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しおりを挟む森の入り口…
鬱蒼と繁った木々で、昼間でも薄暗いその部屋に二人きり。
「…さて、と」
僅かばかりの荷物をほどき、部屋の隅で小さくなっていた娘に向き直る。
びくりと肩を震わせ、壁際に身を寄せる。
「おやおや…
怖がらなくても大丈夫ですよ。
貴女の名前を聞いていませんでしたね。…まぁ、お嬢様とお呼びしておけば問題はないでしょう。私のことは凱とお呼びください」
「…が、い?」
「はい、凱でございます」
にこりと笑うその目が薄く弧を描く。
「さて、それではお嬢様」
縮こまる娘を抱き上げ、寝台に寝かせる。
ふるふると震える娘に、何度も言い聞かせる。
「いいですか?貴女はこのさだめからは逃れられません。貴女の両親に売られてしまった以上、貴女を買った方の言うこと全てに従うしかありませんからね。こんなことで済むなら幸せだと思ったらいい。貴女と一緒に売られていた娘達の大半は…1年以内には命を落とすでしょう」
「…ですから、貴女は幸せなのですよ。ほんの少し、足の痛いのさえ我慢すれば御父様の寵愛がいただけますからね。
そうすれば…
綺麗な服を着て、好きなものを食べて、贅沢のし放題。
クックック…
このご時世、女の『出世』は、どれ程権力者に愛されるかですよ。
貴女は…
女の頂点に立ちなさい。私がそうなれるように、お手伝いいたしますからね」
言い聞かされた言葉の半分も理解出来ていない娘は、「痛い」ことをされるとだけは分かり、涙を滲ませた目で凱を見上げる。
「さ、これを噛んで…」
柔らかな若枝に布を巻き付けたモノをくわえ、ぎゅ…と目を瞑る。
目尻からは、ほろりと美しい真珠粒のような涙が転がる。
「!!ふっ!んん~っ!!ぐっうぅ!!」
ぱきり…
渇いた音を立てて、彼女の足が布で巻き込まれていく。
足の裏側へと畳み込むように。
余りの痛みに、途中で気を失ってしまったようだ。
「ふふ…。その方が、いいでしょう。さて、もう片方も」
小さな足を手に持ち、恭しく同じ動作を繰り返す。
パキ…ポキリ…
ぎゅと最後まで巻き、その足に優しく口づけを落とす。
「さぁ、上手くいけば良いですね。商人には…簡単な説明しかしませんでしたが。
全てが上手くいくとは限りませんがね。
まぁ…失敗した時には、さっさとここを立ち去るまでのこと…
ふっふっ、ふふっ」
感情のこもらない笑いを浮かべながら、彼は娘の体を寝台にくくりつけた。
「目が覚めた時に暴れられたら面倒ですからね」
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