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しおりを挟む書架に囲まれたその部屋の、正面に五十過ぎの礼服を身につけた男。
彼女を抱いたままで、凱が膝を折り礼をする。
「おう、おう!良く来たな。待ちわびていたぞ
その娘か?」
「お初にお目にかかります。こちらが△△△より参りましたシンデレラ様でございます」
「…シンデレラです。お目にかかれて光栄です。お引き取りいただきありがとうございます
……お父様」
伏し目がちに挨拶をすると、椅子から立ち上がった領主がやってくる。
彼女の頬を分厚い掌で撫で、これ以上ないくらい蕩けるような笑みをこぼす。
「おぅ、おぅ…。良く来たの。今日からここがお前の家じゃ。遠慮などすることはないぞ。欲しいものがあったらなんでも言いなさい」
一目で彼女の虜となった領主は、目尻を下げ鼻の下を伸ばす。
男にしては柔らかく湿った掌が少し気持ち悪く感じたが、何があっても仰せのままに…と言われていたのでぐっと堪える。
「…はい。
ありがとうございます。お父様」
間近で彼女の吐息をかいだ領主はその香りに目眩のようなモノを感じる。
「これはまた逸品だな」
凱をニヤリと見やり、小声でその好色な本性を垣間見せる。
「大変気に入った。お前にも存分な褒美をやろう」
「はっ。ありがたきお言葉。もったいのうございます。
しかし…ご主人様」
「ん?なんだ?」
「まだまだ幼子。それに完成までには後数年かかることはお忘れなく」
「む、そのことか…
分かっておるわ。わしとて、ここまでの幼子をどうこうしようとは思わん。
しかし…楽しみよのぅ…」
一瞬、不機嫌そうにしかめた眉も彼女を見るとたちどころに眉尻が下がる。
「あなた!」
不意に部屋の中に入ってきた着飾った女が娘を両手に従え、声をかけてきた。
「その…娘がそうですの?」
神経質そうな痩せぎすな女が、じろじろと彼女を見る。
ふ、と凱に視線を止めその容貌に息を飲む。
「これはこれは…奥方様でございますか?
この度は快くお嬢様をお引き取りいただき真にありがとうございます。奥方様の寛大なお心に感謝してもしきれません」
慇懃に礼を言い、奥方の何か言おうとするのを凱が遮る。
「えっ!?…え、ええ。まぁ、生まれつき足が不自由なんて可哀想に…」
難しい顔を偽善に満ちた笑みが隠す。
「おお、奥よ!良く言ってくれた!!遠縁の家では、十分な治療もしてやれん。我が家は幸いこの娘一人養うくらいは困ることもあるまい。
何より奥がそう言ってくれるのじゃ。何かと頼むぞ」
我が意を得たりと、態度を軟化させた妻に畳みかける。
「え、ええ…。分かりましたわ。宜しくね、シンデレラ…
こちらにいるのが私の娘達。上のドロテアが9歳、下のリーアが6歳です」
母親のドレスに隠れるようにしていた娘達が、おずおずと顔を覗かす。
漆黒のマントを着た美しい男に抱かれた可愛らしい少女。
教会にある絵の天使のようだ。
思わずポカンと口が開いてしまう。
「お姉様…
シンデレラです。宜しくお願いいたします」
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