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しおりを挟むこうして、二人の日々は始まった。
週に一度少し離れた村から必要最低限の食料などが運ばれて来ては、小屋の外の囲いにひっそりとぶら下げられている。
他言無用、詮索は一切しないという約束で、過分な金をわたされていた村人は忠実にそれを守っていた。
凱は日がな1日彼女を良い香りのする香油で磨きたて、美しい言葉を教え、座っていても美しい姿勢を仕込んだ。
幼いが聡い娘は、よく我慢もし聞き分けも良かったのでみるみる凱が理想とする姿へと変わっていった。
薔薇色の頬、白に近い金の美しい髪。
森の色を映したような、深いグリーンの瞳。
そして…
生まれつきの貴婦人のような振る舞い。
人にかしづかれる事を当たり前として生まれてきたようだ。
一月で彼女の吐く吐息さえ、甘やかな花の香りがするようになっていた。
その香りはからだの内側から匂い立つ。
相変わらず、足は痛まぬ訳はないがそれでも時折巻いている布を外し、薬草やら香油でその痛みもなんとか我慢できる程度になっていた。
「ふ…む、足はまだまだ完成はしませんが、早く連れてこいと矢のような催促…
そろそろ、お父様の所へお連れしなければなりませんね」
「…お父様?」
「ええ、貴女のお父様がお待ちです」
聞いてはみたものの、それが自分を売った実の父親ではないことは分かりきっていたし、今さら家族の元に帰れるとは思っていなかった。
彼女にとっては、凱が全て。
「良いですか?お父様の所へ行ったら、私はお嬢様の医者であり教師ということになっております。
今よりも色々な人間が回りにおりますが、貴女はこのまま変わらずにおられればいいのです。
私の他の人間に何かを告げたい時も私にまずおっしゃってください」
「……凱に、ね」
「はい。それでよろしゅうございます
では、荷造りなどいたしましょうか…
明日の朝、早くに出発いたします。今日はもうお休みください」
そう言うと、凱は部屋を出ていった。
ふう…とため息を吐きベッドに横たわるが、新しい暮らしに思いが走る。
彼女の拭いきれない不安は月の無いその夜の空のように暗かった。
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