両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第二部

死合い

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鋭い殺気に意識が覚醒した。
アルテアは瞬時に体を起こして枕元に置いてあるハクを手に取り、ベッドから飛び退いて衣装ケースの陰に身を潜めた。

「なんだなんだ、朝っぱらから穏やかではないのう……」

ハクの間の抜けた声が静かな部屋に響く。殺気は明らかに自分に向けて放たれているものだが攻撃らしい攻撃はやってこない。
そして少しして、殺気を発しているのが自分のよく知る人物だということに気がついた。いったいどういうわけか考えてみるがわからない。
立ち上がって警戒を保ちつつ窓際へ寄り、庭を見下ろした。

「なんのつもりだ──父さん」

殺気を放っている張本人──庭に静かに佇むアルゼイドに、アルテアは固い声で問い詰めた。アルゼイドはそれに答えることなく、ただ静かに「降りてこい」と言った。
大きな声ではなかったが、有無を言わせぬ圧力があった。

「なにやらわからぬが……ただ事ではないな」

ハクの言う通りだ。全く状況が飲み込めないがただ事ではないと判断し、アルテアはすぐさま庭へと降りて父に対面する。背に大剣を背負うアルゼイドはこれまで見たことのない冷徹な顔をしていて、全身から闘気を滾らせている。片手には大剣とは別に長剣を携えていた。
今まで感じたことのない父の修羅とでもいうべに顔を目にして、アルテアの背中にぞくりと寒気が走った。
アルゼイドが手を伸ばし、手に持った長剣をアルテアに差し出す。

「剣を取れ、アル」

「あ……ああ。なんだ、稽古なのか?それにしては穏やかな雰囲気じゃないけど……」

剣を受け取りそう尋ねる。
アルゼイドは険しい顔を変えることなく、ぶっきらぼうに言う。

「稽古ではない。死合え」

「は?死合……?」

父から発せられたとは信じがたい言葉に、ぽかんとなるアルテア。次の瞬間、視界から、アルゼイドの姿が掻き消えた。

目の端で白い閃光の煌めきを捉えるのと同時、電撃的な速度で体が反応し、手渡された剣を抜く。
鋼と鋼がぶつかり合った。
雷鳴のような剛音が周囲に轟き、巨大な鉄塊が衝突したような衝撃がアルテアを襲った。
衝撃に吹き飛ばされないよう、踏ん張りをきかせてその場に踏みとどまる。

「ほう……」

隣に浮くハクの呑気な声をいやに遠く感じた。ギリギリと火花を散らす交差した剣を挟み、それだけで人を殺せそうなほど鋭い殺気を放つ父の顔がある。

「父さん、いったいなんの真似──」

アルテアがなおも問い詰めようとしたところでアルゼイドが周囲に一瞬だけ目を配り、冷たく言い放つ。

「場所を変えるか」

交える剣の圧力が一段増した。
一瞬だけふわりと風に乗ったような感覚のあと、アルテアの視界の天地が逆転してアルゼイドが──地面が急速に遠のいた。

「なっ──!?」

何が起きたかわからず周囲に視線を走らせる。どんどん小さくなっていく屋敷、村、そして森。眼下に広がる領地の景色を見て、自分が弾き飛ばされたということにようやく気付いた。
人間業ではない。凄まじいまでの膂力にアルテアは戦慄する。
矢のように風を切って飛んでいくアルテアは、アーカディア平野に突入して少ししてからようやく勢いを失った。
受け身をとって緑々しい草木が並ぶ平野に着地する。

「ただの剣の一振りで随分と飛ばされたものだ。お主の父は……本当に人間か?常識外れだぞ」

どうやって追ってきたのか、隣に現れたハクが呆れたように言う。
「お前もな」と心の中でツッコミをいれつつアルテアも頷き返した。

「すさまじいな。理由はさっぱりわからんが……父さんとやり合うなら今のうちになんとか態勢を──ん?」


そうして周囲を見渡すと、キラリと朝の空に輝くひとつの点を認めた。
ぐんぐんとこちらに近づいてくる。

ズドォン!!

眼前の大地が爆ぜた。アルテアは飛び散る地面の破片と粉塵から身を守りながら決して視線を外さない。立ち込める粉塵の中にはアルゼイドがいた。
足元の地面は着地の衝撃で大きく陥没してクレーターができていた。空から降ってきたということは屋敷から平野まで跳躍したということだろうか。
常軌を逸した身体能力にアルテアは絶句する。そんな息子をよそにアルゼイドはゆっくりと辺りを見渡して静かに呟いた。

「……ここなら周囲の被害も気にせずにすむ」

アーカディア平野はその名の通り古竜アーカディアの魔力が大地に浸透している。そのため他の場所よりも地面や木々の強度は高く、少々の破壊なら三日とかからずに再生する。

「本気なんだな」

アルテアも父が本気であるということを悟る。この場所を選んだことが何よりの証左であった。

「ああ。俺は……今のお前が旅に出ることには反対だ。息子をむざむざ死地に送ることはできない。どうしてもというなら……俺を倒し力を示せ」

アルゼイドはそう告げて大剣を構え、魔力を練り上げる。

「魔素──魔力に満ちた世界で魔力を持たないということは、魔力に対する抵抗が無いということだ。それはもはや何の装備もなしに常に業火に晒され続けているようなもの。日常の生活を送るだけでも想像を絶する苦痛が伴うはずだ。そんなお前に外は危険すぎる。……いま俺に勝てぬようでは、遅かれ早かれどこかで必ず命を落とすだろう」

そう。今のアルテアには魔力がない。
それがアルゼイドが頑なに反対する理由である。

「父さんが心配するのはわかる。でも、俺は行く。俺の成すべきことを成すために」

アルテアが決意を込めた眼差しで告げる。アルゼイドはそれを否定するかのように、右手に持つ大剣を大きく横に振るった。

竜巻でも起きたのかと錯覚するような激風が吹き荒れ、遠くに見える山の切っ先が剣圧で両断される。
山の一部がずるずると横滑りしていく光景にアルテアは息を呑む。

「心無き者が振るう力は悪。そして力無き者の大志はただの夢物語──戯言だ」

緑に囲まれた穏やかな草原で、両者の激しい意志が激突する。

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