余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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9巻

9-1

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 プロローグ



 ある日、一台のバスが事故を起こし、乗員が全て異世界に転移した。
 そのうちの一人が、ブラック企業で使い倒されていた社畜戦士の相良さがら真一しんいち――改めシンである。
 シンたちを異世界に呼び出したのはテイラン王国。彼らが望んでいたのは、最強の武力を有する『勇者ゆうしゃ』の称号を持つ異世界人だった。
 ところが、シンはテイラン王国が求める能力を持っていなかったため、早々に追い出されてしまう。
 シンも異世界に送られる前に幼女主神フォルミアルカからスキルをもらっていたものの、ぱっと見がショボかったのだ。
 ついでに、シンは謎の異世界転移特典で十歳ほどの子供になっていたのだが、そんな年端としはもいかない少年を、テイラン王国は容赦ようしゃなく放逐ほうちくした。
 しかし、社畜の勘でその国にブラックな気配を察知していたシンは、これさいわいとばかりに国外に逃げ出した。
 その後、逃亡の果てにティンパイン王国に辿たどいたシンは、そこで気さくな狩人かりゅうどハレッシュと知り合い、風光明媚ふうこうめいびな山村――タニキ村に移住する。
 タニキ村で念願のスローライフを楽しむシン。
 そんな中、彼は善良だがちょっと王族としては問題ありなティルレイン王子と知り合う。そして王子に振り回されて、あれよあれよと王都に行くことに。
 さらにそこで、シンが多数の神々からの加護を受けていることが発覚し、一躍いちやく、国の重要人物として関心を集めてしまう。
 シンはすぐさまティンパイン王国の公式神子こうしきみことして迎え入れられたのだった。
 公式神子とはいうものの実質は兼業で、神子に割く時間はごくわずかである。
 ティンパイン王国の辣腕宰相らつわんさいしょうチェスター・フォン・ドーベルマン伯爵はくしゃくとミリア夫人の取り計らいもあって、シンはティンパイン国立学園王都エルビア校舎に入学。普段は学生兼狩人兼冒険者として生活していた。
 そして迎えた夏休み。
 シンの数少ない神子としてのお仕事の機会がやってきた。
 国を挙げてのお祭りである天狼祭てんろうさいで儀式をおこなうのがお役目だ。
 落ちぶれたテイラン王妃エマが暗躍あんやくしたり、シンの護衛である聖騎士アンジェリカの家族が騒動を起こしたりとトラブルはあったものの、初めての公務は無事に終了。お勤めの後はシンもお祭りをしっかり楽しんだのだった。
 こうして、夏休みが終わろうとしていた。
 もうすぐ学園生活に戻る。新学期が始まるのだ。



