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登校
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長い黒塗りの外車で登校。運転手に恭しくエスコートされて、校門で下ろされる。校門では「おはようございます、聖薇様」なんて男女問わずに頭を下げれる。
わっと人の視線が集まることは何度も体験した。しかしそれは私を奇異なものとして見ていた。視線だけでも不快感、侮蔑、嫌悪、嘲笑、それら全てを見分けられるくらい人の感情ははっきり現れた。だが、今は違う。私は美しく、人々の目は美しいものを見る目だ。好感、憧れ、恋慕、嫉妬。一度として私が得られたことのない視線の快感だった。
私は聖薇のようにツンと澄まして「ごきげんよう」なんて胸元で手を振りながら微笑みを浮かべてみる。
「うわ、聖薇様に手ぇ振られた!」
「いつもは目もくれないのに!」
顔は普通な男子生徒がわぁっと盛り上がった。ああいう人たちは私を見てこっそり笑うタイプだ。パッとしない、強く関わってこないけれど数で攻撃してくるような、そんな根暗だった。こういう連中が私の言動一つでこんなにはしゃぐなんて気分がいい。見返してやった気分だ。
「聖薇様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、聖薇様。今日もお美しいですわ」
取り巻きの女子二人。内巻きボブカットの双海とお団子髪の光穂だ。そこそこ美人で家柄もよく、しかし聖薇の家の子会社という設定。ルートの終わりで裏切るのも彼女達だ。
「あら、ごきげんよう」
私は挨拶を返すけれど、彼女達とは仲良くしたくないと思った。むしろ嫌悪感すらこみ上げてくる。コバンザメみたいに引っ付いていたくせに、不登校になるくらいいじめるような人間である。私はそんな人間を信用できない。信用できないどころか無条件に殺意すらわいてくる。彼女達が私を殺したわけではないけれど、彼女達が持つような悪意が私を殺したと言っても過言ではない。
「前々から思っていたのだけれど……」
私はじっと光穂の顔を見た。ひっつめお団子と瓜実形の狐顔は性格のキツさを表しているようだ。
フン、と鼻で一笑。
怯えるように私を見つめ返していた光穂は、ビクリと顔色を不安に青くした。
私が鼻で笑うだけで、人が傷付く。私も何度も鼻で笑われた。オシャレをしたいと雑誌を見ていたとき、美しい海外モデルを携帯の待ち受け画面にしていたとき、可愛らしい髪飾りを学校につけていったとき……鼻で笑って、指を刺して爆笑されて、気持ちを踏みにじられた。
「その髪型、老けて見えるわ! ふふふっ。ずっと誰かに似ていると思っていたのだけど、わたくしの親戚のおばさまにそっくり!」
口を抑えて笑ってやる。さぁっと光穂から血の気が引いて、双海も顔を強張らせていた。私の話を聞いていた周囲はクスクスと笑い出した。
「……わ、私も同じことを思ってましたわ。あなた、三十路みたいよ!」
保身に入った双海は私の横についた。他人事だと思うな。お前もいつか処刑してやる。
「そ、そーですかぁ……?」
人前で晒されて笑われた光穂が震えた声で引きつった笑いを浮かべていた。目にはうっすら涙を浮かべていた。
「ええ。似合わないわ! 目障りだからやめてくださいませんこと? いっそ切ってしまいなさいよ。もうすぐ夏だわ。きっと涼しくてよ」
ほほほ、と私は口元を隠して高らかに笑った。聖薇の後ろについて自分まで強くなったように勘違いしている光穂を打ち砕くのは気分がよかった。強い相手が変われば平気で裏切る人間なんかみんな生きていることを恥じればいいのだ。
「あぁ、そうそう。双海さんも」
今度は双海に視線を。双海は面白いくらいに震え上がっていた。見栄で生きている矮小な寄生虫め。叩き潰してやる。
「少しダイエットした方がよろしいのではなくて? 髪型のせいで膨張して見えますわ。キノコがのそのそ歩いているみたいでとても滑稽よ」
誰かが「ぶふっ」と吹き出した。気が強い双海は、恥ずかしさで顔を真っ赤にして「そ、そうですか?」と鼻声で聞き返した。
「ええ。二人とも、同じレベルで仲良くしたほうがいいと思うの。わたくしといると醜さが引き立ちますわ」
お前らなんか死んじまえ。心の底からそう思う。
