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16 魅了の効果と危機一髪 (ライム視点)
しおりを挟むあの後、なんとかローガン様と二人きりになる事に成功した。
マリン様はローガン様と両思いと思っていたがどうも違う様だ。
というかローガン様の事は攻略したから別の人の気持ちを掴みたい、そんな風にマリン様が思っている様に見えた。
それぐらいマリン様の態度はあからさまだった。
なのにローガン様はそんな様子のマリン様を見ても嫉妬している様にも見えない。
なんだか魂が抜けているかの様にボーとしているのだ。
だけどマリン様とだけ会話をし、その声は優しく、俺達の事は見えていない様だった。
俺とローガン様は森と村の間で待機していた。
実技経験があるのがガロンとローランド様だけとなると足手まといが多すぎる為、危険という事で俺とローガン様は現在待機中だ。
第一陣が戻ってきてから時間を置いて俺達とガロンとローランド様とでまた演習に行くという流れになったんだ。
しかし二人きりのこの空気は辛すぎる。
ローガン様は相変わらず俺には何も喋らない。
俺の事が見えていないかの様だ……。
「あの、ローガン様」
「なんだ?」
返事はしてくれるが心が入っていない様なそんな風に感じる。
「マリン様と離れて良かったんですか?」
マリン様の気持ちはローガン様になかったとしてもローガン様はマリン様に夢中という話だ。
離れるのは心配じゃないのだろうか?
それにしても……ローガン様の様子はやはりおかしい。
「別にマリンが笑っているのなら俺は構わない」
無表情で答えるローガン様は、クールな騎士の様で格好良い。
だけど目の焦点が合っていない。
なんだかローガン様から変な匂いがする。
この嫌な匂いはマリン様からもしていた匂いだ。
なんだか神経に触る様な不快な香り。
まさか……マリン様は魅了を使っている?
魅了は悪役令嬢が主人公の物語で、悪役令嬢の邪魔をする本来の主人公が使うのはよくある話だか、もしかしてマリン様はローガン様に魅了を使っているのか?
そしてもしかして他の人にも魅了を使おうとしている?
そんな風に考えている時だった。
マリン様が魅了を使っているかもしれない、そう思い、ガロンの事が心配になり反応が遅れてしまった。
背後からものすごい殺気がした。
こんな所まで魔物が? と思ったら狼の群れだった様で奴らの目つきは少しおかしかった。
その内の一匹がローガン様の香りに引き寄せられる様に素早い動きで飛びかかりローガン様の足に噛みついていた。
俺は慌てて狼の首の裏側を蹴飛ばし、ローガン様から引き剥がした。
その狼は正気が戻った様に大人しくなった。
攻撃したのは初めてだったが何とか上手くいった。
必死だった。
そしてローガン様の手を引き狼の群れから逃げた。
早く傷の手当てをしないといけない。
だけど狼達はこちらに向かってくる。
魔道具を使って魔法を打つが上手く作動しない。
ローガン様は騎士科の生徒だ。
避ける事も攻撃する事も可能なはずなのに、痛そうな顔もせずにボーとしている。
俺はローガン様の腕を引き走った。
狼の群れから逃げて逃げて、気がつくと魔物がいる森の中に入ってしまっていた。
自分一人なら上手く逃げる事が出来るのにローガン様を連れてだと思う様に走れない。
だけどこんな無気力状態のローガン様を置いていけば狼に食われてしまうかもしれない。
俺はローガン様の腕を握って無我夢中で走った。
気が昂っているからか本来の俺の感覚能力が上手く働かない。
木々の葉や雑草に足を取られて上手く走れない。
ローガン様は意識がハッキリしていないのか走ってくれてはいるが身体が重たい。
そして足場が泥濘んでいたのか柔らかい土と共に地面に沈み込んだ。
そこからは俺とローガン様の足がさらに滑り、足場が崩れ転がる様に木々の間を二人重なりながら落ちていった。
気がつくと洞窟の中に二人でいた。
俺を庇ってくれたのか俺の身体はそんなに痛くない。
洞窟と言ったって俺達が落ちたであろう所が大きく穴が空いていてそこからまん丸な月と周りを覆う様に重なった様な木々と真っ暗な空が見えた。
俺とローガン様は気を失っていたのか?
