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第三章 再会、幼馴染の変貌
第25話 ショウという名の店員 (リュウ視点)
しおりを挟むベリックが最近機嫌が良い。
周りのことをあまり好きではないが当たり障りなく付き合っている俺と違って周りに当たり散らしていると言われていた乱暴者だったベリックの様子がここ数週間で急に変わった。
大きく変わった訳ではないが、イライラする様子も減り、愛想ではない笑顔も時折見せるほどの変わり様だった。
それは他人に全く興味がない俺すらも気がついてしまう程の変化だった。
ベリックは能力値も俺程ではないがある程度高く、俺と唯一対等に会話できる相手でもあった。
俺は俺に気に入られようと擦り寄ってくる相手なんて気持ち悪くて関わりたくもねー。
乱暴者で好き勝手に振る舞うベリックとの方が楽だった。
乱暴者と言ったって別に誰彼構わず暴力を振るうという訳じゃねーし、ただ怪力な自分の力が上手く扱えないだけだった。
自分の能力をうまく扱えていないことが恥ずかしかったのかベリックはその事を周りには隠している様だった。
だけど過去に同じ悩みを抱えていた俺はその事に気づいていた。
俺の思い通りにならない俺自身の力。能力が高すぎる為の悩みという奴だ。
が俺はその悩みは幼い頃に解決していた。
俺の中の能力、俺のいう事をきいてくれず暴れ回る俺の能力も、なぜかショウに触れていると俺自身が冷静になる事ができた。
俺自身の中にある、黒い様な物凄い渦のようなパワーもショウに触れたり触れられたりする事で、その渦が消えていく。
そんな事、あるはずは無いのに、実際そうだったんだ。
ショウはきっと俺にとっての精神安定剤なのだと幼い時の俺はそう思っていた。
幼い頃、そんな風に俺はショウが側にいる事で自分の能力をコントロールすることを可能にした。
実際、10歳の時、ショウと離れ離れにされて、この黒い渦がまた膨らんでしまいそうな気はした。
コントロールはできていたが自分の中の黒い渦はショウと離れ、会えなくなってからその期間が増えていくたびドンドンドンドン膨れ上がっていった。
話が逸れてしまったがベリックもここ数週間で自分の能力をコントロールする術を身につけ、イライラする事も減ったのだろうか?
俺は自分の魔力や筋力は制御できたとしても最近、自分の精神状態がうまく制御できず困っていた。
先日俺は魔王が出現すると言われている砦に単身で乗り込んだ。
俺は自分の能力に絶対的な自信は有ったものの、確実に魔王を倒す必要があると念入りに計画を練った。
しかし、魔王が砦に出入りしているという情報は入ったものの、いつ頃現れるのか? とかどんな姿をしているのかとか、弱点すらも分かっていなかった。
いくら俺が勇者だからって、いくら俺が他の奴らよりも能力が高いと言ったって、実際戦った者がいた訳ではない。魔王の詳しい情報を手にした者はいないそんな恐ろしい相手に何も考えずに乗り込むほど馬鹿ではない。
皆、分からないから、皆、魔王が恐ろしいから、簡単に魔王に近寄ろうとはしない。
倒しに行って秒で死んでしまうなど馬鹿らしい事はない。
俺だってショウにいくら会いたいからってそんな無謀な事はしない。
俺はその魔王が現れると言われている砦に、罠を仕掛けた。
魔王が現れるのをじっと待つほど、授業を抜け出してきた俺に時間がある訳ではなかったからだ……。
その罠が効くかは分からない。
何しろその魔法は俺自身が初めて使ったモノだから……。
その魔法とはある意味呪いの様なモノだった。
人伝に聞いた闇魔法というヤツだった。
しかしそんな事をしたってあまり意味はなかったのかもしれない。
その罠にかかったどうかは分からなかったのだから……。
だけど聞いた情報によると俺が罠を仕掛けた日からその砦に魔王は現れなくなったそうだ。
だが……魔王が死んだ姿を俺は実際見た訳じゃねー。
俺自身が自由になれた訳じゃねー。
結局俺がやったことは自分のイライラをつのらせるだけだった。
そんなイライラしている日常で、逆に上機嫌なコイツが俺には癇に障った。
それは本当に何気ない会話だった。
別にベリックが何も答えなかったとしても俺は何も気にしていなかったかもしれない。
ベリックを揶揄うことでなんとか自分のイライラを解消したかっただけだった。
しかし会話をしていくにつれて、俺の未だに心に居座っているアイツの名前をベリックが言った。
最近のベリックが通っているお気に入りのマッサージ店がある。
そこの担当の店員さんが気になって仕方がないと初めは恋の相談の様にベリックは口にした。
そしてベリックが何気なく口にした、「ショウさんはどこか鈍臭くて可愛いんだ」という言葉に俺のイライラは頂点まで達した気がした。
ベリックも俺と同じで他人にあまり興味を持っていないような男だった。
そんな奴がアイツの名前を口にした。
もちろん別人だろう。
アイツは黒髪だし、そんなアイツにベリックが興味を持つとも思えないし関わるとも思えない。
だけど……。
俺はあり得ないだろうに、アイツと同じ名前というその店員の話を恋の相談でも乗っているかの様にベリックから聞き出した。
聞けば聞くほど、ベリックが話すショウが俺が思っている、俺が焦がれているショウな気がして自分のイライラが抑えられなかった。
だいたいこの学園からは早々に抜け出せないはずなのにどうやってそのマッサージ店に行っているのだろう?
ベリックに尋ねたところ、ベリックは数ヶ月前、クラブ活動に入ったそうだ。
そのクラブとは身体の強化と表向きは謳ってはいるが自分の身体での困ったことを相談し合う場だと聞いた事がある。
そして野外訓練として街に降りることもよくあるそうだ。
その野外訓練の時に抜け出しているらしい。
そのクラブについては知ってはいたがそんな風に抜け出して下町に行けるなんて知らなかった。
しかもそのクラブが野外訓練で行っている街は、アイツが……ショウが居るはずである俺の故郷だった。
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