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婚約者

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私の所属する特進科は、文字通り特別進学クラスという意味だ。学園内でも成績上位の生徒しか所属できない。

クラスには、聖薇の婚約者の青樹雄星がいる。雄星は御崎財閥傘下の一番大きな会社の息子だ。彼とのルートは、ハッピーエンドだと財閥解体。バッドエンドだと、雄星と聖薇が結婚する。

財閥が解体されれば雄星の父親は自然と辞職に向かうわけだが、聖薇との関係の必要性はなくなるし、雄星自体はバンドがやりたいらしく親との仲は良好じゃないから、全ての拘束から解き放たれてハッピーエンドという扱いだった。

ゲームならそれでいいだろう。生身の人間として考えると、雄星にとって、単には良しとし難い。なんてこと、死ぬ前には思わなかったけどね。

「あのさぁ」

雄星は意味もなく私を睨みつけてきた。大きな瞳は綺麗なのに、こちらに向くととても冷たい。しゅっとした輪郭や鼻筋、唇のパーツは上品で繊細に整っている。だからこそ、より一層攻撃的に見える。

普段は相手にされない。私は興味なく汚いものを目で見られるのが常だ。今は敵意を込めた視線だが、同じように見える。もしや私の中身が聖薇ではなくバカのブサイクだって知っているのではないだろうか、見透かされているのではないだろうか。そんな不安に苛まれて堂々としていられなくなる。

「一つ褒められたくらいで喜ぶなんて珍しいな」

確かに見透かされていた、いつもの聖薇ではないことを。観察されていたのだ。そのことを前向きに捉えると、前髪を切ったことに気がついてもらえた気分だし、後向きに捉えると、私が聖薇ではなく私であることに気がつかれてしまうのではないかと恐ろしく思えてくる。

雄星はフンと鼻で笑った。

「アホくさ」

そして、何事もないように教室を出て行ってしまった。

一体、何だというのか?

彼はクールでぶっきらぼうだけど、主人公に対してとても親切だった。自分の境遇を不幸だと思っているみたいだし、聖薇のことをウザそうに扱っていた。でも、こんな風に敵意をむき出したり、強い拒絶のようなことをしなかった。……それは、主人公の前だから?

聖薇は彼に対して親しげだったし、彼と仲を深めて行く主人公に嫉妬をしていた。

だが、もしも、ゲーム中でも聖薇と彼の関係が同じだった場合。聖薇はかなり不運なのではないか。
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