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番外編

その狼の愛は止まることを知らない 11

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「それで? わざわざ子犬にこそこそと手紙を運ばせてまでしたかった話は終わったのか?」

咳払いを一つして強制的に話を変えたオウカに、夫人は不満そうに眉を寄せた。

「貴方が来るのが早すぎるのよ。まだ全然タカトちゃんとお話しできてないわ」
「子犬を迎えにきただけなんだから、帰るのが遅いとダレスティア達に怒られるだろうが。それに、母さんはあまり長くここにいるのもよくないだろ」
「確かに、坊ちゃんが仰ることも一理ありますな」
「だから坊ちゃんはやめろって……。ほら、ミシュラもこう言ってるんだから母さんは早く部屋に戻って大人しくしてろよ」

言い方は乱暴だけど、夫人のことを心配してるだけなんだよな。なんだか実は根が優しい反抗期の息子に見えてきたぞ。
夫人と話すオウカを見てそんなことを考えながら、ミシュラさんが淹れてくれたお茶を飲んだ。オウカが来て緊張が解れたのか、さっきよりも味をしっかり感じて美味しい。
なるほど、これが高級茶葉の味……

「じゃあクーちゃんがこっちに来るまでならいいでしょ? クーちゃんが来たらすぐに部屋に戻るわ」
「……その言葉、本当だな? 母さん」

ぎりぎりまでこの時間を伸ばそうとする夫人を余所に、ぴくっと耳を動かしたオウカはニヤッと悪い笑みを浮かべた。

「タカトー!!」

控えめに開かれたガゼポの扉、しかしそこから飛び込んで来たのは満面の笑みのクーロだった。
てってってーっと小走りでこちらに走ってくるクーロを見て、可愛いと全員で頬を緩めたのも束の間、夫人は落胆したようにその狼耳をぺたんと寝かせてしまった。

「ク、クーちゃぁん……」
「かあ様?」

おれにぎゅっと抱きついてきたクーロは、明らかに落ち込んでいる夫人に首を傾げている。その様子に俺は思わず笑ってしまった。慌てて咳払いして誤魔化すも、夫人の耳には聞こえてしまったようだ。これは誰も悪くない状況ということは彼女も分かっているのだろうけれど、この溢れ出る感情を吐き出さなければ気が収まらないのだろう。そしてクーロがすぐに来ることが分かっていただろうオウカにその矛先が向けられた。

「オウカ! 貴方はいつからそんな姑息な手を使うようになったの!」
「姑息って……勝手に宣言したのは母さんだろ? ほら、さっさと部屋に戻れよ。親父も迎えに来たことだしな」
「なんの騒ぎだ?」
「ラシュド!!」
「は、な、なんだ……?」

クーロに置いて行かれたのだろうラシュドがガゼポに入るなり夫人にあたられていて、ちょっと可哀想。
それにしても、オウカは相当耳が良いのか? 同じ狼獣人の夫人とミシュラさんと、犬獣人のクーロが気づいていなかったのに、ラシュドが来たことに気が付いた。さっきもクーロが来たことにも気が付いていたからよな。
俺の疑問に気が付いたのか、オウカはこそっと耳打ちしてくれた。

「母さんもミシュラも気を抜いていたから気が付かなかっただけだ。ここが一番安全な場所だって分かっているからな。子犬は単純にこれから成長期で聴力も上がる。俺は職業病みたいなもんだ」

なるほど。騎士の中でも戦闘派の竜の牙所属なら、職業病ということも頷ける。
そう言えばロイも竜の眼にいたころの影響で情報収集や人の観察を無意識にしてしまうことがあると困ったように笑いながら言っていたことがあった。騎士あるあるなのかもしれないなぁ。

「さぁ、子犬も来たしそろそろ帰るぞ。……母さん、また来るからそんなに落ち込むなよ」

呆れた……というよりは、困ったように夫人に声をかけるオウカだが、夫人はこちらが戸惑うほどに気分を落ち込ませていた。
ラシュドもオウカも、夫人がこんなに落ち込むとは思っていなかったのか、目を見合わせて同時に尻尾を下げた。

「あの、おれもダレスティアに頼んでみます。もっとお話ししたいと思ったのは、おれもなので」
「……本当に? 絶対よ?」
「はい。でも、お腹に赤ちゃんがいるミネア様にご負担をかけてしまうといけないので、しばらく後になると思いますが……」

おれが来る度にここまで来させるのは申し訳ない。それにお腹に赤ちゃんがいるのに、あんなに興奮してしまうと、おれも心配だし……

「ミネアはこれから興奮のしすぎは厳禁だからなぁ。また会えるにしても、子どもが生まれてからじゃないと駄目だぞ」
「そんなぁ……」
「タカトもあまり卵から離れない方がいいらしいし、どちらにしろ、竜王の儀が終わるまではタカトも出かけられないと思うから母さんも諦めてくれ」
「……分かったわ。貴方達を心配させたいわけじゃないもの」

夫人がラシュドに目配せすると、ラシュドは夫人に手を差し出しミシュラは夫人が立ち上がるタイミングに合わせて椅子を引いた。そのスムーズな連携に思わず目を惹かれる。なんか優雅だ。
感動して思わずオウカを見上げると、気付いたオウカが目を逸らしながらも手を差し出してくれた。顔を向けてはくれないけれど、すごく照れていることは分かる。だから少し笑いながらその手を取って立ち上がった。すると、タイミングよく引かれた椅子に驚いて振り返ると、クーロが楽しそうに微笑んでいた。おれとオウカが夫人とラシュドの真似っこをしていると思ったからミシュラ役をやろうと思ったのかもしれない。

「ありがとう、クー」
「うん!」
「あらあら! ねぇ、ラシュド。とってもお似合いなカップルね?」
「ああ。そうだな」

夫人は微笑ましいと言わんばかりに柔らかい表情を浮かべているが、ラシュドは揶揄うような口調だ。現に、ニヤニヤと笑ってオウカを見ている。オウカはラシュドの視線をガン無視しているが、尻尾が少し不機嫌気味に振られている。これは後で揶揄いに行って殴られる展開だな。
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