よくに顔なんか見ないで先に進む。しかし、彼女達はついてこない。心の底では私のことなんか嫌いなのはよくわかっている。だけど私のことを虐めたりはしないだろう。だって親と会社が人質なのだ。
あぁ、なんて、気分がいいのだろう。朝日も風も視線も気持ちいい。こんなに生きてることを喜ばしく思った朝なんて、今まで一度としてあっただろうか。
わっと人の視線が集まることは何度も体験した。しかしそれは私を奇異なものとして見ていた。視線だけでも不快感、侮蔑、嫌悪、嘲笑、それら全てを見分けられるくらい人の感情ははっきり現れた。だが、今は違う。私は美しく、人々の目は美しいものを見る目だ。好感、憧れ、恋慕、嫉妬。一度として私が得られたことのない視線の快感だった。
私は聖薇のようにツンと澄まして「ごきげんよう」なんて胸元で手を振りながら微笑みを浮かべてみる。
「うわ、聖薇様に手ぇ振られた!」
「いつもは目もくれないのに!」
顔は普通な男子生徒がわぁっと盛り上がった。ああいう人たちは私を見てこっそり笑うタイプだ。パッとしない、強く関わってこないけれど数で攻撃してくるような、そんな根暗だった。こういう連中が私の言動一つでこんなにはしゃぐなんて気分がいい。見返してやった気分だ。
「聖薇様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、聖薇様。今日もお美しいですわ」
取り巻きの女子二人。内巻きボブカットの双海とお団子髪の光穂だ。そこそこ美人で家柄もよく、しかし聖薇の家の子会社という設定。ルートの終わりで裏切るのも彼女達だ。
「あら、ごきげんよう」
私は挨拶を返すけれど、彼女達とは仲良くしたくないと思った。むしろ嫌悪感すらこみ上げてくる。コバンザメみたいに引っ付いていたくせに、不登校になるくらいいじめるような人間である。私はそんな人間を信用できない。信用できないどころか無条件に殺意すらわいてくる。彼女達が私を殺したわけではないけれど、彼女達が持つような悪意が私を殺したと言っても過言ではない。
「前々から思っていたのだけれど……」
私はじっと光穂の顔を見た。ひっつめお団子と瓜実形の狐顔は性格のキツさを表しているようだ。
フン、と鼻で一笑。
怯えるように私を見つめ返していた光穂は、ビクリと顔色を不安に青くした。
私が鼻で笑うだけで、人が傷付く。私も何度も鼻で笑われた。オシャレをしたいと雑誌を見ていたとき、美しい海外モデルを携帯の待ち受け画面にしていたとき、可愛らしい髪飾りを学校につけていったとき……鼻で笑って、指を刺して爆笑されて、気持ちを踏みにじられた。
「その髪型、老けて見えるわ! ふふふっ。ずっと誰かに似ていると思っていたのだけど、わたくしの親戚のおばさまにそっくり!」
口を抑えて笑ってやる。さぁっと光穂から血の気が引いて、双海も顔を強張らせていた。私の話を聞いていた周囲はクスクスと笑い出した。
「……わ、私も同じことを思ってましたわ。あなた、三十路みたいよ!」
保身に入った双海は私の横についた。他人事だと思うな。お前もいつか処刑してやる。
「そ、そーですかぁ……?」
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「ええ。似合わないわ! 目障りだからやめてくださいませんこと? いっそ切ってしまいなさいよ。もうすぐ夏だわ。きっと涼しくてよ」
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「あぁ、そうそう。双海さんも」
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「ええ。二人とも、同じレベルで仲良くしたほうがいいと思うの。わたくしといると醜さが引き立ちますわ」
お前らなんか死んじまえ。心の底からそう思う。
よくに顔なんか見ないで先に進む。しかし、彼女達はついてこない。心の底では私のことなんか嫌いなのはよくわかっている。だけど私のことを虐めたりはしないだろう。だって親と会社が人質なのだ。
あぁ、なんて、気分がいいのだろう。朝日も風も視線も気持ちいい。こんなに生きてることを喜ばしく思った朝なんて、今まで一度としてあっただろうか。
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