両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

久しぶり

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「お主、ヒーローと言うにはちと根暗が過ぎると思うがのう」


皆が去っていくのを見届けるアルテアの横で、ハクが間の抜けたツッコミを入れた。

ふわふわと宙に浮かぶ本を横目にアルテアは鼻を鳴らす。


「柄じゃないのはわかってる。

でもここを守れるなら何にだってなってやるさ」


「ふっ……心意気は悪くないな」


「お前にも手伝ってもらうからな」


「案ずるな。言われんでも手を貸してやるわ。お主が死んでしまっては手間が増えるからな」


「期待してるぞ」


本心とも照れ隠しともつかぬ言葉を受けて、アルテアは再び走り出した。




アルテアはイーヴルを狩りながら逃げ遅れたものがいないか村中を探して回り、ついでに武器屋に行って長剣を一本かりうけた。

村の中央広場にさしかかったあたりで、奥の方から激しい戦闘音が聞こえてきた。


誰かがイーヴルと戦っているのだ。

音のする方へ急いで向かうと、三人組の冒険者パーティーが牛の顔のような仮面をつけたイーヴルを相手取っていた。

見知った冒険者だった。


「行ったぞ、アーガスっ!」


「おおよ!」


アーガスと呼ばれた金髪の冒険者がイーヴルに長剣を力いっぱい振り下ろした。

鋼のぶつかる重い音に反して、アーガスの攻撃はイーヴルの腕の肉に僅かにくい込んでいるだけだった。


「くそがっ!!」


イーヴルは空いた方の手でアーガスを攻撃する。

アーガスを引き裂こうとイーヴルの魔手が迫るが、アーガスの体に当たる直前でぴたりとその動きを止めた。

イーヴルの腕を氷が覆い、氷が瞬時に全身に広がりイーヴルを凍りつかせた。


「クレイグ!!」


アーガスが叫ぶのとほぼ同時に、待っていたと言わんばかりに大剣を担いだ男が跳躍、落下のエネルギーを加えて大剣を振り下ろした。

氷像と化したイーヴルにもはや攻撃を避ける術はない。

大剣の攻撃を受けたイーヴルの身体は粉々に砕け散り、追撃に放たれた炎の魔法がパラパラと宙を舞う破片を呑み込み跡形もなく焼却した。

見事という他ないコンビネーションだった。


「ったく、おせーんだよエレナ!もう少しで俺がミンチになるとこだったじゃねぇか!」


アーガスが魔法を放った女性に向かって叫んだ。


「あら、完璧なタイミングだったと思うけど?一緒に凍らせなかっただけ感謝しなさいよ」


エレナと呼ばれた、バカでかい帽子をかぶったまさに魔法使いといった様相の女性が強気な態度で返す。


「落ち着けよ、二人とも。敵はまだそこら中にいるんだぞ」


大剣を担いだ男、クレイグが二人を諌める。


「……そうだな。それにしてもよ、調査依頼で来たってのにとんだイレギュラーだぜ……ったくよ」


ぼりぼりと頭をかきながらアーガスがぼやくと、それを受けてクレイグが答えた。


「確かにな。だがまあ、これも調査のうちといえばそうなるだろう。どうせまた異端の徒が一枚噛んでいるに決まっているからな」


「はっ……そういう解釈もありか。まぁ、この村のやつらには世話になってる……見捨ててとんずらこくわけにはいかねぇしな」


「そうよ。あんたこの状況で依頼だなんだと気にしてるなんて……相当な人でなしね」


「お前、俺の言ったこと聞いてた!?見捨てる訳にはいかないってちゃんと言ったろ!」


本気なのか冗談なのか判別しづらい、吐き捨てるようなエレナの物言いにすかさずアーガスがツッコミを入れた。

そうして気の緩んだ瞬間を狙ったように、空間に亀裂がはしった。

亀裂から新たなイーヴルが現出し、三人に襲いかかった。


「きゃあっ!」


最も近くにいたエレナがイーヴルの凶刃に腕を裂かれた。

尚もイーヴルは彼女に追撃を見舞おうした。


「しまっーー!」


「エレナっ!」


アーガスとクレイグが咄嗟にエレナを庇うように動いたのより少しはやく、アルテアが風のように割って入った。


イーヴルの身体を一太刀で両断。

続けて幾重もの剣閃がはしった。

上下に分かれたイーヴルの身体が賽の目状に切り刻ざまれ、


火よ燃えろイグニス


地面から立ち上った炎の柱に呑まれて消し炭に変わった。

