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第一部
大黒穴
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「へえ、この森の中にもちゃんとした道があったんだね」
辺りを見回しながらアルテアは言った。
「ああ、領主様のおられるところまで続いている」
「そういえば、どうして領主様は村で暮らしていないの?」
道すがらの雑談として、かねてより思っていたことを聞いてみた。
アルゼイドはアルテアの問いに「うーん」と唸る。
「少し特殊なお方でな。村には住めないんだ」
それだけ言って会話を終えてしまった。
それほど興味があったわけでもない。
アルテアは、なんとも煮え切らない父の物言いを不思議に思いながらも
「そうなんだ」と一応の納得を示した。
深い緑に囲まれた道を舗装は黙々と歩いていると【アーカディア山脈】と書かれた看板が目に入った。看板を目にしたアルテアが何気なく父に尋ねる。
「領主様は山に住んでるの?」
「ああ。ここからは少し道が荒れる、気をつけろよ」
父の言葉に従い足元に注意して山道を進む。
親子で他愛ない話をしながら曲がりくねった道をしばらく歩くとやがて森を抜けて視界の開けたところに出た。
どうやら山頂に着いたようだった。そこは苔の生えた岩があちこちに転がっていて、まるで人の侵入を拒むように草木が茂っていた。ぱっと見たところ人の住めるような家や建物もない。
それに標高が高いせいか、霧が立ち込めていて遠くの景色を見ることはできなかった。
こんなところに人が住めるのだろうかと疑問を抱きつつ父の背を追う。
少し進んだところでアルゼイドの足がぴたりと止まったのでアルテアもそれにならい足を止めて彼の隣に並んで立つ。
するとまるで見計らったかのように強い風が吹き抜けて、辺りを覆っていた霧が一斉に払われた。
「は……?」
あまりにも日常から外れた光景に、アルテアから呆けた声が漏れた。
霧が裂けた先、そこには深い夜が落ちていた。それは、まさに深淵とでも言うべく深く巨大な穴だ。
彼らの立つ少し先からはくりぬかれた様に大地が消えていて、その代わりに深い闇が広がっていた。そして闇の中で何かが淡い光を放っている。まるで夜の空に浮かぶ星のように、じわりと闇を照らしている。
「アーカディア大黒穴と呼ばれている」
アルゼイドがその光景につけられた名称を告げた。
「領主様はこの大穴の奥底におられる。落ちると二度と戻って来られんぞ。足元に注意しなさい」
そう言いながら大穴の壁に沿ってらせん状にこしらえられている石階段に足を向ける。アルテアも父の後を追う。アルゼイドの足取りは確かなもので、もう何度もここを訪れていることがわかった。
大穴の内部は壁面から突き出す何かの光で照らされていて思ったよりも暗くなかった。
いったい何の光だろうか。
「魔鉱石だ」
アルテアの胸中を察したようにアルゼイドが静かな声で言った。穴の中は静まり返っているせいか、いつもより父の声が厳粛に感じられる。
「魔鉱石?こんなにたくさん?」
「ここは魔素が濃いからな。何の変哲もない岩石や鉱物でも永い年月をかけて魔素を吸収して魔鉱に変化するんだ」
「それにしたって少し多すぎない?」
魔鉱石とは本来、種類を問わず非常に貴重なもの。武具や魔法具の素材、魔法具の動力源、儀式魔法の媒介などその用途は多岐にわたる。迷宮と呼ばれる特殊な建物や魔素の満ちた特別な場所にしか存在しておらず、その希少性ゆえに市場への流通量も少ないと聞く。
魔素が濃い場所なら魔鉱があっても不思議ではないが、いったい何故これほどの魔素に満ちているのだろうか。
「さっきも言ったが、この場所……というか、ここにおられる方が特別なんだ。ま、説明するより直接お会いしたほうがわかりやすい」
そうやって話をするうちに階段の終わりが見えてその先は洞窟に続いていた。
洞窟の中には魔鉱石が剣山のように生えそろい内部を光で照らしていた。
