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連載
学生の本分
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エリシアの誘拐からお茶会のお誘い、その後にテスト期間が到来。
怒涛の日々が終わり、ようやく一息ついた。青い顔をしているのは座学系がすべて苦手なカミーユだけで、他は涼しい顔をしている。
毎回カミーユの勉強に付き合わされているビャクヤは、学習した。自分で作った対策ノートを貸した。それを写させ、勉強させたのだ。一教科一冊なので、カミーユが写している間は、ビャクヤは別の科目を勉強していた。
その甲斐あり、カミーユはぎりぎりで赤点回避。ビャクヤは余裕で上位者に食い込んでいる。シンとレニは安定のトップクラスだが、順位は張り出されていない。
そろそろ冬休みに向けて、少しずつ寮室を片付け始める。
学園内にも長期休みが近いと浮かれたムードが漂い始めた。
シンは温室も片付けようと思ったが、グレゴリオが是非貸してほしいと頼まれて冬休み中だけまた貸すことになった。夏休み中は勝手に占拠されていたから事前に話があったのでスムーズに済んだ。
だが、シンは帰省前に行きたいところがあった。
いつもの温室で、シンはレニとカミーユとビャクヤの前で言う。申告であり、決意表明だ。
「米の買い付けに行く」
「頑張りはるなぁ。シン君のその米への情熱はなんなん?」
「ビャクヤ……王都から離れた過疎地にお揚げに最高に合う大豆があると聞いたらどうする?」
「んなもん、買いに行くに……あ」
「そういうこと」
「それはしゃーないな。俺にとってのお揚げに相当するんなら」
食に対する執念が一致したシンとビャクヤは、徐に握手を交わした。妙なところで意見の合う二人である。
シンは護衛対象なので、彼が行くなら当然ビャクヤたちもいかなければならない。護衛として給料が出ているので、その辺はきっちりしていた。
レニとカミーユは特に異論はない。知り合い実家の領地だし、シンのいく理由もはっきりしている。普段はあまり物欲のないシンが、ここぞとばかりに熱意を燃やしていたのでドーベルマン夫妻も許すだろう。
「そういえばシン君、ジーニー先輩に頼まれていた食材はどうするんですか?」
先日、ジーニーに頼まれたと言っていたし、部活中にも念押しされていた。
シンも気にしていたのだろう、すぐに反応する。
「今日行く。日帰り行けるから」
「マルチーズ領に行くとなると、あまり時間の猶予はありませんからね」
善は急げだ。試験が終わったのだから勉強に割いていた時間が空いている。
冒険者カードはあるので、取り分はきっちり四等分にする予定だ。端数が出る場合はシンに振られる。
理由はシンが四次元バッグという格納スキルで獲物を運ぶのと、移動にグラスゴーやピコを使うから。レニとカミーユとビャクヤとしては、甘えて申し訳ないくらいである。シンの取り分が多くても文句は出ない。でも、シンからの申し出できっちり分けていた。
「騎獣の割り振りは、いつも通りシン君とレニちゃんがグラスゴー、俺とカミーユがピコちゃんででええやろ?」
「いつものでござるな」
ビャクヤの言葉に、カミーユは当然と言わんばかりだ。シンとレニも頷く。
シンの前ではかわい子ぶるグラスゴーだが、他の前では違う。魔馬の中でもとても気性の荒いデュラハンギャロップなので、シン以外は手綱を握れない。
「そういえば、エリシアは知っているんですか?」
いつも部活でピコを借りているエリシア。そういえば、すっかり言い忘れていた。
うっかりしていたと、シンは頭を掻く。
「そうだ……言ってなかったな」
「多分、冬休みになったら乗れなくなると思って、今のうちに乗って乗って乗り倒そうとしていますよ。テストも終わりましたし」
レニの言葉に、シンはどうしたものかと迷ってしまう。
