両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

無敵だよ

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夜の森。

異形のモノがひしめく中で少年はひとり、地面に蹲りながら自分の不甲斐なさを痛感していた。

事の首謀者を前にして何も出来なかった。

悔しさや不甲斐なさが胸の中を占めていた。

地面に何度も拳を打ち付けるアルテアに、見かねたハクがあえて厳しい声をかける。


「落ち込んでおる暇などないぞ。イーヴルの現出は既に始まっている」


「……ああ……わかってる。行こう」


アルテアは顔を上げて立ち上がり何度か深呼吸して思考を切り替える。

ハクの言う通り、落ち込んでいる暇はない。

いま自分がやらなければならないことは村を守ることである。

その決意が薄れぬように強く拳を握りこみ、

森の暗闇のその先を見据えて村へ向けて走り出した。



自分のやるべきことが定まったおかげか、冷静さを取り戻してきた。

そこでアルテアは先程聞けなかった問いを口にした。


「なあ、特異点というのはなんだ?」


「なんだお主、そんなことも知らんかったのか」


コホン、と咳をするように一拍置いてからハクが解説を始める。


「特異点というのは、言わば魔素溜りの究極系だ。通常、魔力の素たる魔素は常に世界を循環しておる。その流れに淀みが発生すると天脈や地脈が乱れ、魔素がひとつの地点に集中してしまう。そして集まった魔素が一定の量を越えると魔力的な歪みが生じる。その歪みの極大値点を魔力特異点と呼んでいるのだ。特異点では大小様々な魔力障害が発生する。時にそこはあらゆる物理的法則、魔力的法則が通用しない魔境と化し、因果律すら破壊する。まあ、お主ら人間も血液の流れが滞ると身体に様々な障害が出るだろう?それと似たようなものだ」



「人間の体ではそんな超スケールの不具合は起きないけどな……」


とんでもないスケールの話にアルテアはじゃっかん呆れ気味に相槌を打つ。


「まあ、なんとなくわかったよ。……なら、今起こっているイーヴルの現出も魔素の淀みが原因なのか?」



「そうだの。イーヴルの現出ーー異界化は特異点で起きる魔力障害の最たる例だ。天脈や地脈の乱れ……極大の魔力の歪みにより、隔てられている世界の境界が曖昧になりその地は異界へと変貌する。ここは負の念が溜まりやすいという話だし、相乗効果だろうな。それを目印にイーヴルがどんどん湧いてくる」



「じゃあ、魔素の流れを正常に戻せばイーヴルの現出は止まるってことだな?」



「理屈で言えばそうなる。だが魔素の流れを矯めるのは口で言うほど簡単ではない。特殊な能力が必要なのだ。お主、体内の血液の流れを変えろと言われてもすぐにはできぬだろ?」