その幻想的な光景にアルテアは息を呑んだ。
「我がアーカディア領の特産品だ。王に献上したり、たまに行商に卸したりしているぞ」
「野菜や果物ばかり売ってるわけじゃなかったんだね」
「まあな。ただそのせいで少し面倒なことも多いんだがな」
首をかしげるアルテアに、アルゼイドが「ま、それは別の話だ」とだけ言って苦笑した。
洞窟を抜けると出口から少し突き出したところで道は終わっていた。その先には地の底まで続いていそうな奈落が広がっているばかりだった。
「さあ、着いたぞ」
到底目的地とは思えないところでアルゼイドがそう言ったものだから、アルテアは少し困惑しながら問いかける。
「……領主様は?」
アルテアがそう言ったのとほぼ同時に、闇の中から巨大な何かが動く気配を感じた。反射的に穴の中を覗き込むと、下から突き上げてくる突風を顔にもろに浴びて身体が押し戻された。
「うわっ……!?」
危うく尻もちをつきそうになったが持ち直して体勢を整えてから再び穴を覗き込んだ。穴の中から地鳴りのような音が響き、ついで声が聞こえてきた。
「……何用だ、人の子よ」
遠雷を思わせるその声は厳かでありなんとも形容できない神秘があった。
声の主が人間とは一線を画す超常の存在であるということを本能的に理解した。
アルゼイドが一歩、アルテアの前に進み出る。
「閣下にご相談があり、参りました」
「ふむ……。頻発している魔素溜りのことか」
「仰る通りにございます。閣下の慧眼には感服致するほかございません」
領主ことアーカディアがこの世の全てを見通すような声で問題の核心をずばりと言い当てると、特に驚いた素振りもなくアルゼイドが首肯を示した。
領主はこの深い穴の底にあって尚、外──少なくとも領内──で起きている事柄については全て把握しているのかもしれない。
「世辞は良い。原因は我にもわからぬ」
「閣下にも原因がわからぬとなると……由々しき事態ですな」
アーカディアの答えが予想外だったのか、アルゼイドは眉を寄せる。
「案ずるな。原因はわからずとも対処は可能だ」
そう言うと、暗闇の奥から光の玉が泡のようにゆっくりと浮かんできてアルテアたちの足元にふわりと着地した。
「魔素を散らす魔道具だ。いくつか場所をかえて地中に埋めておけば魔素溜りが頻発することはなくなるだろう。効力があらわれるのは少しばかり時を要するが」
それは、首飾りくらいの大きさで、複雑な装飾が施された球状の物体を針が貫いたような形をしていた。数は全部で六個ほどあった。
「閣下のお力添え、感謝いたします」
そう言って礼をするアルゼイドにならい、アルテアも頭を下げる。
アーカディアは「気にするな」と鷹揚に答えてから、ふとアルテアを見て話題をうつした。
「時にアルゼイド、傍らの童子はそなたの倅だな」
見通すようにアーカディアが言う。
自分が話題の中心になるとは思っていなかったアルテアは慌てて居住まいを正した。
「はい。遅ればせながら、ご紹介させていただきたく存じます。我が息子アルテア・サンドロットにございます」
アルゼイドに続いてアルテアも名乗った。
「ご紹介にあずかりました、アルテア・サンドロットでございます」
こういった知識はひどく面倒に感じて深く学ぶことはせず避けてきた。正しい作法かはわからなかったが、自分の中で最大限の礼儀を尽くした。
果たしてこれで良いのだろうかと不安を抑えて相手の反応を待つ。
「良き子を持ったな、アルゼイド」
領主の言葉を聞いて安堵するアルテアの隣で
「ありがたきお言葉」とアルゼイドが恭しく返した。
それから少しばかり考え込むような間があってからまた領主が口を開いた。
「幼き子に受けた儀と礼、我も返さねばなるまいな」
声とともに闇の底で何かが動く気配がして、圧倒的な存在感が迫り出してきた。目の前に山が生えてきたと錯覚するほど巨大だった。
その巨体が魔鉱の淡い光に照らされて顕になる。
「竜……」
目の前の存在の威容にアルテアは息を呑んだ。
竜から感じる底のしれない魔力。果てなき深淵、まさにこの大黒穴を覗き込んでいる感覚だった。先に対峙したアウルベアなど大気に舞う塵に思えてしまうほどの圧力と神性だった。
