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連載
撤退
しおりを挟む誘拐犯であるジャニスにはしっかり猿轡を噛ませ、リヒターが俵のように肩に担いで持ち上げる。
ビャクヤに続いて、カミーユも来た。
「早くするでござる! 逃げ道がなくなるでござるよ!」
急かすカミーユに、皆は走り出そうとする。だが、エリシアは動揺から上手く立ち上がれない。シンは手を引いて、強引に立ち上がらせた。
「行くよ!」
「う、うん!」
シンが強く呼びかければ、エリシアはまだ戸惑いはありながらもうなずいた。
カミーユがごろつきがいない方向へ案内する。リヒターがジャニスを担いでついてき、シンとエリシアが続く。
「しんがりは私が! 魔法で相手を攪乱します!」
「誘導って、どうするん!?」
「明かりや物音で、誘導くらいならできるはず……!」
あまり慣れないことをぶっつけ本番でやろうとしている。レニは職務に忠実だし、最悪自分囮になってでもシンたちは守ろうとしているのだろう。それを察したビャクヤは、一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに取り繕った。
「俺も狐火……狐の獣人の使えるスキルなんやけど、手伝えるはずや。しんがりは俺が持つから、レニちゃんはシン君とエリシアちゃんを見とき」
「で、でも……!」
ばたばたと足音が近づいてくるのが分かる。数が一人二人の数じゃない。
魔法使いタイプのレニが相手にできる数ではない。身を隠す遮蔽物のある広い場所で罠や遠距離からの攻撃を駆使するならともかく、狭い通路で対面したらおしまいだ。
「俺のほうが足も速いし、持久力もある。レニちゃん、接近戦はあんま得意やないやろ」
その点、ビャクヤは獣人だから身体能力が高く、薄暗い場所も視界が良好。音や匂いで相手の位置や動きを把握できる。
適材適所だがレニは迷っている。そんな彼女を、追い払うように手を振って走るようにせっついた。
「こないなカッコつけはガラやないんやけど……」
そう言いつつ、背後を気にしながらしんがりを務めるビャクヤ。正直、あまり余裕はない。ビャクヤは騎士科の生徒である。授業で多くの訓練はしているが、実戦は少ない。特に対人戦はほとんど実戦経験がないのだ。
その時、後ろ以外からも足音が近づいていることに気が付いた。
「あかん! 右からも来とる!」
「走るぞ! 立ち止まったら囲われる!」
ビャクヤの警告に緊張が走る。カミーユはどうしたものかと一瞬走る速度が落ちかけたが、リヒターは止まるなと鋭く鼓舞した。
「ああ、もう! 応援はまだでござるか!」
「期待するな! 油断が一番の敵だぞ!」
泣き言を叫ぶカミーユに、リヒターは叱咤する。相手だって本気なのだ。捕まったらすべてが悪い方向へ傾く。それを避けるために、今は全力を尽くすべきだ。
ふと、前方に大きなガラス張りの窓を見つけた。庭を眺望するために大きく面積をとっている。開閉はしないが、突き破ればそのまま外に出られる。
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