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第34話 交差する夢と現実 前編(ホロ/比奈視点)
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<ホロ視点>
男性の夢が画面に流れるのと並行して、男性の記憶が数秒頭に流れ込んできた。
男性……。
記憶が見えた時、俺はとても申し訳ない気持ちになった。
俺が男性だと思い込んでいた人物は女性であることが分かった。
大好きだった彼を事故で亡くし、そこから崩れる様に人生が変わってしまった彼女。
もともと、少し心が弱かった。
優しすぎたからか周りの事ばかり考えて自分の事は後回しにしてしまう、そんな性格だったようだ。
そんな彼女を救い出した彼の死は彼女には重たすぎた。
それは彼女が普通に日常生活を送ることすらどうでも良くなるほどに……。
画面には生きてく気力を無くした彼女が、
俺の脳内には彼との幸せだった日々から彼が居なくなってしまった絶望の日々への容赦ない彼女の記憶が……。
俺は全然、心の準備が出来ていなかった。
だけど彼女の思いで、心臓と耳の奥が痛い。
俺は画面の中に飛び込んだ。
**************
<比奈視点>
リビングに布団を敷いてくれた幸太君は私を残しベッドルームに入って行ってしまった。
本当はもっと色んな話しをしたかったし、デン君の力を借りてでも何か進展がないか期待していた。
少しは意識してくれていたとは思う、だけどやはり私の事は妹の様にしか思えないのかもしれない。
その時、ホロちゃんやプディが居るケージの方から大きな音がして、びっくりした私は布団から出てケージの方に近寄った。
ケージの中ではプディ、ホロちゃんそれぞれが少し離れた寝床で眠っているようだっだ。
「何の音だったんだろう? 私の気の所為かな?」
ケージの中の様子を見るとプディは気持ちよさそうに眠っていることが分かるが、ホロちゃんが一瞬だが顔を歪めているように見えた。
心配になった私はそっとケージを開けて起こさない様にホロちゃんを触った。
ホロちゃんの身体は一瞬ピクっと反応し、また寝息を立てている。
気のせいかな?
だけど私は何だが気になって、敷いてもらった布団をケージの側に寄せてホロちゃんとプディが見えるのを確認し電気を消して再び布団に入った。
**************
<ホロ視点>
画面の中に入るといつもフワフワした不思議な感覚になる。
足が地についてない感じと言うか、まあ実際浮いている訳ではなくちゃんと地に足はついているが……。
彼女の夢の中は、雨の日の湿度が高いようなジメっとした空気に包まれていて、匂いも独特だった。
部屋の中は画面の外で見た時の様に、やはり綺麗とは言えない。
俺はぼんやりと焦点が合っていない彼女の側に近づいた。
彼女はブツブツと何か呟いている。
小さく低い声だった。
「しんどい、しんどい、嫌だ、嫌だ」
そう呟いている彼女には俺の事は見えてはいるが認識する余裕も無い様だった。
彼女の気持ちが分かっても、こんな状態の彼女にどうやって光を与えろと言うんだ。
その時、彼女の夢の空間がぐにゃりと歪んで、気がつくと彼女の部屋から別の場所に移ったようだった。
彼女の夢が別の夢に場面変換したという事か?
俺もそのまま一緒にその夢に移ったという事なのか?
確かに寝ていると、色んな夢を一晩に何個も見る事があるよな?
そんなような感じだろうか?
俺達は外に居て、彼女は素手で穴を掘っていた。
土は少し湿っていて硬かった。
彼女の他に人は居ない。
俺と彼女だけ。
また彼女の心の声が聞こえてきた。
『動けない……。前に進みたい。穴を掘らなきゃ。掘るんだ』
彼女の手は土で汚れていた。
彼女の容姿も先ほどの夢の様にボロボロだ。
だけど、少しだけ表情が明るい。
気温も前の夢のような嫌な空気ではなくほんのり暖かい。
彼女の指は傷だらけになっていた。
俺も彼女の隣に立った。
穴はまだ少ししか掘られていない。
彼女の言っていることの意味は全然分からなかった。
確かに夢を見ていると訳が分からないことを考えたりするよな?
