余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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突破口を開け

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「前方、魔法でぶち抜いていいですか!?」

「弓で!? さすがに人が通れる大きさにはならないのでは!?」

 シンの提案に、難色を示すリヒター。シンは弓の腕前が良いとは聞いているが、当たったとしても小さな穴しか開かないだろう。ガラスの飛び散りを考えると、危険も多い。それに、何度も当てている時間はない。音でごろつきたちが来るだろうし、囲まれてしまう。

「弓は弓でも魔弓ですよ! 風圧でガラスを吹っ飛ばして窓をぶち抜きます!」

 ただの弓矢なら難しいが、シンの装備は魔弓。魔力で矢を調整し、放つ威力も変えられる。

「やったれー、シン君!」

 後ろから迫る気配に、リヒターが許可を出す前にビャクヤがはやし立てる。
 ごろつきたちはすぐそこまで迫っている。悠長に屋敷を歩き回って、迂回ルートを探している暇はないのだ。
 シンはグローブ型にしていた魔弓を展開する。これで実態を伴っていたら、矢をつがえる必要があったが、イメージで魔力を誘導すれば動かせる。
 片手はエリシアを引っ張っているので、空いているほうの手を突き出した。カミーユとリヒターを避けるようにして暴風を纏う矢を作る。
 ぐっと拳に力を込めて、荒れ狂う風の魔矢に飛べと命じた。
 やや弧を描きながら標的に向かう暴風矢。年季の入ったボロ窓などものともせず、窓枠ごとこそぎ取るようにして吹き飛ばした。
 ついでに外の庭木や石畳も少しえぐり取り、屋敷をぐるりと囲っていた外壁にまで穴をあけている。
 これは、やりすぎである。

「あ、調節と間違えたか?」

 もし外に人がいたら、先ほどの魔矢に巻き込まれて死んでいるかもしれない。誰もいない前提で、そこそこ力を込めてしまった。

(やっぱり慣れている範囲より強く魔力を使うと、調節が雑になるな。暴発まではいかないけれど、想定より威力が出ちゃうな)

 シンの持つ神々の加護が重複し合って、相乗効果を生んでいる。これで本気で攻撃魔法を使ったら、この屋敷なら吹き飛ばせる気がする。やらないが、できてしまうと分かった。
 外に広がる惨状にシンは焦ったが、とりあえず今は全員で逃げるのが先である。
 幸い、一階だったのであの締め切りタイプの窓ガラスさえなければ、移動は簡単だ。次々と外に出ていく。後ろの気配がいつ追いついてくるか分からない。
 屋敷の敷地から出れば、道に寄せてある馬車がある。逃げられるはずだ。

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