乙女ゲームの悪役になったので、人生まっとうしてやります。

九時良

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授業

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残念なことに私は頭が良くなかった。ブスで頭の回転が愚鈍となると、周囲は見ていてイライラするのかもしれない。滑稽でおかしいのかもしれない。自分より愚かな者がいることでホッとするのかもしれない。私はとても恥ずかしくて必死で勉強したけど、結局頭に入ってくるのなんて三分の一で、決意を立てては結果に嫌になってゲームの世界へと逃げていた。

けど、なぜか私はわかった。黒板の文字が生きた数式として立ち上がってくるような奇妙な錯覚と共に内容を理解し、答えを出すことができた。

「この問題、わかる人」

教壇に立つのは数学の関先生。ダークグレーのスーツをかっちり着こなした堅物という印象だ。黒い髪をオールバックにあげて、銀縁の細いフレームのメガネをしている。メガネの奥の瞳は切れ長で涼やかだ。唇は薄く真一文字に結ばれている。彼はいかにも怖そうだけど、雨の日に猫を拾って帰るような心の持ち主だということを私は知っている。

傘を忘れて走っている主人公がたまたま見かけて、声をかけると、恥ずかしそうにそっぽを向くのだ。それから雨に濡れている主人公と猫を一緒にお持ち帰りする。それまで主人公は先生にいちいち呼び出されたりして嫌われているのかと思い込んでいたが、実は好かれていて、手元に置きたいだけだった、なんて話だ。

ちなみに関先生のルートで聖薇は取り巻き達に虐められて不登校になる。関先生が主人公を庇い、聖薇は立場が悪くなり、ついでに会社が倒産してしまうのだ。

「はい」

細かいことはいい。私はわかるから、手を上げた。先生は何気なく私を指す。私は黒板まで行って、解答を書く。

「素晴らしい。良く解けた。戻っていいぞ」

先生は口の端に小さく笑みを浮かべて頷いた。こんな怖そうな先生なのに私のことを褒めてくれる。いつもの私なら顰め面で怒られるはずだ。相手にもされないだろう。

「この問題には引っ掛けがあって」

答えがわかった私には大したことないように聞こえたが、「あー」とか「えー」とかなんとも言えない呟きが聞こえてきたから、多分難しいのだろう。昔なら答えを聞いてもちんぷんかんぷんだったと思う。

解説の締めは。

「特進科ならばステップアップした問題もあらかじめ予習しておくくらいの気持ちを持つこと」

遠回しに御崎聖薇を見習え、と言っていた。私はこのクラスの誰よりもできているのだ。足が浮いてしまうくらいの高揚感。嬉しい。

ついついニヤけてしまったら、先生と目が合った。先生もほんのり表情を和らげてくれたように見えた。私は特別なんだ。そう思えることが、たまらなく気持ちよかった。
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