 第一章 彼女のけじめ



 遠く祭りの喧騒けんそうが聞こえる。
 すっかり陽が沈んだ後なのに、街の灯りは煌々こうこうとしていた。
 はなやかな王宮の中にあって、ここは質素だった。
 堅牢けんろうで近づきがたく、光源は少ない。仄暗ほのぐらく照らされる内部には、しの石壁や、頑丈そうな鉄格子が浮かんでいる。
 武骨で豪奢ごうしゃさのかけらもないのは当然だ。ここは犯罪者を収容する場所なのだから。
 そんな辛気臭しんきくさい場所を、二十代前半の女騎士がキビキビした足取りで歩いている。
 彼女はアンジェリカ・スコティッシュフォールド。聖騎士のあかしたる白いよろいまとい、長い黒髪とアッシュモーヴの瞳が印象的な、りんとした美女だ。
 シンたちが祭りを楽しんでいた頃、アンジェリカは牢屋に足を運んでいた。
 そこには彼女の元婚約者であるグライド・ブルが収容されている。
 アンジェリカは、異母妹のマリスに婚約者をうばわれた。さらに、グライドとマリス、マリスを溺愛できあいする父親のゲイブルによって、不当に家から追い出されていた。
 もともとグライドはアンジェリカの婚約者としてスコティッシュフォールド子爵家ししゃくけ婿入むこいり予定だったが、マリスに心変わりしたのだ。
 そこでせめて穏便に済ませていればよかったものの、あえてアンジェリカを傷つけるようなやり方をとった。
 しかし結局、マリスとは上手くいかなかった。周囲の目は冷たく、下手を打ったグライドはスコティッシュフォールド子爵家ともども顰蹙ひんしゅくを買ってしまう。
 そんな最中、元婚約者のアンジェリカが貴人の護衛になって帰ってきた。
 ティンパイン公式神子のそばで堂々と立つ彼女と、社交界から干されたも同然のグライドたち。
 完全に立場が逆転した。
 逃した魚は大きかったと、グライドは否応いやおうなしに理解させられる。
 自分も神子とお近づきになりたいとアンジェリカに頼んでもあっけなく断られ、グライドはみじめさでくすぶっていた。
 そこに近づいてきた悪意ある存在――それがテイラン王妃、エマだ。
 グライドはいいように口車に乗せられて、王城で暴れた。
 エマの『魅了みりょう』の力で操られていたとはいえ、ティンパイン公式神子の近辺で暴れてしまったのは事実。グライドは捕縛ほばくされ、容赦なく投獄とうごくされた。
 しかも今の彼には頼る相手がいない。
 わらにもすがりたいところだが、実家であるブル家には切り捨てられているし、頼みのスコティッシュフォールド家のマリスとゲイブルは貴族籍きぞくせき剥奪はくだつされており、今や藁以下だ。
 そんな彼が最後に縋ったのが、手酷てひどく裏切ったアンジェリカだった。
 グライドは事情聴取にも非協力的で「アンジェリカに会わせないとしゃべらない」と、かたくなに口を割らなかった。
 その反抗的な態度で、酌量しゃくりょうの余地すら失っているのに気づいていない。
 そんな元婚約者の悪態をたまたま報告書で知ったアンジェリカは、あきれながらも彼女なりに思うところがあって、自らの意思で会いに来ていた。
 牢屋にいるゲイブルは、薄汚いシャツによれよれのズボンを身につけており、不精髭ぶしょうひげえた顔は十歳以上老け込んで見える。
 距離があっても異臭がすることから、何日も風呂に入っていないのがわかる。
 数日ぶりだというのに、酷い落ちぶれようだ。
 グライドは牢屋の隅でぼんやりとしていたが、足音のぬしがいつもの中年兵士ではなく、白い鎧の美女――かつての婚約者だと気づくと、急いで彼女にった。
 鉄格子にかじりつく勢いで顔をつけ、声を張り上げてアンジェリカに呼びかける。

「アッ、アア、アンジェリカ! そうだよな! お前は俺を見捨てないよな!? 助けてくれ! お前は神子様の専属聖騎士なんだろう!? 神子様からお偉いさんに取り計らってもらってくれよ!」

 反省もなければ罪悪感もない。とにかくここを出たいという、浅ましくも脳味噌すっからかんの要望を口にするグライド。
 予想通りの反応にアンジェリカは頭痛を覚え、そっと溜息をついた。

「そんなことしません。いつまで聴取に反抗的な態度をとっているのですか。このままだと、さらに状況が悪化しますよ」

 事情聴取する兵士だって暇じゃないのだ。グライドのくだらない意地っ張りに付き合わされてはあわれだ。

「お前は婚約者がこんな目にっても、助ける気はないのか!?」

 冷たくあしらわれるとは思っていなかったのだろう。グライドは怒りで顔を真っ赤にし、つばを飛ばしながら怒鳴どなる。力任せに鉄格子を揺らそうとするが、彼の腕力ではびくともしない。
 アンジェリカは冷静だった。無駄むだな抵抗をする囚人を見ている。
 不思議なほど心は平静で、いでいた。
 以前はあれほど恐れていたのがうそのようである。今はグライドのどんな言動にも心が揺れない。
 ただツンとくる体臭と、大きな声が不愉快だ。
 僅かなわずらわしさと苛立いらだちはあるが、それだけ。