畏怖、という言葉以外には言い表すことができない。
「いかにも……。人の子らはアーカディア辺境竜伯と呼んでおる」
「失礼ですが、どうして竜が爵位を?」
「当然の疑問であろうな。我がここにおるわけは知っているか?」
アルテアが首を横に振って答えると、アーカディアはゆっくり頷いた後に理由を語ってくれた。
「この大穴は、世界に初めて魔王が降り立った時、魔王の攻撃によって開けられたものだ。魔王は当時の人の子らと協力して退けたのだが……その際に封印の呪を受けて以来、我はここに封じられている。そして月日が経ち、穴を挟んで西側に王国、東側に帝国という国ができてしまった」
そこまで言うと、アーカディアは遠くを見るように目を細めた。
遥か過去を思い出しているのだろうか。
「ここは我が魔素で満ち、資源に富んでおる。ゆえに人はそれを欲し、王国と帝国で争いが起きた。幾度となく繰り返される争いに終止符をうったのが当時の勇者であった。勇者は我に王国、帝国それぞれから爵位を与えることで、この大穴を折半しようと打診をしたのだ。勇者はこの世界の守護者のようなもの。誰も強く反抗することはできなかった。そして、争いが止むならと我もそれに同意したのだ」
ふう、と短く息を吐くアーカディアに、アルテアが謝意を示しながら言う。
「ありがとうございます。事情はおおよそつかめました。だから父さんが領主代行として領地を治めているんですね」
合点がいった顔でアルテアが言うと、竜が「うむ」と頷き、父が補足してくれた。
「まあ、そういうことになるな。何か問題が起きたときはこうしてお力添えをいただくこともあるんだ」
そう説明を受けたことでこれまでアルテアが疑問に思っていたことの謎が解けた。その後アルテアたちはアーカディアに礼を言って大黒穴をあとにした。穴を抜けて山頂に戻ると辺りは夕焼け色に染まっていた。
「意外と時間がかかってしまったな……」
沈みかけた太陽を見てアルゼイドがぽつりとこぼした。
日が落ち夜になると通り慣れた道とはいえ危険度は増す。 アルテアたちは足をはやめて屋敷へと戻った。
辺りを見回しながらアルテアは言った。
「ああ、領主様のおられるところまで続いている」
「そういえば、どうして領主様は村で暮らしていないの?」
道すがらの雑談として、かねてより思っていたことを聞いてみた。
アルゼイドはアルテアの問いに「うーん」と唸る。
「少し特殊なお方でな。村には住めないんだ」
それだけ言って会話を終えてしまった。
それほど興味があったわけでもない。
アルテアは、なんとも煮え切らない父の物言いを不思議に思いながらも
「そうなんだ」と一応の納得を示した。
深い緑に囲まれた道を舗装は黙々と歩いていると【アーカディア山脈】と書かれた看板が目に入った。看板を目にしたアルテアが何気なく父に尋ねる。
「領主様は山に住んでるの?」
「ああ。ここからは少し道が荒れる、気をつけろよ」
父の言葉に従い足元に注意して山道を進む。
親子で他愛ない話をしながら曲がりくねった道をしばらく歩くとやがて森を抜けて視界の開けたところに出た。
どうやら山頂に着いたようだった。そこは苔の生えた岩があちこちに転がっていて、まるで人の侵入を拒むように草木が茂っていた。ぱっと見たところ人の住めるような家や建物もない。
それに標高が高いせいか、霧が立ち込めていて遠くの景色を見ることはできなかった。
こんなところに人が住めるのだろうかと疑問を抱きつつ父の背を追う。
少し進んだところでアルゼイドの足がぴたりと止まったのでアルテアもそれにならい足を止めて彼の隣に並んで立つ。
するとまるで見計らったかのように強い風が吹き抜けて、辺りを覆っていた霧が一斉に払われた。
「は……?」
あまりにも日常から外れた光景に、アルテアから呆けた声が漏れた。
霧が裂けた先、そこには深い夜が落ちていた。それは、まさに深淵とでも言うべく深く巨大な穴だ。