アルテアは、ぱらぱらと舞う火の粉を払いつつ冒険者に声をかける。


「大丈夫ですか?」


アルテアが安否を問うと、先程の光景を見て呆然としていた三人もはっとなった様子でそれに応じた。


「あ、ああ……はい。助かりました。アルテア様」


クレイグが礼儀正しく頭を下げた。


「お久しぶりですね、クレイグさん。以前にも言いましたが、敬語でなくていいですよ」


アルテアがそう言うとアーガスがざっくばらんに砕けた口調で話しかける。


「助かったぜ、坊主!相変わらずめちゃくちゃ強えな!」


「ええ……本当に助かったわ。また改めてお礼をさせてちょうだい。

それに二人も……ごめんなさい。油断してたわ」


エレナが申し訳なさそうに頭を下げた。


「油断してたのは俺達も同じだ。悪いのはお前だけじゃねぇさ……」

 

「ああ、気を引き締め直さないとな」


アーガスとクレイグもそう言って反省を示した。それを見て、やはり良いチームだなとアルテアは思って、少しだけ笑みがこぼれた。


「そのことですが、御三方には村人の避難と守護を最優先にしてほしい。いま俺の屋敷に皆が集まっています」


「んじゃあ、イーヴルは誰が狩るっていうんだ?」


アーガスが当然の疑問を口にした。


「俺がやります」


アルテアが間髪入れずに強い口調で応じるのを見て、アーガスが呆れたように首を振った。


「おいおい、坊主が強えのは知ってるけどよ……それはいくら何でも無茶が過ぎるってもんだ。ここは俺たちも協力して一体ずつ確実に潰していくべきだ」


彼の言うことは最もだった。常識的に考えれば大量のイーヴルをひとりで狩り尽くすのは不可能に近い。

それでもアルテアは譲らなかった。


「これからもっと強力なイーヴルが現出するかもしれません。そうなる前に村の皆を安全な場所に避難させたいんです」


真っ直ぐに三人の目を見つめた。

強い眼差しで訴えかけられ答えに窮するアーガスとクレイグに代わり、エレナが口を開いた。


「冒険者は基本的に実力主義。強い者の意見は尊重するわ。そしてあなたは私たちよりも強い。あなたの言う通りにしましょう」


「おいおい、エレナ……そいつは」


異をとなえようとしたアーガスをクレイグが制する。


「……アーガス。エレナも負傷してしまった。治療しないことにはこれまでのようには戦えまい。加勢するにせよ、まずはエレナを治療してからだ。そのために一旦、屋敷へ向かおう」


「……わーったよ。これ以上ごねたら俺がガキみたいじゃねぇかよ」


二人に言われてアーガスもアルテアの提案を受け入れた。


「ありがとうございます。皆を頼みます」


「ああ、まかせとけ。坊主も死ぬんじゃねぇぞ。また手合わせしてぇからよ!」


ばん!と背中を強く叩かれ、それに押されるようにしてアルテアは再び走り出した。


ーーーーーーーーーー


およそ村を時計周りに1周するほど走ったところで、アルテアはまた見知った顔を見つけた。

金髪の子供が、後ろに倒れる女性と子供たちを庇うようにイーヴルに立ち向かっている。


「アッシュ!!」


アルテアは彼の名を叫んで、彼の眼前に迫るイーヴルに猛追した。

走り込んだ勢いをそのままに抜剣して一刀に切り伏せた。


「す、すげえ…」


アッシュがアルテアの剣さばきに感嘆の声を漏らした。


「この人は?」


アルテアは聞きながら倒れている女性を一瞥して即座に状態を把握する。

腹を大きく抉られ血が流れすぎていた。

すぐに治療しないと危険な状態だった。


「ぼ、冒険者の姉ちゃんだ……俺たちをここまで守って連れてきてくれたんだけど……俺たちをかばって化け物に……!」


アッシュが己の無力を嘆くように、大粒の涙を零した。そんなアッシュを慰めるようにアルテアは強い口調で断言する。


「大丈夫、死なせないさ。屋敷まで行けばターニャと母さんが治してくれる。屋敷までは俺が運ぼう。お前ら、ついてこれるか?」


女性を担ぎながら問うと、アッシュ達は強い眼差しで頷き返した。


「よし、行くぞ!」


走り出したところで、その眼前の空間がひしゃげたように歪んでアルテアたちの行く手を阻んだ。歪みの隙間から血が滴るように瘴気が垂れこみ、大地を黒く染めていく。その瘴気の中から濃密な死の気配を纏った異形の怪物が姿をあらわした。