「それは、確かにそうだが……ならどうすればいい?」



「簡単だ。現出したものをひたすら滅してやればいい。
現出は無限ではないからな」


「……わかった、それでいこう」


あまりに力押しの解決策に呆一瞬閉口するも、アルテアは方針を決めた。

魔素の流れを矯めるという経験のない方法を試みるよりも確実なことは間違いない。


そうしてしばらく森を駆けてアルテアたちは村へと到着した。

木々をかき分けて飛ぶように森から抜け出ると、変わり果てた村の光景が目に飛び込んできてアルテアは絶句する。


ところどころで家が倒壊して燃え上がり黒い煙を吐いている。

そしてその家の下には、炎に呑まれて焼け焦げた人。肉の焼ける独特な臭いが鼻をついた。

そして炎に呑まれたものばかりではない。


おそらくイーヴルにやられたのだろう、体が半分に千切れたものや、原型がないほど肉塊に成り果てたもの、圧殺されて地面に赤黒い染みだけを残しているもの。


心臓の鼓動が大きく、速くなっていた。

他の音は何も聞こえないのに、鼓動の音だけはまるで耳元で鳴っているみたいにうるさかった。


「前だけを見ろ」


「……ああ」


アルテアは硬い声で応じて、なるべく地面に転がるそれらを視界に映さないようにして止まっていた足を進めた。

もしその中に親しい誰かの姿を認めてしまったら、きっと正気を保つことは難しいだろうと思った。

ひとまずは自分の屋敷を目指そう。

そう考えたところで、


「ぎゃああああ!」


不意にくぐもった悲鳴が聞こえた。

声の聞こえた方へ駆けつけると、倒壊した家屋からイーヴルがぬるりと現れた。

火の海の中から出てきたそいつは全身が赤い血に濡れていて、まさに悪魔のようだった。


蒼い瞳の奥に静かに揺れる炎のような光を湛えて、アルテアはその怪物を射るように睨んだ。

アルテアたちの敵意を察知して、以前に戦ったのとはまた違う、人型のイーヴルが殺意をたぎらせた。


「グオ゛オ゛オ゛ォォ……!!」


殺意の雄叫びが衝撃となって燃え盛る炎を揺らした。

アルテアは魔力を励起させて体を強化する。


「わかっていると思うが……この一体に時間をさいている余裕はないぞ」


「ああ、即行で片をつける」


一瞬の睨み合い。

先の動いたのはアルテアだった。

魔力で強化した脚で地を蹴ると、地面に蜘蛛の巣状の亀裂がはしった。

イーヴルからは彼が消えたようにしか見えなかっただろう。


雷のような速さで怪物の懐に接近して剣を振り抜くように手刀を放つ。

遅れて反応した怪物は手刀の進路上に丸太のような剛腕を挟み込むが、

アルテアはそれに全く気をとめず、さらに腕に力をいれて勢いを加速させた。


それはさながら名剣の一閃だった。

魔力で強化された手刀がイーヴルの強靭な外皮に覆われた腕を斬り飛ばして、全く勢いを殺すことなく身体に抉り込んだ。

そのまま怪物の体内で魔法を発動させる。


纏稲妻ソル・コルレール


風系統の中級雷撃魔法が炸裂した。

イーヴルの体内を稲妻が蛇のように駆け巡り内側から身体をズタズタに引き裂いていく。

暴れ狂う稲妻がイーヴルの体を食い破るように、内側からその肉体を焼き尽くした。

以前なら苦戦していだろう相手だが、ハクとの修行で力を伸ばしたアルテアの敵ではなかった。


「……ふん」


アルテアが、肉が焦げ付いたにおいに嫌そうに顔を少しだけ歪めた。

イーヴルの消滅を確認して再び屋敷に向けて走り出したところで、眼前からバリバリとガラスが砕けるような空間を引き裂く音が鳴り響き、数体のイーヴルが姿をあらわした。

アルテアは立ち止まることなく、逆に速度を上げてイーヴルの集団に突っ込んでいく。


「邪魔だ……!」


駆けながら低い声で叫び、目の前に現出したイーヴルを風の魔法で細切れにした。

そのまま速度を殺すことなく、アルテアは村を駆けていった。


地面に転がる死体にはなるべく目をやらないようにしながらアルテアは村を疾走する。辺りには不思議なほど村人の姿は見えず、また気配も感じない。

無事に逃げおおせているのか、それともーー。


最悪の結末から目を背けて探知の魔法を発動させると、サンドロッド家の屋敷に多数の生命反応、またそこを目指して移動する複数の反応を感知した。

自分のいる場所近くにも反応があった。

どうやら無事に逃げおおせているものもいるようだと少し胸を撫で下ろしたところで、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「アルくんっ!!」