彼らの立つ少し先からはくりぬかれた様に大地が消えていて、その代わりに深い闇が広がっていた。そして闇の中で何かが淡い光を放っている。まるで夜の空に浮かぶ星のように、じわりと闇を照らしている。
「アーカディア大黒穴と呼ばれている」
アルゼイドがその光景につけられた名称を告げた。
「領主様はこの大穴の奥底におられる。落ちると二度と戻って来られんぞ。足元に注意しなさい」
そう言いながら大穴の壁に沿ってらせん状にこしらえられている石階段に足を向ける。アルテアも父の後を追う。アルゼイドの足取りは確かなもので、もう何度もここを訪れていることがわかった。
大穴の内部は壁面から突き出す何かの光で照らされていて思ったよりも暗くなかった。
いったい何の光だろうか。
「魔鉱石だ」
アルテアの胸中を察したようにアルゼイドが静かな声で言った。穴の中は静まり返っているせいか、いつもより父の声が厳粛に感じられる。
「魔鉱石?こんなにたくさん?」
「ここは魔素が濃いからな。何の変哲もない岩石や鉱物でも永い年月をかけて魔素を吸収して魔鉱に変化するんだ」
「それにしたって少し多すぎない?」
魔鉱石とは本来、種類を問わず非常に貴重なもの。武具や魔法具の素材、魔法具の動力源、儀式魔法の媒介などその用途は多岐にわたる。迷宮と呼ばれる特殊な建物や魔素の満ちた特別な場所にしか存在しておらず、その希少性ゆえに市場への流通量も少ないと聞く。
魔素が濃い場所なら魔鉱があっても不思議ではないが、いったい何故これほどの魔素に満ちているのだろうか。
「さっきも言ったが、この場所……というか、ここにおられる方が特別なんだ。ま、説明するより直接お会いしたほうがわかりやすい」
そうやって話をするうちに階段の終わりが見えてその先は洞窟に続いていた。
洞窟の中には魔鉱石が剣山のように生えそろい内部を光で照らしていた。
その幻想的な光景にアルテアは息を呑んだ。
「我がアーカディア領の特産品だ。王に献上したり、たまに行商に卸したりしているぞ」
「野菜や果物ばかり売ってるわけじゃなかったんだね」
「まあな。ただそのせいで少し面倒なことも多いんだがな」
首をかしげるアルテアに、アルゼイドが「ま、それは別の話だ」とだけ言って苦笑した。
洞窟を抜けると出口から少し突き出したところで道は終わっていた。その先には地の底まで続いていそうな奈落が広がっているばかりだった。
「さあ、着いたぞ」
到底目的地とは思えないところでアルゼイドがそう言ったものだから、アルテアは少し困惑しながら問いかける。
「……領主様は?」
アルテアがそう言ったのとほぼ同時に、闇の中から巨大な何かが動く気配を感じた。反射的に穴の中を覗き込むと、下から突き上げてくる突風を顔にもろに浴びて身体が押し戻された。
「うわっ……!?」
危うく尻もちをつきそうになったが持ち直して体勢を整えてから再び穴を覗き込んだ。穴の中から地鳴りのような音が響き、ついで声が聞こえてきた。
「……何用だ、人の子よ」
遠雷を思わせるその声は厳かでありなんとも形容できない神秘があった。
声の主が人間とは一線を画す超常の存在であるということを本能的に理解した。
アルゼイドが一歩、アルテアの前に進み出る。
「閣下にご相談があり、参りました」
「ふむ……。頻発している魔素溜りのことか」
「仰る通りにございます。閣下の慧眼には感服致するほかございません」
領主ことアーカディアがこの世の全てを見通すような声で問題の核心をずばりと言い当てると、特に驚いた素振りもなくアルゼイドが首肯を示した。
領主はこの深い穴の底にあって尚、外──少なくとも領内──で起きている事柄については全て把握しているのかもしれない。
「世辞は良い。原因は我にもわからぬ」
「閣下にも原因がわからぬとなると……由々しき事態ですな」
アーカディアの答えが予想外だったのか、アルゼイドは眉を寄せる。
「案ずるな。原因はわからずとも対処は可能だ」
そう言うと、暗闇の奥から光の玉が泡のようにゆっくりと浮かんできてアルテアたちの足元にふわりと着地した。