「元です、元。それはあなたがそうなるように仕向けたのですから、一番理解しているでしょう? ――私があなたとい、ましてや協力するなど有り得ない。もう新しい婚約もしました。とっくに終わったんです、グライド。あなたとの縁は」

 アンジェリカの冷ややかな口調と視線が、グライドをつらぬく。
 婚約者として、おさな馴染なじみとして、友として、十年以上歩んでいたのに、あっさり捨てたのはグライドの方。恋という情熱はなかったが、親愛くらいはあったはずなのに。

「さようなら、グライド・ブル」

 先に別れを告げたのはグライド。
 裏切ったのも、見捨てたのも、おとしいれたのも――全部彼だ。
 グライドをおとがめなしになんてできない。
 彼の罪は軽くないのだ。
 減刑を嘆願たんがんすれば、アンジェリカだけの問題ではなくなり、同僚、そして上司であり護衛対象のシンにまで飛び火する可能性だってあった。
 この性根の腐った男に「二度とそのつらを見せるな」と決別を告げるために、アンジェリカは来たのだ。
 見苦しい期待を持って近くをうろつかれては迷惑だった。
 しかしグライドはまだ希望を捨てられないのか、ぼろぼろと泣きながらアンジェリカを見た。
 その姿を目にしても、アンジェリカの心が揺さぶられることはなかった。

(この男が泣いているのは、可哀かわいそうな自分のため。私への後悔こうかい懺悔ざんげなんてない。我ながら、なんて男を見る目がなかったのか……)

 きっかけは親が決めた婚約だった。アンジェリカとグライドの縁は、惰性だせいで続いていただけ。
 床にして嗚咽おえつを響かせるグライドを見下ろし、アンジェリカは来た道を戻っていく。
 その間も、すすり泣くグライドの声はずっと聞こえていた。自己憐憫じこれんびんの涙は止まらず、この状況でもアンジェリカへの謝罪はない。
 これでもう会うことはないだろう。
 グライドとの最後の会話を終えたアンジェリカは、晴れやかな気持ちだった。
 きっと、今なら父親や異母妹に会っても平気だ。何をあんなに恐れていたのか、もうわからなかった。
 牢番にグライドの様子を聞かれたアンジェリカは、正直に答える。反省の色が見えなかったし、協力的な態度はなかったと報告した。
 外に出ると、ふと周囲が明るくなったので、アンジェリカは顔を上げる。
 見ると、花火が打ち上げられていた。
 祭りが開催されている間、毎晩決まった時刻に上がる花火だ。この花火を合図に、屋台は明日に備えて店じまいを始める。

(屋台や見世物も終わる頃だな……シン様たちは祭りを楽しめただろうか?)

 シンたちも帰路にく頃だろう。
 シンは祭りを楽しむために、死んだ目をしながら儀式の練習を続け、重たい衣装も我慢していた。
 アンジェリカも仕事は大体終わっているのでシンたちに同行することはできたが、気兼ねなく楽しんでもらいたくてあえて行かなかったのだ。
 以前よりだいぶマシになったとはいえ、アンジェリカはやはり生真面目きまじめ融通ゆうずうが利かない。つい小言が出てしまいそうだと自覚がある。
 特にシンはティンパイン王国に住んでいながらも、天狼祭は今回が初体験だ。純粋に祭りを楽しんでほしかった。
 アンジェリカが歩いていると、前方から見覚えのある人物がやってきた。
 背の高いホワイトブロンドの青年が彼女に声をかけてねぎらう。

「お疲れ様です、アンジェリカ」

 彼はルクス・フォン。サモエド伯爵子息で、今のアンジェリカを支えてくれる婚約者である。
 少したれ目の優しげな顔立ちの印象通り、温和で真面目な性格だ。

「ええ、お疲れ様です」

 打ち上がる花火と景色に気を取られて、だいぶ近づくまで気づかなかった。
 アンジェリカが笑みを浮かべて歩み寄ると、ルクスも笑顔を返す。

「最後にグライドと会って、反省の色や協力の姿勢があるか確認しましたが、あれはダメですね。罪を認めず、釈放しゃくほうを求めるばかり。司法の沙汰さたを待ちましょう」
「やはりそうですか」