穴を掘ることにどんな意味があるというのだろう?
彼女は何かを探しているのか?
だけど先ほどの夢と違い、かなり前向きな夢だ。
先程の夢の時はどうしようかと思ったがこの彼女なら俺にもできる事があるかもしれない。
俺は彼女の側に行き、彼女の掘っている穴の中に入り前足で一掻きした。すると彼女の手が止まり俺を見た。
彼女の顔はクマが出来ており肌も荒れていた。
だけど俺と目が合った時、とても柔らかく笑ったのだ。
その優しい笑顔に、俺は雪の笑顔を思い出した。
彼女の目にとても小さいが光が宿った気がした。
彼女は再び手を動かし始めた。
俺も一緒になって穴を掘る。
彼女に、前向きになり始めた彼女に何か、俺にもできる事はないかと……。
土は固く穴は中々掘れない。
小石や小さなガラスの破片、土だけではなくそういうものも混じっている。
なんだが人生の中での彼女に襲い掛かる日々の災難を、石やガラスの破片で表している様なそんな錯覚に陥った。
彼女の手も俺の前足も傷だらけ、穴は中々大きくならない。
次第に彼女の穴を掘る勢いが少しずつゆっくりになって来た。
彼女の顔は汗と泥でまみれている。
先程までの明るい表情は消え、息も切れ切れになっており苦しそうに顔を歪ましている。
また彼女の心を闇が支配しそうになる。
『穴が大きくならない。
もっと……、もっと奥深く掘らなければならないのに……。
どんなに頑張っても、厳しい現実に太刀打ちできないんだ。
こんな社会の中で、自分なんかが生きていけない』
彼女の声に俺も飲まれそうになる。
どうしたらいい?
俺は無我夢中で穴を掘った。
血の混ざった土が空へと掻き出されては落ちていった。
**************
<比奈視点>
再び大きな音がして、私は慌てて布団をまくり上げ起き上がり注意深く辺りを見渡した。
電気が消えているので部屋は暗い。
出窓のカーテンを寝る前に閉めていなかったからか月明かりが部屋の中を照らしていて、少し自分の周りが見えた。
ケージの中ではホロちゃんが眠ったままなのに一生懸命前足を犬掻きの様に動かしている。
顔を歪めながら休むことなく前足を動かしているのだ。
眠っているんだよね?
どうしたんだろう?
痙攣? って、いう訳でもないよね?
目をつぶっているけど実は起きているのかな?
私はケージを開けてホロちゃんを起こさない様にそっと身体を撫でた。
凄く体が熱い。
猫は体温が熱いというけど、熱すぎる気がする。
大丈夫かな?
幸太君に知らせるべき?