「魔素を散らす魔道具だ。いくつか場所をかえて地中に埋めておけば魔素溜りが頻発することはなくなるだろう。効力があらわれるのは少しばかり時を要するが」
それは、首飾りくらいの大きさで、複雑な装飾が施された球状の物体を針が貫いたような形をしていた。数は全部で六個ほどあった。
「閣下のお力添え、感謝いたします」
そう言って礼をするアルゼイドにならい、アルテアも頭を下げる。
アーカディアは「気にするな」と鷹揚に答えてから、ふとアルテアを見て話題をうつした。
「時にアルゼイド、傍らの童子はそなたの倅だな」
見通すようにアーカディアが言う。
自分が話題の中心になるとは思っていなかったアルテアは慌てて居住まいを正した。
「はい。遅ればせながら、ご紹介させていただきたく存じます。我が息子アルテア・サンドロットにございます」
アルゼイドに続いてアルテアも名乗った。
「ご紹介にあずかりました、アルテア・サンドロットでございます」
こういった知識はひどく面倒に感じて深く学ぶことはせず避けてきた。正しい作法かはわからなかったが、自分の中で最大限の礼儀を尽くした。
果たしてこれで良いのだろうかと不安を抑えて相手の反応を待つ。
「良き子を持ったな、アルゼイド」
領主の言葉を聞いて安堵するアルテアの隣で
「ありがたきお言葉」とアルゼイドが恭しく返した。
それから少しばかり考え込むような間があってからまた領主が口を開いた。
「幼き子に受けた儀と礼、我も返さねばなるまいな」
声とともに闇の底で何かが動く気配がして、圧倒的な存在感が迫り出してきた。目の前に山が生えてきたと錯覚するほど巨大だった。
その巨体が魔鉱の淡い光に照らされて顕になる。
「竜……」
目の前の存在の威容にアルテアは息を呑んだ。
竜から感じる底のしれない魔力。果てなき深淵、まさにこの大黒穴を覗き込んでいる感覚だった。先に対峙したアウルベアなど大気に舞う塵に思えてしまうほどの圧力と神性だった。
畏怖、という言葉以外には言い表すことができない。
「いかにも……。人の子らはアーカディア辺境竜伯と呼んでおる」
「失礼ですが、どうして竜が爵位を?」
「当然の疑問であろうな。我がここにおるわけは知っているか?」
アルテアが首を横に振って答えると、アーカディアはゆっくり頷いた後に理由を語ってくれた。
「この大穴は、世界に初めて魔王が降り立った時、魔王の攻撃によって開けられたものだ。魔王は当時の人の子らと協力して退けたのだが……その際に封印の呪を受けて以来、我はここに封じられている。そして月日が経ち、穴を挟んで西側に王国、東側に帝国という国ができてしまった」
そこまで言うと、アーカディアは遠くを見るように目を細めた。
遥か過去を思い出しているのだろうか。
「ここは我が魔素で満ち、資源に富んでおる。ゆえに人はそれを欲し、王国と帝国で争いが起きた。幾度となく繰り返される争いに終止符をうったのが当時の勇者であった。勇者は我に王国、帝国それぞれから爵位を与えることで、この大穴を折半しようと打診をしたのだ。勇者はこの世界の守護者のようなもの。誰も強く反抗することはできなかった。そして、争いが止むならと我もそれに同意したのだ」
ふう、と短く息を吐くアーカディアに、アルテアが謝意を示しながら言う。
「ありがとうございます。事情はおおよそつかめました。だから父さんが領主代行として領地を治めているんですね」
合点がいった顔でアルテアが言うと、竜が「うむ」と頷き、父が補足してくれた。
「まあ、そういうことになるな。何か問題が起きたときはこうしてお力添えをいただくこともあるんだ」
そう説明を受けたことでこれまでアルテアが疑問に思っていたことの謎が解けた。その後アルテアたちはアーカディアに礼を言って大黒穴をあとにした。穴を抜けて山頂に戻ると辺りは夕焼け色に染まっていた。
「意外と時間がかかってしまったな……」
沈みかけた太陽を見てアルゼイドがぽつりとこぼした。
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