両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

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いつまでも空を見上げていたかった。
だがそういうわけにもいかないことは周りの状況が教えてくれていた。

いつの間に戻ってきてのたか虫や獣、鳥の気配を感じる。
どこかで魔獣の咆哮が轟いた。
少年は名残惜しそうに視線を下ろして、
残った未練を吐き出すようにほっと息をついた。

「そろそろ状況を確認しておかないとな」

アルテアのその一言でターニャや冒険者たちも意識を切り替える。

「では手分けして周囲を調査しましょう。私たちは残党がいないかを確認します」

クレイグが鷹揚に頷いて仲間の二人にてきぱきと指示を出し始めた。
それに倣いアルテアたちも作業を分担した。

ターニャには捕縛していた異端教徒の生存確認———生きている可能性はかなり低いのだが———
と魔獣の動向を調べてもらうことになった。

森には普段、魔獣除けの魔術が施されているので村に魔獣が入り込むことはないが、
先ほどの大爆発で施されていた魔術が解除されているかもしれない。

加えて魔獣は自らへの危険や脅威に対して非常に敏感だ。
あれほどの大爆発、森中の魔獣を刺激してしまったに違いなかった。
かなり気が立っているやつも多いだろう。
放っておくと最悪、森を抜けて村に魔獣の群れが押し寄せてくるということもあり得る。
だからこそターニャに状況を確認してもらい、可能なら魔術を修復、
そして危険な魔獣を間引いてもらう必要があった。

アルテアたちは魔道具と森の動植物の被害確認を行うことになった。
ターニャと相談し各々の分担を決めた。
歩きだそうとするアルテアにイーリスが小走りで駆け寄って隣に並び、自然な動作で手を繋いだ。
アルテアは一瞬その繋がれた手に目をやるも、何も言うことなく視線を前に戻して歩き出した。
 
今まで確認した全ての場所で魔道具は破壊されていた。
先ほどの魔法陣からの爆発のせいだ。
魔道具を隠してある全ての箇所に爆発の痕跡があった。

あの仮面の男は魔道具を壊すという目的と共に、
万が一に備えて自分が離脱する際の罠として使用したということだ。

正体は依然として知れないが、なかなか慎重な男のようだった。
まんまと仮面の男にしてやられた事実に忸怩たる思いを抱きながらもアルテアは森を歩いた。

その最中、異端教徒のひとりの遺体を見つけた。爆発の衝撃で随分離れたところまで飛ばされていたようだ。
普通なら骨も残さず灰になっていそうなところだが、

遺体はあの爆発の中にあってなお、奇跡的とでもいうほど原型を保っていた。
そしてその遺体の顔を見てハッとなる。それは村人に扮していた異端教徒だった。

彼とはアルテアも少し話をしたことがあった。ある一件以来、村の大人たちには一歩引かれた態度を取られるアルテアだったが、彼は気さくに話かけてくる珍しい大人のひとりだった。

かつての彼の見せた気さくな笑顔と、仮面と黒装束に身を包んだ無機質な異端としての姿。
いったいどちらが本当の姿だったのだろう。そんなことをふと思ったがアルテアにはわからなかった。

もし異端としての姿が彼の真実なのだとしても、アルテアの心は少し痛んだ。
人を殺すのは初めてではない。以前の世界ではそれこそいやというほど殺してきた。

自分が死なないためには殺さなければならない。
ましてや彼は敵として現れた。

殺されても文句は言えないだろうと思うし、
彼は爆発に巻き込まれて死んだのであって自分が直接手を下したわけでもない。

それでも、顔も名前も知っている人が死んだという事実はアルテアの心に小さな影を落としていた。

「異端って何なんだろうな」

自分でも予期していなかった言葉が口から漏れた。
いったい自分は何を言っているんだろうと驚く。

自分はこの男の死にわずかながら影響を受けているのかと困惑する。
そしてまた声が聞こえた。

捨てろ。
もう一人の自分が暗い声で言う。
この世界に対する情は捨てろ。
繋がりも、希望も期待も喜びも悲しみも。
全てを捨ててしまえばいい。
そうして研ぎ澄まされたお前こそが真実なんだから。

深い沼に引きずり込まれそうな感覚に陥って、咄嗟に頭を振って声を頭の中から追いやった。
隣に並ぶイーリスが心配そうに自分の方へ顔を向けていることに気が付いて慌てて言葉を続けた。

「なんでもない、忘れてくれ」

「……だいじょうぶ?」

「ああ、少し考え事をしていただけだ。さあ、行こう」

イーリスに死体を見せ続けるのも躊躇われ、すっぱりと話を終わらせて再び歩き出した。
遠くで魔獣の断末魔のようなものが聞こえた。

ターニャがやったのだろうと思った。
言葉にならないうめき声がまたひとつ。
それから逃げるように歩く速度をわずかに上げる。

そう。殺すしかない。
今までも、これからも。
自分はそれしか知らないのだから。
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