何も無い。背中に冷や汗が流れる。


嫌な沈黙を挟んで私たち3人は席に戻った。


「もしかして、2人ともあの人と知り合い?」


シャーリは淡々と続ける。さっきまでの人懐っこい純粋なシャーリはどこへ行ってしまったのだろうか。怒ってる訳でもないのにの怖く感じる。 リアムはこうやって何度もこんな目に遭ってきたのかもしれない。彼の目は全く泳いでいない。


「ルイスさん、あなたよく見たら



この前の新聞で見た




リアム?さんだっけ、











“逃げた”王子にそっくり」


だよね?合ってるよね?そう何度も聞いてきた。何が目的なのか。全く分からない。リアムは目を据えて一言も話さない。どうしよもなくなって、外を見れば暗闇が辺りを包み込んであの夜のどこか不思議な不気味さを感じた。


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