慌ててローガン様の方を見ると足の傷はかなり酷く、落ちた時に木の枝が脇腹に刺さってしまっている様だった。
抜いていないからか出血は止まっている。
だけど早く治療しないと命に関わるかもしれない。
ローガン様の眉が僅かに揺れ、ゆっくり目をひらいた。
苦しそうに息を漏らしながらもそこには意志が戻っているかの様に見えた。
「ココは何処だ? 君は天使か?」
ローガン様はそんな事を言っている早く治療をしなければ……。
コントロール出来るか分からないなんて言ってられない。
俺は身につけていたコントロールする為の魔道具を手放し意識を集中した。
やはり今の姿では魔力が上手く作用しない。
少しずつ治癒出来ているが時間がかかりそうだ。
ゆっくりと脇腹に刺さっていた木の枝が抜けると同時に傷が塞がっていく。
しかし、それはもどかしいくらいにゆっくりだった。
だからといって思い切り能力を解放したらそうでなくても弱っているローガン様がどうなるか分からない。
ローガン様の目つきがしっかりしたモノに変わり俺と目があった。
「ありがとう、ええとライム君だったよね? なんだか記憶はあるのに、あいまいなんだ。今までの俺は少しおかしかったようだ。……くっ、見えているのにずっと目の前にモヤがかかっているみたいになってしまっていてある後輩の事しか考えられなくなってしまったんだ。今となっては何故あの生徒、後輩の事がそんなに気になっていたのか分からない。だけどかかっていたモヤが少しずつ晴れていくみたいに意識がハッキリしてきたよ。……少しずつ身体も楽になってきたみたいだ。……傷口も塞がったし後は皆と合流できたらどうにかなる筈……」
そう苦しそうに告げるローガン様の笑顔は柔らかくて、焦っていた俺の心が癒され冷静になれた。
「ローガン様、あまり無理なさらないで下さい。今はとにかく休んで下さい傷口に触ります」
ローガン様の身体に少し赤みが帯びてきて冷えていた身体が温かくなってきた。
よし、もう大丈夫だ。
俺は内ポケットに仕込んでいた万能薬の更に上の効果が見込まれる上級回復薬を取り出した。
始めからこれを飲ましたら良かったのかもしれないがある程度回復しないと弱り過ぎた身体には薬も毒になるからな。
それに俺の魔力に触れたからかローガン様にかかっていた魅了は完全に解けたみたいだ。
「これ、飲んで下さい。薬です。危ないものじゃないですから」
まだ苦しそうに息を吐くローガン様は俺にまた柔らかく笑ってくれた。
「君は俺の命の恩人なんだ。……疑ってなんかいないよ。ありがとう」
そう言って俺が渡した回復薬を少しずつ口に入れてくれた。
飲んだと同時にローガン様の傷口は完全に塞がっていった。
魅了の所為で弱っていた身体も回復出来たみたいだ。
俺に寄りかかっていたローガン様の身体の力が安心した様に抜けてそのまま俺はローガン様に押し倒された。
「わ、悪い、なんか気が抜けてしまった」
「いえ、大丈夫です」
目の前にローガン様の赤く染まった端正な顔があり釣られて俺の顔も赤くなった。
ローガン様は顔を逸らしながら起き上がり俺の上から退いてくれた。
びっくりした。
ガロン一筋ではあるけど、美形の可愛い顔を間近で見るのは心臓に悪いな……。
先程魔法を使った所為もあって、俺の身体がまた熱を持ち始めていた。
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