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勇者と再会
勇者の告白。
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「ちょっ。ちょっと待ってください。本当に?本当に婚約者ではないの?」
金髪美女さんが駆け寄ってきた。声に『ワンチャンあるのでは』という喜色が多少滲んでいる。どんどん行ってくれ。
私はハルを突き飛ばし、体を捻ってフェンリルに放せとアピールをする。
あっさり放してくれたので、フェンリルを盾にした。その速度、風のごとし。後ろに隠れてハルを睨みつける。
「お前……」
振り返ったフェンリルに呆れた目を向けられたけど気にしない。
「そう!ハルが勝手に言ってるだけ!好きとか結婚しようとか言われたこと一度もない!」
ここまで何度も繰り返して言っていますが!本当にないです!
全員の視線が集まってもハルは堂々としたものだった。さっきは若干の後ろめたさもあったようだが、今は開き直ったらしい。
笑っていた。
……なんか、怖い。変なキレ方してそうだ。だって、そういうやつなんだ。暴走するというか。
「だって、言ったところでレミィは結婚してくれないでしょ?」
「まあ……言われたらフッてたな」
この瞬間、実質的にフッたことになる。
空気がひきつるのを感じた。全員が気まずい空気の中に置かれていた。いつ喋り出していいのかを決められないような躊躇いの間。
「うん。知ってた。実際に言われるとキツいや。だから言わなかったんだ」
すっかり諦めたように眉を下げて、ハルはニヤニヤしている。
「あの日……わかるよね。あの日だよ。レミィに拒まれたら心中するつもりだった」
「えっ」
と思わず声をこぼしてしまう。
私、見事に死線を掻い潜っていた。まさか選択死が待ち構えているとは思わなんだ。
「俺は世界なんかどうでもいいんだ。レミィが俺の側にいない世界なんてクソだよ。クソ」
勇者は育ちの悪さを露見させて見事に言い切った。腹の内側を吐き出した虚しさと清々しさが表情に満ちていた。
金髪の彼女が、ホロホロと大粒の涙を流した。一見キツそうだったけど、根っこは素直な性格なのだろう。純粋な泣き方だった。
「そんな……!勇者様、今までの旅はなんだったというの!?」
「くっ……見損なったぞ、ラインハルト!貴様がその程度の男だったとは!」
ヘルイーズはつかつか歩み寄ると、ハルの腕を掴んだ。しかし煩わしそうにハルは振り払って、ヘルイーズの肩を軽く突き飛ばした。
迷いのなさにかえって傷付いたのか、ヘルイーズは目を伏せて肩に手を添えた。
「それが本当のお前か?」
幼女の口調は淡々として感情が見えない。
勇者パーティーが一瞬にして崩壊する音が聞こえてきそうだ。
ハルは私が絡むといつもこう。
冷水ぶっかけ事件の被害者が私をいじめたのも、私への嫉妬だけではなく、いつもナヨナヨと優しいハルがこんな風に急に冷たくなったことへの腹いせもあったのだと思っている。
「うるさい」
声量で押さえつけるわけでもなく、手を上げるわけでもない。もう聞きたくないと、感情だけをシンプルに伝えてくる。
「勇者なんて称号押し付けやがって。俺に何求めてんだよ。俺はそんな大した人間じゃない。自分とレミィ守るだけで精一杯なんだ」
守ってとは言ってない……けど、長く一緒にいれば世話になることもある。両親が亡くなったときなんかは、ハルは一番私の側にいてくれて、心配してくれたのだ。
「いいんだよ、レミィが俺のこと嫌いならしょうがないよ。でもなんでお前ら邪魔するんだよ!あとちょっとで詰みだったのに……俺はただレミィが好きなだけなんだ!」
熱の籠った言葉は叩きつけるようだ。
息継ぎの間だけが苦しい沈黙が落ちる。それでも、誰も口を挟めなかった。
ぽーっとしたハルだけを見ていた人たちにとっては、豹変した姿がショックなのかもしれない。
ハルに、すがるような目を向けられた。灰色の丸い瞳は泣きそうで、曇りがない。
「お願いだ、レミィ。逃げないで、諦めて俺と一緒になってよ。俺のこと嫌いでもいいんだ。俺はもうどこにも行かないよ。ずっと側で守るから。だから俺の側にいてよ」
土下座はしなかった。ハルはそれきり、答えを求めて黙った。
金髪美女さんが駆け寄ってきた。声に『ワンチャンあるのでは』という喜色が多少滲んでいる。どんどん行ってくれ。
私はハルを突き飛ばし、体を捻ってフェンリルに放せとアピールをする。
あっさり放してくれたので、フェンリルを盾にした。その速度、風のごとし。後ろに隠れてハルを睨みつける。
「お前……」
振り返ったフェンリルに呆れた目を向けられたけど気にしない。
「そう!ハルが勝手に言ってるだけ!好きとか結婚しようとか言われたこと一度もない!」
ここまで何度も繰り返して言っていますが!本当にないです!