 苦笑しながらもすっきりしたアンジェリカの横顔を見て、ルクスも何かを察したらしい。
 ふと、アンジェリカが怪訝けげんな表情を浮かべる。

「そういえば……奥の牢屋に、随分ずいぶん年老いた囚人がいましたが……あれは誰だったのでしょうか? 多分女性だと思うのですが」

 エマの『魅了』スキルが男性ばかりに使用されたこともあり、今回のさわぎで捕縛されたのは男性が多かった。
 エマが老婆ろうばを誘惑するとは考えられないし、戦力としても期待できそうにない骨と皮だけの老婆だった。

「老婆ですか? あの牢屋には今回の神子襲撃事件の関係者しかいないはずです。大半は男性で、女性はエマしかいないはずですよ。スキルを喪失した今、何もできないから一緒に投獄されているはずですが……」

 ルクスはそう言いつつも、事件のメンバーリストを記憶から引っ張り出そうとする。
 エマは美貌びぼうへの執着しゅうちゃくが激しかった。本人も色々手を尽くしていたので、年齢より若く見えたはずだ。
 ルクスは何度か目撃したことがあるが、美魔女や美熟女だったと言える。かなり派手好きでけばけばしかったとはいえ、少なくとも男女の判別が怪しくなるほどの年寄りではなかった。
 ルクスとアンジェリカが、くしくも同時に首をかしげる。
 そこでアンジェリカは思い出す。

「そういえば、エマは神罰しんばつを受けて、スキルを取り上げられたと聞きます。それが何か影響しているのでしょうか?」
「ない、とは言い切れませんね」

 神々のすることは、人には理解しえない。
 そして、神罰を与えられた人間の行く末など、ろくでもないものばかり。
 テイラン王妃エマ――神々の怒りにれるほどのことをした悪女の末路も同じだ。
 二人は背筋せすじが寒くなった。これ以上考えたら、せっかくの楽しい祭りの夜だというのに、心がえてしまいそうだ。

「そ、そうだ! たまには飲みに行きましょう! シン君たちも遊び疲れて戻ってきたら、すぐに寝るでしょう! 明日も祭りはありますし、もよおしもたくさんあります! 我々も英気を養いましょう!」
「そそそ、そうですね! この時期限定のメニューも多いらしいですから!」

 かなり強引な話題転換をして、アンジェリカとルクスは出かけることにした。
 一刻も早く、できるだけエマのいる牢屋から離れたくなったのだ。
 だが、その出先のバーで、お忍びデート中の宰相夫妻と会ってしまい、やはりあの老婆がエマだったと知ることになったのだった。


 ◆


 天狼祭の準備が終わった後も、シンは学園の寮には戻らず、しばらく後見人であるドーベルマン伯爵邸に滞在していた。
 神子としての大任は終えたが、相変わらずシンはいそがしかった。
 ずっと天狼祭にかかりきりだったので、愛馬のグラスゴーとピコはすっかりへそを曲げてしまった。そんな愛馬たちのご機嫌取りに、連日街の外に繰り出している。
 早朝に出かけ、夕方になって泥だらけになって帰ってくる日々。
 シンの護衛聖騎士であるアンジェリカ、レニ、カミーユ、ビャクヤの四人も交代で同行したものの、全力で走り出したグラスゴーにはついていけなかった。
 爆走する一頭と一人はしょっちゅう魔物の群れに突っ込んでいくが、すさまじい爆音とともに馬たちがやっつけてしまう。
 下手に近くにいると巻き添えになりそうな大技を繰り出すので、護衛役はシンを見失わない程度の距離を保つ形で落ち着いた。
 ちなみに、やっつけた魔物は冒険者ギルドに出しているので、ちゃっかり収入になっている。
 そんな日々が続き、シンはなんとか愛馬たちの不満を解消させた。

