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第一部
推理
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「見事なまでに粉々だな」
アルテアが粉々に砕け散った魔道具の破片を手に取った。美しい稜線を描く額には深い皺が刻まれている。
「一応聞いておくけど、経年劣化によって自然に壊れた可能性はあると思うか?」
「あり得ません」
ターニャが断じる。氷のような不変の美貌にわずかに険しさが混じっている。
「理由は?」
「この魔道具はアーカディア様が造られたものです。多くの魔道具の性能はそれを造ったものの能力に比例します。アーカディア様の魔道具……すぐ破損するなどあり得ないでしょう」
「だよな」
聞くだけ聞いてみただけだというようにアルテアが同意する。
竜種は伝承に伝わる始祖吸血鬼や神狼、始まりの魔法使い、魔女と並び最強の一角とされている。
その竜種であるアーカディアが造ったものがこうも容易に壊れるとは思えなかった。
「……魔獣?」
白髪の少女が首を傾げて、可能性をぽつり。
「それもないだろうな」
今度はアルテアが即座に否定。
「手前味噌な話だが、ここには俺が隠蔽の魔法をかけていた。魔獣に見破れるとも思えないし、魔獣なら魔道具を壊した後にわざわざ埋め直すなんてことはしないだろう」
掘り返した木の根元に目をやりながら滔々と話す。その説明を聞いてイーリスが小さな唸り声を上げて考え込むような素振りを見せた。何か重要なことに気づいたのかもしれない。そう思ったアルテアはイーリスに問いかける。
「どうした、何か気づいたか?」
「てまえ……み……?って、なに」
予想外にどうでもいい質問に力が抜けて思わずがくっと前のめりなるアルテア。それでも真剣に少女の問いかけに答える。
「手前味噌というのは、まあ、自分で自分を褒める時や自分のことを自慢する時に使う言葉だ」
「……なるほど」
いかにも納得したように少女がこくんと大きく頷いて、アルテアの方にずいっと体を寄せる。
小動物さながらの俊敏さでアルテアの懐に潜り込み、さっと手を持ち上げて彼の頭の上へぽんと置いて撫で始める。
密着しているせいで少女の体温を直に感じ、加えて甘い香りが鼻腔をくすぐってなんとも言えない気分になる。
「……何をしてるんだ」
「褒めてる……」
簡潔かつ明快な回答。だが意図はわからない。
「……なんで?」
「テマエミソは、自分で褒める。アルは、褒められたい。から……私が褒める」
「なるほど」
今度はアルテアが大きく頷く。
何かを放棄したような若干投げやりな声。
「ありがとう。俺はとても満足したよ、充分だ」
「そう?いつでも言って……ね?」
感謝を告げるとイーリスが名残惜しそうにしながらそっと手を退けて身を引いた。
それまで感じていた体の温もりも一緒に去っていったが、撫でられた頭にだけはまだそれが残っているような気がした。
何気なく自分の手を頭に乗せ、余韻を確かめるような手つきでポンポンと数回、自分で頭を叩いた。
「もしや、まだ物足りないのでは?」
横からからかう声が飛んでくる。不敵な笑みを浮かべるターニャを見て、しまったとばかりに顔をしかめるアルテア。イーリスが俄然やる気に満ちる様子。
「……足りない?」
「いや、充分だ」
アルテアはぴしゃりと言って咳払いを挟む。
「話を戻そう」
場違いに緩み過ぎた空気を引き締めるため、やや厳しい声音をつくる。
「魔道具が壊れた。自壊ではなく、何者かに破壊されていたんだ。そして破壊したあとに隠蔽工作をしていることから、その何者かは魔獣の類ではなくある程度の知能を持った存在ということになる」
「そうなると可能性が高いのは人間ですね。まあ当然と言えば当然の結論ですが……」
最初からわかってはいたが認めたくなかった。そんな様子でターニャが言った。それはアルテアも同じ気持ちだった。
村人にしろ外部の者にしろ、悪意を持った人物が近くに潜んでいるというのは気分が良くない。
「壊して……意味、あるの……?」
少女の不思議そうな面持ち。
思わず何でも教えてあげたくなる可憐さだった。
「理由ならいくらでも探せるさ。例えば……実は村が嫌いだから騒ぎを起こして、めちゃくちゃにしたいとか。騒ぎを起こしてその間に魔鉱石を盗み出すつもりだとかな。この村……というか王国は少し特殊な立ち位置だから他にも理由は色々思いつくけど、何にせよ動機はこの際どうでもいい。まずは犯人を捕まえることだ」
「どうやって、見つける……?」
「痕跡を探しましょう。足跡、魔力の残滓、髪の毛、その他の残留物。何かしらの痕跡が残っているはずです」
もっともな疑問を抱くイーリスにターニャが鷹揚に答える。まるで生徒がわからないところを優しく教える先生のよう。
「そうだな、少し手分けして探してみるか。イーリスは俺と行こう」
