余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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隠れた潜伏者

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 屋敷の中は大騒ぎだ。少女一人を誘拐すればいい、楽な仕事のはずだった。しかも田舎貴族なので、大した捜索はされないだろうと油断していたのだ。シンたちの侵入を察知したごろつきたちは、大慌てで捜索をしていた。

(何が起こってやがる!? どうなってんだ!? あの糞貴族、厄介な相手に喧嘩を吹っ掛けたのか!?)

 話と違う。エリシアという少女を助けるための人員は、思った以上に早く奪還に来た。
 簡単な仕事のはずだった。学園は内部に入り込むのは大変だが、登下校に使う馬車用通路は外との境界があいまいになる。登下校時間以外は業者も出入りする。馬車であれば、かなり規制が緩いのだ。
 だが、馬車から出たら一気に警備がきつくなる。運よく、ターゲットがうろついていたのは僥倖だった。
 依頼人のジャニスは頭の悪くて横暴な男だが、見栄っ張りなので金払いは良かった。その出所は気にしない。いつも大事に懐に入れている、貴族の紋章で巻き上げた金なのは察しがついていた。
 ごろつきたちは目当ての令嬢の誘拐が終わったら、報酬を貰っておさらばするはずだった。
 なのにその令嬢が逃げた。奪還しに来たのは少人数で、大半が子供だと聞いてごろつきたちは退散ではなく、襲撃を選んだ。死人に口なしである。
 この辺りは元々犯罪者や、後ろ暗い連中が潜伏している。このボロ屋敷だってそうだ。ごろつきたちが来る前から、室内には破損があり、ゴミや酒瓶が転がっていた。過去に使用者がいたのだ。
 だから、この屋敷なら死体が埋まっていてもバレはしない。
 王都内にありながら、ゴーストタウンと化したこの場所だからできること。

「逃がすかー! 待ちやがれガキども! 金づるを置いて行き……え?」
 
 大声で恫喝しながら追いかけていたら、不意に耳元で風を切る音がした。ごろつきは不思議に思い、振り返る。目の前に、刃が付きつけられていた。
 仲間だと思っていた男が、冷めた眼差しでこちらを見ている。

「おい、何のつもりだ!」

「悪いねー。俺らの雇い主、マラミュートの本家だから。そのスペアの成り損ないじゃない」

 ごろつきの言葉に、へらりと笑う若者。
 もともとこのごろつきたちは、ろくに職にも就いていない寄せ集め。脛に傷を持つ者も少なくなく、過去の経歴など洗っていない。
 この男は特徴がない。中肉中背で平凡な顔。髪も瞳もくすんだ茶色でありふれている。この仕事が終わった後、真っ先に忘れそうだ。それほど印象が薄い。
 今はがらりと印象を変え、酷薄な眼差しを向けている。

「は? へ?」

 剣を突き付けているのは若者だけではない。
 明らかにごろつきではない、上等な服を着た騎士も紛れ込んでいる。
 ここは元貴族の屋敷だ。広く部屋数も多い。物も多く、ごろつきたちも把握していない部屋はたくさんあった。そこに隠れていたのかと、今更ながらに気づく。
 ごろつきは圧倒的な勢いを理解し、逃げようとしたがもう遅い。騎士の一人に腹に鋭く拳を入れられ、そのまま気絶した。

「あっちが捕まるようなら手助けするつもりだったけど、最近の学生はすごいなぁ。あの子はドーベルマン伯爵家のお気に入りだっけ? なるほど、あれは将来有望だ」

 ごろつきに紛れていた若者は、吹き飛んだ屋敷の一部を眺めて呟く。
 あちらには逃げ切ってもらわねば困る。ジャニスはこちらの手に収めたかったが、被害者でありエリシアの安全確保が第一。ジャニス自体は戦力外の腰抜けだから、縛られたら一気に弱気になって何もできなくなるはずだ。
 何せマラミュート公爵家の『永遠の生き恥』である。優位な時は威勢がいいと、不利になるとコメツキムシより腰が低くなる。子供相手でも命乞いをするだろう。
なので、屋敷に残ったごろつきたちを完全に制圧することを優先したのである。

(ジーニーお嬢様の大事な後輩たちだしね。怪我なんてさせたら、言問じゃ済まされない。よくて降格、最悪僻地に左遷だからな~)

 主人であるマラミュート公爵は、なんだかんだ言いつつ娘を大切にしていた。ジーニーだって気さくだが、締めるところはしっかり締める人である。
 求められる仕事をやれることが、できる騎士というものだ。




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