「ノエル……!」


金がかった茶髪の少女ーーノエルが叫びながら駆け寄り、アルテアの胸に飛び込んで顔を埋めた。


「無事だったんだね……!」


「ああ……お前も無事で良かった。それにしてもよく無事だったな……」


「うん……冒険者の人たちが助けてくれて……」


ノエルが顔を上げて後ろ見やる。

アルテアも釣られてノエルの視線の先に目をやると、複数の冒険者が村人の集団を先導しながら駆け寄ってきた。


「おい、嬢ちゃん!ひとりで走り出したら危ないだろ!」


「あう……ご、ごめんなさい……アルくんの魔力を感じたから、つい……」


どうやらノエルは集団から飛び出してひとりでこちらまで走ってきたようだ。

確かに今の状況では軽率な行動で、男がノエルを叱るのも無理はなかった。

近寄ってきた冒険者の男がノエルの行動をを軽く諌めると、ついでアルテアの方に顔を向けた。


「ああ……友達を見つけたのか」


男はノエルの急な行動の理由が腑に落ちたのか、納得したような顔で頷いた。

アルテアも男の方に顔を向ける。


「ノエルを……皆を守ってくれてありがとうございます」


「なに、礼には及ばないさ。それも冒険者の仕事のうちだからな。……それはそうと、ここは危険だ。長話はあとにして、ひとまず君も俺たちと一緒に行こう」


「いや、俺は一緒には行けません。まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない……俺は村を一通り見て回ります」


「君はまだ子供だろう。そんなこと認められるわけがーー」


「アルテア様……」


あまりに無謀だとアルテアをたしなめようとした男が、村人の誰かがこぼした呟きを聞いて言葉を切り、同じように反芻する。


「アルテア、様……?」


その言葉を契機に、集団の中で瞬く間に騒ぎが起こった。


「おお、アルテア様……!」

「生きておられたか!」

「どうか、私たちをお助け下さい……」


村人たちは口々にアルテアの名前を呼んだ。

森に現れたイーヴルを倒し村を守った一件を契機に、アルテアは村人たちと積極的に関わりを持つようになり、村に起きた事件や問題事を解決し、また魔獣退治にも精を出すようになった。

そのおかげか、村のものにとってアルテアはアルゼイドと同じく村の英雄だった。


アルテアが村の人と関わるようになってからまだわずかばかりの間しかないが、それでも紛れもなく、それは彼自身が築いた確かな絆だった。

だからこそ失いたくなかった。


「心配してくれてありがとうございます。でも、俺は行きます」


強い意志を宿した蒼い瞳がまっすぐに冒険者の男に向けられた。

その目と、背後から上がる希望に満ちた歓声に押されて、男はやれやれとため息をついた。


「俺はこの村には最近来たばかりだが、それでも君の話はよく聞いた。どうやら噂に違わぬ人物らしい。……彼らは俺たちにまかせて、気兼ねなく行くといい」


「ありがとう。皆を頼みます」


アルテアは自分に抱きつくノエルの頭を何度か撫でてから、優しく体を離した。

ノエルが翠緑の瞳を潤ませる。


「アルくん……」


「一通り見て回ったら……俺もすぐに屋敷に行くよ」


「わ、私も一緒に……!」


「いや」


自分も一緒に行くと食い下がろうとする少女を諌めるように、アルテアは首を振った。


「お前は強い魔法が使える。だから冒険者の人達と一緒に村の皆を屋敷に避難させてくれ。あそこならきっと父さんかターニャがいるから安全なはずだが……万が一の時は、その力で皆を守ってやってくれ」


「でも、それじゃアルくんが……」


ノエルがぎゅっとアルテアの服を掴む。

青白くなるほど握りしめられた拳を見て、

彼女がどれだけ心配してくれているのか、それが痛いほどわかった。

だからアルテアは彼女を安心させるためにわざと軽い調子で言う。


「大丈夫だよ。俺はヒーローだからさ」


アルテアはニコリと笑った。

ノエルは溢れようとする涙を必死で押しとどめて、少年に応えるように笑顔をつくって頷いた。


「……わかった。でも無茶だけはしないでね……」


「安心しろ。ヒーローは無敵だよ」


少年の笑顔に送り出しされてノエルたちは冒険者に先導されて屋敷へと走っていった。

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