アルテアが同意して少女の方に足をすすめた矢先。カッと白い閃光が空気を切り裂いて森のどこかで爆音が響き、灼熱のうねりが三人を襲った。
アルテアが粉々に砕け散った魔道具の破片を手に取った。美しい稜線を描く額には深い皺が刻まれている。
「一応聞いておくけど、経年劣化によって自然に壊れた可能性はあると思うか?」
「あり得ません」
ターニャが断じる。氷のような不変の美貌にわずかに険しさが混じっている。
「理由は?」
「この魔道具はアーカディア様が造られたものです。多くの魔道具の性能はそれを造ったものの能力に比例します。アーカディア様の魔道具……すぐ破損するなどあり得ないでしょう」
「だよな」
聞くだけ聞いてみただけだというようにアルテアが同意する。
竜種は伝承に伝わる始祖吸血鬼や神狼、始まりの魔法使い、魔女と並び最強の一角とされている。
その竜種であるアーカディアが造ったものがこうも容易に壊れるとは思えなかった。
「……魔獣?」
白髪の少女が首を傾げて、可能性をぽつり。
「それもないだろうな」
今度はアルテアが即座に否定。
「手前味噌な話だが、ここには俺が隠蔽の魔法をかけていた。魔獣に見破れるとも思えないし、魔獣なら魔道具を壊した後にわざわざ埋め直すなんてことはしないだろう」
掘り返した木の根元に目をやりながら滔々と話す。その説明を聞いてイーリスが小さな唸り声を上げて考え込むような素振りを見せた。何か重要なことに気づいたのかもしれない。そう思ったアルテアはイーリスに問いかける。
「どうした、何か気づいたか?」
「てまえ……み……?って、なに」
予想外にどうでもいい質問に力が抜けて思わずがくっと前のめりなるアルテア。それでも真剣に少女の問いかけに答える。
「手前味噌というのは、まあ、自分で自分を褒める時や自分のことを自慢する時に使う言葉だ」
「……なるほど」
いかにも納得したように少女がこくんと大きく頷いて、アルテアの方にずいっと体を寄せる。
小動物さながらの俊敏さでアルテアの懐に潜り込み、さっと手を持ち上げて彼の頭の上へぽんと置いて撫で始める。
密着しているせいで少女の体温を直に感じ、加えて甘い香りが鼻腔をくすぐってなんとも言えない気分になる。
「……何をしてるんだ」
「褒めてる……」
簡潔かつ明快な回答。だが意図はわからない。
「……なんで?」
「テマエミソは、自分で褒める。アルは、褒められたい。から……私が褒める」
「なるほど」
今度はアルテアが大きく頷く。
何かを放棄したような若干投げやりな声。
「ありがとう。俺はとても満足したよ、充分だ」
「そう?いつでも言って……ね?」
感謝を告げるとイーリスが名残惜しそうにしながらそっと手を退けて身を引いた。
それまで感じていた体の温もりも一緒に去っていったが、撫でられた頭にだけはまだそれが残っているような気がした。
何気なく自分の手を頭に乗せ、余韻を確かめるような手つきでポンポンと数回、自分で頭を叩いた。
「もしや、まだ物足りないのでは?」
横からからかう声が飛んでくる。不敵な笑みを浮かべるターニャを見て、しまったとばかりに顔をしかめるアルテア。イーリスが俄然やる気に満ちる様子。
「……足りない?」
「いや、充分だ」
アルテアはぴしゃりと言って咳払いを挟む。
「話を戻そう」
場違いに緩み過ぎた空気を引き締めるため、やや厳しい声音をつくる。
「魔道具が壊れた。自壊ではなく、何者かに破壊されていたんだ。そして破壊したあとに隠蔽工作をしていることから、その何者かは魔獣の類ではなくある程度の知能を持った存在ということになる」
「そうなると可能性が高いのは人間ですね。まあ当然と言えば当然の結論ですが……」
最初からわかってはいたが認めたくなかった。そんな様子でターニャが言った。それはアルテアも同じ気持ちだった。
村人にしろ外部の者にしろ、悪意を持った人物が近くに潜んでいるというのは気分が良くない。
「壊して……意味、あるの……?」
少女の不思議そうな面持ち。
思わず何でも教えてあげたくなる可憐さだった。
「理由ならいくらでも探せるさ。例えば……実は村が嫌いだから騒ぎを起こして、めちゃくちゃにしたいとか。騒ぎを起こしてその間に魔鉱石を盗み出すつもりだとかな。この村……というか王国は少し特殊な立ち位置だから他にも理由は色々思いつくけど、何にせよ動機はこの際どうでもいい。まずは犯人を捕まえることだ」
「どうやって、見つける……?」
「痕跡を探しましょう。足跡、魔力の残滓、髪の毛、その他の残留物。何かしらの痕跡が残っているはずです」
もっともな疑問を抱くイーリスにターニャが鷹揚に答える。まるで生徒がわからないところを優しく教える先生のよう。
「そうだな、少し手分けして探してみるか。イーリスは俺と行こう」
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