小足姫 ~Fake~

睦月

文字の大きさ
上 下
3 / 28

しおりを挟む
 
 森の入り口… 

 鬱蒼と繁った木々で、昼間でも薄暗いその部屋に二人きり。


「…さて、と」

 僅かばかりの荷物をほどき、部屋の隅で小さくなっていた娘に向き直る。

 びくりと肩を震わせ、壁際に身を寄せる。

「おやおや…

怖がらなくても大丈夫ですよ。
貴女の名前を聞いていませんでしたね。…まぁ、お嬢様とお呼びしておけば問題はないでしょう。私のことは凱とお呼びください」

「…が、い?」

「はい、凱でございます」

 にこりと笑うその目が薄く弧を描く。

「さて、それではお嬢様」

 縮こまる娘を抱き上げ、寝台に寝かせる。

 ふるふると震える娘に、何度も言い聞かせる。

「いいですか?貴女はこのさだめからは逃れられません。貴女の両親に売られてしまった以上、貴女を買った方の言うこと全てに従うしかありませんからね。こんなことで済むなら幸せだと思ったらいい。貴女と一緒に売られていた娘達の大半は…1年以内には命を落とすでしょう」



「…ですから、貴女は幸せなのですよ。ほんの少し、足の痛いのさえ我慢すれば御父様の寵愛がいただけますからね。 

そうすれば… 

綺麗な服を着て、好きなものを食べて、贅沢のし放題。 


クックック… 
このご時世、女の『出世』は、どれ程権力者に愛されるかですよ。 

貴女は… 

女の頂点に立ちなさい。私がそうなれるように、お手伝いいたしますからね」 


 言い聞かされた言葉の半分も理解出来ていない娘は、「痛い」ことをされるとだけは分かり、涙を滲ませた目で凱を見上げる。 

「さ、これを噛んで…」 

 柔らかな若枝に布を巻き付けたモノをくわえ、ぎゅ…と目を瞑る。 

 目尻からは、ほろりと美しい真珠粒のような涙が転がる。 


「!!ふっ!んん~っ!!ぐっうぅ!!」

ぱきり… 

 渇いた音を立てて、彼女の足が布で巻き込まれていく。

 足の裏側へと畳み込むように。

 余りの痛みに、途中で気を失ってしまったようだ。

「ふふ…。その方が、いいでしょう。さて、もう片方も」

 小さな足を手に持ち、恭しく同じ動作を繰り返す。

 パキ…ポキリ… 

 ぎゅと最後まで巻き、その足に優しく口づけを落とす。

「さぁ、上手くいけば良いですね。商人には…簡単な説明しかしませんでしたが。

全てが上手くいくとは限りませんがね。

まぁ…失敗した時には、さっさとここを立ち去るまでのこと…

ふっふっ、ふふっ」

 感情のこもらない笑いを浮かべながら、彼は娘の体を寝台にくくりつけた。

「目が覚めた時に暴れられたら面倒ですからね」


しおりを挟む

処理中です...