全員の視線が集まってもハルは堂々としたものだった。さっきは若干の後ろめたさもあったようだが、今は開き直ったらしい。
笑っていた。
……なんか、怖い。変なキレ方してそうだ。だって、そういうやつなんだ。暴走するというか。
「だって、言ったところでレミィは結婚してくれないでしょ?」
「まあ……言われたらフッてたな」
この瞬間、実質的にフッたことになる。
空気がひきつるのを感じた。全員が気まずい空気の中に置かれていた。いつ喋り出していいのかを決められないような躊躇いの間。
「うん。知ってた。実際に言われるとキツいや。だから言わなかったんだ」
すっかり諦めたように眉を下げて、ハルはニヤニヤしている。
「あの日……わかるよね。あの日だよ。レミィに拒まれたら心中するつもりだった」
「えっ」
と思わず声をこぼしてしまう。
私、見事に死線を掻い潜っていた。まさか選択死が待ち構えているとは思わなんだ。
「俺は世界なんかどうでもいいんだ。レミィが俺の側にいない世界なんてクソだよ。クソ」
勇者は育ちの悪さを露見させて見事に言い切った。腹の内側を吐き出した虚しさと清々しさが表情に満ちていた。
金髪の彼女が、ホロホロと大粒の涙を流した。一見キツそうだったけど、根っこは素直な性格なのだろう。純粋な泣き方だった。
「そんな……!勇者様、今までの旅はなんだったというの!?」
「くっ……見損なったぞ、ラインハルト!貴様がその程度の男だったとは!」
ヘルイーズはつかつか歩み寄ると、ハルの腕を掴んだ。しかし煩わしそうにハルは振り払って、ヘルイーズの肩を軽く突き飛ばした。
迷いのなさにかえって傷付いたのか、ヘルイーズは目を伏せて肩に手を添えた。
「それが本当のお前か?」
幼女の口調は淡々として感情が見えない。
勇者パーティーが一瞬にして崩壊する音が聞こえてきそうだ。
ハルは私が絡むといつもこう。
冷水ぶっかけ事件の被害者が私をいじめたのも、私への嫉妬だけではなく、いつもナヨナヨと優しいハルがこんな風に急に冷たくなったことへの腹いせもあったのだと思っている。
「うるさい」
声量で押さえつけるわけでもなく、手を上げるわけでもない。もう聞きたくないと、感情だけをシンプルに伝えてくる。
「勇者なんて称号押し付けやがって。俺に何求めてんだよ。俺はそんな大した人間じゃない。自分とレミィ守るだけで精一杯なんだ」
守ってとは言ってない……けど、長く一緒にいれば世話になることもある。両親が亡くなったときなんかは、ハルは一番私の側にいてくれて、心配してくれたのだ。
「いいんだよ、レミィが俺のこと嫌いならしょうがないよ。でもなんでお前ら邪魔するんだよ!あとちょっとで詰みだったのに……俺はただレミィが好きなだけなんだ!」
熱の籠った言葉は叩きつけるようだ。
息継ぎの間だけが苦しい沈黙が落ちる。それでも、誰も口を挟めなかった。
ぽーっとしたハルだけを見ていた人たちにとっては、豹変した姿がショックなのかもしれない。
ハルに、すがるような目を向けられた。灰色の丸い瞳は泣きそうで、曇りがない。
「お願いだ、レミィ。逃げないで、諦めて俺と一緒になってよ。俺のこと嫌いでもいいんだ。俺はもうどこにも行かないよ。ずっと側で守るから。だから俺の側にいてよ」
土下座はしなかった。ハルはそれきり、答えを求めて黙った。
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