どうしよう……。
分からないけど私はホロちゃんを撫で続けた。
それでもまだ前足をひっきりなしに動かし続けている。
もがいているかの様な心配になる程の前足の動き、私は動き続ける前足にそっと触れた。
その時幸太君の部屋の扉が開いた。
「どうした?」
幸太君の声。良かった。
「ホロちゃんの様子がおかしいの。身体熱いし、どうしよう? 病院つれて行ったほうが良いんじゃないかな?」
慌てた様子で話す私に幸太君は少し困った顔をした。
「ホロはあんまり寝相が良くないんだ。寝言も良く言うし」
そう言って幸太君は私の側まで来てホロちゃんを見た。
「まあ初めは俺も心配して朝まで様子を見に行ったりしてたけど、次の日の朝はケロっとしてんだよ。体温ももともと高いし。早く寝ろよ? 昨日雨に濡れているんだし、比奈ちゃんの方が風邪をひくよ?」
そう言い残し再び部屋に入って行った。
だけど私はやっぱり心配で、ピクピク動くホロちゃんを撫で続けた。
その時、薄っすら目を開けたプディは再び丸くなった。プディは少し笑っている様な気がした。
男性の夢が画面に流れるのと並行して、男性の記憶が数秒頭に流れ込んできた。
男性……。
記憶が見えた時、俺はとても申し訳ない気持ちになった。
俺が男性だと思い込んでいた人物は女性であることが分かった。
大好きだった彼を事故で亡くし、そこから崩れる様に人生が変わってしまった彼女。
もともと、少し心が弱かった。
優しすぎたからか周りの事ばかり考えて自分の事は後回しにしてしまう、そんな性格だったようだ。
そんな彼女を救い出した彼の死は彼女には重たすぎた。
それは彼女が普通に日常生活を送ることすらどうでも良くなるほどに……。
画面には生きてく気力を無くした彼女が、
俺の脳内には彼との幸せだった日々から彼が居なくなってしまった絶望の日々への容赦ない彼女の記憶が……。
俺は全然、心の準備が出来ていなかった。
だけど彼女の思いで、心臓と耳の奥が痛い。
俺は画面の中に飛び込んだ。
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<比奈視点>
リビングに布団を敷いてくれた幸太君は私を残しベッドルームに入って行ってしまった。
本当はもっと色んな話しをしたかったし、デン君の力を借りてでも何か進展がないか期待していた。
少しは意識してくれていたとは思う、だけどやはり私の事は妹の様にしか思えないのかもしれない。
その時、ホロちゃんやプディが居るケージの方から大きな音がして、びっくりした私は布団から出てケージの方に近寄った。
ケージの中ではプディ、ホロちゃんそれぞれが少し離れた寝床で眠っているようだっだ。
「何の音だったんだろう? 私の気の所為かな?」
ケージの中の様子を見るとプディは気持ちよさそうに眠っていることが分かるが、ホロちゃんが一瞬だが顔を歪めているように見えた。
心配になった私はそっとケージを開けて起こさない様にホロちゃんを触った。
ホロちゃんの身体は一瞬ピクっと反応し、また寝息を立てている。
気のせいかな?
だけど私は何だが気になって、敷いてもらった布団をケージの側に寄せてホロちゃんとプディが見えるのを確認し電気を消して再び布団に入った。
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<ホロ視点>
画面の中に入るといつもフワフワした不思議な感覚になる。
足が地についてない感じと言うか、まあ実際浮いている訳ではなくちゃんと地に足はついているが……。
彼女の夢の中は、雨の日の湿度が高いようなジメっとした空気に包まれていて、匂いも独特だった。
部屋の中は画面の外で見た時の様に、やはり綺麗とは言えない。
俺はぼんやりと焦点が合っていない彼女の側に近づいた。
彼女はブツブツと何か呟いている。
小さく低い声だった。
「しんどい、しんどい、嫌だ、嫌だ」
そう呟いている彼女には俺の事は見えてはいるが認識する余裕も無い様だった。
彼女の気持ちが分かっても、こんな状態の彼女にどうやって光を与えろと言うんだ。
その時、彼女の夢の空間がぐにゃりと歪んで、気がつくと彼女の部屋から別の場所に移ったようだった。
彼女の夢が別の夢に場面変換したという事か?
俺もそのまま一緒にその夢に移ったという事なのか?
確かに寝ていると、色んな夢を一晩に何個も見る事があるよな?
そんなような感じだろうか?
俺達は外に居て、彼女は素手で穴を掘っていた。
土は少し湿っていて硬かった。
彼女の他に人は居ない。
俺と彼女だけ。
また彼女の心の声が聞こえてきた。
『動けない……。前に進みたい。穴を掘らなきゃ。掘るんだ』
彼女の手は土で汚れていた。
彼女の容姿も先ほどの夢の様にボロボロだ。
だけど、少しだけ表情が明るい。
気温も前の夢のような嫌な空気ではなくほんのり暖かい。
彼女の指は傷だらけになっていた。
俺も彼女の隣に立った。
穴はまだ少ししか掘られていない。
彼女の言っていることの意味は全然分からなかった。
確かに夢を見ていると訳が分からないことを考えたりするよな?