エリシアがピコを大好きなのは知っているし、かといってジーニーの念押しもあるからこの仕事は早めに終わらせたい。
その時、勢いよく扉が開いた。
怒涛の日々が終わり、ようやく一息ついた。青い顔をしているのは座学系がすべて苦手なカミーユだけで、他は涼しい顔をしている。
毎回カミーユの勉強に付き合わされているビャクヤは、学習した。自分で作った対策ノートを貸した。それを写させ、勉強させたのだ。一教科一冊なので、カミーユが写している間は、ビャクヤは別の科目を勉強していた。
その甲斐あり、カミーユはぎりぎりで赤点回避。ビャクヤは余裕で上位者に食い込んでいる。シンとレニは安定のトップクラスだが、順位は張り出されていない。
そろそろ冬休みに向けて、少しずつ寮室を片付け始める。
学園内にも長期休みが近いと浮かれたムードが漂い始めた。
シンは温室も片付けようと思ったが、グレゴリオが是非貸してほしいと頼まれて冬休み中だけまた貸すことになった。夏休み中は勝手に占拠されていたから事前に話があったのでスムーズに済んだ。
だが、シンは帰省前に行きたいところがあった。
いつもの温室で、シンはレニとカミーユとビャクヤの前で言う。申告であり、決意表明だ。
「米の買い付けに行く」
「頑張りはるなぁ。シン君のその米への情熱はなんなん?」
「ビャクヤ……王都から離れた過疎地にお揚げに最高に合う大豆があると聞いたらどうする?」
「んなもん、買いに行くに……あ」
「そういうこと」
「それはしゃーないな。俺にとってのお揚げに相当するんなら」
食に対する執念が一致したシンとビャクヤは、徐に握手を交わした。妙なところで意見の合う二人である。
シンは護衛対象なので、彼が行くなら当然ビャクヤたちもいかなければならない。護衛として給料が出ているので、その辺はきっちりしていた。
レニとカミーユは特に異論はない。知り合い実家の領地だし、シンのいく理由もはっきりしている。普段はあまり物欲のないシンが、ここぞとばかりに熱意を燃やしていたのでドーベルマン夫妻も許すだろう。
「そういえばシン君、ジーニー先輩に頼まれていた食材はどうするんですか?」
先日、ジーニーに頼まれたと言っていたし、部活中にも念押しされていた。
シンも気にしていたのだろう、すぐに反応する。
「今日行く。日帰り行けるから」
「マルチーズ領に行くとなると、あまり時間の猶予はありませんからね」
善は急げだ。試験が終わったのだから勉強に割いていた時間が空いている。
冒険者カードはあるので、取り分はきっちり四等分にする予定だ。端数が出る場合はシンに振られる。
理由はシンが四次元バッグという格納スキルで獲物を運ぶのと、移動にグラスゴーやピコを使うから。レニとカミーユとビャクヤとしては、甘えて申し訳ないくらいである。シンの取り分が多くても文句は出ない。でも、シンからの申し出できっちり分けていた。
「騎獣の割り振りは、いつも通りシン君とレニちゃんがグラスゴー、俺とカミーユがピコちゃんででええやろ?」
「いつものでござるな」
ビャクヤの言葉に、カミーユは当然と言わんばかりだ。シンとレニも頷く。
シンの前ではかわい子ぶるグラスゴーだが、他の前では違う。魔馬の中でもとても気性の荒いデュラハンギャロップなので、シン以外は手綱を握れない。
「そういえば、エリシアは知っているんですか?」
いつも部活でピコを借りているエリシア。そういえば、すっかり言い忘れていた。
うっかりしていたと、シンは頭を掻く。
「そうだ……言ってなかったな」
「多分、冬休みになったら乗れなくなると思って、今のうちに乗って乗って乗り倒そうとしていますよ。テストも終わりましたし」
レニの言葉に、シンはどうしたものかと迷ってしまう。
エリシアがピコを大好きなのは知っているし、かといってジーニーの念押しもあるからこの仕事は早めに終わらせたい。
その時、勢いよく扉が開いた。
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