「やーっとグラスゴーたちも落ち着いてきたし、そろそろ学園の温室でも見に行こうかな」

 シンは学園の一画にある古い温室で薬草や野菜を栽培して、生活の足し兼スローライフな趣味にしている。
 収穫できる作物の有用性はなかなかあなどれないので、新学期も再び温室活用をしたいと考えていた。
 しかし夏季休暇中は帰省や天狼祭の準備などで温室の手入れができなかったため、雑草塗ざっそうまみれになっているだろうから、草取りからやり直しだ。
 新学期が始まるまであと十日ほどあるが、授業が始まれば必然的に自由時間は減る。
 今のうちに、ある程度は整備しておきたいところだ。

「お手伝いします」

 そう言って手を挙げたのは、大きな碧眼へきがんと金髪ショートボブの可憐かれんな少女だ。彼女はレニ・ハチワレ。
 彼女は近くにいた聖騎士の後輩二人をがっちり捕まえる。
 学園内だから危険はないが、シンだけに肉体労働をさせるわけにはいかない。

「え? それがしもでござるか!?」

 ぎょっとしたのはカミーユだ。紺色髪をポニーテールにした少年で、顔立ちはすっきりと端整だが、どことなくにじみ出る残念な気配で、魅力みりょくがだいぶがれている。
 そんなカミーユを、狐耳きつねみみの獣人少年ビャクヤがしかる。
 毛先が赤い金髪をっており、マロ眉と赤い瞳がカミーユとは違う耽美たんび雰囲気ふんいきを持っている。
 しかし、中身がややオカン属性である。言い方は厳しいが、身内の面倒見は良い。

「お前……夏休み中、俺やシン君、レニちゃんに散々迷惑かけておいて、一人だけダラダラする気なん? 休むんやったら、勉強するんやろうな?」
「さーあ! 楽しい畑仕事の時間でござるよー!」

 巻き込まれたと最初はしぶっていたカミーユだが、ビャクヤからのおどしを受けて、てのひらがクルックルに動いている。日頃から勉強を見てもらっているビャクヤには、強く出ることができないのだ。
 シンとこの三人は上司と部下という間柄あいだがらだが、ティンパイン国立学園の同級生でもある。
 シンとレニは普通科の一年。カミーユとビャクヤは騎士科の一年である。
 時間があるうちにやれることはやりたいと考え、シンはさっそく外出の準備をする。
 学園に出かけることと、夕方までに戻ることをミリアに伝えると、彼女はシンたちに弁当を手配してくれた。

「ああ、そうだわ。これこれ。チェスターが忙しくて直接渡せないから、預かっていたの」

 そう言って、ミリアはニコニコしながらシンに一通の封筒を渡した。
 首を傾げながら封筒を開けると、そこには数枚の便箋びんせんが入っていた。
 どうやら支払いの明細のようで、そこには見たことのないけたの数字が並んでおり、シンは目を丸くする。

「シン君から教えてもらった化粧水や美容液のレシピの使用料よ。とっても好評で、今後は工房を増やして専用農家とも契約する予定なのよ。これで本格的に生産規模が増やせるわ。効力はやっぱりシン君のお手製が一番だけれど……こればっかりは秘密よね。見ての通り、金額が金額だから、金貨で支払ってもかなり重たくなるでしょう? シン君は『マジックバッグ』を持っていたから大丈夫だと思うけれど。確認しながら渡すから、時間のある時に受け取ってね」
「は、はひ……」

 あんまり長く見ていたら、金銭感覚が狂いそうだったので、シンはそっと便箋を畳んで封筒に入れなおす。
 思い返すと、いつだったかレシピをゆずった記憶がある。

(こんな金額どうすればいいんだ……お金って、あるところにはあるって、本当だな)

 シンも狩人や冒険者としてはかせいでいる方だが、文字通り桁が違う。
 贅沢ぜいたくをしなければ、レシピの使用料だけで食べていけそうである。
 この世にはその日の生活すらやっとで、屋根のない暮らしをしている人だって少なくない。なんとも贅沢ななやみである。
 お金の使い道を考えていたシンは、タニキ村のことを思い出した。

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