穴を掘ることにどんな意味があるというのだろう?
彼女は何かを探しているのか?
だけど先ほどの夢と違い、かなり前向きな夢だ。
先程の夢の時はどうしようかと思ったがこの彼女なら俺にもできる事があるかもしれない。
俺は彼女の側に行き、彼女の掘っている穴の中に入り前足で一掻きした。すると彼女の手が止まり俺を見た。
彼女の顔はクマが出来ており肌も荒れていた。
だけど俺と目が合った時、とても柔らかく笑ったのだ。
その優しい笑顔に、俺は雪の笑顔を思い出した。
彼女の目にとても小さいが光が宿った気がした。
彼女は再び手を動かし始めた。
俺も一緒になって穴を掘る。
彼女に、前向きになり始めた彼女に何か、俺にもできる事はないかと……。
土は固く穴は中々掘れない。
小石や小さなガラスの破片、土だけではなくそういうものも混じっている。
なんだが人生の中での彼女に襲い掛かる日々の災難を、石やガラスの破片で表している様なそんな錯覚に陥った。
彼女の手も俺の前足も傷だらけ、穴は中々大きくならない。
次第に彼女の穴を掘る勢いが少しずつゆっくりになって来た。
彼女の顔は汗と泥でまみれている。
先程までの明るい表情は消え、息も切れ切れになっており苦しそうに顔を歪ましている。
また彼女の心を闇が支配しそうになる。
『穴が大きくならない。
もっと……、もっと奥深く掘らなければならないのに……。
どんなに頑張っても、厳しい現実に太刀打ちできないんだ。
こんな社会の中で、自分なんかが生きていけない』
彼女の声に俺も飲まれそうになる。
どうしたらいい?
俺は無我夢中で穴を掘った。
血の混ざった土が空へと掻き出されては落ちていった。
**************
<比奈視点>
再び大きな音がして、私は慌てて布団をまくり上げ起き上がり注意深く辺りを見渡した。
電気が消えているので部屋は暗い。
出窓のカーテンを寝る前に閉めていなかったからか月明かりが部屋の中を照らしていて、少し自分の周りが見えた。
ケージの中ではホロちゃんが眠ったままなのに一生懸命前足を犬掻きの様に動かしている。
顔を歪めながら休むことなく前足を動かしているのだ。
眠っているんだよね?
どうしたんだろう?
痙攣? って、いう訳でもないよね?
目をつぶっているけど実は起きているのかな?
私はケージを開けてホロちゃんを起こさない様にそっと身体を撫でた。
凄く体が熱い。
猫は体温が熱いというけど、熱すぎる気がする。
大丈夫かな?
幸太君に知らせるべき?
どうしよう……。
分からないけど私はホロちゃんを撫で続けた。
それでもまだ前足をひっきりなしに動かし続けている。
もがいているかの様な心配になる程の前足の動き、私は動き続ける前足にそっと触れた。
その時幸太君の部屋の扉が開いた。
「どうした?」
幸太君の声。良かった。
「ホロちゃんの様子がおかしいの。身体熱いし、どうしよう? 病院つれて行ったほうが良いんじゃないかな?」
慌てた様子で話す私に幸太君は少し困った顔をした。
「ホロはあんまり寝相が良くないんだ。寝言も良く言うし」
そう言って幸太君は私の側まで来てホロちゃんを見た。
「まあ初めは俺も心配して朝まで様子を見に行ったりしてたけど、次の日の朝はケロっとしてんだよ。体温ももともと高いし。早く寝ろよ? 昨日雨に濡れているんだし、比奈ちゃんの方が風邪をひくよ?」
そう言い残し再び部屋に入って行った。
だけど私はやっぱり心配で、ピクピク動くホロちゃんを撫で続けた。
その時、薄っすら目を開けたプディは再び丸くなった。プディは少し笑っている様な気がした。
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