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第20話 誰かのために (ホロ視点)

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 用を足した事で若干、余裕を取り戻した俺は、トイレから寝床であるクッションの位置まで移動した。と、言ってももちろんケージ内だ。



 プディから少し距離は取れているし、相手からこちらを攻撃しないと分かってきたことから、俺は少し表情を緩め、足を崩し、体を丸めた。



 やっぱり俺は普通の猫だ。
 こんな緊迫した状況でも、欠伸も出て来るし、また眠気もやってくる。


 俺は、呆れたように白い目でこちらを見るプディに、視線を向けた。


『で、話を戻すけど、俺に、一体何ができるというんだ? まあ見た通り普通の猫だ。俺にできる事は限られる。……っ、俺には自分の力では、このケージから出る事も出来ないし……、まあ臆病なことも知られてしまったから分かるだろうが、ケージから出れたとしてもこの家から抜け出すことも困難だ。こんな俺に何ができると言うんだ?』

 欠伸を交えながらゆっくり喋る俺を興味深そうに見つめたプディは、機敏な動きで俺の懐まで滑り込むように、寝床のクッション内まで距離を詰めた。

 若干引いた俺だが、プディは、そんな俺に擦り寄り、また俺の頬を舐める。

 緊迫した空気の中にも人懐っこいプディの行動に、だんだん緊迫感もなくなってきた。

『まあ、先程までの、あなたでも心掛け次第では人の心も動物の心も救う事は無理なことではないわ。ちょっとした温もり、思い、表情や、言葉そのものに、人々は救われたりするものなの』

 再び俺に擦り寄り、頬を俺の顔に寄せたプディは優しく口元を緩めた。
『ねっ? こうした温もりだけで温かいでしょ?』

 確かにそうだ。
 女性から擦り寄られてることで恥ずかしさもあるし、雪への罪悪感もある。
 だけど、肌の温もりは少し、冷えてきていた俺の心にも火を灯している気がした。


 だが、やはり浮気では無いが、雪への罪悪感も半端なく、俺は自分の寝床から立ち上がり、プディから、再び距離をとった。

『冷たいわね』
 そう言いながら小悪魔の様に、目を細め笑うプディ。

『まあ、いいわ。話を戻すけど、前のあなたでは、人の心を救い、パワーを貯めるなんて、どのくらい時間がかかるか分からない。だから、少し私のパワーを分けてあげたの。普通の猫はパワーを受け取るなんて無理があったんだけど貴方は反応があった。受け取れている筈よ』

 そうプディが告げた時、俺の前足の小指の横部分が、再び熱くなった気がした。

『何が、出来るようになったと言うんだ?』

 俺はそう言った後、自分の見た感じは変わらない右の前足を、自分の顔の近くまで持っていき、違和感のある小指の横をペロリと舐めた。

『夜になれば分かるわよ』


 そう言い、プディは俺の目をジッと見つめた。
 そして、何かブツブツ呟くと、再び空間が、違和感ある様に若干歪み、パーツが合わさる様に、元通りの色を取り戻した。
 
 止まっていた、幸太郎とデンも何もなかったかのように動きを取り戻した。

 その様子を見た俺は、安心し、表情を緩ませ体の力を抜いた。



 夜になれば分かるとは、どういうことだ?


 自分の事しか考えていない俺に何ができると言うんだ。



 


 俺が誰か他の奴の為に……。

 何かできる事が、あると言うのだろうか……。


 

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