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しおりを挟むふわりと香る花の香がその少女からしているのだと気づく。
呆けたように、黙ったままの娘達の背中を奥方が押す。
「あなた達、ご挨拶なさい」
「あ、…ドロテア、よ」
「あたし…、リーア」
我が娘の挨拶を聞き、腹の底に小さな痼ができる。
突然、夫があまり裕福ではない遠縁に脚の不自由な娘がいる…その娘を引き取ると言い出した。
領主の妻として教会の活動に参加し、領内の信を集めていた。
その自分が断れるわけがなかった。
田舎の貧相な娘が来るのだろう…と思っていたのだが、この娘は。
顔立ちが可愛らしいばかりか、抱かれている様が子供ながらに凜としている。
我が娘二人が引き比べると見劣りするようだ。
あまり愉快ではない内心を隠し、その場は鷹揚にふるまった。
「奥よ。東側の棟にシンデレラを住まわせようと思うのだが、かまわぬか?」
「仰せの通りに…。
荷物は?」
「僅かばかりの物が馬車に…。ご案内頂きましたら、後から私が運びますので」
「貴方が運ばなくとも、使用人に運ばせます」
「奥方様…。私も使用人でございますゆえ」
「でも貴方はお医者で、教師でもあるのでしょう?運ばせますから…
ゴードン、先生のお荷物を。
シンデレラ、今日は疲れたでしょう。夕食は部屋に運ばせます。ゆっくり休むといいわ」
「ありがとうございます、お母様」
「では、私達はこれで失礼いたします。
ご主人様、奥方様…
お二人の愛情溢れたお心遣いに、感謝いたします」
凱は改めて礼を言い、ゴードンと呼ばれた使用人とあてがわれた部屋へと向かった。
「こちらのお部屋でございます…。先生のお部屋は隣になっております」
「ありがとうございます。…食事なのですが」
「はい」
「奥方様は運んで下さるとおっしゃったのですが、お嬢様は治療もありますので私が作ったものしか召し上がりません。ですので、後から台所にもご案内していただけますでしょうか?」
「さようでございますか…。分かりました。では後程また参りますので」
「はい。宜しくお願いいたします。
お嬢様、ゴードンさんにもお礼を…」
「ありがとう…。お世話になります」
「いえっ…、そんなもったいない…」
ゴードンはすでにこの娘の緑の瞳に囚われていた。
年甲斐もなく胸をときめかせ、深くお辞儀をすると退室していった。
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