巨人のような体躯に四本の腕を持ち、頭部には体躯に相応しい巨大な牛の頭蓋が生えていた。眼孔の奥には虚無を思わせる闇が広がり、そこから時折、声ともつかぬ重く低い風鳴りのような音を発している。


「我 欲スル 汝ラノイノチヲ」


牛の頭蓋が小刻みに振動して頭の中に声が響いた。

それだけで魂が引き抜かれてしまいそうな程に魔に満ちた声だった。


「うっ……あ……あ……」


子供たちの絶望に染まった声が耳朶を打った。


「ほぅ。人語を解するとは、どうやらイーヴルの中でも上級の……強力な個体のようだな」


「上級か……よくわからんがかなり面倒な相手のようだな」


ハクの分析を受けて、あまりのタイミングの悪さにアルテアが吐き捨てる。

まるで自分たちの動きを把握しているかのような絶妙の瞬間。

眼前の怪物に意識をはらいながらもちらりと後ろを確認すると、子供たちは地べたに座り込んで人形のように放心していた。


アッシュだけがかろうじて、歯を食いしばりながら恐怖に抗っていた。

アルテアは僅かにアッシュの方へ顔を向けながら強く語りかけた。


「俺がこいつ引きつける。その間にお前たちは先に逃げろ。この女の人はお前が運べ。子供たちは……殴ってでも正気を取り戻させるんだ」


「あ、アル兄……」


「大丈夫、お前ならできる」


動けぬ子供たちと女性冒険者を庇いながら戦える相手ではない。そう瞬時に判断し、女性に軽量化の魔法をかけてアッシュに託そうとして、


「その必要は無い」


遠雷のような声が響いた。

一陣の風が吹き抜けたかと思うと、大きな背中が視界いっぱいに映し出された。


「父さん……!」


アルテアが驚き叫ぶと、アルゼイドがそれに頼もしく応じた。


「待たせたな」


アルゼイドはそう言ってニカッと笑った。


本能で強敵の出現を察知したのか、それまで沈黙を保っていたイーヴルが戦闘態勢に入る。剛腕を振り上げ、アルゼイドめがけて力いっぱい振り下ろす。


「父さん!」


父に危険を伝えつつ、訪れるだろう破壊の余波から皆を守ろうと身構えたアルテアだったが、予想に反して衝撃に襲われることは無かった。


ズシン!と低い音が地面を揺らす。

音の方に目をやると先程まで眼前で振り上げられていたイーヴルの剛腕が転がっていた。

いつの間にかアルゼイドの手には愛用の大剣が握られている。

意識を他にさ向けていたとはいえ、いつ斬ったのかまるでわからなかった。


イーヴルは腕を切り落とされたことなど歯牙にもかけず残った腕で強烈な拳撃を繰り出すがアルゼイドは難なく大剣の腹でそれを受け止めた。

凄まじい力の衝突が火花を散らして大気を震わせた。


イーヴルが腕を押し込もうと更に力を込める。その圧力でアルゼイドの足元がひび割れ地面がクレーターのように陥没した。

それでもアルゼイドはそびえ立つ山のようにびくりともしなかった。


「ほぉ……」


珍しくハクの口から感嘆が漏れた。


「こいつは俺が片付ける。あとは任せてお前は屋敷へ退け」


聞いたものに絶対的な信頼と安心を感じさせる声だった。


「……負けるなよ!」


アルテアは子供たちを引き連れて駆け出した。

アルテアたちの離脱を察知してアルゼイドが剣に力を込めて薙ぎ払うと、イーヴルの巨体が紙切れのように飛ばされ宙を舞った。

イーヴルは背中からコウモリのような黒翼を生やし自身を失速させて体勢を持ち直した。


「招かれざる来訪者よ……せめて安らかな眠りを与えてやろう」


悠然と剣を構え直し、アルゼイドが厳かに告げた。
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