余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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新たなる課題

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 日本人の相良真一は、異世界転移をした。
 現在はシンと名乗り、女神の転移特典で若返っているので第二のスローライフ&スクールライフを送っている。
 現在はティンパイン王国の学園に通っている。王都に大きな敷地を構えるだけあり、名門校の一つだ。エルビア校舎は特に人気が高いが、シンは難なく入学を果たしている。
 学園生活の合間に冒険者活動もしているのでお金には困っていない。実はティンパイン公式神子だから、やろうと思えば豪邸にも住める。しかし、心が小市民であるシンには豪奢な邸宅は馴染まないので、寮生活だ。
 後見人のドーベルマン伯爵夫婦は王都エルビアに邸宅を持っているので、そこからの通学もどうだと勧められたが、小市民の心に優しくない。彼らは優しい人たちなのだが、あの裕福な生活に慣れたら、タニキ村のスローライフに戻れない気がする。
 実家ポジションのタニキ村は、風光明媚な山村だ。自給自足がメインで、田畑を耕し山で狩りをして生計を立てる。
 ド田舎なので、不便を楽しむのが醍醐味である。シンは魔法が使えるのでだいぶ楽をしているが、基本は自力で頑張っていた。
 そんな地味ライフを好むシンであるが、現在とある壁が聳え立っていた。

(米が食べたい……)

 もちもちなお米が食べたい。おにぎりにできる、粘り気タイプのジャポニカ米を欲していた。
 白米は日本人のソウルフードである。
 今までだましだまし生活していたが、ついに限界が近づいている。
 ここでもお米があるが、インディカ米に近い。ピラフやチャーハンには良さそうな、パラパラタイプなのだ。それはそれで相性の良い料理はあるのだが、シンの求める和食には合わない。
 学食で出てくるカレーは日本式のとろみのあるまろやかタイプだったが、米はインディカ系だった。ノットジャポニカである。
 そもそもこちらの主食は小麦を用いた、パンや麺が多い。次点で芋、豆類となる。米の存在感は薄い。
 マイノリティである米の品種は、当然ながら少ない。むしろ米は米。オンリーワンだ。
 この世界は異世界転生者や転移者が多い。それも、日本からの来た者が多いので、いくつかの調味料や料理が定着していた。
 しかし、召喚目的が軍事活用なので、異世界人のスキルも戦闘系スキルが多かった。生産系のスキルは優遇されず、ほそぼそとやっていくことができれば良いほう。最悪、勝手に召喚してきたテイラン王国の都合で抹殺される――というのが、先輩異世界人である、聖女カリンからの情報提供だ。
 シンやカリンのように、上手く別の国に逃げられたのなら運が良い。 
 使い潰す気満々だったテイラン王国は、今は神罰により虫の息。先の冬の豪雪で、国中が白く覆われたと聞く。
その中には、シンと同時に異世界転移をした日本人もいるだろう。トラック転生ならぬバス転移を果たしたが、同郷以外接点がない彼らに会いたいとは思わない。
朱に交われば赤くなるというし、テイランで生活するうちにモラルを疑う品性になっているかもしれない。
天狼祭でティンパインに乗り込んできた王妃エマ。元王妃と言ったほうがいいかもしれないが、彼女も元は日本人だった可能性が高い。幼女主神フォルミアルカの口ぶりから、あれの中身が異世界人なのは確定だ。エマと同じような人間なんて、頼まれても会いたくない。金を積まれてもごめんである。
 エマは酷かった。持っているスキルも凶悪だったし、性格も悪い意味で突き抜けていた。
 日本の者は恋しいが、日本人には会いたくない。絶妙なジレンマがシンの中に生まれていた。
例外のカリンは一般的な良識や善性を維持したまま、聖女としてこの世界に馴染んでいるので大丈夫だ。他の異世界人は、変に強いスキルや称号を得たせいではっちゃけている可能性が高い。
 手堅く生きたいシンは、リスクをとってまでして会いたくない。

(うどんは何とか作れたけど、あれは材料のメイン小麦粉だからな)

 切望するのは白米。そこの境界線はくっきりはっきりいしていた。
 タニキ村ではカツオブシを作る目途が立ったので、出汁系の調味料や料理はできるだろう。だが、稲作についてはノータッチだ。
 無理だと思うと、余計食べたくなるのが人の性である。
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